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第9話 模擬戦

 今日は昼から模擬戦が行われる。

 明日の午前中に行商人さん達一行はこの村を発つから、お買い物したり、精霊術師さんと話したりできるのもあとわずかな時間だけだ。


 朝は精霊術師さんの所で精霊術の見学をして、アブヤドでの生活について聞いた。

 故郷からの仕送りを期待できない大半の白は、アブヤドで皿洗いとか冒険者パーティの荷物持ちとかどこかの工房の手伝いとかのアルバイトをして生活費を稼ぐそうだ。

 冒険者ギルドでは未成年でも登録ができるから、薬草とかを採取して買い取ってもらうって手もあるらしい。


 精霊術訓練場では、歌や楽器を習ったり、勉強したりと色々やるらしい。

 ただ、希望者だけが参加することになっていて、アルバイトに時間を費やす白が多いために参加率は高くない。

 義務として課される作業が別にあって、そっちはノルマもあるから全員参加。


『アブヤドにいた頃は全然心に余裕がなくて、同い年の白の子とほとんど話さなかった。だから、あの子達の遺族にアブヤドでの様子を聞かれても、何も答えてあげられなかった。後悔してるけど、この子に話すべきことじゃないわね』


『アブヤドで仲良くなった親友とは、私が精霊と契約できたときからギクシャクして、仲直りできないまま永遠の別れ。でも、別れが辛くなるから友達は作るなって言うのは違うよな』


 話の途中で精霊術師さん達のそんな心の声が聞こえてきた。

 意思伝達は、心が読めるわけじゃない。伝えたいって強く思ったことを読み取ったり、伝えたりできるだけ。

 きっと、後悔の気持ちを誰かに吐き出したいんだろうな。

 2人の後悔は真逆のもの。かけるべき言葉が分からない。


 でも、精霊術師さん達は僕を暗い気持ちにさせないために、明るく話続けている。それなら、僕も合わせておくべきだろう。表面上は和やかに話を終え、村に戻った。



 昼前に村に戻ると、広場はすっかり模擬戦の準備が済んでいた。皆、場所取りをしていて、何人かは既にお弁当を広げている。

 僕も今日は母さんとプリシラとの3人で観戦する。

 2人を探している途中、ギーラを見かけたから手を振りながら声をかけたけど、気付いてもらえなかった。ギーラらしくない固い表情をしていたけど、緊張してるのかな。


 場所取りをしてくれていた母さんとプリシラはすぐに見つかった。心なしかプリシラも元気がない。

 そういえば、プリシラは自分の両親と観戦しなくていいんだろうか。


『プリシラ、家族で観戦しなくていいの?』

『うん。両親は、行商人さんと交渉してる。模擬戦には興味ないって』


 自分達の息子が出るのに興味がないなんてことがあるんだろうか。


『賞金が出るわけじゃないのにわざわざ戦うなんてアホらしい、だって』


 勝っても得をしないのにわざわざ戦うなってことみたいだ。そういえば、ギーラの家ではリトルコカトリスとかの肉の美味しい魔物を狩ったときはほめてもらえるんだっけ。超現実的な性格のご両親のようだ。


 母さんとプリシラと3人でお昼を食べながら模擬戦が始まるのを待つ。

 村の人達が時折こちらに視線を送ってくるが、今日は逃げられたりしない。彼らもせっかく場所取りをしたんだから動きたくないよね。

 ただ、会話もなく黙々と食事をしている僕達を気味悪そうに見て、少し距離を空けている。僕とプリシラは意思伝達と意思疎通で会話してるんだけどね。

 母さんは落ち着かないみたいで、しきりに父さん達がいる村役場の方に目をやっている。


 昼食を村の皆が食べ終わった頃を見計らって、若い方の役人さんが登場し、冒険者と村の有志との模擬戦の開催を宣言した。役人さんが審判を務めるそうだ。

 続いて、父さん、兄ちゃん、ギーラの3人と冒険者5人組が登場した。


 結果は、当然だけど父さん達の圧勝。父さんが試合開始と同時に横なぎに剣を一振りしただけで、冒険者5人が吹っ飛んで終わってしまった。兄ちゃんもギーラも出てきただけで何もしてない。


『力を加減した斬撃飛ばしだな。あえて剣の腹の部分を向けて剣を振るい、殺傷力をなくしたようだ』


 なるほど。初めて作った木刀が焦げてしまったから斬撃飛ばしはできなくなっちゃったけど、練習すればあの木刀でなくてもできるようになるだろうか。


 役人さんが父さん達の勝利を宣言し、第2試合の開催を告げる。

 え? 第2試合? って思っていたら、ライアンさんが登場した。どうやら第2試合は父さん対ライアンさんみたいだ。出番を失くした兄ちゃんとギーラは僕達のもとにやってきた。


