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第14話 剣術訓練

「すごいよ、兄ちゃん。魔力が込められて強度が増したって。適正価格が1000ダハブになったよ!」


 なめし終わった皮を見て、兄ちゃんに告げる。でも、兄ちゃんは考え込んでいる。


「たぶん、1000ダハブでは売れないな。ほとんどの人間は、マルみたいに目利きを持ってない。魔力が込められたことによる付加価値に気付いてもらえない」

 確かにそうだ。質がいいことを分かってもらえないと、普通のウルフのなめし皮の値段でしか売れないだろう。

「もったいないけど、仕方ないな。まぁ、他にすることもないし、ブラックボアの毛皮と突進ウサギの毛皮もなめしてみるよ」


「おーい、フェン。マルはオレと特訓するんだからな。いつまでも二人で話してんじゃねぇよ」

 ギーラがむすっとしている。ギーラはこういう加工とかには興味なさそうだ。

「マル、あいつがすねると面倒だから、特訓しておいで。なめし終わった皮は後でチェックしてみてくれ」

「了解。行ってくるね!」


 兄ちゃんの加工魔術をまだ見ていたいけど、僕が行かないとプリシラの特訓も始まらないみたいだ。僕が将来商人になるとしても、自衛の手段としてある程度の戦闘力も必要かもしれないし、今はギーラとの特訓に集中だ。

「ギーラ、良かったらこのアスナロの木剣を使って」

「おう。マルは鉄の剣は持ってないし、木の剣同士で訓練した方がいいな。分かった」


 僕はヒノキの木刀だ。

 まずは、僕とギーラで打ち合い、プリシラは見学。次は、プリシラとギーラで打ち合う。いきなり実戦形式の訓練を提案してきた。ギーラらしい。

 早速、ギーラに向かい合い、剣を構える。


「とりあえず、実力を見せてもらうぞ! かかってこい」

「はい!」


 ギーラを見つめる。まっすぐ切りかかっても、ひょいと右に避けられて、反撃を食らう未来(イメージ)が浮かぶ。

 なら、まっすぐ切りかかっていったと見せかけて、脇に回り、横なぎに刀を振るおうか。それも防がれそうだな。でも、剣で受けて防ぎそうだから――。よし、やってみよう。


「お」


 僕がいきなりフェイントをかけてきたことにちょっと驚いたみたいだけど、予想通りに剣で受けるギーラ。そのまま相手の剣に刀を滑らせて、手元を払って剣を落とすのが狙いだ。

 でも、途中で角度を変えられて思ったようにいかなかった。イメージで浮かんだ姿と比べて、僕が刀を滑らせるスピードが少し遅かったせいか。

 刀をとめられた状態から、力で押されて、後ろに下がらせられる。4歳年上の相手だから当たり前だけど、力には圧倒的な差がある。


 仕切り直し。

 間合いをはかりながら考える。力もスピードも技量も、すべてギーラが上。僕が一撃を加えられるイメージは浮かばない。

 でも、これは訓練だ。それでいい。剣を数多く振り、剣の扱いになれたり、攻撃パターンを数多く試したり。それが今の僕に必要なはずだ。


 兄ちゃんにスキルについて教わって、時たま浮かべるイメージが先見の明っていうスキルによるものだって分かった。

 でも、このスキルはある行動を取ったときの結果を予測するものであって、どういう行動を取ったら良い結果につながるかを教えてくれるものじゃない。

 自分の取る行動は自ら考える。良い結果につながる行動を、僕が思いつかなかったらこのスキルは活かせないんだ。


 次はまっすぐに切りかかる。ただし、思い切り突っ込むのではなく、後ろに引いた足の方にもやや重心を残して次の行動に備える。最初のイメージ通り右に避けられたけど、さっきのフェイントが印象に残っているのか、反撃は飛んでこなかった。

 すぐさま体を回転させながら、そのまま刀を横向きに振るう。ギーラは飛んでかわした。そのまま上から剣を振るってくる。下から刀を振り上げて合わせる。

 あ、ダメだ。

 直前に浮かんだイメージ通りに、力負けして刀を落としてしまった。


 惜しいな。少し角度を変えて受けられれば、かかる力を軽減できたかもしれない。いや、勢いを付けて上から振りかぶってくる相手には、無理に受けずに避けるべきだったかな。

 過去に取るべきだった行動を思い浮かべても、どうなっていたかは浮かんでこない。先見の明はあくまで未来の予測をするスキルで、便利なシミュレーションスキルっていうわけではないみたいだ。

