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第14話 自身を知れ

 ジャイアントスパイダーは3体。1体は既に脚を振り上げて、尖った脚先を僕に突き刺そうとしている。

 咄嗟に後ろに下がれば、背後の1体の攻撃を避けられない。


 前に進みながら、脚に斬りつけ体勢を崩させる。傷つける程度かと思ったら、氷刀の切れ味が思っていたより良く、あっさりと脚を斬り飛ばしてくれた。支えを失って体勢を崩したところで別の脚に斬りつける。8本ある脚のうち6本ほど斬り飛ばせば立って動くのもままならない状態だ。

 動けなくなった1体を放置して、少し離れたところにいた1体の脚を同じように斬り飛ばしていく。後方の1体とこいつは糸を吐いて僕を絡めとろうとしてきたけど、先見の明でタイミングも糸を吐く方向も読めるし、計算機(カリキュレーター)で軌道も分かる。避けながら攻撃するのは簡単だ。

 問題は最後の1体。木の上に巣を張ってそこから攻撃して来ているんだ。僕では攻撃が届かない。向こうからは糸を吐いて攻撃できる。

 仕方なく、一度しか成功していない斬撃飛ばしを試みる。息を整え、集中して――。


『結構強いじゃないか。次は10体くらい残してみるか』

『ヘーゼルさん、ひどいよ。僕1人で3体相手にするなんて聞いてない』

『ギーラ達を待っててよかったんだぞ。攻撃の届かない1体は糸を避けて時間を稼げば、そのうち駆け付けてきてくれたはずだ』

 言われてみれば確かにそうだ。早く倒さなきゃとばかり考えていた。仲間がいるんだから、そういうことも考えなきゃダメだよね。


「おーい、マル。無事か?」


 ギーラとプリシラが駆け寄ってくる。最後の1体を倒してから2分程度しか経っていないだろう。そのくらい時間を稼げばいいだけだったのか。

 2人に無事を告げ、蜘蛛の巣から糸を採取するのを手伝ってもらう。もともと糸狙いだったから糸巻きは持ってきている。

 魔女蜘蛛(ウィッチスパイダー)の被ってた帽子は蜘蛛の糸で出来てるみたいだったので、これも素材として回収。帽子のまま装備するのは無理みたいだから、後で解いて糸にしよう。


「なあ、オレ、まだ魔物狩ってないんだけど。糸だけならかさばらないから、オレにも倒させてくれよ」

『私も実戦経験を積みたい。倒せなくても、動く魔物をちゃんと狙えるように練習したいわ』

「ごめん。1人で倒しちゃって。プリシラ、近くに魔物がいたら教えて。次は突撃しないようにヘーゼルさんに言っておくから」

『突撃するかどうかは、相手次第だな。まぁ、上位種はそんなに大量発生したことはないから、大丈夫だと思うが』

 ……ヘーゼルさんって、強い敵だと思ったら倒したくなっちゃうんだろうか。上位種に8月に2体、11月に1体遭遇してる僕としては、大丈夫だと思えないんだけど。


『マル、東に5分くらい進んだところに、ホワイトシープが5体いるみたい。他には南に7分くらい進んだところにゴブリンが7体。このまま北に3分くらい進んだところにキラーベアが1体』

『東か北だな。ギーラとプリシラで選んでいいぞ』

 ヘーゼルさんは普通の魔物だとあんまり興味がないのかな。キラーベアに遠隔攻撃なしで挑みたくないから、僕なら数は多いけどホワイトシープだな。羊毛も欲しいし。


「マル、キラーベア倒したらローストベア作ってくれるか?」

「無理だよ。兄ちゃんがいないから火を起こせないし、香草とか塩も必要だから家で料理しなきゃいけないもん。キラーベアを持って帰ったら驚かれちゃうよ」

「そういや、前は村長が心配して怒ってたな。羊にするか」


『ヘーゼルさん、2体倒してくれるよね?』

『必要ない。さっきの戦いを見る限り、お前だけでも5体くらい倒せるはずだ。危なくなったら助けてやるから、お前達だけでやれ』

 仕方ない。危なくなったら助けてくれるなら安心だし、頑張ろう。

 倒す敵が決まったら、ヘーゼルさんも糸を巻き取るのを手伝ってくれた。風魔法で宙に浮かせた糸巻きを回転させて一気に糸を巻き取っている。採取にも使えるなんて便利だ。あれを覚えたいな。



