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第1話 守護神との出会い

 ついに、お迎えが来たようだ。

 意識が遠のいていく。


  「ご臨終です。」の医者の言葉を聞いて、弥兵衛の長男弥太郎、次男弥助と長男の嫁お美代が話し始める。


「寝ているようにしか見えないな」

「そうね。苦しまずに逝けたみたい。最期まで穏やかな顔で、お義父さんらしい」

「商人としては、穏やかすぎるのもどうかと思うけどな。もっと強気の商いをしていたら、今頃は国で指折りの大店になっていただろうよ」

「親爺は優しすぎたからなぁ」

「私は、そんなお義父さんが好きだったわ。毎日毎日、恵比須様の像にお祈りする信心深いところもね」

「ま、これからは俺が店を取り仕切る。がっつり儲けて、もっと店を大きくしてやるさ」


 ◇


 家族の声が聞こえなくなったと思うと、弥兵衛は自分が知らない場所に居ることに気付いた。


 白い場所。

 壁も柱も床も白い。材質も木や漆喰ではなく、石のように見える。

 自分は確かに家で死んだのに。不思議に思って辺りを見回していると、声をかけられた。


「おい。いつまでキョロキョロしている。私は暇ではないのだ」


 黄金の髪に(ハシバミ)色の瞳をした美丈夫が立っていた。南蛮人のような彫りの深い顔に引き締まった体躯。年齢は若そうだ。見慣れない不思議な服装をしている。シンプルなのに高級感が伝わってくる服だ。良い生地を使っているのだろう。高貴な生まれなのだろうと推測した。

 相手の言葉が分かるのだから、言葉は通じそうだが、何者だろうか。会ったことはないのに、なぜか懐かしいと思った。


「どなたか存じ上げませんが、初めまして。私は弥兵衛と申します。知らない場所に迷いこんでしまったようなのですが、ここがどこか教えていただけないでしょうか」

「私はお前たちが神と呼んでいる存在だ。ここは私のような神々の住み処。お前は死んだから、次の人生に旅立つ準備のため、一時的にこの場所に来ているのだ」

「神様でいらっしゃいましたか! ご無礼をお許しください」

 急いでその場に正座し、頭を下げる。

 現実離れした美しい容姿と、この不思議な場所のせいか、神と名乗られてもすんなり納得できた。


「そういうのはよせ。面倒だ。お前の人生は見ていてつまらない。お前の次の人生の準備など、とっとと終わらせたいのだ」

「申し訳ございません。私めの頭ではまだ状況を理解できていないので、質問をお許しいただけますか」

「気にするな。何も説明していないんだからな。直ぐに理解できる奴の方がおかしい」

「まず、あなた様は何の神様でいらっしゃいますか?」

「商売の神だ。お前の前世の世界では……」

「商売の神! あなたが恵比須様! あぁ、まさかお会いできるなんて! 私が両親から受け継いだ店を無事に維持できたのも、あなた様のおかげ。ありがとうございます! 恵比須様!」


 懐かしいはずだ。毎日お祈りを捧げていた恵比須様だったのだから。

 日々祈りを捧げてきた神様に出会えたことに興奮し、感謝の言葉を並べていると、当の恵比須様から大声で遮られた。


「違うッ! 断じて違うッ! お前が毎日拝んでいた恵比須様と私は似ても似つかないだろうがッ!」


 確かに恵比須様はふくよかで親しみやすい体つきと顔立ち。目の前の神様とは全く似ていない。それでも、他ならぬ商売の神様が自分を見守ってくれていたと思うと、嬉しくてたまらない。


「ですが、商売の神様でいらっしゃるのでしょう? それなら私にとっては恵比須様なのですが」

「お前の前世の世界では、ヘルメスと呼ばれていた神が近い。と言っても、鎖国している国で暮らしていたお前は他の国で言い伝えられていた神など知らないだろうが。とりあえずヘルメスと呼べ。お前に質問させていたら日が暮れる。こちらから必要なことを説明するぞ」

 そう言って、色々なことを教えてくださった。


 ここには大勢の神様が住んでいるが、人間が善なる者か悪しき者かで意見が割れ、二つの陣営に分かれてしまっている。

 その意見対立に決着を着けるため、神様はそれぞれ魂を5つ選び、その魂を宿す人間の人生によって自らの主張を証明することになったそうだ。

 なんと、私は恵比須様(心の中では恵比須様と呼ばせてもらうことにした)がお選びになった魂の一つらしい。勿論、恵比須様は人間は善なる者と信じる陣営に属している。

 神様に選ばれた魂は「使徒」と呼ばれている。神様は守護神として、ご自身で選ばれた使徒に力を貸してくださる。使徒は与えられた力を活用しつつ、自らの人生で守護神の主張の正しさを証明する。使徒にはこの使命があるため、死んでも転生して新たな人生を歩んでいくことになる。


