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第1話 ヘーゼル先生

 僕が寝ている間に放火犯の冒険者達も捕まって、事件はすっかり解決していた。

 僕は丸1日眠った後、朝早くに目を覚まし、ヘーゼルさんと仮契約を結んだ。


 ヘーゼルさんは、一般的に「精霊」と呼ばれている存在で、白と契約を交わして力を貸していたこともあること。

 ハシバミの木に宿っていたけど、水はけが悪いあの場所は住み心地が良くなくて、引っ越しを考えていたこと。

 移動には宿主になる存在が必要だけど、普通の人間には憑依できないから、白を探していたこと。

 白である僕を見つけ、いずれは引っ越しのために憑依するつもりだったけど、僕がまだ小さいから成長するまで待つつもりだったこと。

 ハシバミの木が燃えてしまい、行き場を失って、仕方なく僕に憑依することにしたこと。

 そして、憑依したとき、僕の体にヘーゼルさんと僕の2人分の魂を受け入れる容量がなければ、僕の魂が押し出されて、僕が近くの木にでも憑依することになっていたこと。


 契約交渉を始める前に、ヘーゼルさんはこんなことを色々説明してくれた。

 そして、僕が追い出される危険性があったことを説明した後には、謝ってくれた。悪い人じゃなくても危害を加えてくることがあるって、そういうことだったんだね。

 それでも、ちゃんと話して謝ってくれるヘーゼルさんはやっぱり良い人だと思う。


 それから、ヘーゼルさんは憑依されたままでいることのメリットとデメリットを説明してくれた。

 メリットは、ヘーゼルさんの力を使わせてもらえること、ヘーゼルさんの知っていることなら聞けば教えてもらえること。

 デメリットは、その気になれば僕の体の制御を奪ってヘーゼルさんが勝手な行動をできてしまうこと、他の精霊さんとはおそらく契約できないこと、あくまで仮契約なのでヘーゼルさんの気が向かないときは力を使わせてもらえないこと。


 デメリットの1つ目は、勝手に体の制御を奪わないって約束してくれたから、気にしなくていい。

 2つ目はどういうことなのか聞いたら、体の制御を乗っ取れる状態なのは、容量がギリギリだかららしい。ヘーゼルさんの言葉を借りるなら、僕っていう家の中で余ってる1部屋だけを貸すつもりが、僕がメインで使ってる私室まで勝手に使われているような状態ってことだった。

 当然、他の精霊さんが住む余裕はないから、他の精霊さんとは契約できないんだって。ヘーゼルさんはとんでもなく容量を食う精霊らしく、他の精霊さんと契約する余裕はないと考えていいと断言していた。

 3つ目は、嫌なら力を貸さないのは当然だと思うから、問題ない。


 兄ちゃんに簡単に話したら、複雑な顔をされてしまったけど、僕は何の問題もないと思ってる。

 他の精霊さんと契約できないって話は兄ちゃんにはしなかった。ヘーゼルさんを追い出せって言われそうな気がしたから。

 僕としては、ハシバミの木が育つのに良い場所を見つけて木の実を植えるっていう約束を果たせるまでは、僕の体に仮住まいしておいてもらっていい。そのまま本契約してくれたら嬉しいけど、それはヘーゼルさんが選ぶことだ。



 今は魔物狩りも始まったから、父さん、兄ちゃん、ギーラの3人組に、こっそりプリシラと一緒に付いて行き、効率的な狩りができるように誘導している。効率がいいから、午前中だけで十分な魔物が狩れて、荷車で持ち帰れるギリギリの量の獲物を手に3人はすぐに帰ってくる。

 ヘーゼルさんは僕が魔物と戦わないのを知って残念がってたけど、僕はこういうサポートも楽しい。


 それから、保存食を作っている母さんに話しかけて、手伝いを申し出てみたら、いいよって言ってくれた。だいぶ迷っていたけど、父さんと兄ちゃんとギーラで大量の魔物を狩っているから、処理が追い付かないんだって。村の人達は手伝ってくれないから、手が足りないみたいだ。

 一緒に作業する気にはなれないのか、材料とメモだけ渡されてキッチンと庭で作業することになったけど、メモだけでも母さんとやり取りできて嬉しい。小さな子供1人で作業させるわけにはいかないからか、作業自体は兄ちゃんと一緒だ。

 母さんは、僕が作業している間に掃除をしたり、織物をしたり。


 僕、母さんの役に立ててるのかな。

 今日は、兄ちゃん達が午前中に仕留めた魔物15体分の解体と保存食への加工くらいだから、兄ちゃんと2人で手分けすれば半日もあれば全部終わっちゃう程度の作業量だ。


『いや、魔物10体分を解体するのに、普通の人は1日かかるから。大きな魔物だったら1体で1日かけても終わらない。作業に慣れている猟師や冒険者、魔法を使って加工できる者なら、君と同じスピードで処理できるかもしれないが』


 ヘーゼルさんが教えてくれた。そういえば、僕も兄ちゃんも解体術のスキル持ってるんだった。そのおかげかな。

 しばらくは静かにしてたヘーゼルさんだけど、何体か解体が終わると話しかけてくる。


『マルドゥク、暇だ。魔法を撃ちたい』

『そんなこと言われても』

『じゃあ、ちょっと体の制御を渡してくれたら、魔法で解体をやってみせてやる。私が憑依してる間なら、同じことができるはずだから、明日は君がやってみるといい。どうだ?』


