第14話 身勝手な企み
冒険者さん達が村に来て、僕は蔵から出ないように言われた。
蔵には母さんが案内してくれた。記憶にある限りで、初めての母さんとのまともな会話。ほんの短い会話だったし、目はそらされたままだったけど、思い出すたびに胸の奥が暖かくなる。
それだけで、僕は冒険者さんが来てくれて良かったって思えた。兄ちゃんは彼らのことが嫌いみたいだし、良い人達ではないのかもしれないけど。
蔵で1人で寂しく過ごすことになるのかと思ったけど、そんなことはなかった。朝、昼、晩と兄ちゃんは食事を運んできてくれたし、毎日、プリシラが遊びに来てくれた。ギーラも2回くらい来てくれたけど、体術や剣術の訓練をするスペースがないことを知って、残念がっていた。素振り程度ならできるから、一応、毎日続けている。
素振り以外にもできることはあったから、暇を持て余すこともなかった。兄ちゃんがくれた資料を読んで、僕は色んなことを知った。例えば、木材は切ってすぐでなく、乾燥させてから使うのがいいとか、革を縫うときは先に穴を開けておくこととか。
それから蔵の中の探検。
蔵は、家と同じで2階建てになっていて、1階部分は使う頻度が低い物が保管されていた。2階部分は、今はほぼ使っていない物を置いている。窓は2階に1か所あるだけだから、昼でも薄暗い。だから、僕はできるだけ光の入る2階で過ごした。
母さんは、2階に置いてあるもので欲しい物があったら自由に使っていいと言ってくれた。
2階には、いろんな道具がある。革細工の道具、ナイフ、定規、空のポーション瓶などのガラス容器、天秤。ちょっと探しただけでも、これだけ見つかった。なんでも父さんと母さんが冒険者をしていた頃に使っていたものらしい。
加工用のナイフを行商人から買いたいと思っていたけど、ここにあるのを使っていいのなら買う必要なくなったかな。
鋼鉄のナイフ
鋼鉄で作られたナイフ。短剣として使うほか、加工用にも使うことができる。
材料:鋼鉄、ウルフの革
付加能力:耐久性向上
潜在能力:なし
うん、ちゃんと加工に適したナイフだ。金属製だけど、武器じゃないなら白の僕が持っていても問題ない。
1階にある道具は使っていいとは言われていないけど、ノコギリとか、糸を紡ぐのに使う糸車とか、色々な物が置いてある。ホワイトシープの毛を紡いだりできたらいいなと思ったけど、勝手に使うわけにはいかないから、今は諦めよう。
毎日、本や資料を読んだり、蔵の中に何があるのか探し回ったりして過ごしていたけど、明日からは何か作ってみようかな。
素材をどうするかはまだ迷ってるけど、加工はしようと思ってる。
兄ちゃんは危険な魔物から自分を守るために素材を役立てて欲しいそうだ。嘘をつかれそうになったから悲しかったけど、兄ちゃんの意見は僕のことを考えてのものだった。だから、完全に無視する気にはなれない。
加工して価値を上げ、没収されるべき金額分だけ渡す。普通に渡すんじゃ受け取ってもらえないから、父さんや母さんへのプレゼントってことにしてみよう。
残った分は自分の物として売るか加工して使うか。ちょっと都合がいい気はするけど、それくらいは許してもらえるよね?
