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第6話 精霊術師

 今日は精霊術師さんが森を再生させる日だ。


 朝早くに起き、急いで支度して出かける。プリシラやギーラとも合流し、いつもの4人で森の東側に向かう。

 森に着くと既に何人か集まっていたけど、2人の精霊術師さんは父さんと何か話していて、まだ森の再生は始めていない。間に合ったみたいだ。


 ほどなくして話がまとまったようで、精霊術師さんの1人が竪琴を手にした。

 演奏が始まる。もう1人の精霊術師さんが歌いだした。いかにも何かが起こりそうな幻想的な歌だ。


 三日月熊(クレッセントベア)を倒したときみたいに、周囲の魔力が流れていき、大地へと浸透していく。


 ――1曲演奏し終えると、燃えてしまった森の跡に、十数本の植物が生えてきていた。まだ、5㎝くらいの高さだけど、これが成長していって立派な木になるのかな。


「う~ん、高い金払ってるんだろ? すぐに収穫できるくらいに成長させて欲しいもんだがなぁ」


 周りにいた村の人たちのそんな声が聞こえる。十分すごいと思うんだけどな。

 ヘーゼルさんが本気を出したらどうなるんだろう。ふとそんなことを思った。今、2人の精霊術師さんが見せてくれたよりもすごいことになるんだろうか。


『水の精霊術師と光の精霊術師か。悪くはないな。植えたのは、クルミ、リンゴ、ブドウ、栗、レモンか』


 ヘーゼルさん、詳しいな。さすが森で暮らしてただけのことはある。

 あっ、ハシバミの木も生やしてくれるように、お願いしておけばよかったかな?


『いや、いい。もっと良い場所を探してくれ。ただ、ハシバミの木を見かけたら、実を拾っておいてくれ』

『うん、分かった』


 曲が終わり、村の人達が帰って子供4人だけになると、精霊術師さん達が白の僕を見つけて近づいて来た。


「おはよう。明日と明後日もここで精霊術を使うから、良かったら見に来るといいよ。もし時間があったら、少し話でもしようか。アブヤドのこととか、君も知りたいだろう?」

「はい、ありがとうございます!」


 光の精霊術師さんであるらしい白いローブを着たお兄さんがそう言ってくれた。ローブは真っ白じゃなくて、金糸で縫い取りがしてある。一色増えるだけで、だいぶゴージャスな雰囲気になるな。僕の白一色の普段着とは全然違う。

 もう一人の青色のローブを着た水の精霊術師のお姉さんも優しく微笑んでいる。

 白でも精霊術師になると、契約している精霊の属性と対応する色を着てもいいことになっている。火なら赤、水なら青、風なら緑、地なら黄、光なら金と銀、闇なら黒と紫だ。光と闇の精霊術師は少ないから、特別に2色許可されるらしい。

 僕がヘーゼルさんと本契約できたら青い服は着ていいことになるけど、他の色はどうなんだろうか。他の属性も使えるから、他の色も認めてもらえるのかな。青もいいけど、黒とか赤とかもカッコいいよね。


 兄ちゃんに視線を送ると、大きくうなずいてくれたから、遠慮なく精霊術師さんとお話してから帰ることにした。


「オレも精霊術師とかアブヤドとかの話、聞きたいぜ!」

『私も』

「おや、珍しいね。君達は仲良しなのかな?」

「珍しい?」

 精霊術師の2人が苦笑しながら顔を見合わせる。

「精霊術師と言っても、白だから。話を聞きたいっていう人は少ないのよ」

 最初から悲しい話になってしまった。そういえば、村の人達は精霊術師さんにお礼も言わずに帰っていったな。


「あの、森の再生ありがとうございました。精霊術、幻想的で素敵でした。それで、僕、自分以外の白の人に初めて会ったんです。聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「いいよ、何だい?」

 2人ともすごく優しい、穏やかな笑顔を浮かべている。初対面でこういう表情を向けてくれる人は少ないから、それだけで嬉しくなる。


「仮に色んな属性を使える精霊さんと契約できたら、服の色は使える属性の好きな色を着ていいんですか?」

「ふふ。見かけによらず、野心家なのね。精霊は1人1属性しか使えないと言われているの。精霊さんとお話できたわけじゃないから、本当かどうかは分からないけどね。だから、複数属性を使える人は複数の精霊と契約していることになるわ。一応、3人ほど複数属性を使える精霊術師がいて、その人たちは使える属性の色を()()使った服を着ていたわ」

 全部って、全属性なら赤、青、緑、黄に金か銀、黒か紫で6色も? カラフルすぎないかな。ピエロみたいな格好が思い浮かんでしまった。


「あれは、式典用の礼服だろう。普段は彼らも使える中から好きな色を選んで着ている。火と光の属性を使えるアルベールさんに休日に会ったら、普通に赤い服だった。礼服は赤に金糸で装飾の施された豪奢な衣装で有名だけど」

