第2話 仮契約のお祝い
別に隠さなくても良かったんだけど、精霊さんと契約したらお祝いしてくれるっていうギーラとプリシラに、仮契約でしかない状態のヘーゼルさんのことを話すのをちょっとためらっていた。
でも、ヘーゼルさんが僕に憑依していることは早々にプリシラにバレた。
魔物狩りを隠れてサポートしているときに退屈したヘーゼルさんが『なぁ、こっそり魔法を撃って何体か倒しても気づかれないんじゃないか?』って僕に言ってきたのが、プリシラには筒抜けだったそうだ。
さらに先日、庭で魔物の解体をしているところにやってきて、氷の包丁で魔物を捌いているのを見て、精霊と契約していると確信したそうだ。
プリシラにバレれば、ギーラにもバレる。
精霊さんと契約できたのに黙っていたことを散々2人に怒られ、今日はお詫びと説明を兼ねた仮契約のお祝いをすることになった。魔物狩りはいつも通り午前中で終え、保存食作りはヘーゼルさんが魔法を駆使して時間短縮。空いた時間を使ってのお祝いだ。
お祝いの場所は僕と兄ちゃんの部屋。空間魔法の中で保存しておいてもらってたローストベアと兄ちゃんにもらったレシピで作ったポーションを用意した。
ヘーゼルさんの知っているポーションのレシピと兄ちゃんの資料に書かれていたレシピは、薬草の量、薬草の成分を抽出するときの水の温度と時間が違うらしい。ヘーゼルさん曰く、兄ちゃんのレシピで作った物の方が少ない薬草で同じ効果を出せているそうだ。そして、普通のポーションは苦くてまずいらしいけど、このレシピでは普通の飲料として考えても美味しいと思える味に仕上がった。
問題があるとすれば、普通のレシピよりも温度管理を細かくしないといけないことくらい。それなら当然、兄ちゃんのレシピで作る。ヘーゼルさんは、作り方で味が大幅に変わったことを面白がっていた。。
ハイポーション
体力の回復・ケガの治療に使われる薬品。ポーションよりも効果が高く、見た目の色も濃い。製造工程で十分な魔力を含み、効果が上がっている。薬草の苦みを抑えてあり、爽やかな味に仕上がっている。
適正価格:1500ダハブ
ハイマナポーション
魔力の回復に使われる薬品。マナポーションよりも効果が高く、見た目の色も濃い。製造工程で十分な魔力を含み、効果が上がっている。薬草の甘みが引き出され、疲れが取れる甘酸っぱい味に仕上がっている。
適正価格:1800ダハブ
ハイブリッドポーション
体力の回復・ケガの治療と同時に、魔力も回復する薬品。製造工程で十分な魔力を含み、ハイポーションとハイマナポーションを両方飲んだ時と同程度の効果が得られる。薬草のえぐみ・苦みを抑えつつ、爽やかな甘さを感じさせる味に仕上がっている。
適正価格:3000ダハブ
ハイポーションは他に似てるものが思いつかないけど、さっぱりして飲みやすい味だ。ハイマナポーションはベリー系のフルーツジュースみたいな味で、ハイブリッドポーションは柑橘系のフルーツジュースみたいな味だった。甘い物はたまにしか口にできないから、結構喜んでくれるんじゃないかな。
行商人さんに売る商品としての紹介を兼ねて、3種類ともお祝いの席に並べておく。蔵にあった空のポーション瓶は100個あったけど、5日もあれば全部の空き瓶を満たすことが簡単にできてしまうから、飲んでしまっても問題ない。
ついでに、兄ちゃんからもらった資料を見て、プリンってお菓子も作ってみた。まだ味見をしてないけど弾力のある不思議なお菓子だ。
兄ちゃんの空間魔法で保管してあったリトルコカトリスの卵、ホワイトシープのミルク、ワイルドビーの蜂蜜の3つの材料で作れた。本当はバニラビーンズっていうのを香りづけに加えると良いらしいけど、手に入らないから省かせてもらった。カラメルソースっていうのを作る砂糖も手に入らなかったから、物足りなかったら蜂蜜をかけて食べてもらうことにする。
