第16話 フェンの日記(5)
魔法歴983年9月1日
昨日、灼炎熊を倒した後、倒れたマルは丸一日経っても眠ったままだ。
名前:マルドゥク=サラーム
性別:男
生年月日:魔法歴978年6月17日
守護神:商売の神
称号:商売の神の使徒
魂名:ロー
状態:被憑依(ヘーゼル=ラティーフ)、眠り
所有スキル:
(才能系スキル)
タラリア、先見の明、明鏡止水、目利き、計算機、鉄仮面、美貌《上》、剣術の天才、体術の心得、音楽の才能、意思伝達、騎竜術、精霊親和力強化、ものづくりの心得
(技能系スキル)
剣術≪下≫、体術≪下≫
解体術、採取術、料理術≪下≫、木工≪下≫
属性相性:火(B)、土(B)、水(S)、風(S)、光(A)、闇(B)
鑑定してみると、こんな風に状態が「被憑依」になっている。まぁ、以前村に来た精霊術師も「被憑依」って表示されてたから問題ないのかもしれないが、昨日のマルの様子を思い出すと心配だ。
ヘーゼルが体を動かしていた時は、鑑定でヘーゼルの情報が見れた。
名前:ヘーゼル=ラティーフ
性別:男
生年月日:?
称号:水の賢者
状態:憑依(マルドゥク=サラーム)
所有スキル:
(才能系スキル)
攻撃魔法の天才、強化魔法の才能、回復魔法の才能、剣術の心得、無詠唱、美貌≪中≫
(技能系スキル)
剣術≪中≫、魔法剣術≪上≫、体術≪下≫、水魔法≪極≫、火魔法≪下≫、土魔法≪下≫、風魔法≪下≫、光魔法≪下≫、闇魔法≪下≫
属性相性:火(B)、土(B)、水(S)、風(B)、光(B)、闇(B)
あからさまに重要人物に見える。使徒でもないのに強すぎだろ。
それに、「水の賢者」って何者だ? この国の建国史には、「各属性の賢者が争い、勝ち残った闇の賢者が建国した」ってあったけど、そんな千年近く昔の人物がいるわけがない。
別人なのか、それとも、魔法を使って寿命を延ばしたとかそういうパターンか? 建国史通りだと、闇と地以外の賢者は敗北して死んだはずなんだけど。
肉体を持たない様子なのに、美貌《中》なんてスキルがあるのも不思議だ。
まともな奴なら話を聞いてみたいが、昨日の様子では友好的な相手じゃなさそうだ。
ザッコに冷たく言い返したときの凍えるような表情。その後、俺に手を振ってみせたときの不敵な笑み。
マルの整った顔立ちのせいか、氷の彫像のような美しさではあったが、それ以上に恐ろしさを感じた。
マルはあんな顔はしない。もっと優しい、ぽやんとした表情を俺に向けてくれていた。両親とか村の人には鉄仮面発動して無表情だけど、俺には安心しきった表情を見せてくれることが嬉しかったのに。
このまま憑依され続けるのが良いとは思えない。
マルが心配過ぎて、今日からの魔物狩りは行かなかった。灼炎熊は倒したから、今の森は比較的安全だろうし。
朝、ザッコ達とひと悶着あったから、父さんも今日だけは来なくていいと言ってくれた。
朝のひと悶着は、あいつらが森に火をつけたことを俺がバラしたからだ。
証拠がないとかしらばっくれようとしたから、マルの看病を一時的にプリシラと母さんに任せて現場に行き、説明してやった。
森の燃え方から、森の中からではなく、東側の端から出火したと考えられ、森の中に住む魔物が火をつけたとは考えにくいこと。
当時、ザッコ達にリトルコカトリス狩りを依頼していたため、村人には森への立ち入り禁止が言い渡されており、ザッコ達以外森に向かっていないこと。
出火元と考えられる燃え方が一番ひどい場所の地面に足跡が残されており、ザッコのパーティメンバーの靴底の形状と一致すること。
このくらい言ってやったら、火をつけたことを認めた。
依頼をこなそうと、森に入ってみたはいいものの、ウルフや突進ウサギなどの初心者向けの魔物にも苦戦。ついつい魔法に頼りたくなって、火魔法を使用。森に火が付いてしまったとのことだ。
