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第12話 怠け者達

「兄ちゃん、どうしよう? 父さんに危険な魔物がいるって伝えなきゃ」

「うーん。そうだな。スキルのことは話しても信じてくれないだろうし、どうやって説明するか……」


 使って見せでもしなければ、スキルのことは信じてもらえないだろう。でも、先見の明は僕の頭の中だけで完結するから見せられない。

 三日月熊(クレッセントベア)のときのように、プリシラが感知術で見たイメージを僕が読み取り、父さんに意思伝達を試してみるか。

 しかし、先見の明で予測した結果、父さんは白昼夢と勘違いして特に行動は起こしてくれないようだ。


 灼炎熊(イグニスベア)と誰かが遭遇してしまうタイミングの予測も試みる。上手く危険を伝えられそうなら、なんとか助けられるかもしれない。

 ……ダメだ。いつもみたいにイメージが浮かんでこない。今まで見てきた未来は近い未来ばかりだった。同じ日に起こる未来程度しか予測できないのだろうか。


 少し方法を変えて予測してみる。

 僕達以外で森に入りそうな人物といえば、まずはリトルコカトリスを狩りに来る冒険者パーティ。次は、9月に入ってからの魔物狩りで、村の男の人達。

 冒険者パーティが森に入ったときは遭遇するんだろうか。どんな人達か分からないけど、灼炎熊(イグニスベア)を倒せるようなら助かるんだけど。

 ――4人の冒険者が森に入る光景を思い浮かべたら、突進ウサギに苦戦して逃げ帰ってくるイメージが浮かんだ。

 ダメだ。この人達に頼っちゃいけない。

 むしろ、危険を伝えて仕事から降りてもらった方がいいかもしれない。


 となると、村の男の人達が遭遇する可能性が高いか。先見の明での予測を試してみる。

 ――う~ん、魔物狩りと言っても大半の人達は森の浅い所で行動するらしい。しかも、1人平均1体も倒していない。

 父さん、兄ちゃん、ギーラの3人はガンガン行くけど。あ、こっそり僕とプリシラが3人の後をつけている。

 プリシラが感知術で敵を見つけて、僕が意思伝達で兄ちゃんとギーラに伝える。兄ちゃんとギーラはさりげなく父さんを誘導しながら魔物を狩っていっている。

 なるほど。これなら安全で魔物狩りの効率もアップする。

 この作戦は採用だ。皆に話しておこう。


 ここまで誰かが灼炎熊(イグニスベア)に遭遇する場面が出てきていない。魔物狩りのときまで安全だとすると、次は村人がほぼ総出で行う森での収穫作業だ。戦闘ができない人も参加するから、遭遇したときの危険度が跳ね上がる。

 しかし、やはりほとんどの人は森の浅い所で採取作業をしている。というより、森の入り口でおしゃべりして半日を費やし、採取は1時間くらいしかせずに帰ってしまっている。

 真面目に木の実や薬草、果物類を採って回っているのは、僕の家族とギーラとプリシラだけ。固まって動いているから、プリシラの感知術で灼炎熊(イグニスベア)を回避することはできそうだ。


 何もしなくても安全、ということなのか。何かもやもやする。


「マル、何か分かったか?」


 兄ちゃんが書斎から持ってきた魔物の図鑑を片手に部屋に戻ってきた。

 先見の明での予測を伝えるが、兄ちゃんも釈然としない表情だ。


灼炎熊(イグニスベア)のいる位置によっては、そんなこともあるだろうけど、魔物は人の気配があったら襲ってくるものだ。ギーラの奴がよほど無茶をしていない限り、そんな場所の魔物を感知して帰ってくるとは思えないな」


 確かにそうだ。しかし、これが先見の明が予測した未来。普通に行動した場合の未来だ。


「スキルが間違えることってあり得る?」

「ないと思う。マルが見たのが起こる確率の高い未来と考えていいはずだ。予測の外にある事情で安全な未来になっているか、危険はもっと遠い未来で現実化するんじゃないかな」


 兄ちゃんが言うには、僕が予測した冒険者パーティや村の人達以外の誰かが灼炎熊(イグニスベア)を倒したとか、餌の取れる場所を求めて森の奥に移動したとか、予測した条件から外れた事情で安全が確保されている可能性もあるってことだった。

