第11話 もう1体の敵
プリシラに言われて気付いた。
たぶん僕は、兄ちゃんと同じように扱って欲しいと心のどこかで思っていたんだろう。
リトルコカトリスを狩ってきたとき、父さんは兄ちゃんに、また見つけたら倒しておいてくれって頼んでた。その後、実際に狩ってきて肉を渡すと、良くやったって目を細めるんだ。僕も一緒に倒してたけど、僕にそんな目を向けてくれたことはなかった。
僕も一緒に戦ったんだから、兄ちゃんに対してしたのと同じように、心配して叱って欲しかった。
「危険なことはするな」って叱ったり、「期待してるぞ」って信じてくれたり。そんな父子らしいやり取りに憧れて、僕の分の罰として素材を渡したいと無意識に思っていたのかもしれない。
兄ちゃんの空間魔法に入ってる分も皆の分で、僕の分ってわけでもないのに。
「おい、マル。大丈夫か? どうした? ……プリシラ、マルに何を言った?」
考え込んでいたら、兄ちゃんがそばに寄ってきていて、僕からプリシラを引き剥がしていた。
プリシラに向ける顔が恐い。
「兄ちゃん、違うんだ。プリシラが言ったことは間違ってない。ただ、僕が――」
兄ちゃんのことを羨ましがっているんじゃないかって、と言おうとして、口をつぐむ。
異様に取り乱し、なぜかプリシラではなくギーラにつかみかかる兄ちゃんの姿。そんな光景が脳裏に浮かんだ。
先見の明が見せた未来のはずだけど、なぜそんな展開になるのか全然分からない。
でも、羨ましいって言うのは止めておこう。僕は兄ちゃんを心配させたいわけじゃない。
「どうした?」
兄ちゃんが顔をのぞきこんできた。
「ううん。素材のことだけど、空間魔法に入れてる分は4人で分けて、自分の分をどうするかは自分で決めるってことで、どうかな?」
「俺は……、問題ないけど」
なんとか引き下がってくれた。すごく心配そうな顔をしている。僕の様子がそれだけショックを受けているように見えたんだろう。
『プリシラ、なんかごめんね。それと、ありがとう』
プリシラは小さくうなずいた。
「良く分かんねーけど、話はまとまったんだよな? じゃあ、これからどうするか考えようぜ! 冒険者パーティーにプリシラのスキルのこと話して案内役に立候補するとかどうだ?」
「バカ。スキルのこと話しても信じねーよ。あと、俺達のスキルのこと、他の奴に話すなよ」
「そうか? 何かもったいねーな。ま、秘密の能力ってのも悪くないけど」
冒険者パーティーが来るまでに多少なりとも魔物を狩りに行く約束をして、ギーラとプリシラは帰っていった。
兄ちゃんも僕の部屋の荷物を蔵に移動させるために、部屋を出ていった。
僕は1人になって考える。父さんに認めてもらうには、どうしたらいいんだろう? 精霊術師になれば、僕を見てくれるようになるだろうか。
でも、それはきっと認めてくれたのとは違う。居場所を確保できるだけだ。
兄ちゃんみたいに、成長を見守り育てた子供じゃなくて、いつの間にか成長した子供が突然現れるようなものだろう。きっとギクシャクした関係のままなのは変わらない。精霊術師になってから、ゆっくり良い関係を築いていっても良いのかもしれないけど、できたら普通の父子みたいな思い出を作りたい。
以前は、誰かそばに居てくれればいいとだけ思っていたのに、いつの間にか僕は贅沢になっていたようだ。今の僕は、普通の家族の暖かさが欲しいと思っている。とっくに諦めたはずだったのに。
無理だと思う気持ちと諦めたくない気持ちとがせめぎ合う。
だいぶ迷ってから、アブヤドに行く日までは、頑張って普通の家族みたいな関係になれるように頑張ってみようと決めた。
今の僕には味方がいるから、きっと失敗しても前ほどは辛くない。
父さんの気を引くにはどうしたらいいだろう?
父さんは、子供にフェンサーと名付けるくらい剣術が好きらしい。ギーラも、父さんが剣術の戦闘訓練のときにやたら厳しいとこぼしていた。
父さんに稽古をつけてもらうように頼んでみようか。無視されないといいけど。
いつも使っていた木刀は黒焦げになってしまった。稽古をつけてもらうにしても、新しい木刀が必要だ。ハンノキの木刀は、強度に不安があるから、訓練では使いたくない。ヒノキの木刀は、兄ちゃんが使っている。鉄の剣が折れてしまったギーラに、兄ちゃんの鉄の剣を渡してあるから、兄ちゃんからヒノキの木刀を借りるわけにもいかない。
まずは新しい木刀を作ろう。
それから、父さんのことを色々と教えてもらおう。
できたら、父さんだけじゃなく、母さんとも仲良くなりたい。母さんは今朝、僕のことを気にしてくれていたから、普通に話しかけてみても大丈夫かな。
方針が決まると気分が落ち着いた。
そろそろお昼の時間だ。
ベッドから起き上がろうとして、何百本もの針で刺されたような痛みが走る。無理して起きても食卓までたどり着けなさそうだ。
諦めて再びベッドに横になる。
じっとしているとどうしても色々考えてしまうから、先見の明でも使って遊んでようかな。
今日の午後は、何が起こるんだろう。
僕が普通に行動した場合の未来。これを見る場合は、どんな選択をするべきか考える必要はない。まずは、これを見よう。
というか、今日は動けそうにないから、他の未来を見るのは難しそうだ。
頭に浮かんだのは、夕方近くなって再び家を訪ねてくるギーラとプリシラ。ギーラは目を輝かせ、プリシラは硬い表情をしている。
2人がまた来るのか。嬉しいけど、プリシラの表情が気になる。ギーラが鉄の剣を装備していることも。何の用だろう。
この先は――。
ギーラはプリシラを連れて、森に行っていたみたいだ。行っていたというか、これは未来だから、今、行っているのかな。
プリシラの感知術を試しに使ってみながら、森をウロウロし、弱めの敵を狩って。プリシラもゴブリン一匹だけ倒せたからと、少し奥まで進み、見つけたらしい。
もう1匹、上位種と思われる赤い毛皮の熊。
危険な魔物を見つけたというのに、ギーラは嬉しそうだ。
三日月熊みたいに僕達で倒そうって、はしゃいでる。
ギーラはヤル気満々だけど、僕達で倒せるんだろうか。三日月熊のときは特にケガもなく倒せたけど、この赤い熊がどれだけ強いか分からない。
そこまで考えて、僕達だけで倒そうと考えていたことに気付く。兄ちゃんが昨日叱られたばかりだ。こういう敵は子供が戦う相手じゃない。
父さんに知らせて、何とかしてもらうべきだろう。
「マル、どうした?」
いつの間にか、兄ちゃんが部屋に帰ってきていて、考え込んでいた僕を心配そうに見ている。
手には昼食の乗せられたトレー。持ってきてくれたみたいだ。
「何でもないよ。先見の明の練習してただけ」
「そうか。あれって練習必要なのか?」
「うん。どういう風に使ったらいいのか、色々試しておいた方がいいと思って」
暇だっただけだけど、そう答えておく。使い慣れておくことに越したことはないよね。
「兄ちゃん、後で時間があったら書斎にあった魔物の図鑑を持ってきてくれない?」
「いいよ。どんな魔物を調べたいんだ?」
先見の明で見たことを伝えると、兄ちゃんの顔が青ざめた。
「灼炎熊かもしれない。火に強い魔物だから、前と同じ手は使えない」
今の僕達の手に負える敵ではなかったようだ。




