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第1話 疑惑

 第2章が始まります。

 久しぶりに神様側のお話で第三者視点になっています。

 ある日の神々の住み処。


 神々の住み処の居住地区の一画にあるプロメテウスの部屋。一見、黒に見えるほど濃い紺色を基調に白と銀がアクセントとなっているスタイリッシュなインテリアだ。

 しかし、今は部屋の主はいないようで、なぜかヘルメスがこの部屋で探し物をしていた。本棚や机の引き出しなど、様々な所を調べるが目当ての物は見つからないようだ。


「へールーメースゥー? 何をしてるのかなぁー?」

「探し物だ」

「ここはボクの部屋だけど」

「あぁ、留守番をしといてやったぞ」

 まったく悪びれる様子がないどころか恩を着せてくるヘルメスに呆れたのか、プロメテウスは勝手に家探しをしていたことを咎めるのを止めた。

 鍵は掛けていたのだが、情報交換の約束していたから、訪ねてきたとき留守でも居間で待っていてもらえるよう、鍵を渡してあった。


「あのさ、ヘルメスがスキルポイントを値切ったことで、なぜかボクが叱られてたんだけど?」

「そうか、反省しておけ」

「ヘルメスのせいだよね。ボクにそそのかされましたって言い張ったんだって? おかげで、ついさっきまでお説教されてたんだよ」

「私は間違ったことは言っていないぞ。お前にそそのかされたと思っている」

「ロー君が欲しいスキルを得るのにポイントが足らなかったから、ヘルメスが自分で値切ってきたんじゃん」

 危険な世界に転生していく使徒を心配した過保護な守護神(ヘルメス)は、「任せろ」と一言言って、スキル獲得に必要なポイントを値切ってきた。その間、プロメテウスはローとおしゃべりしていただけで、特に何もしていなかったのだが、なぜかお説教を受ける羽目になっていたようだ。


「ロー君は剣術の心得を獲得してからも毎日素振りをしていたから、すぐに上位の剣術の才能を獲得できるはずだった。だから、剣術の天才を取得するのに剣術の心得獲得に必要なポイント分だけ差し引くのはおかしい、ってねじ込んだんだって? その上、欲しいスキルが手に入らないかもしれないって心配させた慰謝料として、体術の心得を0ポイントで付けさせるなんて。さすがに強引すぎるよ」

「必要なことだ。あんな危険な世界に行くんだからな。貴様がローを止めなかったせいだ」

「いやいや、ボクが止めなくてもロー君はユトピアに行ったと思うよ? 本人が行くって言い出したでしょ。それに、キミが強引な交渉をしたことの責任をボクに押し付けないで欲しいね」

「そんなことはどうでもいい。お前の使徒の行動がおかしい。ローを熊と戦わせようとしていたぞ。どうなっている?」

 プロメテウスの苦情を一言で切り捨て、問い詰める。


 少し前までは、プロメテウスの使徒マーリン(フェン)は、ロー(マルドゥク)にヘルメスに関する伝承を語って聞かせたり、文字やユトピアについての知識を教えたりしていた。外に連れ出すようになってからも、普通の人間のお友達(プリシラ)と遊んでいただけ。悪徳の使徒(ギーラ)がそばにいるという不安はあったものの、おおむね平和な生活を送っていることに、ヘルメスは安堵していた。ローの味方でいてくれるマーリンには感謝していたくらいだ。

 そのマーリンが、突然、ローを危険な魔物狩りに連れ出そうとしだしたことに、疑惑を抱いたようだ。


「プロメテウス。味方陣営の使徒は既に半数近くが倒されている」

「うん、そうだね」

「味方陣営で、お前の使徒だけは5人そろっている」

「何が言いたいの?」

「味方陣営の誰かが悪徳陣営とつながっていて、こちら側の情報を集め、各使徒の弱点を悪徳陣営にリークしているのではないか――。平たく言えばスパイがいる疑いもある」

「……つまり、ボクがスパイだと疑ってるわけ?」

 ヘルメスはうなずいた。


「貴様はもともとそんな軽い性格の男ではなかった。誇り高く、威厳にあふれ、知恵の神の名に相応しい男だった。寡黙で何を考えているのか分からないところもあったが」

「……」

「今のお前は、多弁で親しみやすい。相手の警戒心を解き、情報を得るにはそんな性格に見せていた方が上手くいくだろうな」

 ヘルメスの怒りのこもった眼を、プロメテウスの感情を映さない眼が見つめ返す。


「それだけ?」

「お前は疑わしい行動が多すぎる。ローの転生準備の場にいきなり現れて口を出し、危険な世界への転生を勧めたこと。十分に情報を得られるスキルを持った使徒をユトピアに派遣していながら、私との情報交換を望み、やたらと情報を集めようとしていること。異界図書館のスキルで、使徒に直接指示を出せる体制を整えておきながら、ローがユトピアの改革を進めようとしているなどという誤解を解こうとしないこと。それに加えて、弟としてローをかわいがっていたはずのお前の使徒が、いきなり危険な魔物と戦わせようとし始めた」

 それほど不審に思っていなかった行動でも、スパイかもしれないという疑いを持ってみると、違ったように見えてくる。

 特にヘルメスは、情報交換のためにプロメテウスが開示したマーリン(フェン)の日記を読んでいた。そこに「弟は最強の白になろうとしている」という推測が書かれていたことを心配していたようだ。

 ユトピアへの転生を許した後も、ローには平穏な人生を送って欲しいと願っていたからだ。別に目立った活躍はしなくとも、味方陣営の使徒があまり転生先に選ばなくなっているユトピアの情報を得ることができる。それで十分だと考えていた。


