第11話 僕の夢
翌日、兄ちゃんから託された本を持って秘密基地に向かう。プリシラに頼まれてた保存食の本だ。
昨日の夜、僕もパラパラと読んでみたけど、結構面白かった。保存食作りにも精霊術師が一役買っているんだそうだ。例えば、チーズとかの発酵食品は、闇の精霊術師に頼むらしい。後は、都市部では肉や魚を乾燥させるのに風の精霊術師を使って、短時間で大量に保存食を作っているって書いてあった。
ちょっと将来の夢が広がった気がする。
冒険者もいいけど、保存食なら冒険にも持っていくだろうから、兄ちゃん達の役にも立てる。冒険者向けの物を扱う商売をするのも悪くないな。そういうのに適した精霊さんと契約できるといいな。
プリシラに本を渡して、昨日の続きの木剣作りに入る。今日は集中して仕上げちゃうぞ。
◇
アスナロの木剣
アスナロの木で作られた剣。攻撃力は低い。剣術の練習に向いている。
材料:アスナロ
付加能力:剣術習熟速度上昇、剣技習得率上昇
潜在能力:見切り(要精神集中、要対戦相手)
できた。練習に向いてるって出てる。良かった。
お昼までは少し時間があるけど、次の剣に取り掛かるには中途半端だ。プリシラは本に集中してるし、試しに少し素振りしてみよう。
1時間くらい素振りをしていたら、何だかコツをつかめた気がした。少しだけ振る速度が速くなって、小さな風切り音が聞こえる。
『ねぇ、お昼食べないの?』
そんな心の声が聞こえた気がした。いけない、また夢中になってしまって、プリシラを待たせちゃったな。
お昼を食べ始めて、すぐに兄ちゃんとギーラがやってきた。兄ちゃんが僕を見てちょっと驚いた顔をした。ひょっとして、素振りで何かスキルを得られたのかな。後で聞いてみよう。
「2人とも、まだ食べてるのか。オレ達はもう食べてきたから、すぐに狩りに出ちゃうぞ」
「焦るなよ、ギーラ。1人ずつ目標を決めようって話しただろ」
「おう。マル、プリシラ、2人とも行商人から買いたいものを1つ決めておけ。オレ達が帰ってきたら、1人ずつ発表な。以上!行くぞ、フェン」
ギーラは待ちきれないみたいだ。すぐに森の奥に向かう。
「悪いな、2人とも。あのバカ追いかけるから、説明は後で。何か欲しいものがないか、考えておいてくれ」
兄ちゃんも急いで後を追っていった。
『お兄ちゃんが迷惑かけて、なんかごめんね』
「いいよ。なんだかんだ兄ちゃんも楽しんでると思うし。それよりも、プリシラは何か欲しいものある?」
手話が分かるようになっても、プリシラは声に出してしゃべりながらの方が分かりやすいらしい。何なら手話はなしでもいいから、伝えたいことを強く意識すると良いんだって。でも、兄ちゃんと話すときは手話も付けて欲しいそうだ。よく分からないけど、兄ちゃんが言ってた相性の問題なのかな?
『買いたいものを決めておけって、どういうことかな?』
「僕たちは4人で稼ごうとしてるから、上手く全員の買いたいものが買えるような目標額を決めるためじゃないかな?」
『そっか。私は、動きやすい服が欲しいかな』
「かわいい服じゃなくて?」
『今持ってるスカートじゃ魔物狩りには向かないでしょ? かわいい服は好きだけど、森で戦ってたらすぐボロボロになっちゃうだろうし』
着実に夢に向かって進もうとしてるんだ。かわいくて、動きやすくて、丈夫な服があるといいけど、欲張りすぎかな。
『マルは? 何が欲しい?』
「加工用のナイフかな? 今の小刀でもある程度は作業できるけど、もっと固い木とかは削れないと思うから」
『なるほど。それも重要ね』
「今は不自由してないから、プリシラの服の方が優先でいいけどね」
『ありがとう。でも、弓を用意してもらって、いっぱい練習して上手くなってから必要になるものだから。そんなに気にしなくていいよ』
さて、ギーラと戦闘訓練するのに、ヒノキの木刀作っとかないとな。欲しいものも決まったし、午後はヒノキの木刀を作り始めよう。終わったら、プリシラの弓に取り掛かれるし。
ヒノキの木材を削ると、良い香りがする。木のチップで燻製ができるんだったな。試しに削りくずを集めておこう。
今日の作業では完成しなかった。
明日の午後は兄ちゃんと出かけるから、明日と明後日の午前中で仕上げるようにしよう。
帰ってきた兄ちゃんとギーラに欲しいものを申告する。
「プリシラが動きやすい服で、マルがナイフか」
「オレは防具! 鎧!」
「おい、1人だけあからさまに高いものを選ぶなよ」
「分かってるよ。冗談。グローブがいいかな。それかブーツ」
口を尖らせて言った。ギーラ、本当は鎧が欲しいんだろうな。
「兄ちゃんは?」
「俺も防具かな。剣も欲しいけど、そっちはもっとお金を貯めてからだ。ブーツがいいな」
「剣はもうもらったろ? お下がりだから嫌、とかか? オレなら成人するまでは使い続けるけどな」
う~ん。スキルのことを言っちゃダメって言われたから、剣の性能のことも言えないんだよな……。ギーラがケガをしやすいのは、あの鉄の剣の付加能力、集中力低下のせいもあるかもしれないから、使い続けて欲しくないんだけど。
「ところで、フェン、さっき言ってたの本気か? グロいから妹に見せたくないんだけど」
何だかギーラが不機嫌だ。でも、兄ちゃんはギーラを無視して僕に話しかける。
「マル、魔物の死体をそのまま持って帰ってきたんだ。素材の剥ぎ取りをお願いできるか?」
「いいけど、確かにそれはグロいかも。プリシラ、僕、外で作業してくるから、ここで待っててね」
『イヤよ。将来、冒険者になるんだから、私も手伝う!』
「フェンのせいだからな。泣かせたらぶっ飛ばす」
プリシラは泣かなかったけど、気持ち悪そうだった。でも、がんばって解体を手伝ってくれた。解体用の道具は兄ちゃんから借りた。この道具は、魔物の素材と交換で行商人から買ったものらしい。僕も欲しいな。欲しいものが増えてしまった。
「マル、お前、めっちゃ器用なんだな。今度からも頼むわ」
ギーラは調子の良いこと言ってた。大体の解体の仕方さえ教えてもらえれば、先見の明で、きれいに解体できるイメージを浮かべて、それをなぞるように手を動かせばいい。
僕、こういうのは得意だな。
ちなみに、兄ちゃんは僕に解体術っていう別のスキルを獲得させるために、わざわざ持ち帰ってくれたらしい。無事に解体術は獲得できたそうだ。
ウルフの皮と牙、鳥の羽、鳥の肉が採れた。肉はギーラと兄ちゃんで半分こにして、家にお土産として持ち帰った。




