第7話 お客様
「たいして効果がないに決まってる子供が作ったポーションを買ってやるって言ってんだ。さあ、とっとと商品出して、お客様に頭を下げろよ」
子供だと思ってなめてるせいなのか、それともパーティのリーダーだから仕方なくなのか、後ろにいるべき弓士なのに一番前に出て相手を挑発してくる。
前にもこんなことあったな。でも、森を焼いた冒険者パーティと違い、後ろの魔導士が即座に魔法を放てるように呪文を唱えている。リーダーの弓士を攻撃したら魔法が飛んでくるんだろう。
何にしても、商品をけなして不当な価格で奪い取ろうとする人はお客様じゃない。事前に打ち合わせておいた通り、撃退するしかない。
「怖くて声も出ないか? 俺達を怒らせる前にポーションを渡しな」
言いながら近づいてきた弓士を、ギーラがタイミングを合わせて足を引っかけて転ばせる。そのまま腕を後ろに回させ、プリシラを呼んで手首を縄で縛っておいてもらう。
「土弾!」
それを見て、魔導士が魔法で石を弾丸にして放つけど、ハンノキの木刀を一振りして弾の勢いを殺す。僕達に届かず、魔法で作った石は地面に落下。
その間に兄ちゃんが走り寄り、鳩尾に一撃。
兄ちゃんにはピンチにならない限り、魔法で攻撃はしないように頼んである。威力が高すぎるからね。
ちゃんと分かってさえもらえれば、彼らもお客様。優しく倒すのがコンセプトの作戦なんだ。
突っ込んで来ようとした剣士と槍士は地面に張った氷で足を滑らせ転倒。
氷はもちろん魔法で張ったものだ。ヘーゼルさんに魔法での素材加工を教わっていたら、これくらいはできるようになった。足を踏み出す位置に氷を張ればいいだけだから、魔力はほとんど消費しない。氷の表面を少し溶けて濡れた状態にして、滑りやすくしておくのがポイント。
最後の短剣をもった軽装の冒険者さんは、レンジャーかな。
しばらく、ギーラと格闘してたけど、短剣を突き出した手首をつかまれ、投げ飛ばされて気を失ってしまった。
一度意識を失った魔導士とレンジャーはプリシラがささっと縄で後ろ手に縛っておいてくれたから、戦闘復帰もしてこない。念のため、縄の結び目を氷で固めて解けにくくしておいた。
転んだだけの剣士と槍士は他の味方が既に捕縛されているのを見て戦意を喪失したらしく、おとなしく捕まった。これで戦闘終了だ。
「ガキがなめたマネしやがって!」
そういって弓士さんは暴れていたけど、魔導士が仲間をなだめていた。
「止めろ! あの中に風と水を操れる者がいる! ただの子供じゃない。目撃者もいないことだし、下手をすると身ぐるみはがされて魔物の住む森に放置されるぞ」
え。そんな酷いことしないよ。死んじゃうかもしれないじゃん。
とりあえず、商談をまとめないとね。
できるだけ、優しい笑みを浮かべてもう1回値段を伝える。
「お客様。ポーションは1本1500ダハブ、4本で6000ダハブになります。どうなさいますか?」
『マルドゥク。それ、この状況でやると結構怖いぞ?』
そうかな? ヘーゼルさんには怖いって言われたけど、他の対応方法も思いつかないから、今回はこのまま交渉しよう。
目線を合わせて、再度笑顔を浮かべ、商品のアピールをしようとすると――。
「おいッ! そこまでだ! また悪さを……って」
村の方から大きな斧を背負った冒険者さんが走ってきた。
縛られている冒険者パーティと僕達を交互に見て、目をぱちくりさせている。
「お前ら、子供4人に負けたのか? 油断しすぎだ。そんなんでどうやって冒険者やってくつもりだよ」
ため息まじりに冒険者パーティに声をかけると僕達を見回し、兄ちゃんに声をかける。僕達の中で兄ちゃんがリーダー格だと思ったんだろうな。
