第22話 ゴーストの正体
レオン様の話を聞き、一旦廃鉱近くの村から帰り、時間をおいて再訪することに決めた。
夕暮れ時を選んで、村には寄らずに、廃鉱の坑道の入り口からは死角になる場所で待ち伏せする。そろそろ動いてくれることは、先見の明で予測済みだから、空振りはない。
ちなみに、前回も1度廃鉱を訪れてから「何もなかった」と言って帰っている。下見を兼ねた不自然に思われないための偽装だ。
すぐに諦めて帰るのも不自然だから、ロロに怖がる演技をしてもらった。貴族のお嬢様が怖がってワガママを言ったから仕方なく帰った風を装った。本気で怖がってるミリエットさんが全力で同意してくれたから、不信感は抱かれていないと思う。
さて、この場所は廃鉱の入り口から僕達の姿は見えないけれど、僕達からも直接視認することはできない。もちろん、対策は立てた。
坑道の入り口は崩れないように木材で補強されている。そこをモノが止まり木代わりにして堂々と見張る。
梟が夜にいるのは不自然じゃないけど、攻撃されても困る。人の姿を確認したら、鳴き声を上げてから飛び去るように指示してある。
さらに、牛頭鬼襲撃事件のときに使った鏡を、村の外壁の上から坑道入り口を映すように設置。設置はメイジとホホにやってもらった。終わったら、回収もしてもらう。
鏡だけでも十分かと思ったけど、入っていく人が外では灯りをつけない方針だった場合、ちゃんと映ってくれないからと、ミリエットさんに反対された。
ミリエットさんはこういう道具に詳しいみたいで、込めた魔力が枯渇する可能性もあると強く主張した。メイジが魔力を補充できるんだけど、普通の使い魔はそんなことはしてくれないらしい。知力の高い上位種ということもあって、メイジは普通の使い魔と比べてだいぶ色々やってくれるけど、ミリエットさんにそれを説明しても信じてくれなかった。
モノが見張るだけだと詳しい状況が分かりにくいとも言われたから、両方やってる。
「じゃあ両方やる」と言ったときの恨めしそうな顔からして、行きたくないから言っていただけかもしれない。
今日も同行することになったミリエットさんは、ギーラの後ろに隠れて震えている。彼女は、先見の明のことや、レオン様が話してくれたゴーストの正体を知らない。だから、夜の廃鉱が怖いみたいだ。
日が落ち、夕焼けの名残が消えていく。空の色がオレンジから濃藍色へと変化しきった頃、鏡が村の外壁の内から外へと向かうカンテラの灯りを映した。
「ひっ。火の玉……!」
「ちょっ。ミリエットさん。怖いからってオレに抱き着かないでくれよ。数少ない前衛が、いざってときに動けなかったら困るだろ?」
鏡の映像が一瞬乱れる。少し高い場所を映したかと思うと、カンテラの集団に寄っていき、より詳細な状況を映してくれる。
ホホが足で鏡をつかみ、彼らを映しながら近づいてくれたようだ。
「え? なんだぁ。村の人達じゃない。驚かせないでよね。――こんな夜中に、あんな装備で出かけるなんて、さては違法採掘ね」
そう。ゴーストの正体は廃鉱に違法採掘に赴く村人達。
人数は10人。2人1組で採掘を行うようで、1人がカンテラとツルハシ、もう1人が荷車を引いて移動している。結構年がいってそうな人が多く、比較的若い人でも30歳は超えているだろう。村長さんの姿も見える。
「よーしっ。あいつらとっ捕まえて――」
「待てよ。採掘しようとしてる現場を押さえよう。今のままなら、”肝試しに来ました。魔物に襲われないようにツルハシを持ってただけです”とか、いくらでも言い逃れができるだろ?」
相手が人間と知って元気になり、立ち上がって飛び出していこうとするミリエットさんを止める兄ちゃん。
僕達は、既に先見の明で彼らが違法採掘者であることを知っている。でも、それには何か事情がありそうなことも知ってしまった。だって、採掘をする彼らの顔は苦しそうだったし、レオン様は何か知っている様子だった。
そして、この鉱山の中が普通の鉱山とは違うことも分かっている。この鉱山には何かある。中に入ってみるべきだ。
