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第5話 襲来

 パンチを繰り出す相手の右腕。その内側に、自分の左腕を角度に気を付けながら当て、軌道をそらす。即座に右足でローキックを放つ。ヒット。

 しかし、あまり威力を載せられなかった。ダメージはないようだ。

 そのまま相手は左の拳を突き出す。軽くかがんで避け、相手の懐に入り込む。前進した勢いも利用して裂帛の気合とともに右の拳を相手の腹に叩き込む!


「たあっ」


 ぽふっ。軽い音がする。クリーンヒットしたのに、ギーラは痛がってもいない。おかしいな。

 でも、ここで止まってはいけない。首をかしげつつも、連撃。


「ていっ。ていていっ。とおっ」


 ぽふっ。ぽふぽふぽふっ。

 それでも、ダメージはない。上からギーラの手が僕の頭に下りてくる。


 なでなで。


「む~。子ども扱いしないでってば~」


 体術の特訓を始めてから1か月半ほど。攻撃を当てることはできるようになってきたけど、いつもこんな感じだ。真剣にやってるのにダメージなしで、何だか優しい笑顔を浮かべられながら頭をなでられて終わる。

 本当に頭に攻撃したら大ダメージだけど、頭を撫でられるのは子ども扱いされてる気がして嫌だ。……ちょっと嬉しくもあるけど。

 でも、実戦で体術を使うなら、最後の頭なでなで攻撃を避けるか反撃するか、とにかく何か対策を考えないと。


 狩りを始めてから、木刀でだいぶ色々な魔物を倒してきた。

 ウルフ、突進ウサギ、ジャイアントスパイダー、ジャイアントシルクワーム、ブラックボア、リトルコカトリス、ワイルドビー、ホワイトシープ。

 斬撃飛ばしさえ使えば、どれも余裕をもって倒せている。でも、体術は狩りにはまだ使ってない。近付かないといけないから、使わずに済めばそれに越したことはない。でも、武器を失ったら戦えません、では困るだろうから備えておきたいんだけど……。

 5歳児では攻撃力不足なのか、技量が足りないのか、まだまだ実戦で使える気はしない。相手の攻撃を受け流すのだけは先見の明と計算機(カリキュレーター)のおかげで上手くいくんだけど、攻撃手段としては全く期待できない。……うん、もっとがんばろう。


「よ~し、休憩にしようぜ。ニュースがあるんだ。マルもプリシラも聞いてくれよ」

『お兄ちゃん、ニュースってなーに?』

「村長がさ、リトルコカトリスがコカトリスに成長しちゃうんじゃないかって心配して、近くの町の冒険者ギルドに討伐依頼を出してたんだよ。あんな鳥、大したことないし、オレ達でだいぶ狩ってるのにな!」

「村のほとんどの人は、リトルコカトリスにだって対処できないよ。最悪の可能性を考えて依頼を出しておくのは、間違ってない」

「はいはい。分かってるって。――でさ、やっと依頼を受けてくれる冒険者が現れたんだってよ。数日のうちに、冒険者パーティがこの村にやってくるんだ!」

『ホント!? 会ってみたい!』

 冒険者にあこがれるギーラとプリシラには、確かにビックニュースだ。

「だろ? 4人パーティらしいぜ、盾持ちの剣士、槍使い、弓士、魔導士の編成だってよ」

 バランスがいい編成だ。ギーラとプリシラが目を輝かせている。


「冒険者パーティが来て、良いことばかりじゃないぞ。森での狩りは冒険者の仕事中は制限されることになる」

 浮かれる2人に兄ちゃんが水を差す。

 そうか、冒険者が魔物狩りをしている森に子供がいたら邪魔だろうし、僕達が魔物と間違えられて攻撃されちゃうこともありうる。森には入りにくくなるだろう。

「いいじゃん、別に。もう十分稼げたし。なぁ、森での道案内役として連れて行ってもらえるように頼まないか? さすがにマルとプリシラには留守番してもらうことになるだろうけど、本職の冒険者の戦いが、生で見られるチャンスだぞ!」