ヘーゼルさんが蔵に作った保冷棚に父さんと母さんの分のプリンもとっておいた。喜んでくれるだろうか。
『マルドゥク、聞きたいことがある。フェン君はずいぶん不思議なことを知っているようだが、君の家族は世界各地を飛び回っていたことでもあるのか?』
『え? そんな話は聞いたことないけど。兄ちゃんは村を出たことないはずだよ? 家の書斎にたくさん本が置いてあるから、本で読んだんじゃない?』
『……ふむ』
それか何かしらのスキルで知識を得られているのか。スキルに関しては秘密主義の兄ちゃんだから、可能性としてはあるかもしれない。
『マルドゥクは転移者というのを聞いたことはあるか?』
『転移者? 何それ?』
『自分で考えるより手っ取り早いからという理由で、進んだ文明を持つ別の世界の人間を無理やり連れてくることがあるんだ。その被害者だな。昔、私が憑依していた白が王城に呼ばれて、彼らのお世話係を申し付かったことがあった』
聞いたことのない話だ。そんな人達がいるんだな。かわいそうに。
『嫌がる人間が多いんだろうが、たまにノリノリで別世界を楽しむ人間もいる。私が見たのは楽しんでいるタイプの奴だったから、多少は気が楽だった。君が精霊術師になった場合、契約した精霊によっては別世界の人間を召喚する仕事を命じられることもある。一応、覚えておけ』
『それってヘーゼルさんと契約した場合も命じられちゃいそう?』
『いや、私では難しいだろうな。闇属性が得意な奴の仕事だ。もっとも、優秀で人当たりが良い白はお世話係に選ばれやすい。君はそっちの可能性の方が高いかもしれないな』
あまりに現実味がなくて「ふーん、そんなこともあるんだ」くらいの感想しか出てこない。確かに嫌な仕事だ。けど、なんで急にこんな話をしたんだろう。
『いや、その異世界から来た奴からも不思議な話を色々聞いたからな。ちょっと思い出しただけだ。さて、今日の祝いの席では、私も挨拶した方が良いだろう? タイミングを見て体の制御を渡してくれ』
兄ちゃんがギーラとプリシラを連れてきた。
「マル、今日は洗いざらい話してもらうからな! 知らないうちに冒険者と戦った上に、精霊と契約して灼炎熊も倒しちゃったんだって? そういう面白そうなことをするときはオレのことも呼べよ」
「ごめん、呼びたかったけど森が燃えてて余裕がなかったんだ」
『それでも後で説明することはできたでしょ? 知らないうちに精霊さんと契約までしてて、びっくりしたんだから。マルの中から知らない人の声が聞こえてきて、すっごく怖かったんだよ』
「ごめんなさい」
それについては謝るしかない。仮契約でも話しておくべきだったよね。
「悪かったよ。でも、マルにとり憑いてる奴、ちょっと胡散臭いんだよ。……ひょっとしたら精霊じゃないかも」
ギーラとプリシラはキョトンとしている。
確かにヘーゼルさんは精霊さんとしての自覚が薄いみたいだけど、胡散臭いだなんて兄ちゃん言い過ぎだよ。
「えっと、精霊さんの名前はヘーゼルさんって言うんだけど、今は仮契約の状態なんだ。住んでたハシバミの木が燃えちゃったから僕の体を避難所にしてるだけで、本当に契約できるとは決まってなくて」
「えーと、精霊ってそんな感じなのか? なんか思ってたより人間っぽいっていうか……。もっとこう、神秘的な存在をイメージしてたんだけど」
「あぁ、私も同意見だ。精霊は、もっと人間離れした存在でなくては。だから、私のことは精霊と思わないでいてくれ」
突然、ヘーゼルさんが体の制御を奪ってしゃべりだす。
そして、ギーラとプリシラに順番に目を合わせてから自己紹介。