「そんなの詭弁です! 武器なら斧とか剣とか、もっと使い勝手の良い物があるでしょう。言い訳なんて聞く必要は――」
「疑わしきは罰するのか? そりゃ、嘘だろうけどさ、嘘ついてまでやった理由とか気にならねぇの?」
ミリエットさんは言葉に詰まり、再び腰を下ろした。見守ることにしたようだ。
……ミリエットさんは気付いただろうか? 兄ちゃんが彼女を疑っていることに。
魔法陣を起動するには魔力が必要。アルベール自身は魔力を持たないから、あらかじめ魔力を宝石に溜める協力者がいる。
アルベールはミリエットさん以外の魔導師を雇っている様子がない。魔力を込めるのに最も適した身近な人物ということになる。
協力者は、当然アルベールの嘘を知って加担しているはずだ。バレれば共に処刑される運命だろう。
ミリエットさんは処刑される人達の中にはいなかったけど、ピピ先生がお姉さんを庇って身代わりになったのなら説明は付く。
領主の側近である彼女の立場で違法採掘の事実を知ったなら、事情は何であれ犯人を捕縛すべきだろう。特に、廃鉱の本当の理由からすれば、すぐにでも止めるべきだ。
ミリエットさんが村人達の事情を知ろうと判断したのは、彼女の想い人の嘘をつく理由が頭をよぎったから。そう考えるのは、穿ち過ぎだろうか。
短い付き合いだけど、ミリエットさんは良い人だと思う。僕達がアルベールと敵対していることを分かっていても、村人達の話のおかしなところとか教えてくれるし、怖い場所にもついて来てくれる。子供だらけの僕達を心配する優しさも持ち合わせている。
そんなミリエットさんがアルベールの協力者なら、アルベールの嘘には理由があるんだと信じたい。自分を慕ってくれる人を巻き込んでまでつく嘘だ。ただ生き残りたいというだけじゃない理由が、あって欲しい。
「ホッホーホゥホゥ!」
モノの鳴き声が聞こえた。鏡に映る村人達もそろそろ坑道の入り口に到着する頃だ。悪魔梟の姿と鳴き声に、村人達はビクリと震えた。
少しだけ、このまま彼らに村に帰って欲しいと思ってしまう。彼らの処遇までは見通せていないから。
しかし、彼らは覚悟を決めて採掘に来ている。不吉な黒い鳥を見たくらいで、帰ったりはしない。
彼ら全員が坑道へと入っていくのを確認して、僕達も移動する。先を行く彼らの姿は見えない。
途中の分かれ道では地面を調べ、より新しい足跡のある方を選ぶ。足跡がなければ、プリシラとロロの感知術、クロードの第六感で正解を探る。
そうして、僕達は1時間足らずで採掘現場へと到着した。
そこは、細長い坑道ではなく、円形の広場のように広がった空間だった。いくつもの石像が岩の中に埋まった状態で顔をのぞかせていたり、魔法陣の書かれた巨大な岩があったりする。どこか異様な雰囲気を漂わす場所だ。
村人達は石像の周りを掘っていた。そこにペリドットの原石がある確率が高いと知っているんだ。
石像は兵士姿のものが多く、偉人や身分の高い人には見えない。
先見の明でこの光景を見たとき、ヘーゼルさんはある推論を話してくれた。その推論が正しかったかどうかを確かめるため、僕は石像の1つを目利きで見た。
石化した遺体
蛇髪女を見たことにより石化した兵士の遺体。
闇の賢者は自身の実力を超えた強い魔物を呼び出そうとするとき、ランダムで異世界から魔物を召喚する混沌の門という魔法を使った。首尾よく扱いやすい魔物が召喚されることもあったが、自軍にとっても厄介な魔物が召喚されてしまうこともあったようだ。
その代表例が蛇髪女。
召喚した途端、自軍の兵士や既に召喚してあった魔物が石化。魔力の強い者はしばらく動けなくなる程度で済んだらしいが、並みの人間なら完全に石化してしまい、甚大な被害を被ったそうだ。
敵軍にも被害を及ぼせたならまだマシだったんだろうけど、そうはいかなかった。人間中心の軍を率いる地の賢者にとって、蛇髪女は見過ごせない脅威。もちろん、1人で戦う水の賢者のヘーゼルさんにとっても。
闇の賢者軍の様子から状況を察知した2人は、珍しく共闘することを決めた。