 今度は慎重に移動して、木陰から魔物の様子をうかがう。プリシラの言う通り、ホワイトシープが5体だ。

 木刀はまだ氷刀になったままだ。午前中の様子からして、徐々に切れ味は落ちていくものの2~3時間くらいは持続する。

 まずは遠隔攻撃で数を減らしたい。

 プリシラの弓で眉間を狙ってもらい、僕はさっき成功した斬撃飛ばしをやってみる。攻撃の成否を見定めてギーラも攻撃。僕とギーラでプリシラに敵が行かないように抑えつつ、各個撃破。そんな作戦で行くことにした。


 まずは、初撃を成功させたい。プリシラの弓での攻撃を先見の明、計算機(カリキュレーター)の結果を意思伝達で伝えて補助する。

 プリシラもイメージがつかめたみたいで、僕にうなずいて見せてくれた。


 タイミングを合わせて、攻撃開始。

 プリシラの矢はホワイトシープの顔に向かって飛んでいき、目の上あたりに命中。急所を外したから倒せはしなかったけど、ギーラが追撃をかけている。すぐに倒せるだろう。プリシラも慌てず、次の矢をつがえて別の敵に狙いをつける。


 僕の方は、空振りしてしまった。斬撃が飛んでいかない。

 プリシラの攻撃の方に気を取られ過ぎて、自分の攻撃に集中できていなかったみたいだ。今まで実戦で失敗をしたことがなかったから、焦ってもう一度やってみるけどこれも空振り。


 直接攻撃に切り替えて敵に近づく。プリシラが最初に攻撃した1体は倒せていたから、あと4体。

 僕は全く役に立っていないから、敵にも注目されていない。そのせいで、3体がギーラに向かい、1体はプリシラに狙いを付けている。

 思いっきり地面を蹴って、プリシラに向かう敵に一気に近付く。体内の魔力が乗った手応え。今までと段違いのスピードで敵へと接近し、勢いを殺さず胴体に刺突。羊毛が血で汚れるかと思いきや、氷刀に込められた魔力で血が凍り付いていて血は流れてこなかった。そういえば刺突にも魔力が乗った手応えがあった。

 突き刺してしまうと刀を抜くのに時間を食うけど、刀身を覆う氷が少しずつ溶けていって細くなるためか、意外とすんなりと抜けた。


 残りは3体。ギーラは3体同時に攻撃されているのを上手くしのいでいる。攻撃を見切って避け続けているようだ。しかし、反撃に移れずにいる。プリシラもギーラに当てずに矢を放てるか自信が持てず動けないようだ。


 急いで、1体引き受ける。ホワイトシープの横から近付き、氷刀を一閃。胴体の真ん中から真っ二つになって倒れる。こいつも体の断面が凍り付いている。


 突然仲間が倒れたことに驚いたのか、残り2体のホワイトシープの顔が僕の方を向く。

 スッと体を沈め、うち1体に向かって走り出す。僕が体を沈めた瞬間に通った射線に沿って、1体にプリシラが矢を放つ。もちろん、僕のスキルで補助している。眉間に矢が刺さって絶命するホワイトシープを横目で見ながら、最後の1体に向かって進む。ただし、これは保険だ。

 僕に気を取られて隙ができたホワイトシープに向かってギーラが剣を振り下ろす。血を噴き出して魔物が倒れる。魔力は乗っていなかったみたいだけど、やっぱりこの氷の刃の切れ味はすごい。



