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第24話 アマドゥール

 廃鉱での戦闘の後、全員で村に泊めてもらい、翌朝、少しでも役に立てればと思って村長さんにヤークートで会った特殊孤児の話をした。


 兄ちゃんの鑑定と異世界図書館は本当に便利だ。

 ヤークートで出会った子を全て鑑定していたらしく、70人近い子供の名前を書き出してくれた。ほとんど会話してない子もいるのに、そんな人数の名前を正確に記憶しておくなんて無理だけど、鑑定して読み取った内容も全て異世界図書館に記録されるから丸写しするだけなんだって。見てもらったら、8人はこの村の出身だと分かった。


 僕達が冒険者ギルドで依頼を受けた時の運搬役の子は、トマス君って名前だったらしい。違法採掘をしていた村人の中に、彼のお父さんもいた。あの子は故郷に帰りたがっていたから、早く何とかしてあげたいものだ。


 誘拐された子は13人。他の人から連絡のあった3人を除くと、あと2人の居場所が分からない。早く見つかるといいな。


 ◇


 昼前に帰ろうと、馬車に揺られてアダーラ領都へ向かう。


 昨日から、レレがやたらとミリエットさんのローブのフードに入りたがる。どうやら戦闘前にホホがミリエットさんを強制避難させたとき、弾みでフードの中に入ってしまったらしい。

 それで休憩場所としてちょうど良いと気に入ったみたい。険しい顔で考え込むミリエットさんに迷惑をかけたくないんだけど、僕のフードだとちょっと狭いらしい。

 もう! レレ、ワガママ言っちゃダメ!


 まぁ、ミリエットさんの固い表情が少し緩んだからいいか。たぶん、アルベールへの報告について考えてたんだろう。


 領館まで行き、双頭番犬(オルトロス)の頭を預けてミリエットさんとは別れた。


 僕達は、今日は遊ぶことに決めている。だって、兄ちゃんの誕生日だし!


「フェン、これ誕生日プレゼントな!」

「また服か? たまには他の物くれてもいいんだぞ」


 ギーラ、プリシラ、クロードが兄ちゃんにプレゼントを渡している。去年も今年も2人とも服をプレゼントしている。実は僕もヘーゼルさんも服だ。

 兄ちゃんのワードローブから変な服を一掃するために、示し合わせてやってるんだけど、早くもわざと全員服をプレゼントしてることがバレつつある。

 シャツ、パンツ、ベスト、ローブ、靴とトータルでコーディネートできるようにしたんだけどな。ちゃんと全部裏地とかに魔法陣を仕込んで戦闘にも役に立つようにしてあるし。性能を説明したら、納得してくれた。


「今日はフェンサー様の誕生日だったんですね。私、何も用意してなくて……」

「私も知りませんでしたわ。せめて、今日のディナーはご馳走させてくださいな」

「いやいや、気にしなくていいよ。ロロちゃんの誕生日には、俺、何もしてないし」


 何度かの押し問答の末、アダーラ領都を散策して兄ちゃんが欲しい物があったら、2人がプレゼントすることに落ち着いた。


 そんなわけで町の中でも商店の立ち並ぶ地区へと足を運ぶ。レオン様の宿った枝も持ってきて、僕とプリシラから昨日の出来事を説明しつつ、おすすめスポットも聞いてみた。前領主様だし、この町には詳しいはずだ。

 今までも、町を歩いたことはあったけど、アルベールの評判とか政策の効果とかを調べるためだったから、役場のある地区とか、冒険者の多い地区を中心にまわっていた。純粋に楽しむために出かけるのは初めてだ。


 この町で商店が集まっている場所は、庶民向けの店が多い南西の地区と、富裕層向けの店が多い北東の地区の2か所。今日はプレゼント用だから、北東の地区に向かう。


 この町は北に向かうにつれ高くなっていく、なだらかな斜面に作られているから、坂道を上っていく。町の一番北から夕焼けを見たら綺麗だろうな。

 領館は中央やや北よりぐらいの場所にあるから、もっと北にある屋敷からは見下ろされる位置にある。


『歴代の領主の中には他の屋敷から見下ろされることを嫌がる者もおったようじゃが、あれはあれで意味があるんじゃ。町の中央に近い方が隅々まで目が届きやすいし、長い坂を上らないとたどり着かないようでは報告が遅くなる。年寄りになると領主自身も坂道は辛いしの』


