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第4話 理由のない嫌悪

 収穫祭までの準備期間は瞬く間に過ぎていき、10月の終わりになって、行商人さん達が村に到着した。大体予定通りの来訪だ。


 魔物狩りの後の収穫作業でも僕も家族の一員として参加できた。相変わらず父さんと母さんとは目が合わないけど、一緒に採取するのは楽しかった。

 保存食に関しては、村の倉庫に納める分と、家の備蓄の分しか用意できなかった。後半は運べるだけ倒したら家に魔物の死体を運び、即また森へと狩りに行っていたんだけど、余剰分はなし。家の備蓄のために穀類や塩などを購入するために売却する分はあるけど、僕達子供がお小遣い代わりにしていい分はない。

 それでも、皮とか羊毛とか糸とかの肉以外の素材はたくさん手に入れられたから十分だ。



 行商人さんは、今日はまだ商売は始めないらしい。村の備蓄食料のための交渉を今日と明日の昼までで終わらせ、明日の午後から商品を見せてくれるんだって。場所は村役場の訓練場。


 商品になるようなものは、ポーション3種類となめし革各種、魔物の牙や爪くらい。何か作ろうと思ってたんだけど、先見の明で予測してもなかなかちゃんとした値段で買い取ってもらえるイメージがわかなかった。

 かろうじて適正価格より少し安めの値段で売れそうな予測ができた4種類だけ作ってみた。


 ラビットファーケープ

 突進ウサギのなめし毛皮で作ったケープ。

 材料:突進ウサギのなめし毛皮、蜘蛛の糸、蜜蝋

 付加能力:耐寒性向上、魔法防御力向上

 潜在能力:なし

 適正価格:15000ダハブ


 ラビットファーマフラー

 突進ウサギのなめし毛皮で作ったマフラー

 材料:突進ウサギのなめし毛皮、蜘蛛の糸、蜜蝋

 付加能力:耐寒性向上、魔法防御力向上

 潜在能力:なし

 適正価格:5000ダハブ


 ウルフ革の財布

 ウルフのなめし革で作られた財布。

 材料:ウルフのなめし革、麻糸、蜜蝋

 付加能力:重量微軽減

 潜在能力:なし

 適正価格:5000ダハブ


 ウルフ革のウエストポーチ

 ウルフのなめし革で作られたウエストポーチ。

 材料:ウルフのなめし革、麻糸、蜜蝋

 付加能力:重量微軽減

 潜在能力:なし

 適正価格:4000ダハブ


 先見の明では2つは売れないって予測だったから、各1つずつ。納税品の対象になっているだけあって、なめし革のままの方が売れ行きが良いみたいだった。

 プリシラはラビットファーケープを気に入っていたから、時間を見つけて作ってあげよう。子供用になるからそんなに材料は使わずに済むし。

 あとは時間を見つけて、父さんと母さんへのプレゼントを作ろう。前に作ったプリンは母さんには食べてもらえて喜んでくれた。今度は喜んでくれるかな。

 蔵の2階にあった父さんが昔使っていたらしいボロボロのグローブ。父さんには、それと同じサイズでグローブを作ってみよう。革はキラーベアのなめし革を使って――。


 未来の光景が浮かぶ。グローブ自体はちゃんとしたものができるけど、プレゼントとして差し出す僕の方を見ずにそのまま去っていく父さんの背中。

 やっぱり、受け取ってはもらえないのか。プリンのときも、見慣れないお菓子を前にしばらく黙り込み、「お菓子は子供が食べなさい」と言って手を付けずにいなくなってしまった。今度は何も言ってもらえないみたいだ。


 首を振って、沈んだ気持ちを振り払う。

 ひょっとしたら、何かの行動を変えることで受け取ってもらえる未来が訪れるかもしれない。それに、グローブは腐るものじゃないし、作っておいて何かの機会にまた渡してみたらいい。

 気持ちを落ち着かせて集中する。今の僕では、明鏡止水が発動していないと良い物は作れないんだろうから。


 見守ってくれてるような気配は感じるけど、ヘーゼルさんはこういう時は気を使って話しかけてこない。不思議な安心感の中、時間が静かに過ぎていく。



 晩御飯の時間になって兄ちゃんに呼ばれ、作業を切り上げる。

 食事のときに父さんから明日の話があった。


「皆、明日の朝、村役場に一緒に来てくれ。税金の関係で人数の確認がある。()()で行く。村では最後に確認を受けるから、そんなに早くから出かけなくても大丈夫だ」


 僕の方を見ていないけど、4人ってことは僕も一緒に出かけるってことだ。


「それから、マルゴー、午後は子供達が店を見て回るのに付き合ってやってくれ。()()ではぐれないように気を付けて」

「ええ、分かったわ。フェン、ちゃんと手をつないであげてね」

 マルゴーは母さんの名前だ。ちなみに父さんの名前はマルセル。

 僕の名前は兄ちゃんがつけたらしいけど、父さんと母さんの名前に共通する「マル」が付くようになってる。2人とつながりのある名前を考えてくれたんだろう。


「それから、明後日のことになるんだが、今年は燃えてしまった森の再生を精霊術師に頼んでいる。子供達は見てみたいだろう? 朝から始めるから、寝坊しないように。1人になるのは危険だから、必ず2人以上で来るようにしなさい」

