第4話 意思伝達
今日は兄ちゃんとギーラで狩りに行く日だ。僕は弓を作ろう。
1日水に付けておいたカラムシは柔らかくなっていたので、表皮を小刀の背を使ってこそぎ落とす。
内側のやや白っぽい繊維が出てきたら、家から持ってきた木づちで叩いて繊維をバラバラにし、水で洗う。
叩いては水洗いを何回か繰り返して、繊維を乾かしておく。そのままだと細すぎるから、乾いたら何本かをより合わせて糸にしよう。
作業をしているうちに、プリシラがやってきた。
『何してるの?』
『おはよう、プリシラ。弓の弦に使う素材を加工してるんだよ』
『前に採ってきてた蜘蛛の糸じゃだめなの?』
『使えなくもないけど、強度が不安なんだ』
『そうなのね。あの蜘蛛の糸、光にかざすとキラキラしてきれいよね』
プリシラはやっぱりかわいい物やきれいな物が好きみたいだ。
蜘蛛の糸
スパイダー系の魔物が巣を張るために生成した糸。細く、光沢がある。糸のまま刺繍や楽器に使われたり、布に加工して服、防具に使われる。強度はやや低めだが、魔力を含みやすい。魔力を通すことで耐久性・強度が向上する他、特殊な効果を持たせることも可能。
魔物の種類:ジャイアントスパイダー
適正価格:1200ダハブ
麻の繊維
カラムシ等の植物から採った繊維。より合わせて糸にできる。丈夫で入手しやすいため、安価な衣服や初心者用の防具、道具類など様々な用途に使われている。
適正価格:100ダハブ
試しに目利きしてみたら、こんな結果だった。蜘蛛の糸、結構高く売れるみたいだ。でも、これを材料にして良いものができるかもしれないし、使うべきか売るべきか迷っちゃうな。
次の狩りでは、ジャイアントスパイダーを狙ってみてもいいかも。麻の繊維は手間の割に安いから、使う分だけ採取するので十分だ。
さて、繊維を乾かしている間に、弓の本体を作らなきゃ。見本は兄ちゃんが村役場から借りてきてくれた。弓を作るのは初めてだし、よく観察してから始めないとな。矢もセットでもらってきてくれた。
木の弓
木材でできた弓。品質の悪い木材で作られており、扱いにくい。
材料:マツ
付加能力:弓術習得率低下、命中率低下
潜在能力:なし
木の矢
木材でできた矢。矢尻は付いておらず、先を尖らせただけ。
材料:ポプラ
付加能力:なし
潜在能力:なし
この弓って参考にしていいのかな?
一瞬そう思ってしまったけど、形には問題がないはずだ。前に採取しておいたイチイの木材で、同じ形に作った弓を思い浮かべる。
ダメだ。プリシラが上手く矢を的に当てるイメージがわかない。せっかく借りてきてもらったけど、この弓をお手本にするのは止めよう。
木刀のときはお手本と違っても良いものができた。あの時と同じように、できないだろうか。
木刀の時ほど簡単ではなかったけど、少しずつ削り出し方を変えて何度もイメージを浮かべ、上手くいくイメージを浮かべられた。先見の明がものづくりにも役立つスキルで良かった。僕は浮かんだイメージに合わせるように、作業に取り掛かった。
最近、木を削って色々作ってきたおかげか、作業はだいぶ早くなっている。昼過ぎに弓の本体が完成した。
昼ご飯を食べずに作業に没頭し、作業がだいぶ進んだ。これなら今日中に弓が完成しそうだ。
矢はもらってきたのを使ってもらえば、明日からプリシラも弓の練習ができるだろう。ちょうどギーラとプリシラの2人が秘密基地で留守番の日だし、ちょうどいい。
乾いた麻の繊維をより合わせ、糸にする。
弓の本体をしならせつつ、弦を張り、弓が完成した。
イチイの弓
軽い力で引けるように細めに作られた弓。強度はやや低いが、女性や子供でも扱いやすく、初心者向け。
材料:イチイ
付加能力:弓術習得率向上
潜在能力:なし
アスナロの木剣やヒノキの木刀と比べると今一つだけど、借りてきた木の弓よりはいい。
そのうちプリシラが弓の扱いに慣れてきた頃には、もっと良いものを作れるようになってるといいな。
安全性チェックもかねて、1度この弓を使ってみよう。
森の中だから、木を的にする。ハンノキさんとかヘーゼルさんみたいなお話しできる木には当てたくないから、木材としても使いにくく、声をかけても返事のない木を的にする。
弓を使っているところなんて、絵でしか見たことないけど、弓を見よう見まねで構え、集中。
力の入れ方、弓を引く姿勢、狙いの付け方などを計算機で計算しつつ、先見の明でイメージを浮かべる。
スキルのことを教えてもらってから、今まで無意識でやっていたことをしっかり考えてできるようになった。浮かべたイメージと合わせて、射る。
木には当たったけど、中心からは大きく外れている。計算した通りに力を入れられなかった。
練習したらうまくなるのかもしれないけど、剣よりもイメージの浮かべ方、イメージの再現が難しい。兄ちゃんの言っていた通り、僕には剣の方が向いているみたいだ。
と思っていたら、拍手が聞こえた。プリシラだ。
『すごい! 当たった! マル、弓を使ったことあるの? 教えて!!』
『いや、今日初めて使ったんだ。剣と違ってイメージが難しいね。誰かお手本を見せてくれる人がいればいいんだけど』
『初めて使って当てるなんてすごいよ! 私にも当てられるかな?』
『大丈夫だと思うよ』
プリシラに弓と矢を渡す。プリシラは、さっき僕が的にした木に向かって構えてみようとするけど、上手く弓が引けないみたいだ。
僕の浮かべたイメージが伝わればいいのに。そう思いながら計算機と先見の明を使ってイメージを浮かべると、プリシラがちょっと驚いた顔をして僕を見る。
『どうしたの?』
『今、何か言った? 何だか弓を引くイメージが伝わってきたんだけど』
『ホント? じゃあ、そのイメージの通りに弓を引いてみて!』
プリシラの持つ意思疎通の上位スキル、意思伝達っていうスキルが僕にはあるらしい。それを使えば、僕の浮かべたイメージは伝わるのかもしれない。
プリシラが僕のイメージをなぞるように弓を引き、矢を放つ。
僕と同じように、中心からは外れちゃってるけど、見事に木に当たった。
プリシラは言葉は話せないけど、僕の考えを的確に読み取ってくれる。兄ちゃんは、同じ系統のスキルを持っているからだろうって言ってた。理由はともかく、分かってくれることが僕にはとても嬉しい。
その日は、弓の練習に夕方まで付き合った。疲れてくると命中率が下がっていったけど、途中はなかなかの命中率だった。
きっと努力を続けていれば、プリシラも冒険者になれる。そう思ったけど、先見の明はプリシラが冒険者として活躍するイメージを見せてはくれなかった。努力以外にも必要なことがあるのかもしれない。それとも、あまりに先の未来過ぎて予測が付かないだけか。
でも、きっと大丈夫だ。こんなにひたむきな子は報われるはずだ。