 とレオン様は言っていた。ラティーフの領都は平地にあって、領館は町のど真ん中だったな。

 リリに聞いたら、カーラの領館は町の一番高い場所に建てられているらしい。理由は「敵が攻めてきた時に、すぐに状況を確認できるようにするため」だそうだ。帝国領と接する領地だと、そういう考えになるらしい。


「でも、カーラの人間は幼い時から、“人の上にいることに胡座をかいていれば、いずれ引きずり下ろされる”と言い聞かせられて育ちますの。高い場所に住んでも人を見下すことはありませんのよ」


 そう話してくれた。カーラの領都にも、いつか行ってみたいな。



 さて、兄ちゃんのプレゼント探しなんだけど……。

 兄ちゃんが興味を示すものが全くない。魔法関係の書籍や道具は、ラティーフ領都やアブヤドの方が充実しているし、武器や防具はウターリド工房に頼んだ方が良い。

 食べ物や日用品は他の町と似たり寄ったり。


 一応、宝石が特産品みたいな感じだけど、兄ちゃんは興味なさそうだ。武器や防具の材料としても有用だけど、僕が原石から加工した方が綺麗だしなぁ。


「あの、フェンサー様。ひょっとして、つまらないですか? さっきから、よそ見をしてばかりですけど……」

「えっ!? あ、ごめん。ちょっと気になる人が歩いてたから」

「気になる人……? フェンサー様が目を奪われる程の美人、ですか。気付きませんでした」


 この辺りの店の商品は見た目は凝ってるけど、値段の割に質はいまいち。あまりに興味がなさすぎて、兄ちゃんはいつの間にか人間観察をし始めていたらしい。


 しかし、退屈してると心配したロロに対する答えはまずかった。

 怒っても、泣いてもいない。ただただ悲しげ。


「ん? 美人とかじゃないよ。誰にも憑依されてないのに、精霊術師らしい姿の人がいたから。何かを買って、領館の方に向かっていった」


 そう答える兄ちゃんに、ロロはポカンと口を開けている。よっぽど意外な答えだったみたいだ。


「なぜ、誰も憑依していないと分かりますの?」

『今朝、村で子供の名前をズラズラ書き出したのを見ただろ。俺、鑑定持ちなんだ。見れば分かるよ』


 以前はあんなにスキルをひた隠しにしてたのに、あっさり教えていた。意思伝達に切り替えたのは、周囲の知らない人に聞かれたくないからだろう。


「――そんなにあっさり教えて大丈夫ですの? 鑑定持ちは珍しいんですのよ。誘拐……は、普通の子でも狙われるようですけれど」

「前はバレないようにしてたんだけどさ、そうすると使うべきところで使えないってことになったりするんだよ。だから、一緒に戦った仲間にくらいは教えてもいいかなって。誰にでも教える気はないから、言い触らさないでくれよ」