「赤に金! カッコいいじゃん! マルもそういうの着てみろよ」

 うん、いいなぁ。きっとカッコいい。会ってみたいな。

「アブヤドで3年に1回精霊術師の大会があるから、それを見に行くと彼の姿を見られるかも。前回優勝者だから、次も出るんじゃないかな」

 良いことを聞いた。楽しみだな。できたら兄ちゃん達と一緒に観戦したいな。


「はいっ! オレからも質問! 次の大会はいつ?」

「次は再来年だね。ちょうど君がアブヤドに行った年に開催されるよ」


 なぜか、兄ちゃんとギーラが小さくガッツポーズ。ついでにヘーゼルさんも『よし、アブヤドに行ったら早速戦えるようだな』なんて言ってる。

『ヘーゼルさん、まだ仮契約だし、再来年は戦わないと思うよ? それに、出ても初戦敗退かもしれないし』

『私の住み処が見つかるのにかなり時間がかかるだろうし、再来年ならまだ君の中にいるだろう。あと、初戦で敗退したら、お仕置き(いたずら)するからそのつもりで』

『……大会に出なかったら?』

『大丈夫だ。私が代わりにエントリーしといてやるから』

 ヘーゼルさんってば、勝手に体の制御を奪わないって約束をなかったことにしている。


「再来年やるってことは、マルがアブヤドにいる間に2回開催されるはずだな! 何とか1回は4人一緒に観戦できそうだ」

 ギーラのガッツポーズの理由は意外とまともだった。

「2回開催されるなら、1回目は様子見して2回目で優勝が狙えるな」

 兄ちゃんは無茶なことを考えている。2回目でも僕は10歳だよ!?


「ははは。訓練を受けてる最中の子が簡単に勝ち進めるほど甘くないよ。大会の出場に年齢制限はないから、卒業してから頑張って優勝を狙ったらいい」

「最年少優勝記録って何歳ですか?」

「え? 確か17だったかな? アルベールさんが前回更新したんだ」

「よし。マル、最年少優勝記録を更新しよう」

「もう、兄ちゃんってば。気楽に言ってくれちゃってるけど、僕はまだ精霊術師になれてすらいないんだからね?」

 精霊術師さん達に笑われちゃった。でも、最年少記録を更新ってことは16歳のときに優勝か。せっかく期待してくれてるんだから、16歳になってちゃんとした精霊術師になっていたら頑張ってみよう。

「まぁ、精霊術師大会って言っても、いわば予選だから。冒険者や騎士の代表も集まる武闘会の方が本番。白以外の人にとっては、そっちの方が盛り上がって楽しいんじゃないかしら」


「アブヤドってどんなところですか?」

 精霊術師大会の話の後にそう聞くと、2人は困ったような顔をした。


「基本的には普通の町よ。白が多いだけで。――それでも、家族とも離れ離れになって行くことになるから、白にとっては試練の場所、かな。白だからと絡まれたりもするし、用心は必要ね」


 やっぱり厳しい場所なのかな。兄ちゃん達とも離れることになるし……。


「でも、悪いことばかりじゃないぞ。それなりに大きな町だから、色々な物が売ってる露店も出るし、町の人が白がいることに慣れているから、仕事も探しやすい。冒険者ギルドもある。私は普段はアブヤドに住んでいて、治療院で働いているよ」


 僕が落ち込んでいるのを見て、光の精霊術師のお兄さんがフォローしてくれる。

 そうか。お店が沢山あるのはいいな。将来開くお店の参考にできそうだ。


「家族と離れるって言っても、冬の間は会おうと思えば会えるわよ。自費で馬車を手配したりしなきゃいけないから、だいぶお金はかかるけど。貴族出身の子だと、秋のこの時期に故郷に帰ってきて、春になる頃に戻る子もいたわ」


 冬だけか。それはやっぱり寂しいな。金額にもよるけど、お金がかかるなら毎年帰ってくるわけにはいかないだろうし……。


 精霊術師さんからは、滞在中に他にも色々教えてもらう約束をした。

 兄ちゃんとギーラはアブヤドに来てくれる気があるみたいで、いつ頃になったら行けそうか話していた。兄ちゃん達が来てくれるなら、寂しくないな。



 精霊術師さん達と別れて家に帰ろうとする途中で、昨日の冒険者さんと遭遇した。1人じゃなくて4人の仲間を連れている。しかも、完全武装だ。見た目は森に魔物を狩りに来たように見えるけど――。


「よぉ、昨日のガキども。ポーションはなかなか旨かったぜ。で、あと4本買うから1000ダハブで売ってくれや」

 昨日とは違う粗暴な態度。子供だけだと甘くみているみたいだ。

「1000ダハブで売るのは最初の1本だけです。2本目からは1500ダハブ。4本で6000ダハブになります」

 僕の言葉を受けて、5人の冒険者さんがそれぞれ武器を手にした。


「おとなしく、()()1000ダハブで4本売るなら痛い目見なくて済むぞ? 無料(タダ)でよこせって言ってるわけじゃないんだ。買ってやるっつってんだから、さっさとしろ」

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