 敵を倒し終わって、ふっと息をついた瞬間、体の制御を一瞬奪われ、すぐに戻された。


「ひゃっ」

 後ろの衿元から服の中に入り込んだ小さな氷が背中を滑る。


『ヘーゼルさんっ』

『私が言いたいことは分かっているか?』

 いつものふざけた様子がない。微かな怒りを感じる。確かにさっきの戦闘はあんまり良くなかった。


『ごめんなさい。今まで上手くいってたものだから、油断してた。プリシラの補助に気を取られて、自分の攻撃に集中できてなかった』

『他には?』

 他にもあるだろうか。戦いを思い起こして考えてみる。


『最初の斬撃飛ばしが不発だったことで、焦っちゃった。それでまた失敗しちゃった』

『そうだな。指揮官は冷静さを失ってはいけない。他には?』

 まだあるのか。

 考えてみるけど、思いつかない。


『分かりません』

『ふむ。あとの2人ともまとめて話すか』


そう言って、僕と交代するとギーラとプリシラの背中にも小さな氷の塊を放り込んだ。


「ぎゃっ。ちょっ。冷たっ」

『きゃっ。やだー、氷が。届かない』

 2人ともいきなり背中に飛び込んできた氷の冷たさに飛び上がり、氷を取り出そうと悪戦苦闘している。


「何すんだよ! ちゃんと倒せただろ! ケガもしてないし、何の問題もないじゃんか!」

「本当にそう思うのか?」


『私、お兄ちゃんに当てちゃいそうで、全然矢を射てなかった。実戦で使うのって難しいんだね』

「慣れないうちは普通のパーティなら、声を掛け合う。君も意思疎通で同じことができたはずだ。前衛で戦っていると、周囲への警戒や全体の戦況把握が難しい。後衛がカバーしつつ、戦闘の流れをコントロールするといい」


 目線を合わせてヘーゼルさんが続ける。

 ――といっても、僕とプリシラの身長はほとんど変わらないから、ただしっかり視線を合わせただけだけど。


「私の知る限り、感知術を持つ者は周囲に気を配れる人間か、観察力に長けた人間だ。状況を良く見て意思疎通で伝えることで、パーティの安全性はグッと高まる。マルドゥクに情報を伝えれば指揮を執る上での助けにもなる」


 プリシラは目を見開きながらコクコクとうなずいた。アドバイスに驚きつつ、言葉を反芻しているようだ。

 今まで会った冒険者パーティのリーダーを魔導師や弓士といった後衛が務めていたのも、戦略を練りやすいポジションだからだったらしい。ライアンさんが僕達を見て、兄ちゃんをリーダーと予測したのも年上の子の中で、より後衛っぽかったからみたいだ。


「なぁんだ。別にフェンの方がしっかりしてそう、とか思ってたわけじゃなかったのか」

「そんなことより、次はお前だ。ギーラ、何か反省すべきことは?」

「オレはちゃんと動けてただろ? マルみたいにミスってもいないし」

 確かにギーラはちゃんと活躍してた。最初の撃ち漏らしの敵に止めを指し、その後は敵を引き付けて持ちこたえてた。


「確かに悪くはなかった。しかし、もっと上を目指そうとは思わないのか? あれだけ敵の攻撃を見切れるんだ。かなり動体視力が良いはずだ。多少ギリギリに見えても矢を射たせて、避けるのも可能だったんじゃないか?」

「え。何それ。めっちゃ怖そうなんだけど」

「決まるとカッコいいぞ。刺さると悲惨だが」

「うーん。飛んでくる矢を見切ってかわす……。できるかなぁ」

 ギーラは悩んでるけど、いきなりやったら危ないから止めて欲しい。プリシラか僕が合図した上でなら、いけそうだけど。


「そこまで無茶をしないにしても、避けることに注力しすぎだ。軽い身のこなしだけじゃなく、君は十分な攻撃力がある。仲間任せじゃなく、隙を見て攻撃を加えることも試してみるべきだ」

「オレ、そんなに器用じゃねぇんだけど。オレは敵を引き付けていたらいいんじゃないの?」

「敵を引き付けておくために、攻撃をした方がいい。君なら、いくら攻撃をしても避けて攻撃はしてこない相手と、いつ攻撃をしてくるか警戒しないといけない相手、どちらを狙う?」

「そりゃ、攻撃してきそうな方だろ」

「そういうことだ」

 ギーラはまだピンと来てはいないみたいだ。


「君はどうありたい? 攻撃は他人任せの地味だが堅実な盾役(タンク)か? 攻防ともにこなすパーティの大黒柱か?」

「――分かった。隙をついて攻撃するのも意識する」


「組む仲間によってもどう動くべきかは変わってくるが、その前に君達は自分自身の能力を把握しきれていない。自分がどうなりたくて、足りないものはなんなのか。何が得意で生かせそうか。修業をするなら、意識しておけ」

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