「仕留めそこなった奴とか一撃では戦意を喪失しなかった奴を頼むとかいってたのに、村長、全員倒しやがった。オレらに少しは気ぃ使って欲しいよな」

 ギーラがぼやく。

「ごめんなさいね。あの人、剣を握るとそういう気遣いとかどっかにいっちゃうのよ。あれでも、相手が死なない程度に手加減ができるようになっただけ、若い頃よりはましなの」

 父さん、昔は結構やんちゃだったんだろうか。


「でもね、ギーラ君にフェン。冒険者なんてやっていたら、撃ち漏らした敵のせいで仲間が重傷を負ったり、最悪は死んでしまうこともあるわ。だから、カッコよく決めたいとか、仲間にも活躍の場を持たせたいとか、そんな理由で手を抜いてはダメよ。それと一見活躍できなかった仲間がいても、いてくれただけでありがたいと思いなさい。自分が思うように動けなくてもカバーしてもらえるって安心感があるから、実力を出せるの。父さんもきっと久しぶりの対人戦で1人で戦いたくなかったんじゃないかしら」

「それって、昔、父さんと冒険してた頃の経験談?」

「そうね。母さん、回復役だったから、誰もケガしなかったら出番がなかったの。役に立ててるのか不安に思ってたら、父さんが言ってくれた言葉よ」


 急に真剣な話をし始めたと思ったら、惚気(のろけ)だった。母さんは心なしか頬を赤らめて照れている。

 今まで知らなかった両親の過去を知ることができて嬉しいけど、ちょっと反応に困るな。兄ちゃんとギーラも少し困った様子だ。


『マルのお父さん、良いこと言うね。素敵』

 プリシラは、母さんの話に感激していた。プリシラも索敵とかの後方支援役になりそうだから、父さんみたいな考え方は救われた気持ちになったんだろうな。


 そんな会話をしていたら、試合が始まってしまった。

 でも、第1試合と違って、序盤は両者にらみ合い。武器は父さんが幅広のブロードソードで、ライアンさんは大斧。ライアンさんの方が若干リーチが長いだろうか。お互いに間合いをはかり合っている。

 しかし、様子を見ていると父さんの方がやや広めの間合いを取ろうとしているように見える。逆にライアンさんは少し間合いを詰めたがっているようだ。


『武器の長さだけじゃなく、一気に踏み込める距離でも最適な間合いは変わる。見たところ、ライアンは一撃の重さを重視する重戦士タイプ。武器の重さで動きがやや鈍くなるのを攻撃を受け止められる全身鎧の防御力でカバーしているんだろう。一歩で詰められる距離は短い。対して、村長はバランス型。一撃は決して軽くなさそうだが、取り回しやすい重量の武器に軽装。攻撃は避けることが前提で動きを妨げないことを重視した装備だ。脚力にも自信があるんだろう。――それに、斬撃飛ばしもあるからな』


 確かに、斬撃飛ばしを主力に使っていた時は、僕もだいぶ距離を空けて戦ってたな。

 それにしても、あんな重そうなブロードソードなのに父さんにとっては取り回しやすい武器なのか。剛力のスキルのおかげだろう。うらやましい。


 しばらくすると、ライアンさんは間合いの攻防に焦れたのか、飛び込んで斧を振るった。間合いのやや外とはいえ、遠心力の乗った重い一撃。剣で受けても衝撃で腕が痺れそうだ。

 しかし、父さんは慌てずに斬撃飛ばしで斧をはじく。


 ライアンさんも攻撃をはじかれるのは予測していたのか、はじかれた反動も利用しながら、続けざまに斧を振るっていく。反動に逆らわずに、むしろ時々勢いを利用して回転したりしながら斧で連撃を放っていく様は、まるで踊っているようにも見える。上へ下へと幾通りもの軌道を描きながら、大斧が振るわれる。

 その度に斬撃飛ばしではじかれてはいるけれど、徐々に攻撃の間隔が短くなっていき、2人の距離も詰まっていく。


 そして、ついにライアンさんにとっての最適な間合いで大斧が振るわれる。やや右下から左上へと振り上げる威力の乗った一撃。

 あんなのが直撃したら大変だ。急いで先見の明で未来を見る。


 ――軽く跳んでかわし、刃の付いていない大斧の側面の部分を足場にして大きく跳躍。空中で体を捻って向き直りながらライアンさんを飛び越し、後ろに回って首筋に剣を突きつける父さんの姿が見えた。


 鮮やかな映像に心を奪われていると、それと全く同じように父さんが軽やかな跳躍を見せ、勝負を決めた。

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