第12話 お守り
父さんからの提案で、冬の間、兄ちゃんとギーラは町へ行くことになった。
目的は、町で魔法を習うこと。
寒いと動きがどうしても鈍くなるので、冬期の活動を控える冒険者が一定数いて、冒険者を休業している間の仕事として塾を開く者もいる。兄ちゃん達が行くのもそんな塾の1つ。
他の村から町に向かう馬車に便乗させてもらうらしく、数日後には出発することになった。町までは馬車で丸1日くらいで着くけれど、帰ってくるのは3月の終わり頃になる。
僕や兄ちゃんにとっては急な話だったけど、準備が整っていた所を見ると、前々から決められていたのかもしれない。
父さんは、兄ちゃんを本格的に鍛えようと決めたみたいだ。出発までの間は1日中特別訓練をするようになった。僕も混ぜて欲しい、せめて見学だけでもしたいと申し出たけど、取りつく島もなかった。
町の魔法塾での勉強も兄ちゃんを鍛える一環だろう。ギーラも一緒に習うことになったのは、村長である父さんが費用を負担することを申し出たから。兄ちゃんも1人じゃ寂しいもんね。
ギーラはとても喜んでいて、兄ちゃんに魔法で勝ってやると意気込んでいた。
兄ちゃんは僕を連れて行こうと父さんに交渉してくれたけど、聞き入れられるはずもなく、僕は留守番。プリシラも留守番だ。
理由はよく分からないけど、ギーラの留守中はプリシラを家で預かることになった。
今日も兄ちゃんは特訓でいないけど、ギーラとプリシラと僕で集まって話していた。
「マル、留守の間、プリシラのことは頼んだぜ。土産をいっぱい買ってきてやるからよ!」
「うん、任せて」
『ちょっと。私とマルは同い年なんだから! マルは結構抜けてるし、私がマルの面倒見てあげるわ』
プリシラにそんなことを言われて、ちょっと落ち込む。まさか、兄ちゃんの代わりに僕の面倒を見てもらうためにプリシラを家に呼んだわけじゃないよね?
「ぷっ。マル、言われてんぞ。そうだな。お互い面倒見合ってくれよ。で、土産は何がいい?」
「まずは、ポーション瓶かな。空の瓶はなくなっちゃってるし」
『マル、それはお土産じゃなくて仕入れよ』
「くくっ。早速、面倒みられてんな」
ええっ! ポーション瓶、嬉しいんだけどな。なぜか笑われてしまった。
「じゃあ、ヤスリ。目詰まりしてるのは取り除いたんだけど、それでもあんまり削れなくなってきてるし、木を削る用のだけじゃなくて、他の用途のも欲しいんだ。金属とか魔物の牙を削れるやつとか。あ、砥石も欲しいかな」
『マル、それも仕入れだと思う』
あれ? これもダメ?
『私は、ナイフと冒険者用の服が欲しいな』
そういえば、行商人さんが持ってきていたものは値段の割には今一つだったから、結局服は買ってなかったな。
「おう。任せとけ」
『良いのを選んできてね。いまいちなのしかなかったら、買わずにお金を残しておくか、布を買ってきて。マルに作ってもらうから』
「ねぇ、プリシラ。ナイフって戦闘用? 敵に近づかないと攻撃できないけど」
『解体用と護身用の両方で使えるのがいい。近付かれちゃったときしか戦闘には使わないわ』
それならいいかと思って、うなずいてみせた。
ほとんど戦闘経験がないプリシラが魔物と至近距離で戦うのは、ちょっと怖い。一緒に狩りに行くなら近付かせないように気を付けよう。
「ギーラの欲しい物は?」
「やっぱ鉄の剣だな。しばらくフェンのを借りてたけど、やっぱ自分のが欲しい」
『マルドゥク、ちょっといいか? フェン君達が出発するまでのことで相談したいことがある』
兄ちゃんが魔法を習いに行くことを聞いてから、しばらく静かになっていたヘーゼルさんからの相談。何だか元気なさそうな気がするから、いたずらじゃなければ聞いてあげたいな。
――なるほど。兄ちゃんのことが心配なんだね。
「ギーラ、ヘーゼルさんが出発までの間に魔物狩りに行く予定はあるかって」
「あー。行きたいんだけど、フェンがいないだろ? マルも今は斬撃飛ばしが使えないから、遠距離攻撃がプリシラだけになっちゃうんだよ」
確かにそれは不利だな。特に魔物の数が多いときは、距離のある状態で何体か倒しておきたいし。
『今回は私が言い出したことだし、協力しよう。数が多いときは残り3体まで減らせば良いかな?』
『キラーベアとか上位種じゃなければ、そこまで減らしてくれれば大丈夫だと思う』
『む。引っ掛からなかったか』
ヘーゼルさんって本当にいたずらっ子だよね。また兄ちゃんが聞いてたら怒りそうなことを言ってる。
「ヘーゼルさんが協力してくれるって。プリシラ、感知術で魔物の種類を調べながら歩こう。強そうな魔物は避けていけばなんとかなると思う」
「ほー。オレ、ヘーゼルさんが魔法使うの見たことないな。せっかくだから、大量に集まってるところを狙うか? スゴいの見せてもらおうぜ!」
「やめといた方がいいよ。兄ちゃんがいないと空間魔法使えないから、素材が無駄になっちゃう」
「ちぇー」