「ありがとう! 父さん」

 目は合わなかったけど、僕は父さんの方を向いてお礼を言った。

 精霊術師さんの術を見ておくのは、白である僕にとって特に意味のあることだ。僕のことを気にして教えてくれたんだ。


 ◇


『十中八九、今日の午前中は嫌な思いをすることになる。心の準備をしておくといい。役人から何か言われても気にするな』


 翌朝、出かける前にヘーゼルさんから忠告された。人数確認って、そんなに嫌なことが起きるんだろうか。

 先見の明で確認してもいいんだけど、本当に嫌なことが起きるなら2回体験する羽目になる。

 税金関係のことなら逃げられないんだから、未来は見ないでおくことにした。


 村役場に向かったら、役人さんが2人と僕と同じ白の人が2人いた。白の人は大人だし、精霊術師さんだろうな。


「村長の家は、人数は4名、うち1名は白。確認しなくていい小さな子はなし。はい、記録と一致しています」

「うむ。では、そこの白。名前を言ってみなさい」

「マルドゥク=サラーム、5歳です」

 若い役人さんは、普通の態度だったけど、父さんよりちょっと年上くらいの役人さんは、僕のことをジロジロ見てくる。


「ふん。1年と半年たったらアブヤド行きだからな。逃げたりしないように。――おい、こいつの顔を記録にとっておけ」

「はいはい。じゃあ、そこの椅子に座ってて。ちょっと君の似顔絵を描くから」

 言われた通り、座って待つ。


「はい、終わり。――君の似顔絵、見てみるかい?」


 若い役人さんは、似顔絵を描いた紙を渡してくれた。

 そういえば、うちには鏡がないから、自分の顔ってほとんど見たことないな。


 女の子みたいに長いまつげ、ぱっちりとした大きな目に、通った鼻筋、やや小さめのきれいな形の唇。眉は細めだけれど、まっすぐで、そこだけ少し男っぽさを感じる。

 そんなかわいらしい顔が紙には書かれていた。


「へぇ、上手いな。よく似てる」

「……こういうかわいい感じじゃなくて、もっとカッコよく描いて欲しかった」

「これでもカッコよく、男の子らしく描いたつもりだよ。実物はもっとかわいらしいから」

 僕と兄ちゃんの会話を聞いて、若い役人さんがそんなことを言い出す。

 むくれてみせたけど、そのままの僕の似顔絵として書類に綴じられてしまった。

 年上の役人さんも確認してたけど、納得の出来だったらしい。


 どうやら、僕は母さん似みたいだ。父さんはかなり男らしい見た目だから、もう少し父さんに似ていたかったな。

 兄ちゃんもどちらかと言うと母さん似だけど、一重で眼光の鋭いキリっとした目は父さんに似てる。眉も母さんや僕ほど細くなくて、どちらかと言うと父さんに近い。意志の強さを感じさせる濃さと長さのある眉だ。


「あの似顔絵って、兄ちゃんのもあるの?」

「いや、俺は描いてもらった覚えはないな」

「ふん、当たり前だ。逃げ出す白がいたら、いつでも手配書を作成できるよう似顔絵を保管しているんだからな。白じゃないなら似顔絵を描いておく必要はない」

 年上の役人さんが吐き捨てるように言った。そういう目的の似顔絵だったのか。


「マル、もう用は済んだ。家に帰ろう」

 兄ちゃんは静かにそう言ったけど、年上の役人さんの言葉に怒りを抑えているのが分かる。固く握った拳がプルプルと震えていた。

 ヘーゼルさんの忠告通り、気にせずこの場から立ち去ろう。


 仕事のある父さんを残して、3人で帰ろうと村役場の一室を出ようとしたとき、年上の役人さんの声が聞こえた。


「では、村長。もし、あの白が病気等で死んだ場合、さっきの似顔絵と照合しますから、死体は首だけでも保管するようにしてください」


 やたら大きな声で言っていたから、僕に聞こえるように言ったんだろう。兄ちゃんが振り返って、キッとにらみつけるが、僕は兄ちゃんの手を握って、家に帰ろう、と促した。


 早くギーラやプリシラに会いたいな。僕の味方に囲まれて、楽しい時間を過ごしたい。せっかく、今日は楽しみにしていた行商人さんのお店を見て回れるんだから。

 2人とは、人数確認が終わり次第、僕と兄ちゃんの部屋に集まってもらう約束をしている。



「あの役人、むかつくよな! プリシラのことジロジロ見やがって、口の聞けない娘のために余分に税金を払わなくてはいけないなんて大変ですなぁ、なんて言いやがったんだぜ?」


 家の前で待っていたギーラとプリシラを部屋の中に迎え入れた途端、ギーラがしゃべりだした。

 2人は今朝の早い時間に、人数確認を済ませたらしいが、年上の役人さんはプリシラにも失礼なことを言っていたようだ。


「プリシラ、大丈夫?」

『気にしてないわ。それに、私、保存食作りをがんばったから、税金分くらいは貢献したもの。堂々としてればいいのよ』

 怒ってはいるようだったが、落ち込んではいないみたいだ。


「あいつのことは思い出すだけで、腹が立つ!」

「兄ちゃん、気にしないで。僕はヘーゼルさんから嫌な思いをさせられるかもって事前に聞いてたから、心の準備ができてたんだ」


 兄ちゃんとギーラは、僕とプリシラが気にしていない様子なのを見て、やっと気持ちを切り替えてくれた。

 嫌な思いは確かにしたけど、それ以上に、こんなに真剣に兄ちゃんとギーラが怒ってくれたことが嬉しい。

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