マルを襲ったことについては、こいつらは話さなかった。罪が重くなると思ったのか、子供に負けたことを恥だと思ったのか。
結果、ザッコ達は報酬なし、冒険者ギルドに連行し、やらかしたことを報告することになった。町まで連行するのに村から人を出すことになるから、魔物狩りの人手が減る。それら諸々の損害を賠償させるために父さんは迷惑料を要求した。
迷惑料とかの話は父さんがまとめていたから金額がいくらなのかは知らない。でも、そんなにお金持ってなさそうだから、あの杖は手放すことになるんじゃないかな。
冒険者ギルドでもしかるべき処分を受けることになるだろう。マルにしようとしたことを考えれば、それでも軽すぎる処分だけど。
◇
魔法歴983年9月2日
マルが目を覚ました。いつもの柔らかい表情。
ヘーゼルはまだ憑依してるみたいだけど、体を乗っ取られている感じではない。どうやら、こんな感じの条件で仮契約することにしたらしい。
一、ヘーゼルはマルの体に憑依を続けるが、体の制御は奪わない。ただし、マルが同意したときや意識を失ったときは例外。
二、マルの体に間借りしている分、気が向いた時には力を貸すし、知ってることで役に立つことがあったら教える。
三、ヘーゼルが別の宿主を見つけたときは自由に出て行って良い。
四、ずっと手を貸し続ける価値がマルにあると認めたら、本契約に移行する。
ヘーゼルに有利な気がするから、俺も加わって再交渉をすることを勧めたんだが、マルは「ヘーゼルさんはお家を失くして大変なんだから、これでいいんだよ」だって。
良い子だ。良い子過ぎてちょっと心配になるけど。
仮であっても精霊と契約できたことを喜ぶべきなんだろうけど、ヘーゼルは一癖ありそうだから、素直に喜べないんだよなぁ。
なんてことを考えていたら、突然、「君はもっと肩の力を抜いた方が良いな」ってヘーゼルがマルの口を動かして言ってきやがった! いきなり契約違反かと怒ったら、マルが体の制御を渡したらしい。
「ヘーゼルさんがアドバイスしたいって言うから……。ごめんね、兄ちゃん。ヘーゼルさんは、結構いたずらっ子みたいなんだ。兄ちゃんで遊ぶのが楽しいんだって。仲良くなりたいだけだから、怒らないで」
マル、仲良くなりたい奴は「兄ちゃんで遊ぶ」んじゃなく、「兄ちゃんと遊ぶ」のが楽しいって言うものだ。
ヘーゼルはやっぱり信用できない!
◇
魔法暦983年9月3日
マルの様子は異常なさそうだ。相変わらず憑依はされているけど。
俺の部屋でマルを寝かせていたら、そのままマルも同じ部屋を使うことになった。
せっかく同じ部屋にいるのだから、ちょっと探りを入れてみることにした。
久しぶりのお勉強と称してこの国の建国史を話してみたんだが、ヘーゼルが何か言ってくることはなかった。
明日からは俺も魔物狩りに参加するように厳命されている。予定ではマルとプリシラがサポートすることになっていたけど、もう動いて大丈夫だろうか?
そう聞くとマルは「大丈夫!」と元気にうなずいてくれたが、ヘーゼルが言いたいことがあるとかで出てきてのたまった。
「サポートといわず、主力になってやってもいいぞ? 君と私、どちらがより多くの魔物を狩れるか勝負といこうじゃないか」
いきなり勝負しようだなんてバトルジャンキーか、こいつは。当然断った。
あんまり目立つとマルの今の状態を説明しないといけなくなるし、そもそもヘーゼルに好き放題暴れさせてマルが大丈夫なのか分からない。灼炎熊を倒した後はぶっ倒れてしまったし、何かしらの影響はあるはずだ。
ヘーゼルは「つまらない」と言ってむくれていた。賢者の割に子供っぽい奴だ。




