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第8話 種

「こんな小さな村でまで、そんな真似をするなんて。まったく」

 冒険者パーティを村役場に連行し、事情を説明したら、父さんはため息まじりにつぶやいた。「こんな村でまで」ってことは、町ではこんなことをする連中が珍しくないっていうのは本当なんだろうな。


「申し訳ございません。私の監督不行き届きです」

 ライアンさんが父さんに頭を下げる。冒険者パーティの5人は、まだ誰も頭を下げていない。謝る気はないみたいだ。

「公開処刑だな」

 父さんが冒険者パーティの様子を見て、怖い一言。途端に冒険者5人の顔が蒼ざめた。

「それはどうかご容赦願えないでしょうか。命を狙った者が命を奪われるのは仕方ありませんが、護衛任務の戦力が足らないのです。他の人材を補充できる当てもありません。息子さんの命を狙われてご立腹でしょうが、ここはなにとぞ穏便に」

「いえ、命までは取りませんよ。明日、村の選抜メンバーと模擬戦をしていただきましょう。戦いが本職の冒険者がただの村人に公衆の面前で無様に敗北する。自分達が強いから何をしてもいいと思いあがっている彼らには、良い薬になるでしょう」

 父さんの言葉にホッとしたのか冒険者パーティのリーダーっぽい弓士さんがしゃべりだす。


「ケッ。ただの村人その1になんか負けるかよ。そっちの村人がケガするだけだぜ」

「はーい、村長。オレ、選抜メンバーに立候補しまーす!」

「仕方ない。じゃ、俺も。さっきは使わなかったけど、模擬戦では魔法も使っちゃおっかな」

「父さん、僕も立候補しますっ!」

 僕達の立候補に、再び顔を蒼くする弓士さん。僕達が出ないなんて誰も言ってない。さっき負けたばかりで、どうして勝てると思ったんだろう。


「では、こちらは私とフェンとギーラの3人でお相手しよう。5対3では、負けたら恥ですな。今日戦ったみたいだからご存じでしょうが、この2人は子供だからとなめてかかると危ないですよ」

 僕は選抜落ちか。分かってたけど。

 でも、これで父さんの戦ってるところを見られる。楽しみだな。


「お話が決まったところで、私からもいいですかな?」

 部屋の隅で成り行きを見守っていた役人さんが口を挟む。昨日の嫌な態度の役人さんだ。


「立ち寄り先の村でこのような騒ぎを起こすなど、言語道断。依頼達成時の報酬は減額させていただきます。さらに、もし村長と村の子供2人に簡単に負けるようであれば、護衛には力不足。今回の依頼は前金だけで成功報酬は支払いません。なお、任務の途中で逃亡するようであれば、冒険者資格をはく奪の上、犯罪者として手配します。軽率な行動はなさらぬように」


 おぉ、まともだ。意外とちゃんとした人だったみたいだ。

『まぁ、この手の役人は仕事には忠実なことが多いよ。差別はこの国の政策のようなものだから、職務に忠実なほど差別的になってしまうんだ。嫌な奴だが、根は真面目ということだな』

 仕事に忠実だからこその差別か。嫌な話だけど、やってる当人は悪いことだっていう自覚はないんだろうな。



 父さんの処分が決まったところで、改めてポーションを買ってもらう。

 散々ごねられたけど、ライアンさんの拳による説得で10個買い取ってもらえた。無理やり売りつけるようなことはしたくなかったけど、彼ら自身が生きて帰るためだから大目に見て欲しいな。


 兄ちゃん達に、ポーションを買い取らせた理由を話したら「お人好しだ」って呆れられつつも納得してもらえた。どうせなら在庫全部買い取らせた方が良かったとも言われたけど、それだと母さんに渡す分がなくなっちゃうしな。


 それよりも、今日はお店を回って買い物だ。掘り出し物があると良いな。

 売上は合計で67500ダハブ。1人当たり15000ダハブずつ分配して、残り7500ダハブは兄ちゃんに預けておく。将来、兄ちゃん達3人がアブヤドに来るときのための貯金にするらしい。