「ヘルメス、仮に私がスパイだとして、君のすべきことは何か変わるのか?」

「……認めるのか?」

「認めない。今の君は信じないだろうが、私はスパイではない」

 一人称も変わり、纏う雰囲気も一変した。厳かな声でプロメテウスは続けた。


「既に賽は投げられた。状況証拠だけで私を糾弾することもできないだろう。私を警戒して距離を取り、情報を得る機会を減らすか? それとも、警戒を見せずに私から情報を抜くべく、今まで通り接するか? 今、君にできるのはその選択だ」

 まったく動揺がない。声からも表情からも感情がうかがえない。


「さて、君の最後の使徒のすぐそばに私の使徒がいる。この状況で、君はどちらを選択する? 神々の伝令、ヘルメス」


 雰囲気に呑まれたのか、一瞬押し黙る。しかし、ヘルメスはキッと力強い視線を返し、口元に不敵な笑みを浮かべて言い返す。

「いいだろう。乗ってやる。神々の伝令として情報を司る私と知恵の神、どちらが上かな?」


「了解! じゃあ、普段通り情報交換といこうか」

 満足げな笑みを浮かべ、口調も雰囲気も軽い調子に戻っている。本当に楽しげに見える。表情からはこの態度が演技なのかどうか分からない。


「それで、さっきの話だけど。確かにボクがマーリンに指示を出したよ。ロー君の戦闘訓練を始めるようにって。前にも見せたボクの使徒の日記を見せるよ。ボクはスパイじゃないから、情報はちゃんと公開する。自分に不利でも、不利じゃなくても。キミのことは信頼してるし」


 そう言って、「異界図書館」とプロメテウスがつぶやくと、周りの景色が一変した。2人の周りをぐるりと円形に取り囲むように本棚が下から現れる。

「ボクの使徒のスキルとリンクさせてるんだ。おかげで情報量が多いけど、ちゃんと検索機能もあるから安心して。中央に宙に浮いて見える本があるでしょ。あれに向かって話しかければ検索してくれるよ」


 やましいことは何もないとばかりに、ヘルメス自身に検索を委ねる。


「ふむ。では、マーリンの日記。ユトピアで書いた魔法歴983年6月下旬から7月初旬にかけてのものを」


 読み進めるとヘルメスの表情がどんどん険しくなっていった。6月末の日記には、プロメテウスの伝言板を使った指示が書き記されていた。そこには、『しっかりとマルドゥク君の戦闘訓練をすることをお勧めするよ。彼にとって必要なものを手に入れるチャンスがやってくる。逃すと今後が大変だから、少々きつめでもがんばって。熊とか鳥とか倒しておくといいよ』と書かれていたからだ。


「やはり、貴様のせいか! 鳥はともかく、熊と戦えとはっきり指示していたのか!? ふざけるな!」

「ふざけてないよ。1対2の状態で戦えば、十分余裕をもって勝てる。キミが値切って手に入れたスキルもあるし、成長を促すにはそれなりの敵と戦わないと」

「まだ5歳だぞ!? どこの世界に熊と戦う5歳児がいる!」

「先手を取られさえしなければいい。先見の明で勝てる見込みがあるかどうかくらい分かる。彼は、勝算がない相手に向かっていくような無茶はしない。それにボクの使徒も付いている。マーリンだって弱くはないよ」


 先見の明で勝てる策を思い浮かべてから戦闘に入る。ローはいつもそうしていた。キラーベアに遭遇した場合も同じようにするだろう。勝てるイメージが浮かばないなら、そっと気付かれないように逃げることを選択するはずだ。熊と戦わせようとする危険性を訴えてもムダだと悟り、別方面から問いただす。


「では、ローが手に入れるべきものとは何だ? 森で採れる素材を加工して売り、買えばいいのではないか?」

「ふふふ。ひ・み・つ」

 ふざけた態度にヘルメスは青筋を立てるが、プロメテウスは全く意に介していないようだ。

「ヒントは、お金で買えないってことかな」


 そこで、少し真面目な表情になって続けた。


「あの森の魔物が少しずつ強くなってる。あのまま進化するタイプの魔物を放置していたら、森で食料を得ることが難しくなる。そうしたら、あの村は冬を越せなくなるよ」

「……」


 ちゃんと理由があったようだ。心情的には納得がいかなくても、ヘルメスは引き下がらざるを得なかった。あの村は戦闘が得意な者が少ない。なまじ普通よりは強い村長がいるせいで、戦闘訓練を真剣にやらない者ばかりだからだ。厄介な魔物に対抗できる戦力として期待できるのは、村長、マーリン、ロー、ギーラの4人しかいないのだ。

 調べ物は済んだらしいと判断したプロメテウスはスキルを解除し、部屋の様子が元に戻った。


「ところで、あれは何だ」

「チーズケーキだよ」

「……その奥だ」

「ふふふふふふ。恵比須様の像だよん」


 探し物をしていた時から気付いていたが、いつの間にかプロメテウスの部屋には釣り竿と鯛を手に持つ恵比須様の像が飾られていた。部屋の雰囲気と全く合わず、浮きまくっている。

 からかうためだけに用意したのだろうか。何から突っ込んでいいのか分からない。


「神が他の神にお供え物をしてどうする?」

「ボクがお供えしたんじゃないよー。人間がお供えしてたのをもらってきたー」

「お前に供えられたんじゃないだろう? 勝手にもらってくるんじゃない」

「ちゃんとお返ししてるよー。夢に出て、勉強教えてあげてるー」

 恵比須様にお供えしていたなら学業成就を願っているわけじゃないだろうに、と言いたくなったが、ヘルメスはもう何も言わなかった。これ以上話しても疲れるだけだ。

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