第10話 隠し事と罰
8月が終わるまで、あと10日。
そのタイミングで、今まで集めた素材を没収されてしまった。9月に入ったら村の人達の魔物狩りが始まるから、僕達が勝手に素材を集めてくることはできない。しかも、数日のうちに冒険者パーティがやってきて、森への立ち入りが制限されてしまう。
魔物狩りが終わった後は、魔物の数が少なくなっているからあんまり収穫は期待できない。今日は筋肉痛で動けそうにないから、明日から冒険者さん達が来る前までに集めるしかない。
そんなことを考えていたら、兄ちゃんがニコッと笑って言い出した。
「でも、安心しろ。空間魔法に入ってる分の素材についてはバレてないから。昨日マルとプリシラが蔵に運んだ分は、もう村役場の倉庫に持ってかれちゃったけど」
「……兄ちゃん、素材の没収は、危険なことをした僕達への罰なんだよね?」
「そうだけど、仕方なかっただろ? いきなり襲ってきたんだし」
そう、仕方なかった。逃げることもできなかった。
父さんにちゃんと説明したら分かってもらえるかもしれないけど、それには僕の先見の明のことだけでも話さなきゃならない。
「兄ちゃん、父さんに僕のスキルのことも含めて、説明する気はある? 逃げることなんてできない仕方がない状況だったんだって」
「説明する気はないよ。説明したって信じないだろうし」
うん、僕も信じてはくれないと思う。
「なら、罰は受けようよ。空間魔法に入ってる分も渡そう。もちろん、ギーラとプリシラにも意見を聞かなきゃいけないけど」
兄ちゃんは目を見開いて驚いている。
僕だって、行商人さんとのやり取りを楽しみにしているから、取引できる物がたくさんあった方がいい。
でも、空間魔法を使って隠しておくのは、ズルをして規則を破るみたいで嫌だった。父さんは、子供を心配して無茶をしないようにこの罰を課したはずだ。何の説明もせずに罰から逃れるべきじゃない。
「素材を隠し持っていても、行商人さんにあんまり大量の素材を売っていたら怪しまれちゃうよ。どのみち、これから集められる分程度の取引しかできない」
う~ん、と唸って、しばらく悩んでいたけど、兄ちゃんは分かってくれた。
ただ、素材は僕達だけで集めたものじゃない。ギーラとプリシラが今日家に来るそうだから、そのときに2人の意見も聞こう。
話がまとまったところで、タイミングよく部屋のドアがノックされた。返事を待たずにドアが開かれる。
「おーい、マル。大丈夫か? 見舞いに来てやったぜ!」
ギーラだ。小さく「つっ。いてて」って言ってるところを見ると、ギーラも筋肉痛みたいだ。家に来られるくらいだから、僕よりは軽いんだろうけど。
プリシラも一緒だ。
「僕は大丈夫。ひどい筋肉痛だけど」
「だよな! オレも体があちこち痛くてさ。困っちまうよな」
「ギーラは1番動き回ってたのに、もうそんなに動けるんだから、すごいよ」
「まあな! 鍛え方が違うからな! って、いて」
ギーラが調子に乗ると、すかさず兄ちゃんが頭をはたく。この2人、良いコンビだよね。
「それよりも、お前ら。オレ達に秘密にしてたことがあるだろ? すげぇビックリしたんだからな」
腕組みして、怒った顔をして言うギーラ。でも、さっきの様子からすると、そんなには怒ってなさそうだ。
「ごめんね。話そうと思ったんだけど、僕自身も使い方を探ってた力だったし、変な力を持ってるって気味悪がられないか不安で」
隠してた1番の理由は、兄ちゃんに止められたからだけど、それを言うとギーラは本気で怒りそうだ。仲間外れにしたみたいなものだしね。
「ん? あー、フェンの言ってたスキルのこともだけど、まずは精霊術だろ。いつの間に精霊と契約してたんだよ」
『マル、言うのが遅くなっちゃったけど、おめでとう! これで、精霊術師になれるね。属性は風?』