 兄ちゃんなりに、話す相手と隠す相手の線引きを決めたようだ。


 それにしても、憑依されてない精霊術師か。精霊術が使えるなら別に問題ないけど、領館に向かっていったってところが気になる。


『その精霊術師じゃが、アルベールと一緒に精霊術師になった2人かもしれん。同郷の友人として、何度か訪ねて来ていた。名は確か、ドミニクとジェレミー』

「あぁ。名前はドミニクとジェレミーだった。たぶん、そいつらだな」


 ◇


 翌日、兄ちゃんが見つけた憑依されてない精霊術師を探しに出かけた。

 あとで、リリ達に内緒で教えてくれたんだけど、先見の明で見た処刑の未来で、白い服を着せられて処刑されていた人物と瓜二つだったらしい。


 そう聞いたら気にならない訳がない。昨日、兄ちゃんが2人を見かけた辺りをうろつく。

 でも、それらしい人は見当たらない。そもそも白を僕達以外で見かけない。


「マル、昨日の精霊術師じゃないけど、気になる奴を見かけた。通りの右側の酒屋に入っていった。出てくるときにレオンに顔を見てもらってくれ」


 レオン様に? 誰だろう。


「その気になる方というのは誰ですの?」


 巻き込みたくなかったけど、リリとロロもついてきてる。2人も昨日の精霊術師が気になるらしい。

 リリは、アルベールに関わることだから、少しナーバスになってるようだ。声に若干の不安が感じられる。


「アマドゥール・レオン・クレール=アダーラ。死んだはずのアルベールの兄貴と同じ名前だった」



 しばらく待つと男女2人組が酒屋から出てきた。2人とも酒瓶を両手に持っている。


『アマドゥール……。間違いなく、儂の息子のアマドゥールじゃ。生きておったのか。しかし、それならなぜ名乗りでなかったんじゃ?』


 死んだはずのアルベールの本当のお兄さんらしい。

 生きているなら、当主の座に座ることができたはずだけど、なぜ死んだ振りを続けているのだろう。

 レオン様の話では、アマドゥールさんの服を着て、顔が分からなくなるくらいぐちゃぐちゃにされた遺体が見つかったから、死亡したと判断したらしい。

 その遺体が別人なら、アマドゥールさんの死を偽装した誰かがいる。それは、アルベールなのか、アマドゥールさん自身なのか、それとも別の誰かなのか。


『後をつけよう。皆、気付かれないようにね!』


 距離を開けて、慎重に尾行。

 アマドゥールさんと同行者の女性は恋仲なのか、じゃれあいながら北に歩いていく。

 ふと2人が足を止めた。


 2人の前方には、ローブのフードを目深に被った人物がいる。アマドゥールさんの前で脱ぐ。アルベールだ。何かを言っている。


『“もう終わりにしよう。普通に生きてくれ”だって』


 プリシラが唇を読んで教えてくれる。

 アマドゥールさんは僕達に背を向けている。唇の動きは見えないけど、首を振ったのは分かった。


『“贅沢を止めてくれるだけでいい。普通の生活をする程度なら援助できる”』


 どういうことだろう。

 アマドゥールさんが左を指差す。どうやら、家の中で話そうとしているようだ。


 どうしよう。家の中に入られたら話の内容が分からない。


 困っている間に、アマドゥールさんとアルベールが家に入ろうとしている。

 ふと、首筋に風を感じた。


 目の前を飛んでいく赤と青の派手な影。

 そのままストンッとアルベールのローブのフードの中に収まる。


「――って、何やってんの!? レレ! 戻ってー! レレ――、むぐっ」

「マル、静かに! アルベールに気付かれちまう!」


 思わず声を上げ、ギーラに口を塞がれた。

 アルベールはキョロキョロ周りを見回している。まずい。見つからないように、隠れなきゃ。


 気付かずに済んだみたいで、そのまま玄関の扉へと消えていくアルベール。

 姿が見えなくなる寸前に、フードの中から、レレが木の枝を振って見せていた。あれは、マイク?


「どうしますの!? レレに何かあったら、ララが泣きますわよ!」

「どうしよう……」

「いいんじゃね? 決死の潜入捜査を敢行してくれたんだし、ありがたく会話を聞こうぜ」


 いやいや、決死って死んじゃダメだよ!

 レレはクラスでは結構人気で、僕と距離を置いてた子も、レレのおかげもあって最近は僕と普通に話してくれるようになってきた。感謝してるんだ。死んで欲しくない。


「――幸い、マイクを持っていったみたいだから、会話を聞いて様子をみよう。レレが見つかったら、即、玄関をノックして……、謝るしかないな」


 仕方ない。レレが持っていったマイクの拾う音声に耳を澄ませる。


『お前、何言ってんのか分かってるのか? オレがお前の秘密をバラしたら、お前は死ぬしかねぇんだぞ?』

『兄上も私が死ねば、今のような生活はできませんよ』

『いいや、できるさ。オレと親父の暗殺の罪もお前にかぶってもらって姿を現せば、オレが当主になれるだろう?』

『キャハハ。ウケル。アマ君、弟君に全部擦り付けちゃうんだぁ。ワルぅい』

『『『ねぇ~』』』


 アルベールとアマドゥールの会話。それから、女性の声がいくつも聞こえた。一緒に出かけていた人だけじゃなく、何人もの女性が中にいるようだ。


『兄上。元々、あなたが跡継ぎだ。私より、領主としての教育をちゃんと受けている。――この女性達と縁を切り、質素な暮らしをしてもらえるのなら、私は罪をかぶることも構いません』

『あ? 何言ってんだ? オレは自由に生きたくて、自分の死を偽装したり、親父の暗殺依頼したりしたんだよ。今さらそんな窮屈なことするわけねぇだろ? ま、親父のときと違ってこの領地も稼げるようになったし、当主には、なってやっても良いけどよ』


 ――レオン様の暗殺はアマドゥールの仕組んだことだったらしい。

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