 今日は母さんなしで子供4人で回る。危ないことがないように必ず4人一緒に動くならと、保護者なしでの買い物を認めてくれた。

 訓練場に入ったら、偽物ポーションを売ってた行商人さんから声をかけられ、ハイポーションとハイマナポーションが1個ずつ売れた。騒ぎのもとになったポーションのことが気になったそうだ。

 さすがに適正価格では買ってくれず、各1本で合計3000ダハブ。売上は兄ちゃんに渡して貯金にしてもらう。


 さて、買い物を楽しもう。

 まずは装備品を見る。兄ちゃんはブーツ、ギーラはグローブ、プリシラは動きやすい服を探してると伝えて、おススメを見せてもらったけど性能的にしっくりくるものが見当たらない。

 結局、3人とも買うのは諦めた。

 僕は、糸とかボタンとか毛織物とかの素材類をいくつか買っておいた。紬糸も1つ100ダハブと格安なので、残っていた5つをすべて買っておく。どうせなら織って布にしたいな。


 プリシラは青い染料を買って僕に渡してきた。『マルがヘーゼルさんと本契約できたら使って』だって。嬉しいな。

 本契約を迫られてるみたいで気を悪くしないかちょっと心配したけど、ヘーゼルさんは『どうせなら銀糸も買っておくか? 赤に金糸の対戦相手に対抗してこっちは青に銀糸の服を用意しよう』だって。会ったこともないアルベールさんって人にケンカを売る気マンマンだ。

 銀糸は1つ8000ダハブもするから、とても買えないけどね。適正価格なら6000ダハブなんだけど、遠くから商品を運ぶ経費がかかっているはずだから、仕方ない。


 次に、あんまり買う物はないだろうけど、食料品を売ってる行商人さんの元へ。

 皮なめし用の茶葉だけ買おうかと思ってたけど、ヘーゼルさんが植物の種がセットになったものを買って欲しいと言い出した。


『あれはな、転移者の語る異世界の植物を再現しようと光の精霊術師が試みた物――、の失敗作の詰め合わせだ。夢があるだろう?』

 失敗作を買わせようとしないで欲しい。でも、一応目利きでチェックしてみる。


 種籾

 種子として蒔くための籾。上手く栽培すれば米が収穫できる。


 大豆

 食用になる豆。種として蒔いて栽培することもできる。


 確かに失敗作がほとんどだけど、ちゃんと栽培できそうなものも混じってる。


『便利だな、その目利きってスキルは。私もポーション作りとか魔物の解体とか手伝ったし、買ってくれても良いだろう?』


「おじさん、この種のセットって自分でセットの中身選んじゃダメ? それといくらで売ってるんですか?」

「あぁ、それね。売れ残りだから、10粒100ダハブで売ってるよ。組み合わせは好きに変えてもらっても構わない」


 そういうことならと、当たりの種だけ選り分けていく。兄ちゃんが来て手伝ってくれた。兄ちゃんには目利きがないはずなのに、なぜか的確に種籾と大豆を選んでくれる。僕が選んだのと似たのを探してくれたのかな。

 兄ちゃんの協力で、時間はかかったけど種籾70粒と大豆30粒を選んで1000ダハブを支払った。


「マル、これどうしたいんだ?」

「さあ? ヘーゼルさんが欲しいんだって」

 兄ちゃんは種セットがヘーゼルさんのリクエストだと知ると、途端に渋い顔をした。

 そして、1000ダハブを差し出して種を全部空間魔法に収納してしまった。

「ヘーゼルがいたずらに使うかもしれないからな。これは俺が預かっておく」

『ふっふっふ。別に構わないぞ。空間魔法の中なら劣化しないんだろう? 古くなって芽が出なくなっても困るし、むしろ好都合だ』

 兄ちゃん、ヘーゼルさんは全く堪えてないみたいだよ……。


 家に帰った後、兄ちゃんが種籾と大豆について何か知ってると踏んだヘーゼルさんは兄ちゃんを質問攻めにしていた。僕も知りたかったけど、兄ちゃんは「絶対に教えてやらない!」ってヘソを曲げちゃった。

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