今日は8月最後の日だから、明日から魔物狩りが始まる。
冒険者さん達が来てからそれなりの日数が経ったけど、依頼は完了していないらしい。突進ウサギに苦戦するくらいだから、リトルコカトリスを倒せずにいるんだろうか。
それでも、仕事の期限は今日までだから、冒険者さん達は明日には帰るだろう。きっとすぐに蔵の中から出て、もう少し明るい場所で作業ができる。
沈んでいく夕日を小さな窓から眺めながらそんなことを考えていた。
もう少しで夕日が沈み切る頃、なぜか外が明るくなった。何かの焦げる匂い。何が起きているのか。
不安に駆られて、蔵から出てはいけないという言いつけを破って、僕は外に飛び出した。
――森が燃えていた。
見慣れない4人組が父さんと言い争っている。彼らが冒険者さん達だろう。前に先見の明で見た姿そのままだ。
冒険者さん達は火を吐く魔物が現れて、森に火が付いたと話している。想像していたよりも危険な森だったと苦情を言っている様子だ。
彼らは灼炎熊と遭遇しないはずだったのに。どこかで選択を間違えたんだろうか。
燃える森を見て、僕はハッとした。ハンノキさんとヘーゼルさんは無事だろうか。人ではないけど、数少ない僕とお話してくれる相手だ。
僕は森に向かって走り出した。
父さんと冒険者さん達の脇をすり抜けて森へと走っていく。
「村長! やはり隠していたのですね! 白がいるではありませんか!」
後ろからそんな声が聞こえた。冒険者さんは僕を探していたみたいだ。何の用だろう? でも、今は構っていられない。
森の一部を焼いただけで、火が消し止められる未来が見えた。ハンノキは無事。でも、ヘーゼルさんの宿るハシバミの木が燃え尽きてしまっている。何とかハシバミの木が燃える前に火を消せないだろうか。ヘーゼルさんとは約束もしてるんだ。
兄ちゃんとギーラを呼びたいけど、時間との勝負だ。1人で走るしかない。きっと騒ぎに気付いて追って来てくれるだろう。
どうやら火は森の東側、外縁部の辺りから燃え広がっているようだ。確かに、ヘーゼルさんのいる辺りに近い。
森の中に入っていくと、火の熱が伝わってくる。パチパチと木々のはぜる音が聞こえる。
後ろから複数の足音が聞こえる。兄ちゃん達にしては重い足音だ。
矢が飛んでくる未来が見える。横に飛んで避けつつ、体を捻って向き直る。
冒険者さん達4人組だ。攻撃してくる理由が分からないけど、できるだけ早く無力化するしかない。
方針を決めたら、すっと頭が冷える感覚がした。三日月熊のときと同じだ。
前に剣士と槍使い。後ろに弓士と魔導士。戦いのイメージは簡単にわいた。あんまり戦いなれていないパーティみたいだから、悪いけどそこに付け込ませてもらう。
「追いついた! 白の坊ちゃん、悪いが私の未来のため、杖の素材になってもらおう。ここは他に人のいない森の中だ。殺すには都合のいい場所に移動してくれて助かりますよ。ぐっ」
そうか、杖の素材にするために僕を狙っていたのか。言いながら前に出てくる魔導士。
前に出てくるのに合わせて距離を詰めておき、新しく作った木刀の柄部分で鳩尾に一撃。魔導士はお腹を抱えてうずくまる。
僕が子供だから油断してるんだろうけど、近接攻撃が得意じゃないなら、前衛の後ろに隠れているべきだ。
慌ててカバーに入る剣士。
革鎧を着こんでいるから打撃は効きにくいけど、対処のしようはある。
剣をかわしながら左側から後ろに回り込み、膝裏辺りに蹴り。ギーラ相手だったら絶対にできないけど、簡単に後ろを取らせてもらえた。
剣士の後ろに回ったことで、射線上に飛び出た僕に向かって矢が射かけられる。
矢を無視してそのまま剣士の右側にいた槍使いに向かって進むと、膝を急に曲げられ、体勢を崩した剣士に矢は飛んでいく。敵のすぐ後ろに味方がいるのに撃っちゃうなんて、危険なことをする。
一応、先見の明で剣士が大ケガはしないことを確認済みだ。革鎧で急所は守られていたものの、足に矢が当たり、苦痛に呻く剣士。
弓士は味方に矢を当ててしまったことに動揺してへたり込んだ。あとは槍使い1人。
あっという間に味方が倒されたことに動揺していたみたいで、突き出される槍に勢いがない。タイミングを見て飛び込み、手元を木刀で払うとあっさり槍を取り落とした。首筋に木刀を突きつけ、釘を刺しておく。
「今は忙しいから、邪魔をしないで。ついてきたら容赦しないよ」
別に何かする気はないんだけど、邪魔はされたくない。顔から表情を消し、本気だと思わせておく。
両手を上げて降参のポーズをとるのを見届けてから、再びヘーゼルさんのもとに走り出す。
ハシバミの木は……。あった。火がついてしまっている! 早く消さなくちゃ。
そう思った瞬間、ヘーゼルさんの声がした。
『やぁ、来てくれたんだね。ありがとう。そして、ごめん』
謝罪の意味が分からなかった。
しかし、体に電気が走ったような感覚が走り、身動きが取れなくなる。
体が動かせない。そして、やけに近くからヘーゼルさんの声がした。
『ちょっと乗っ取らせてもらうよ』
今まで基本的に毎日投稿していましたが、忙しくなってきたため、今後は毎週月水金で更新していきたいと思います。
更新頻度は落ちますが、今後ともよろしくお願いします。




