第21話 廃鉱の村
昼ご飯を食べてから、領都を出発。
ミリエットさんが用意してくれた馬車に揺られること約2時間で、村に到着した。
普通の村はせいぜい周りに柵を巡らせているくらいだけど、ここには、立派な外壁があった。
それもそのはず。廃鉱になる前は、町だったそうだ。実際、建物の数自体は多い。
しかし、廃鉱になってから数年しか経っていないはずなのに、凄まじい勢いで人は減り、今は建物が立ち並ぶ中で中心地に50人ほどが生活しているのみ。よほど、鉱山に依存していたんだろう。
門はあるけど開け放たれていて、門番さんはいない。中に入っても外周部は人の気配があまりない。建物がたくさん建っているだけに余計に寂れた印象を与える。
”ゴーストタウン”という言葉がピッタリはまる。
宿屋はとっくに廃業してしまったらしいから、村長さんに泊めてもらう交渉をしないといけない。まずは元町長さんで現村長さんの家を訪ねた。
結構立派な家だ。貴族のリリ達がいるからか、銀のティーセットで紅茶を出してくれた。
年代物ではあるけれど、調度品も作りのしっかりした重厚なものばかり。廃鉱になる前、ここが豊かな町だった頃にあつらえたのかな。
村長さんはかなりの高齢だった。息子さん夫婦はこの村を出て別の場所に移住してしまったらしく、広い家で奥さんと2人暮らしだという。
村長さんの家に泊まってもあまりおもてなしもできないからと、空いている建物の1つを使うことを提案された。以前に来訪した冒険者パーティも同じように空き家に泊まったらしい。
お言葉に甘えて、廃鉱に近い村の西端にある家を借りる。きちんと掃除して、鍵を返せばそれでそうだ。
ついでに、村長さんや村の人達からゴーストについての聞き込み。
といっても、僕達が話しかけると子供扱いされちゃうから、主にミリエットさんに聞き出してもらい、ところどころでリリ、ロロ、クロードの貴族組に追加の質問をしてもらう。貴族の子供相手だと雑な対応はできないらしく、ちゃんと答えてくれた。
ここの村は、かつては水も食料も領都から買って生活をしていたが、廃鉱後は収入源を失ってそれができなくなり、村の北西にある小さな森に生息する魔物を狩ったり、木の実を採取したりして暮らしているらしい。少人数にしか行き渡らない程度の食料しか手に入らないから、大部分の人は他に移住していった。
用済みになった廃鉱には誰も寄り付かなくなってたんだけど、アルベールの宝石加工事業が上手くいき始め、掘り進めるコツも分かってきたところで、ここの廃鉱で採掘を再開できないか調査に来た一団がいたらしい。
しかし、その一団は調査に向かったまま帰って来なかった。
それからしばらくして、廃鉱にゴーストが出ると噂になり、夜に不気味な声を聞いた人も後を絶たない。
今では、廃鉱には誰も近付かないようにしているから、特に目立った被害は出ていないそうだ。
聞き出せた話はこれくらい。被害がないせいか、そんなに詳しく話してくれる人はいなかった。そもそも声を聞いただけで、誰も姿を見てはいないみたいだ。
村の人達からの情報収集は諦めて、借りた空き家に向かう。
「……あの、私はあなた方の補佐をするためについてきたのではないのですが。都合よく引率者みたいにして、聞き込みに利用するのは止めてもらえませんか? できれば、最初から大人を連れてきてください」
「連れてきてるの。見えないだけなの」
クロードがホラーなことを言い出してるけど、たぶんヘーゼルさんのことだ。
死者の魂だから、ある意味立派な(?)ゴーストなんだよね。
「そんなことを言って怖がらせようとしてもダメですよ、クロード様。ゴーストには魔法攻撃が有効です。魔導士が怖がるような相手ではありません!」
ミリエットさんが、口元と眉をピクピクさせながら言う。
「――それより、先程の話、少し妙でした。ここの廃鉱の採掘再開の話なんてないはずなのですが……」
あれ? そうなの?