 それは面白そうだ。ブラックボアを1体魔法で解体してもらうことにする。

 ヘーゼルさんに体の制御を渡すと、氷でできた巨大な包丁を風で宙に浮かせ、包丁の近くにブラックボアをぶん投げた。空中であっという間に解体され、きれいに部位ごとに切り分けられた状態で台の上に落下してくる。もちろん皮や骨なんかは別に分けられた状態だ。


「おい、ヘーゼル。何をしている?」

「マルドゥクに加工魔術のお手本を見せただけだ。ところで、風属性との相性が良ければ、宙に投げるところも風魔法で行えるんだが、風属性との相性はどうなんだ? マルドゥクは」

「ふん。それなら魔法での解体についてはマルの方が上ってことだな。水と同じくらい風との相性はいい」

「ふむ。やはり、フェン君は鑑定持ちか」

「……! かまをかけたのか」

「以前にも鑑定のスキルを持った者を見たことがある。ほぼ確信していたから、今のはほんの確認だ。別に良いだろう、鑑定スキルくらい。400年か500年に1人くらいは発現させる奴が出る程度のスキルだ」

 めちゃくちゃ珍しいスキルだったんだ。鑑定って。


『マルドゥク、肉を熟成させよう。勝手に人が入らなくて、温度を低くしておいても怒られない場所はないか?』

 蔵の1階は織物に必要なものがほぼ運び出されて、今はあまり物が置かれていない。元々加工した保存食の置き場にすることになっていたから、使って問題ないだろう。


 蔵に移動して、ヘーゼルさんの指示通りに蔵の棚を動かし、ウルフのなめし革を敷く。ヘーゼルさんはウルフのなめし革にさっき解体したブラックボアの血を使って何やら書き込んでいる。円の中に六芒星と細かな文字が組み合わされた複雑な図形を書くと満足したようにうなずく。

 なめし革の上に棚を置くように言われたので、棚を再び移動させる。肉体労働のときは体の制御を返してくるんだよね。ヘーゼルさん。


『君は力が強くない。君の鍛錬のためだよ』


 そうか。なるほど。兄ちゃんに手伝ってもらって動かしてるけど、それは構わないのかな。


 続いて、ブラックボアの骨をいくつか見繕い、魔力を込めだした。


『本当は、宝石とかの方がいいんだが、魔物の骨でも代用できる。魔力を込めておき、一定時間ずっと魔法が発動し続けるようにための動力にするんだ。革に書いたのは回路のようなものだ』


 六芒星の頂点に骨を1つずつ置いて回路に魔力を流して起動する。革に書かれた円の中の温度がぐっと下がった。これなら肉を腐らせずに済むだろう。

 効果時間は1週間くらいだそうだ。3日くらい熟成したら、保存食に加工しよう。ブラックボアなら、干し肉、ソーセージ、ベーコンと結構色々な保存食を作れる。

 保冷ができるようにし終わると、ヘーゼルさんは兄ちゃんに向かって勝ち誇った顔で一言。


「どうだ? 火魔法が得意な天才少年魔導士としては。対抗して暖房器具でも作ってみるか?」

 兄ちゃんはムッとした表情だ。ヘーゼルさんは良く兄ちゃんを煽るようなことを言う。仲良くしたいんだと思うんだけど、今のところ逆効果だ。


 さらに皮なめしもやって見せてくれる。これは、兄ちゃんが前に見せてくれたのと見た目はほとんど同じ。実際に自分の体を流れる魔力を感じる分、何をやっているか分かりやすい。

 あれ? でも、これって複数の属性の魔法を使わないとできないんじゃ? さっきも水だけじゃなく風も使ってた。


『ヘーゼルさんって、水の精霊さんだよね?』

『……一般的には、精霊と呼ばれる存在だが、私自身は″精霊″さんなんぞというファンシーなものになった覚えはない。属性に関しては水が1番得意だが、他も少しは使える』


 ヘーゼルさんは精霊さんとしての自覚がないらしい。そういえば、自分の使ってる術を精霊術じゃなくて魔法って言ってる。

 確かに、ハンノキさんとキャラがだいぶ違って自己主張が強いけど、個性といえる程度の差のような気もする。でも、ハンノキさんは憑依してきたりしないし……。何か違うんだろうか。


『うむ。こんなものだな。明日は自分でやってみろ』

『はい、ヘーゼル先生!』

『よろしい。では、今朝、森でついでに摘んでおいた薬草を使って、ポーション作りもしてしまおうか』


 なんでも、ポーション作りは、水の精霊術師の内職として有名らしい。魔導師か精霊術師が作ったものの方が魔力を含んでいて、良く回復するそうだ。

 蔵の2階に空のポーション瓶が大量に置かれていたから、容器も確保できている。出来上がったポーションは自分達で使うように取っておいてもいいし、行商人さんに売ってもいい。


 ヘーゼルさんは、こんな感じで色々な加工魔術を教えてくれた。有り余る魔力を持て余しているらしく、魔法を少しでも使いたいらしい。

 確かにヘーゼルさんに憑依されてから、魔力がたまに体内で暴れ出す感覚があって、ムズムズすることがある。魔法を使うと治まるから、僕の体内にとどめておけない魔力があふれだそうとしているのかもしれない。


 冬になって森に人が寄り付かなくなったら、攻撃魔法を教えてもらいに森で魔物狩りをする約束をした。ヘーゼルさんの強さなら危険はないと思う。兄ちゃんは心配だからとついてきてくれるそうだ。


 もし、ヘーゼルさんと本契約できなかったら、今習っていることは活かせないかもしれないんだよね。他の精霊さんは色んな属性を使えるわけじゃないだろうし。

 兄ちゃんはヘーゼルさんに反発してるけど、僕はヘーゼルさんが好きだし、できたら本契約してもらいたいな。

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