 それに、取るべき行動が分かっても、その通りに体が動かないんじゃ上手くいくはずがない。このスキルは、使う人間の努力次第で活かせるかどうかが大きく変わる。


「やるじゃん。フェンより筋がいいんじゃないか? さすがオレの弟子」

 ほめられた。嬉しくなって、さらに夢中で刀を振るい続けた。


 それから夕方までギーラと剣術の特訓をした。疲れたけど、充実した一日だったな。そう思ってギーラと笑い合う。

 視線を他に向けると、兄ちゃんはギーラと僕が笑い合ってるのを見て面白くなさそうな表情。そして、プリシラも頬をふくらませて、むくれている。


『ごめん、プリシラ! 夢中になっちゃって、交代するのを忘れてた!』


 急いで謝ったけど、すぐには許してくれそうにない。プンっと横を向かれてしまった。

 別のことに気を向けてもらおうと、兄ちゃんのなめした革を見せてもらう。


 ブラックボアのなめし毛皮

 なめされたブラックボアの毛皮。防具や防寒具等に使われる。加工工程で魔力を含み、かすかに強度が増している。

 適正価格:2500ダハブ


 突進ウサギのなめし毛皮

 なめされた突進ウサギの毛皮。おしゃれを兼ねた防寒具としての需要が高い。加工工程で魔力を含み、かすかに強度が増している。

 適正価格:1500ダハブ


 風で水分が飛ばされていて、ふわふわの毛皮になっていた。兄ちゃんは乾かすのも魔法でやったみたいだ。


『ウサギさんの毛皮、かわいい! ふわふわ~』


 プリシラは真っ白でふわふわの突進ウサギの毛皮が気に入ったみたい。機嫌が直ってよかった。

 こういう見た目や肌触りで価値を判断しやすいものは売れやすいかもしれない。


 ◇


 家に帰って夕飯を食べたら、最近恒例の書斎での兄ちゃんとの会議だ。


 アスナロの木剣とヒノキの木刀の性能、皮類の適正価格を聞かれたので答える。


「アスナロの木剣は剣術習得率向上で、ヒノキの木刀は魔法剣術習得率向上か。どっち使うか迷うな」

「兄ちゃん、魔法剣術って何?」

「剣に魔力を込めて使う剣術だよ。切れ味を一時的に上げたりとかの地味目な術から、剣に込めた魔力を飛び道具のように使う派手な術まで色々ある。魔法が得意な人が近接戦闘をするなら、是非習得しておきたい術だよ」

「じゃあ、潜在能力の火焔斬りは火魔法を使った斬撃飛ばしみたいなもの?」

「あぁ、そんなイメージで合ってると思うよ。俺も使ったことないから、明後日2人で狩りに出るときに試してみよう」


 それから兄ちゃんに、いつか店を持ちたいって話した。賛成してくれると思ってたんだけど、困った顔をされちゃった。

「う~ん、分かった。けど、せっかくマルは強いんだし、商人になるより向いてる道があると思うんだけど……。冒険者にも興味あるんだろ? せっかくだから、そっちにしないか?」

「え? 僕って強いの?」

 ほんの1部の例外を除いて、白は弱いっていうのが常識らしい。僕を見かけた村の人達はそんなことを話していたはずだ。


「まだ5歳なのに魔物を倒せてる時点で、すごく強いよ」

「兄ちゃんは5歳の頃、魔物倒してなかったの?」

「倒してたけど、それはそれというか……。世間の基準からすると俺もマルも強いんだよ」


 僕は、兄ちゃんとの狩りくらいでしか戦闘を見たことがない。魔法を使えるわけじゃない僕は、別に強くない気がする。今日の剣術特訓でも、全然ギーラにかなわなかった。


 それに、ここは小さな村だ。広い世間から見て僕達の強さがどのくらいなのか、僕には全然見当がつかない。


 もっと広い世界を見てみたい。初めてそう思った。

 少し前までの僕の世界は、家の中だけだった。それが、ギーラやプリシラと会うようになって少しだけ、広がった。

 さらにプリシラの夢を聞いてから、僕も未来のことを考えるようになって。


 今日の剣術訓練で、先の手を考え続けていたせいだろうか。未来のことを考えるのが、心地いい。

 きっといずれは正解の選択肢を見つけ出せる。奴隷になるか、殺されるかの暗い未来じゃなくて、幸せな未来を見つけ出せるような気がした。

 まだ見ていない世界で何かが待っている。そんな不思議な高揚感を感じた。

 次話から、新章に入ります。

 ここまでお読みいただいた方、是非、今後ともよろしくお願いします!

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