まず、蛇髪女を直接見ないように背を向け、ヘーゼルさんが水面に敵の姿が映るように空中に水で鏡を作り出した。続いて水鏡で敵の位置を確認した地の賢者が、これでもかと大量の隕石を降らせた。さらに、ヘーゼルさんが火魔法を使って隕石に着火。
燃え盛る隕石群が蛇髪女と、石化を免れた魔物達に降り注ぎ、動きを止めさせた。そして、石になった人や魔物も隕石の山に埋もれることになった。
闇の賢者は蛇髪女を復活させることで自軍にまた被害が出ることを恐れ、一緒に埋められた魔物や人も含めて、岩に埋まった彼らをどこかに隠したという。
この場所はその封印の地なんだ。
地の賢者と水の賢者の魔法が合わさったことによって何かが起きたのか、そのときの隕石でできているはずの地面はペリドットの原石ばかりになっている。
「許してくれ。孫を……助けるためなんじゃ……」
「トマス、待ってろよ。父ちゃんが必ず、お前を助け出してやるから」
ほとんどの石像は恐怖に歪んだ表情をしていて、「なんと罰当たりな」とでも言われているような気分なんだろう。それに、元は人間だった石像を傷つけかねない場所でツルハシを振るうのに罪悪感も感じるのか、村人達は自身を鼓舞するように声を上げながら、採掘をしている。
掘るのに夢中で、僕達がこの場所に入ってきたことにも気付かない。
「手を止めなさい、罪人よ。ここは廃鉱。採掘は許可されていません」
ミリエットさんがツルハシを振るう村人達に向かって声を張り上げる。
一斉に振り向いた村人達は、僕達の姿を確認すると少しだけ迷う素振りは見せたけど、ツルハシを構えた。
「見逃してくれ。私らには金が必要なんだ。誘拐され、特殊孤児として売られた子や孫を取り戻すための金が」
「あんたら、領主様の命で動いてるんだろ? 元はといえば、特殊孤児を優遇する政策なんてするから、”子供を連れ去って売れば金になる”なんてことを考える連中が出てきやがったんだ」
「そうだ……。俺達は悪くない。採掘を止めろと言うなら、息子を返してくれ!」
村人達の言葉で大体の事情は察することができた。
僕達が拘束しようと動き出さないのを見て、説得の余地ありと感じたのか、村長さんが歩み出て、ここで違法採掘をしていた理由をもっと詳しく説明してくれた。
採掘再開の調査をしに来たと訪れた一団が、村の子供達を誘拐していなくなってしまったこと。廃鉱になったときに他の場所に移り住んだ知り合いからの手紙で、村の子供達が特殊孤児にされていることを知ったこと。孤児ではないから返して欲しいと交渉したものの、「お金を払って引き取った子供だから、その分のお金を払わなければ返せない」と断られたこと。
「私らは、他に稼ぐ方法を知らない……。鉱山に意を決して入ったら、以前はなかったこの広間を見つけた。ここを見たら、廃鉱にした理由はすぐに分かりました。ここには、隕石に埋められても、なお生き続ける魔物が封印されている。下手に採掘なんぞしようものなら、解き放たれてしまう危険がある。――でも、大切な家族を救うには、他に手段が思いつかなかった」
アルベールがゴーストの調査のために派遣した冒険者も、この秘密を知った。彼らは村長さん達に同情し、違法採掘については報告書に書かなかった。さらに、旅の途中で特殊孤児の多い町があったら教えるとも言ってくれたそうだ。
村長さんの息子さん夫婦は、自分達に似た子が見つかったと彼らから報告を受け、ヤークートへと旅立ったそうだ。
村長さんの家に茶葉が用意されていたのは、彼らのお孫さんが特別な来客のときに出るお茶が好きだったから。
ミリエットさんは、静かに話を聞いていたかと思ったら、立ち上がり、村人達に出口に向かうよう促した。ガックリと肩を落とす村人達。
「――信じてください。アルベール様は優しい方。きっと、こっちを選んでくれる」
そう言って、封印の魔法陣が施された岩の1つに手を触れる。魔法陣が一瞬光って消えたかと思うと、ピシピシという音がして岩にヒビが入っていく。
「代わりのゴーストを用意しましょう」
距離を取り、杖を構えながら言う。ミリエットさんは、封印されていた魔物が解き放たれ、ゴースト騒ぎを起こしていたという筋書きにするつもりのようだ。