 あるいは、今年は危険を回避できるだけで、もっと遠い未来で灼炎熊(イグニスベア)に遭遇してしまう人が出るか。

 兄ちゃんは考え込んでしまっている。しばらく安全なら助かるけど、備えはしておけってことだね。


 そこまで話したところで、ギーラ達がやってきた。


「よう! すごいニュースがあるんだぜ! 聞きたいか? 聞きたいだろ!?」

「赤い熊が森にいるんだろ?」


 嬉しそうな顔で勢い込んで言うギーラに、兄ちゃんが冷たく返す。


「えぇ!? なんで知ってんだよ! せっかくのビッグニュースだったのに!」

「ごめん。僕が先見の明で予測した」


 ギーラがつまらなさそうに口を尖らせる。でも、すぐに元気を取り戻して話し出す。


「なぁ、倒しに行こうぜ! オレ達ならきっとやれる!」

「バカ。マルの木刀は焦げちゃって戦力ダウンしてるんだぞ。そんな無茶ができるわけないだろ。それに、灼炎熊(イグニスベア)は火に強いから、丸焼きにはできないぞ」

 兄ちゃんが魔物の図鑑を開いて示しながら言うと、ギーラは、「そんなっ! ローストベアは食べられないのかよ!」ってショックを受けていた。

 ギーラ、そんなにローストベアを気に入ってくれたんだね。ちょっと嬉しい。


 ともかく、できるだけの対策をして安全に過ごそう。

 プリシラに感知した場所を聞き出したり、僕が先見の明で見た結果を話しておいたり。魔物の図鑑に載っている情報を確認して、追い詰められると口から火を吐くってことが分かり、対策を皆で考えてみたり。

 気を引き締めないといけないんだけど、作戦会議みたいでちょっと楽しい。


 感知術で見た灼炎熊(イグニスベア)の姿をプリシラに思い出してもらって、意思伝達で読み取ることも忘れない。そのまま兄ちゃんとギーラにも意思伝達で敵の姿を見せておく。

 脚は下から黄色、オレンジ、赤とグラデーションになっていて、胴体部分は燃えるような赤。大きさは三日月熊(クレッセントベア)よりは一回り小さいが、爪は黒くて鋭そうだ。

 危険な魔物だけど、毛皮や爪が高く売れそうな気がする。

 しかし、森の中ではかなり目立つ見た目ではないだろうか。見つけるのは難しくないのかも。


「まとめると、魔物狩りのときと収穫作業のときはマルとプリシラがサポートして灼炎熊(イグニスベア)に遭遇しないルートを進む。マルは新しい木刀を作る。想定外の危険を防止するために、勝手に森に入らない。これでいいか?」

「おう!」

「了解!」

『了解!』

 感知術によるサポートで役に立てそうだからか、プリシラが少し嬉しそうだ。新しい上位種の発見は悪いニュースだったけど、プリシラが自信を持ってくれそうなのは良かった。良いスキルがないことで、今朝は落ち込んでいたから。


「しっかし、冒険者パーティにはがっかりだな。ホントにそんなに弱いのかよ?」

「冒険者っていってもピンキリみたいだからな。まともな奴もいるけど、ただ暴れたい奴とかできるだけ楽しようって奴もいて、両極端らしい。今回来るのはダメな方の奴ってことだな」

「冒険者って結構危険な職業だと思うんだけど、楽することなんてできるの?」

「こういう小さな村を訪れてやる仕事の中には、滞在中の食費とか滞在費を依頼主が持つ条件になってるものもあるんだ。できるだけ引き延ばせばそれだけ生活費が浮くから、依頼に失敗して違約金を払うことになっても浮いた生活費を考えるとトントンになることも多いんだって。さらに、依頼で訪れた村に義理はないから、生活費だけ出させて姿をくらます奴までいるらしいんだ」

 そこまで行くと詐欺だ。


「父さんの出した依頼は、最初は滞在費を冒険者側が負担することになってたんだけど、受ける冒険者がいなかったから仕方なく滞在費を村が持つことにしたんだ。今度来る冒険者パーティは条件を変えた途端に受注してきたから、ちょっと怪しいなって思ってたんだ」

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