「初めまして。私がヘーゼルだ。よろしく頼むよ。属性は水が得意で、他も多少できる。最近はまっているのは、フェン君をからかって遊ぶこと。君達のことはマルドゥクを通して見ていた。やっとご挨拶できて私も嬉しいよ」
目をぱちくりさせて、顔を見合わせるギーラとプリシラ。
「確かにマルじゃない奴が中に入ってんだな。えっと、初めまして?」
『うん、表情が全然マルと違うね。初めまして、ヘーゼルさん。よろしくお願いします』
笑顔で2人と握手するヘーゼルさん。
それから、8月最後の日の事件について話す。冒険者パーティが森に火を付けたこと、森に向かった僕を襲ってきたこと、ヘーゼルさんに憑依されたこと、追ってきた魔導士を兄ちゃんが撃退したこと、灼炎熊をヘーゼルさんが倒してくれたこと。
思い返すとずいぶん色々なことが起きた1日だった。
「うらやましいなぁ。冒険者パーティとの対人戦に、強力な魔物をあっさり倒す精霊の一撃なんて。自分で体験できなくても、オレもその場で観戦してたかったぜ」
「そんな良いものじゃないぞ。突進ウサギに負けるレベルの冒険者との対人戦なんて」
「でもさ、フェンと魔導士の魔法戦とか、聞いてる分には面白そうだぜ? オレ、フェン以外の奴が魔法使ってるところ見たことねーんだけど、魔法の腕前の違いってどういうところに出るんだ? やっぱ本職ならではの技とかあったりしたのか?」
「あの戦闘に関しちゃ、そういうの全くないぞ。俺の圧勝だったし」
「えー。それじゃつまんねーよ。なんか盛り上げる要素を用意しろよ」
ギーラが無茶を言ってる。本当に完勝だったし、期待されてるような話は無理だと思うけど――。
『ねぇ、精霊のヘーゼルさんから見るとフェンさんとザッコって魔導士との魔法の腕前の差ってどうだったの?』
兄ちゃんのことを振ると、途端にヘーゼルさんがいたずらっ子になっちゃうんだよな。でも、聞かれてるから、ヘーゼルさんに代わらないわけにもいかない。
「魔導士の方は、良くも悪くも教科書通りで無駄が多かったな。フェン君の方は逆に教科書から外れまくっていて興味深かった」
「ん? 教科書通りって無駄が多いのか?」
「あぁ。金を払って教えてもらえるのは、型にはまった呪文による魔法の行使で、昔から変わらない改良されていないものだからな。普通は習得した後、呪文を短くしたり、威力を上げたりと、自分なりに改良を重ねて洗練させていく。で、呪文の短縮を重ねると最終的に無詠唱に行きつく」
「へー。そういえばフェンって呪文唱えないよな。それが教科書から外れてるってことか?」
「まぁ、わずか9歳で無詠唱なのは確かに珍しいが、私が気になったのはフェン君がまるで最初から無詠唱かつ独自理論で魔法を構築していそうなことだ」
最初から無詠唱は、兄ちゃんがスキルとして「無詠唱」を持ってるせいだけど、なんで独自理論って判断したんだろう?
「おい、ヘーゼル。なんで俺の魔法が独自理論に基づいていると思うんだ?」
「魔法を無詠唱で発動させる場合、体内の魔力を呪文を唱えたときと同じように動かして発動させる。呪文を唱えた場合と同じことを再現させるわけだ。しかし、フェン君の魔法行使では呪文を唱えた場合と微妙に魔力の動きが違った」
「そういうことか。ちゃんと習ったわけじゃなくて我流だからだろうな」
「ふむ。才能があると、かえって遠回りをすることもあるのだな。教科書通りだとしなくていい無駄もあるように思えた。一度、オーソドックスな魔法の使い方を習ってみてはどうだ? 何なら私が教えよう」
「……お前がオーソドックスな魔法の使い方をしている保証がどこにあるんだよ。話してる限りじゃ、アレンジし放題の型破りなタイプだろ?」
「はっはっは。よく分かったな。正解だ」
あーあ、また兄ちゃんを怒らせてる。




