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第2話 杖

 今日は兄ちゃんと狩りに出かける日だ。

 狙う魔物は昨日のうちに兄ちゃんと話し合った。

 ジャイアントスパイダー、ジャイアントシルクワーム、リトルコカトリス、ブラックボアだ。

 ジャイアントシルクワームの繭から採れる絹糸は蜘蛛の糸よりも高価らしい。


 午前中は、矢を作るために木を削る。アスナロとかイチイとかの余った木材を材料に使ったあり合わせだけど、消耗品だし、練習用だから問題ないはずだ。

 鳥の羽から矢羽根も作ったけど、矢に付けるのに樹脂が欲しいな。

 プリシラが来るまで、少し周辺を散策して、探してみることにした。


 松

 松の木。生育環境が合わず、あまり成長していない。樹皮から松脂が採れる。


 あった。周りに木がたくさん生えていて大きくなれないのか、こじんまりとしていて、傷をつけるのはちょっとかわいそうな気もする。とりあえず、話しかけてみる。


『松の木さん、松脂をもらいたいんです。傷をつけてしまいますが、許してもらえますか?』


 しばらく待っても返事はなかった。今のところ、返事をしてくれた木はハンノキさんとヘーゼルさんだけだな。

 松脂をとって矢に矢羽根をくっつけ、しばらく置いて、乾かす。


 中途半端に余った時間は、素振り。弓の練習をするプリシラの横で、ギーラとの訓練をイメージしながら剣を振る。ただ無心で剣を振っていた時よりも、効率がいい気がする。


 ◇


 午後になって、兄ちゃんと狩りに出かける。僕は前と同じように木刀とハンノキの木刀を持っていく。兄ちゃんはヒノキの木刀だ。鉄の剣は置いていった。兄ちゃんの場合は、魔法があるから鉄の剣はなくても問題ないみたいだ。


 ふと、余っているチェスナットの木材のことで思いついたことを兄ちゃんに話してみた。

「兄ちゃん、前に集めた木材で、まだ使ってないチェスナットの木材なんだけど、知識欲を象徴する木らしいんだ。魔法の練習用に杖を作ったらいいんじゃないかと思うんだけど、どうかな?」

 兄ちゃんは、なぜか目を見開き、それから困ったような顔になった。


「マル、俺は杖は使わないんだ。ギーラも魔法は得意じゃないし、プリシラは呪文を唱えられないから魔法を使えないだろう。杖は止めておいた方がいいんじゃないかな。チェスナットなら、樹皮からタンニンが採れるから、皮をなめすのに使わせてもらうよ」

「そう? 魔法使いって言ったら杖のイメージがあったけど」

 兄ちゃんはしばらく黙って立ち止まっちゃった。


「……マル、いずれ知るだろうから教えておくけど、この世界の高級な杖は、白の体を材料にしてるんだ」

 白の体を材料に? どういうこと?

「白は精霊の力を借りることができる。その能力を道具に宿らせようとして、木材を血に浸したり、体の一部を魔法で結晶化させて飾りに使ったりするんだ。俺はそんな悪趣味なもの使いたくない」

 確かに、想像するだけで気持ち悪い。でも、なんで奴隷の買い手が付かなかった白が殺されるのか分かった。杖の材料にされちゃうんだね。

 こんなショッキングな話を聞いたら、前ならもっと落ち込んでいたと思う。でも、今は明るい未来を思い浮かべられる。プリシラの夢を聞いたことと、ギーラとの特訓のおかげだ。


「まぁ、俺にはこれがあるさ。名前も剣士を意味するフェンサーなんだし、魔法剣士ってことで」

 兄ちゃんはヒノキの木刀を見せながら明るく言ってくれた。

 ありがとう。兄ちゃんは、いつも僕の味方だ。

「分かった。じゃあ、チェスナットは、作るものが決まるまで取っておくよ。樹皮は剥いでおくから、皮なめしに使って」

 何が良いかじっくり考えることにして、今日は狩りに集中しよう。



 兄ちゃんが木に隠れて合図する。

『リトルコカトリス見つけた。4羽。2羽ずつ倒そう。魔法じゃなくて火焔斬りを試してみる』

『了解』


 兄ちゃんはすんなり火焔斬りを発動させて首を飛ばし、リトルコカトリスを倒した。傷口が焼かれて血が流れていない。血が薬の材料になる魔物相手とかに使うと、素材がダメにならなくていいかも。

 僕も斬撃飛ばしを2連続で放って、2羽仕留めた。だいぶ斬撃飛ばしに慣れてきてコツをつかんだ気がする。そのうち、この木刀じゃなくても使えるようになりそうだ。


 その後、念願のジャイアントキャタピラの巣を見つけて、繭をゲット。7個も手に入って大漁だ。このままにしておくと蛾の魔物になって厄介だから、繭のうちに見つけて処分するのは良いことらしい。

 繭は兄ちゃんが魔法で熱湯を球状にした中に入れてゆで、糸を取り出せるようにしてくれた。中の魔物もこれで死んだらしいけど、中の魔物は虫型。女の子は苦手だろう。糸を巻き取るのはプリシラのいないところでやろう。


 さらに探索を続け、ブラックボアも3体仕留めた。

 一日の成果としては十分かな? 兄ちゃんも満足そうだ。今日はほとんどヒノキの木刀を使って戦っている。気に入ってくれたみたいだ。


「うん、このレベルの敵なら楽勝だな! やっぱりキラーベアに挑まないか?」

「もう少し強くなって、見つけたときに勝てそうなイメージが浮かんだらね。狙った魔物に出会えるとは限らないんだから」

 あまりに順調で、何だか倒せちゃいそうな気もしてくる。でも、狙った魔物に出会えるわけじゃないし、会ったことのない魔物の強さなんて分からない。わざわざキラーベアを探し回る必要はないだろう。

 無理してでも探して倒す必要があるなら別だけど。


「兄ちゃん、行商人が来るまでに貯める目標金額っていくらなの?」

 キラーベアの素材を狙わないと集められないほどの金額なんだろうか。


「あー、それな。設定が難しいんだよ。こっちの用意した物をいくらでどれだけ買ってくれるかも分からないし、行商人が持ってくる商品の質も分からないからな。でも、一般的な皮でできたグローブなら、安いもので8000ダハブ、しっかりした物で2万ダハブくらいだったな。ナイフは加工用なら1万ダハブ前後。動きやすい服はピンキリだな。俺達が着てるような動きやすい普段着でいいなら5000ダハブくらいからあるけど、初心者冒険者が着るようなのだと1万ダハブくらいで売ってるのを見たな」

「大体の目安としては、兄ちゃんとギーラは2万ダハブずつ、僕とプリシラは1万ダハブずつ必要って考えると合計6万ダハブか」

 まだ時間はあるし、無理して戦わなくてもいけそうな気がする。

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