アルベールの人工ゴーレム核を使えば、強度を高めたゴーレムに坑道を支えさせたりできるだろうから、再開することにしたのかと思ってた。
『他にも妙なことがある。ゴーストは人を呪う。廃鉱に近づいていないとはいえ、声が聞こえる程度の距離にいるのに、被害なしというのは不自然だ』
『だな。それに、稼ぐ手段がなくなった割に、良い暮らししてそうだ。俺の家だったら、客が来ても茶なんて出さない。水かホワイトシープのミルクだ』
自慢気に言うことじゃないと思うけど、兄ちゃんの言う通り。
僕の父さんも村長だけど、さっきの村長さんみたいなもてなしをしているのは見たことがない。
紅茶は嗜好品。茶葉を自前で作るなら、茶葉を栽培するための土の精霊術師と発酵を行う闇の精霊術師が両方必要。それなりの規模でやらないといけないから、魔導士ではダメ。だから、ある程度以上の規模の町じゃないと流通していないんだ。
あらかじめ、余程偉い人が来ると分かっていたら準備できるかもしれないけど、村で調達できないものは常備はしていないから、突然の来客なら、村でも調達可能なものを出す。
ということは、村長さんは定期的に領都でお買い物をする余裕があるのかな。それとも、定期的にお客さんが来るから、多少無理をしてでも紅茶を常備しておく必要があるのか。
「荷物を置いたら、明るいうちに下見をしておこう。ついでに、北西の小さな森ってのも見ておこうか。何かの魔物をゴーストと勘違いしてる可能性もあるし」
歩きながら話をしていたら、借りた空き家についた。元は町だった名残で外壁があるんだけど、そのすぐそばの家だ。
兄ちゃんがミリエットさんにも聞こえるように、今後の行動を口に出す。皆、異議はないみたい。事前にミリエットさん以外のメンバーには、木に宿っている”精霊”を探しつつ、森で約50人の食料を賄えそうか確認するつもりだと言ってある。
『口惜しや、口惜しや。儂の領地がこんなに寂れてしまうなんて……』
扉を開けて家の中に入ろうとしたところで、消え入りそうに小さな声が聞こえた。音としてじゃなく、意思伝達で会話するときみたいに、頭の中に直接響く声だ。
「あれ? なんか声がしたけど、皆、聞こえた?」
「いいえ。何も聞こえませんでしたけれど?」
「クロードも聞こえなかったー」
僕の言葉に、ミリエットさんとロロがビクッと震えた。兄ちゃんは周囲を見回して警戒。リリやクロードは平気そうな顔。なぜか、リリは返事と同時にロロにウィンク。
ロロはハッとした表情になって、兄ちゃんの手を握る。それを見て、リリが僕にもウィンクしてきた。
……違うよ? ロロが兄ちゃんとイチャつくアシストをしたわけじゃないよ?
「オレも聞こえなかった。何て言ってたんだ?」
『私には聞こえたよ。ハッキリ聞き取れなかったけど、”悔しい”とかそんな感じのおじいさんの声』
「”口惜しや”だね。ここが寂れちゃったのを悲しんでるみたい」
「いぃーーやぁーー!! もおーー! 怖くないって言ったじゃない! なんで、怖がらせてくんのよぅ、この悪ガキぃ~。だから嫌なのよぅ。怖くないの!! だから、そういうこと言わなくていいんだってばぁ!!」
ミリエットさんは急に頭を抱えて耳を塞ぎ、うずくまってしまった。魔導士はゴースト怖くないって言ってたのに。
「みりえっと、大丈夫? 怖かったら、1人で待っててもいーよ? クロード達だけで、頑張るの」
クロードが優しく声をかける。兄ちゃんをからかって遊んでる時と同じ、いたずらっ子な笑顔を浮かべて。
「嫌ですぅ。1人にしないでぇ。――じゃなくて、お仕事だからぁ。ちゃんと監督しなきゃだし、子供達だけで行動させるわけにいかないし。ついて行ってあげるわよぉ~」
しゃべり方が少しピピ先生に似てきた。やっぱり姉妹なんだな。
◇
荷物を置いて、外壁の外へ。
『あの呪われた子さえ生まれなければ……。せめて、アマドゥールさえ、生きていてくれたら……』
またおじいさんの声が聞こえた。森のある方向だ。
ミリエットさんは、リリの後ろに隠れながら歩いている。ぶつぶつと「いざとなったら、リリアーヌ様だけでも抱えて逃げる……。他の悪ガキは知らないんだからぁ」とつぶやいてるのが聞こえる。リリと同じく貴族のクロードは悪ガキだと思われちゃったみたい。でも、ロロも放っておくつもり?