『いいなー。お兄ちゃん、ちゃんと私に冒険者の戦い方を教えてよね』

「おう、もちろんだ!」

「……俺らよりもへっぽこなパーティじゃないといいけどな」

「おいおい。さすがにそれはないだろ? 俺達は確かに強いけど、相手は大人で、しかも戦いを仕事にする冒険者パーティなんだからさ」


『マル、さっきから黙ってるけど、冒険者が来るの、楽しみじゃないの?』

「あー、僕はたぶん会わせてもらえないから。この秘密基地にしばらく来れないとなると、その間どうしようかな」

 僕は姿を見せると避けられる。外からのお客さんに会わせてもらえる可能性は低い。

 そのうえ、森に入れないなら秘密基地には来られない。僕は、どこで何をしたらいいんだろう。


「……マル、ごめん。つい浮かれちゃって」

『じゃあ、私はマルと一緒に遊んでようかな。マルの家に行っても大丈夫?』

 大丈夫だろうか。僕は家ではいないものとして扱われている存在だ。友達を連れてくることなど想定外だろう。

「大丈夫だろ。俺から頼んでおくよ」

 兄ちゃんが軽い調子で請け負ってくれた。ありがたい。


「ギーラ、魔物の素材のいくつかをマルに渡してもいいか? できそうなら加工してもらおう」

「いいぜ。なんかよさげなもん作ってくれよ」

「え、いいの? せっかく皆で集めた素材だよ? 失敗したらダメになっちゃうよ?」

 簡単に素材を渡してくれることに驚いた。

「もちろんだ。最初は鉄の剣の方が良いって思ってたけど、アスナロの木剣の方が訓練に集中できる気がするんだよな。あんな感じの使いやすいものなら大歓迎だ」

「俺もヒノキの木刀、気に入ってるよ。俺は実際の狩りでも使ってるくらいだ」

『私も! 弓作ってくれてありがとう。すごく気に入ってるのよ』

 ――兄ちゃん、ギーラ、プリシラ、ありがとう。僕、がんばって役に立つ物を作るよ。


 寝る前に、兄ちゃんが数枚の紙を渡してくれた。革の縫い方、糸の紡ぎ方、ポーションの作り方、料理のレシピなど色々な物の作り方が書かれている。

 前に、僕に作れそうな物を相談したときは、書斎の本で参考になりそうなものをいくつか選んで渡してくれた。あの後も色々と探してくれていたんだろう。これがあれば家でも退屈しないかも。兄ちゃん、ありがとう。


 ◇


 翌日は、朝から秘密基地に置いてある素材を運び出した。


 冒険者がこの場所を見つけて、大量の魔物の素材を見つけたら、持って行ってしまうかもしれないかららしい。

 確かに、見た目は魔物の巣みたいだしな。他の人の物だと思わないかもしれない。


 村の子供達に極力会わないで済むようにタイミングを見計らって素材を僕とプリシラで家の蔵に運び込む。

 こんなことに先見の明を使うのはスキルの無駄遣いかもしれないけど、逃げ出されるのは嫌だから。

 子供達の適当な歌が聞こえる。肉が食べたいっていう能天気な歌詞。来月から魔物狩りが始まって肉料理が出ることが増える。待ちきれない気持ちなのかもしれない。

 人は少ないけど、意外と村は平和でにぎやかなんだ。子供達が遊んでいる時間はずっと秘密基地にいたから、知らなかった。


 午前中だけじゃ運びきれないほどの素材が集まっていたから、午後からは兄ちゃん達も加わって、素材を運ぶ。


 秘密基地に4人が集合して、素材をまとめていると、急にプリシラが真っ青になって震え出した。呼吸も荒い。手話で何か伝えようとしてるみたいだけど、手が震えて上手くいかない。

 具合が悪いのか。心配して近付き――。


 僕が先見の明で浮かべるイメージと同じ、鮮明な映像が頭に浮かぶ。黒い毛皮で覆われた熊が3頭。1体は他の2体よりも大きく、首元に三日月型に白い毛が生えている。

 プリシラの感知術が、僕らのいる秘密基地に迫る魔物達の存在を知らせていた。

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