「守護神の性質や主義に反するような人生を使徒が歩んでいたら、守護神が敗北宣言をして使徒をクビにする。もし、使徒が堕落した原因が対立陣営の使徒にある場合は、対立陣営の神が勝利宣言をすることもある。勝利宣言された場合は、守護神が反論できなかったら、その魂は使徒ではなくなる」

 そういうと恵比須様は美しい顔を少し歪めた。

「5人いた使徒のうち、3人はクビにした。1人は怠惰の神に勝利宣言をされた。今、私の使徒はお前しかいない。せめて他の神に勝利宣言されるような真似はするなよ」

「承知いたしました。真っ当な人生を歩みます。しかし、敗北宣言でも使徒でなくなるのは同じなのに、勝利宣言はされるな、とおっしゃるのには何か理由があるのですか?」

「敗北宣言した場合は、守護神が使徒に貸し与えていた技能(スキル)を取り上げて終わりだ。しかし、勝利宣言をされた場合、使徒でなくなった者が持っていた技能(スキル)を取り上げるかどうかは勝利宣言した神が決める。さらに、堕落した使徒がそれまでの人生で貯めていたポイントは、堕落させた使徒のものになる。潔く敗北宣言をしなかった守護神へのペナルティだな」

「ぽい……んと? ぺなるてー?」

「……ポイントは、使徒が人生の中で行った功績を数値化した点数のことだ。技能(スキル)を得るのに使う。ペナルティは罰という意味だ」

 言葉の意味を理解できず、説明で話が逸れてしまったが、相手陣営の使徒を全滅させたら、勝利。逆に全滅させられたら、敗北。そういうルールであるため、自身の使徒を堕落させずに、強く育てていくことが重要なのだそうだ。


「では、次に転生する世界についてだが、説明を聞いて何か希望があれば言うが良い。ある程度は選択の自由がある」


 転生する世界、と言われて意味が分からなかったが、どうやら世界は多数存在しているらしい。

 大きく分けて、第1種世界と第2種世界があり、私の前世の世界は第2種世界だったそうだ。

 第1種世界は、神様が人間に直接的に力を与えられる世界。具体的には、魔法という不思議な技能(スキル)を使うことができるらしい。第2種世界では、生まれる前に技能(スキル)を与えてもらうことはできるが、その後は基本的に神様の手助けはなく、技能(スキル)の性能が第1種世界よりも低くなったりもするそうだ。そして当然、魔法に関する技能(スキル)は使えない。


 世界が複数ある理由も教えてくれた。神様と人間の関係についても意見が割れ、人間を導くために神が干渉すべきという主張に合わせて第1種世界が用意され、環境だけ整えたら後は人間の自主性に任せるべきという主張に合わせて第2種世界が用意されたそうだ。

 ちなみに、恵比須様はどちらの世界が良いか、特に意見を決めていないそうだ。


「さて、意見を決めていない神の使徒は、第1種世界と第2種世界を交互に転生する決まりだ。つまり、お前は第1種世界に転生することになる」

「なぜ、第1種世界と第2種世界、それぞれ一つずつではなく、それぞれいくつもの世界があるのですか?」

「どんな世界が良い世界か、色々な意見があるからな。色々作って良い世界を見極めようとしているのだ」

「意見が割れてばかりですね」

 つい正直な感想を言ってしまったが、恵比須様は気を悪くした様子はない。

「ああ。人間と同じだな。試してみて分かることもある」

「使徒はどの世界が優れているかの判断するための役割も負っているのですか?」

「いや、この件は意見を保留する神も多いし、白黒付ける段階ではないな。それに、まだ新しい世界の構想を練っている神もいるらしい」


 ちなみに、前世の世界は第2種第3世界、通称「海球」というらしい。第2種世界は数が少なく、他には空球、地球、新球の合計4つだけだそうだ。この4つの世界はとても似ていて、できた順番で時代の進み具合が違う程度なのだとか。


「で、お前が次に転生する世界についてだ。第1種世界の方が魔物などもいて危険が多い。比較的安全な世界から選ぶのが良いだろう」

 私は少し考えてから口を開いた。

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