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第13話 加工魔術

 今日は午後からギーラと戦闘訓練だ。朝のうちにヒノキの木刀を仕上げてしまおう。

 ヒノキの木材はほぼ刀の形になっているから、後はヤスリで整えるだけだ。


 ヒノキの木刀

 ヒノキの木で作られた木刀。

 材料:ヒノキ

 付加能力:魔法剣術習得率向上

 潜在能力:火焔斬り(要火魔法習得)


 なんだか不思議な物ができた。魔法剣術ってなんだろう。よく分からないけど、兄ちゃん向きっぽいな。


 ヒノキの木刀ができたなら、次は弓だ。材料に使う繊維を探そう。

 麻の繊維の一種であるカラムシは、割りとどこにでも生えているようで、簡単に見つかる。

 兄ちゃんに繊維の取り出し方は教わった。カラムシの茎を採ってきて水につけておくと柔らかくなって皮を剥ぐことができるようになる。その後、表面をそぎ落とし、叩いて水洗い。今日のところは水に付けておくだけだ。


 それから、今まで採った皮の処理だ。皮の内側の脂肪とかが残っていると腐ってしまうので、行商人には売れない。きれいに脂肪をそぎ落として皮を水洗いし、木の枝にかけて乾かしておく。本当は塩をすり込んだりしてさらに腐敗防止をするらしいけど、兄ちゃんが魔法で皮なめしをしてみると言っていたので、今日はこのまま乾かしておく。


 作業中にプリシラが来たけど、皮の処理をしているのを見て、離れていってしまった。確かにグロいし、臭いもするから近付きたくない気持ちは分かる。

 でも、自分達で用意した物を誰かに売ってお金を得ることを想像すると、何だか楽しくなる。どのくらいの値が付くのかな。

 兄ちゃんによると僕の目利きのスキルは適正価格を見抜くこともできるらしい。試しに使ってみる。


 ウルフの皮

 まだなめしていないウルフの皮。防具等に使われる。

 適正価格:100~200ダハブ


 ブラックボアの毛皮

 まだなめしていないブラックボアの毛皮。防具や防寒具等に使われる。

 適正価格:500~600ダハブ


 突進ウサギの毛皮

 まだなめしていない突進ウサギの毛皮。おしゃれを兼ねた防寒具としての需要が高い。

 適正価格:200~400ダハブ


 同じ種類の皮でも傷の有無や元の魔物の大きさ等で適正価格に差が出ているみたい。ウルフの皮が毛皮じゃないのは、毛がすべて取り除かれているからだ。あんまり毛並みがきれいじゃなかったから、この方がいいだろうって、兄ちゃんが毛を全部焼いておいたらしい。皮には一切、焼け焦げとかはない。他の魔導士にはこんなことはできないって、兄ちゃんは自慢してた。


 ダハブはこの国で流通している通貨単位だ。住んでいる場所にもよるけど、成人1人の1か月分の生活費が10万~15万ダハブと考えていたらいいそうだ。

 う~ん、僕達が欲しいものがいくらくらいするのか分からないから、どれくらいがんばればいいのか見当がつかないな。

 皮があんまり高くない気がするから、欲しいものを全部買いたいなら結構がんばっておくべきだろうか。


 とりあえず今日の作業は終わったから、近くを流れる川の水で、よく手を洗って秘密基地に入る。


『皮の処理は終わったよ』

『お疲れ様。大変ね。ああいう作業、嫌じゃない?』

『ちょっときついけど、売ってお金になるかもって思うと気にならないよ』

『ふ~ん、マルは職人か商人になって工房とかお店を持つのが向いているのかもね』


 心が躍る未来だ。やっぱり、僕は冒険者よりも商人になるのが良いかもしれない。

 ギーラとプリシラが冒険者になるなら、2人に素材を採ってきてもらって加工する工房がいいだろうか。それとも、2人の冒険に役立つ薬やアイテムを取り揃えた店がいいだろうか。

 考えているとすごくワクワクする。


 じっとしていられない気分だけど、今できる作業はない。それでも何か動いていたくて、できたばかりのヒノキの木刀で素振りを始めた。プリシラも横で一緒に素振りをしている。



「おぉ~、がんばってんな~。2人とも」

 ギーラと兄ちゃんがやってきた。お昼を食べるのを忘れて没頭していたから、言葉とは裏腹にちょっとあきれ顔だ。


 食べ終わったら、プリシラと一緒に、ギーラから剣術・体術の特訓を受ける。その間、兄ちゃんは魔法での素材加工を試す。これが今日のスケジュールだ。


「加工魔術で失敗して皮がダメになっちゃう可能性もある。マル、どれが一番価値が低そうか分かるか?」

 ギーラに目利きのことを話さないことにしているから、兄ちゃんがこっそり聞いてきた。

「うん、ウルフの皮だね。特にこの穴が開いちゃってるやつ。100ダハブくらい」

 商人になるなら、剣術や体術の訓練よりも、魔法での加工の方がためになりそうだな。

「ねぇ、兄ちゃん。加工魔術使ってるところ、見たいんだけど、ダメ?」

「こら。マルは戦闘訓練があるだろ?」

 怒られちゃった。

「最初の1枚だけだぞ」

 でも、見せてくれるらしい。やっぱり、兄ちゃんは僕に甘い。


 兄ちゃんは茶葉を持ってきていた。茶葉に含まれるタンニンっていう成分を使って皮をなめすらしい。

「加工魔術っていうのは、複数の属性の魔法を繊細にコントロールして手作業だと大変な工程を簡単に行うための魔法だ。工程によって、攻撃魔法を応用しているときもあれば、強化魔法を応用しているときもあるから、色んな魔法の使い方になれる訓練にもなるんだ。マルも色んな属性の精霊と契約できたら、似たようなことをして訓練すると良いかもよ」


 そう言って魔法で水を出した。水は球状になって空中に浮かんでいる。水の中に茶葉を入れた。はた目には、何をしているかよく分からないけど、水に色が付いてきているから、タンニンを抽出しているんだろう。

 じっと見つめていると水が今はお湯になっているのが分かった。かすかに湯気が立っている。

 濃い茶色に水が色づくと水が対流を始めた。いつの間にか水球の中央に魔力を網目状にしたボールができていた。ボールの中に茶葉が残り、水はボールの外に出た。

 球状にまとまっていた水の形が一旦崩れ、茶葉が取り出されると、再び球状に戻る。兄ちゃんは球状にまとめてあるタンニン液にウルフの皮を一つ投げ込んだ。タンニン液が渦巻いて、皮に浸透していく。


「う~ん、いつまでやればいいのか分からないな」

「あともう少し続けた方がいいと思う」

 目利きの結果で「少しなめし方が甘い」と出ている。


 しばらく見つめていると、目利きの結果が変わる。


「もう大丈夫だよ!」


 兄ちゃんがタンニン液を捨て、皮を取り出した。


 ウルフのなめし革

 なめされたウルフの革。防具等に使われる。加工工程で魔力を含み、強度がかすかに増している。

 適正価格:1000ダハブ

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