視線の端でギーラが面白くなさそうに口を尖らし、小石を蹴る様子が見えた。
「すまなかった。君達、ケガはないか? 私はこいつらのパーティと一緒に役人一行の護衛をしていて、護衛全体のリーダーの任にあるライアンだ。こいつら、金を稼げずに長いことくすぶっていたせいか、ケチなんだ。良い物を見つけると脅して値引きを迫ることが何度かあって……。すまん」
つまり、この人達は常習犯なんだね。
「……何度か恐喝をしていることを知りながら、あなたは彼らを官憲に引き渡したりせずにいたのですか?」
兄ちゃん、静かに怒ってるみたいだ。
「すまない。言い訳にしか聞こえないだろうが、こういうことをする奴は少し大きな町じゃ結構いるんだ。役人はこのくらいじゃ動いてくれない。それに、今回の護衛任務、彼らが抜けてしまうと少々厳しい。既に2度ほど魔物に襲われたし、これから盗賊にも遭うかもしれない。君が怒るのは当然だが、彼らが離脱しないで済む方法で矛を収めてくれないか。もちろん、相応の罰は与える」
護衛って大変なんだな。ライアンさんは悪い人じゃないっぽいから、困らないようにしてあげたい。そっと先見の明で護衛の冒険者さんの未来を予測する。
「兄ちゃん、僕が決めてもいい?」
「う~ん、温すぎると思ったら追加で注文をつけるぞ。あんまり甘い処分だと、また襲ってくるだろうし。――こんなことをする奴がいるんじゃ、まともに商売なんてできない。せっかく良い商品売ってくれる人にそんな仕打ちをしてたら、まともな物を売ろうって人が店畳んじゃって欲しい物が手に入らなくなる。そういうこと、どうして考えられないかな」
うん、兄ちゃんの言うとおりだ。僕も怒ってないわけじゃない。
「ライアンさん、今回は穏便に済ませてもいいと僕は思ってます。でも、この護衛任務が終わっても彼らが同じことを繰り返しているのを見たら、ちゃんとしかるべきところに通報すると約束してもらえますか?」
「あ、あぁ。約束するよ。坊主、小さいのにしっかりしてるな」
「では、ポーション10本買ってください! 合計15000ダハブです!」
「お、昨日の売上と合わせて6万ダハブ。目標達成だな!」
おぉ、そういえばそうだった。嬉しそうなギーラとハイタッチ。
兄ちゃんとライアンさんはキョトンとしている。プリシラは苦笑い。
「そんなんでいいのか?」
「ライアンさんも買いませんか? 美味しいですよ。1本試飲どうぞ」
「あぁ、ありがとう。――旨いな。ポーションに対するほめ言葉として旨いってのもどうかとは思うが。5本買おう」
「ありがとうございます!」
これで大丈夫。未来が先見の明で見た通りに進んでいくなら、ライアンさんも襲ってきた冒険者パーティも無事に護衛任務を終えられる。この先、盗賊に2回襲われ、魔物にも3回襲われるらしい。最後に襲ってくる魔物はグリフォン。
ただのポーションでは回復しきれないけど、ハイポーションなら治せる傷を負う回数が15回っていう予測だった。
「さすがに処分が軽すぎる。ライアンさん、この件、村長である父に報告させていただきます」
あ、兄ちゃんに説明してなかった。いや、説明しても態度は変わらなさそうだな。
父さんからの処分を先見の明で予測。
お、意外と面白そう。ライアンさんの任務に支障も出なさそうだし、このまま行こう。
縛った縄をライアンさんに持ってもらって、冒険者パーティを村役場まで連れて行く。
道中、ライアンさんの息子さんも白だって話を聞いた。僕と同い年だからアブヤドで出会ったら仲良くしてくれって。
ライアンさんの息子さんなら友達になれそうな気がする。