『子供の癖に彼氏持ちって、どういうこと? 私にはいないのにぃ。アルベール様ったら、全然その気になってくれないし! クールな女を演じてるから、あからさまなアピールはできないし……。もぅ! 羨ましい! ゴーストに取り憑かれちゃえ!』
……ミリエットさん、心の中でロロに呪いの言葉をぶつけてる。意思伝達って、たまにこういう心の声を拾っちゃうんだよね。
つい視線を逸らすとプリシラと目があった。苦笑を浮かべてるところを見ると、プリシラにもミリエットさんの心の声が届いていたようだ。2人で苦笑しあう。
気を取り直して、森を観察。
森は広さはそれなりにあるものの、木の生え方がややまばらだった。これでは、魔物が隠れる場所があまりないし、食用になる木の実なんかもあまり採れそうにない。
少ない木々を僕は目利きで、兄ちゃんは鑑定で調べていく。プリシラも意思疎通で呼び掛けてみて、魂が宿っているものがないか探す。
『誰じゃ? 儂に呼び掛けておるのか? いや、誰でもよい。誰か、儂の無念を晴らしてくれ』
お、プリシラに呼び掛けられてることに気付いたみたいだ。返事をしてくれた。
『初めまして。僕はマルドゥク=サラームといいます。失礼ですが、この木に宿っているあなたはどちら様でしょうか?』
『儂は、レオン・オードリック・エマニュエル=アダーラ。この地の領主じゃ。先代だがな。白の子供というのは、甚だ不安じゃが、他に頼れるものもおらん。儂の願いを聞いてくれ』
『おい、じいさん。それが、頼みごとをする態度か?』
『そうですわ! それに、アルベール様のお父様の名を騙るなんて!』
もう、兄ちゃんにリリったら。コラっ、クロードも無言で木に蹴りをいれちゃダメ。
でも、この名前、本当にアルベールの父親なのかな? 兄ちゃんに視線を向けると、コクリとうなずいた。偽名ではないようだ。
『む……。確かに、このような状態になって、偉ぶっても仕方なかったな。少年よ、失礼した。儂の頼みを聞いてはくれぬか? 無論、できる範囲で構わん』
『皆、まずはちゃんと話を聞こう。レオン様、話すだけ話してみてください』
『実は儂は暗殺されたのじゃ。息子のアマドゥールと同じように、暗殺者として育て上げられた孤児にな。依頼者は、確たる証拠はないが、次男のアルベールだと儂は睨んでおる。奴は、父と兄を孤児に殺されたというのに、孤児達に仕事を与えるための政策を進めておる。儂のことも病死ということにして、暗殺者を逃がしたようじゃしな』
『――大人しく話を聞いていれば! どこまで、アルベール様を愚弄しますの!? マルドゥク、この木は燃やしましょう!』
怒り出したリリを宥め、枝を折ってそちらに憑依してもらう。憑依してもらった枝を持ち帰って、レオン様からもっと色々と話を聞こう。
アルベールは、暗殺者になる孤児を減らすために特殊孤児を増やそうとしてるって話だったけど、見方によっては自分の家族を殺した孤児を優遇する政策を行っているともとれる。彼の本心はどこにあるんだろう。
「ゴーストはレオン様ってことで解決かな?」
「はぁっ!? いきなり変なことを言い出さないで。あなた達、まだ森に行って木の枝折っただけじゃない。何も解決してないわ。しかも、レオン様は先代当主様よ。化けて出るわけないじゃない!」
声の主を確保したから解決かと思ったら、ミリエットさんに怒られちゃった。村に帰ると聞いて、元気になってる。
『マルドゥク、レオンの声は意思疎通や意思伝達のスキル持ちでもないと聞こえなかっただろう? ゴーストの正体は別だ』
『この誰か分からん声は一体……? いや、それよりも。お前達はゴースト騒動の調査に来ておったのか? 随分と若い調査団じゃな。ゴーストなんぞ、ここにはおらん。廃鉱にもな。夜になって廃鉱に行けば分かる。町、いや、村の者に見つからんように、こっそり行くんじゃぞ。彼らの事情を聞けば、儂の無念が少しは分かるじゃろう』
レオン様はどうやらゴーストの正体を知っているらしい。これは、アルベールのこと以外にも詳しく話してもらわなくては。