「それから、ヘーゼルさんが憑依したことで、今までの感覚とちょっとしたズレが出るかもしれないんだって。午前中は練習して、午後から魔物狩りでもいい?」
「おう。今は村役場での訓練もないから、なんなら対戦相手やってやろうか?」
「ありがとう。ヘーゼルさんも、練習の仕上げに是非って」
よし。明日から訓練と魔物狩り、再開だ。
「ねぇギーラ、手の大きさ測らせてもらっていい?」
「いいけど、なんで?」
「兄ちゃんには秘密にしておいて欲しいんだけど、出発の前に何か作って渡そうと思ってて。ギーラの分も作るよ。グローブでいい?」
「お。ありがとよ。楽しみにしてるぜ」
うーん。キラーベアの革で作ろうとすると2人分は無理かなぁ。魔物狩りで素材を調達するにもキラーベアを相手にしたくないし。
プレゼントについてはヘーゼルさんに考えがあるみたいだから、後で相談して、2人が出発するまでに頑張って間に合わせよう。
ギーラ達との打ち合わせの後は、ヘーゼルさんと相談。
まずは、町に行った兄ちゃん達の様子を先見の明で予測することになったけど、何だかいつもと違ってイメージが浮かびにくい。ライアンさん達のときは村を出た後のことも予測できたから、距離の問題ではなさそうだけど。
『難しそうだな。未来のことだし、未確定ということかもしれないな』
なるほど。決まってないなら、見られないよね。ただ、モヤモヤとしたイメージが一気に湧いては消えていく感じだから、不確定ながらもあり得る未来を複数見せようとしてくれているのかも。
しばらく頑張ってみるけど、まとめて流れ込んでくるイメージの一つ一つがどんなものなのか読み取れない。だんだん頭が痛くなってきた。
『マルドゥク、もういい。少し休みながら、聞いてくれ』
壁に寄りかかって座り、力を抜く。思っていたより疲れていたみたいだ。さっき見ようとした未来が気にかかるけど、頭がボーっとして断片的なイメージをつなぎ合わせて処理することができない。
『マルドゥクは神様というのを知っているか?』
『知ってるよ。兄ちゃんが作ってくれたお話の中に出てきた』
『……聞いておいてなんだが、予想外の答えだな。私は、前に話した異世界からの転移者から初めて神様というものを聞いたんだが』
『そうなの? 面白かったし、好きなんだけどな。神様のお話』
確かに、兄ちゃん以外から神様の話って聞いたことないな。
『それで、その転移者は″お守り″というのを持っていてな。異世界で信じられている神様とやらの助けを願って持つ物らしい。まぁ、ご大層な作り話付きの異世界風護符だろうな。何らかの魔法的な仕掛けをしてあって、魔法に詳しくない人間に神様の力だと思い込ませているんだろう』
ヘーゼルさんの解釈は身も蓋もない。
『そのお守りは、見た目はただの飾りか小袋にしか見えなかった。開けるとご利益がなくなると言われているらしいが、きっと光に弱いインクで魔法陣を書いておき、開けたら効果が消えるように仕込んであるんだろう。神様の存在を信じる者なら言うことを聞いて効果を享受できるが、信じずに開けた者は効果を得られないようにしてその神様を信じるように誘導する。さらに、お守りの製法の秘密も守られる。なかなか悪くない仕組みだ』
う~ん。ちょっと人を騙してるとこが気にかかるけど、システム的には良くできてるのかな? その神様を信じることで、人が精神的な支えとかの何かを得られるなら良いことなのかもしれない。本当にいるって考えた方が夢はあるけどね。
『それで、本題だ。そのお守りを真似て、こっそり魔法陣を仕込んだ飾りや防具をプレゼントとして用意しないか?』
いいかもしれない。物なら僕が目利きで性能を確認できるからちゃんと効果があるか確認できるし、そこまで良い素材じゃなくても魔法陣で性能を上げられる。
さっそく、ヘーゼルさんと作る物と必要な素材の打ち合わせに入った。
本当はすぐに下準備に取り掛かりたいけど、まださっきの疲れで体を動かすのはしんどい。ぐったりと壁に背を預けたままでいたら、兄ちゃんが帰ってきた。一日中訓練で、兄ちゃんも疲れていそうだ。
「どうした? 何だかぐったりしてるけど」
「ちょっとスキルを使い過ぎたら疲れちゃって。兄ちゃん、ヘーゼルさんが話したいみたいだから、少し代わるね」
兄ちゃんは嫌そうな顔をしたけど、ヘーゼルさんはどうしても話したいみたいだったから返事を聞かずに交代した。
「フェン君、以前も言ったが、魔法なら私が教える。遠い町まで行かなくていいし、マルドゥクの体に間借りしてる家賃代わりだから、お金もかからない。考え直さないか?」
「この村以外の場所を見てみたいし、町で魔法を習うのは父さんの希望でもある。お前が言ってた通り、普通の魔法の使い方を知っておいて損はない。それには一般的な教育を受けてみるが良いと思うんだ」
「……分かった。もし、町での教育が物足りなかったら言ってくれ。あと1年以内なら、いつでも弟子入りを受け付けるから」