あぁ、そうか。確かに、僕が使った術は精霊術っぽい。でも、精霊さんと契約した覚えはない。
「あれは、僕にもよく分かってなくて。使えたらいいなって思ってスキルで確認したら、上手くいきそうだったから使ってみたんだけど……。精霊さんと契約した覚えはないんだ」
「そのことについては、分からないことが多すぎる。俺のスキルで見た限り、契約できてるわけじゃなさそうだし、少し様子を見て何か分かったら話すよ」
「契約してないって、そんなわけないだろ? 精霊術は精霊と契約しないと使えないはずだぞ?」
「いつでも使えるなら、契約してるって言ってもいいと思う。でも、いざ使おうとして使えなかったら嘘つき呼ばわりされかねないだろ」
確かに、僕も同じことがまたできるか自信がない。あの場所はハンノキの近くだったから、使えたのかもしれないし。
「ふーん。確かに嘘つき扱いはされたくないな。分かった。でも、今度は隠し事はなしだからな」
「時と場合による。ま、できるだけ教えるよ」
「できるだけ、かよ。ま、いいや。マル、精霊と契約できたら、お祝いするからな。ちゃんと教えろよ。お祝いのご馳走はローストベアでよろしく!」
「うん、ありがとう。ギーラ」
「おい、祝われる当人にご馳走を用意させようとするな」
「いいじゃん。ローストベア、めっちゃ旨かったんだから。あれより旨いご馳走なんて、用意できねーもん」
「うん、僕も今朝食べたけど美味しかったよ。昨日と同じように作れるか分からないけど、お祝いしてくれるなら、頑張ってみる」
「じゃ、次は昨日フェンが言ってたスキルの話な! お前らが昨日使ってた力のこと教えろよ」
スキルについては、兄ちゃんに説明を任せる。僕と兄ちゃんのスキルのことを、さっきまで話していたとおりに伝えた。
「そんな便利なもんがあるなら言えよ! ずるいぞ! 急に不思議な力使い始めたから、めちゃめちゃビックリしたんだからな! で、フェンは他の人のスキルが分かるなら、オレとプリシラのスキルも分かるんだよな?」
ギーラは怒りつつも、目を輝かせている。自分がどんなスキルを使えるか期待してるんだろう。
「ギーラは、剣術と体術の腕前が上がりやすいスキルと力が強くなるスキルを持ってる。プリシラは、美貌《下》、意思疎通、感知術の3つだ」
兄ちゃんの説明が適当だ。僕のときは、1つ1つ丁寧に教えてくれたのに。しかも、ギーラは短剣の才能もあるのに教えてあげないみたいだ。
「おい、人の妹の美貌を下とか言うな! めちゃくちゃかわいいだろ!?」
「いや、それ美しく成長しやすいってスキルだから。将来美人になる確率が高いってことだよ。効果は低めだけど、持ってる人は少ないし、女の子としては嬉しいスキルだろ?」
『私のスキルで、冒険者になるのに役立つスキルは感知術だけ?』
「意思疎通も役に立つと思うよ。遠くから全体の状況を見て、戦闘相手に気付かれないようにアドバイスできたりとか」
『そう……。とりあえず、今まで通り弓の練習を頑張るのが良さそうね』
やっぱり、少し落ち込んでしまったみたいだ。
それから、素材の没収のことについても話した。
「隠しとけるんなら、隠しとこうぜ。もったいないだろ。それに、オレらは別に親に怒られてないんだ。素材の没収はフェンへの罰って感じで、オレの取り分として半分は渡されたし。だから、少なくとも半分はオレとプリシラの分で、村長に渡す必要はないわけだ」
なら、2人の分はとっておくことになるだろう。兄ちゃんと僕の分として、半分だけ渡そう――。
そう思ったとき、急にプリシラに手を握られた。手話を使わず、意思疎通を使って兄ちゃんやギーラに知られないように語りかけてくる。
「マル、ひょっとして、お父さんに自分をフェンさんと同じように扱って、ちゃんと叱って欲しかった?」
僕はハッとした。




