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第20話 女子会

 ラティーフ領都から、籠に入ったプリシラをホホが運び、僕がギーラを背負い、クロードを抱っこして、途中の町で1泊。

 初めて見るラティーフ地方以外の景色に興奮するギーラとプリシラ。「にぃにに、おんぶに抱っこで移動なの! お空飛んでるの!」と移動だけでも大はしゃぎのクロード。

 賑やかで楽しいけど、行きよりも時間がかかるに決まっている。


 翌日、ようやくアダーラ領都に到着したのは、日が沈むギリギリの時刻だった。石造りの建物が多いこの場所は、町全体が夕焼け色に染められるこの時間が一番美しい。

 紅く染まった町の景色を楽しみながら、カーラ家の別荘へと急ぐ。


 通りのあちこちに並んだ屋台から、食べ物の匂いが漂っている。そろそろ夕飯の時間だ。ギーラのお腹もぐぅぐぅ鳴っている。


 アダーラ領都のカーラ家の別荘は、領主の館からも近い中心地にあるが、意外とこじんまりとした素朴な建物だ。

 庶民の家と比べれば大きいんだけど、周辺の家と調和する外観で、一見すると貴族の別荘には思えない。

 玄関で来訪を告げると、執事さんが出てくるあたりは普通の家と違うけど。


 この執事さんとは、アブヤドに到着したときと、ここにリリ達を送り届けたときに会っている。面識があるから、話が早い。


「お待ちしておりました。クロード様、皆様。リリアーヌ様は、到着したら早くお話をしたいとのことですので、荷物をお部屋に置かれたら、食堂にお越しください。すぐにお食事もご用意しますので。フェン君が」


 この執事さん、態度はビシッとしてるけど、結構さばけた人だ。

 この別荘に到着したとき、僕達は荷物を兄ちゃんの空間魔法に入れっぱなしにしていて、手に持っていなかった。それで、強盗にでも襲われたのかと心配され、仕方なく兄ちゃんの空間魔法について教えたんだけど、「なんと便利な。毎日作るのが面倒くさいので、作り置きした料理を保存しておいてもらっても?」なんて言っていた。

 きっと今日は、兄ちゃんの空間魔法に保存してある料理が出てくるんだろう。


 部屋は、元々リリは個室を持たされている。プリシラはロロと一緒の部屋で、男子で2部屋。1部屋はクロードが泊まり、交代で僕達の誰かが護衛としてつく。残りの2人がもう片方の部屋だ。

 ギーラがお腹を空かせてそうだったから、手早く支度して食堂に向かう。



「クロード様、ギーラさんにプリシラさん、初めまして。リリアーヌ・ジョゼ・シュゼット=カーラですわ。ここは口うるさい人はいませんし、気楽に接して欲しいですの」

「初めまして。ステラ・ローラ・ロクサーヌ=シファーです。ロロって呼んでください。実家は男爵家ですけど、あまり貴族らしい生活をしてこなかったので、普通の友達になれたら嬉しいです」


 2人ともリラックスモードのようで、簡素なワンピース姿。

 格式だけで中身がないのが嫌いなリリと、貴族にしてはあまり裕福ではない家の生まれで、見栄を張って外見は整えるけど内実は質素な生活をしてきたというロロ。

 普通の友達のように接して欲しいというのは本心だろう。


 クロード、ギーラ、プリシラもそれぞれ自己紹介。プリシラとも話せるように、全員を意思伝達でつなげた。


「早速ですけれども、随分な厄介事に巻き込まれましたわね。どうやら、ゆっくりとした余暇を過ごすことはできそうにありませんの」


 素早く情報共有を済ませるために、プリシラがヘタレさんの聞き込みの成果を書き記したノートに、クロードとブリアン様が挑むことになった指令の内容と経緯を書き加え、ポポに先行して運んでもらってあった。

 ついでに、カーラ侯爵からクロードが預かったリリ宛の手紙も届けてもらった。


 たぶん、お父さんからの手紙にクロードの受けた指令のことが書いてあったんだろう。弾んだ声でリリが早速切り出す。どうやら、手伝ってくれるつもりのようだ。


 しかし、兄ちゃんの姿が見えないし、今は夕ご飯を給仕してくれている執事見習いっぽい少年がいる。詳しい話は関係者だけでしたいけど……。


 ん? 僕の前にお皿が置かれたと思ったら、一瞬で上に料理が盛りつけられた。まるで兄ちゃんの空間魔法でお皿の上に料理を取り出したみたいに――。


「兄ちゃん!? 何やってるの?」

「何って、配膳の手伝いだけど」


 執事見習いに見えていた少年は子供用の執事服を着た兄ちゃんだった。リリの家では、配膳をするときの制服が決まってるの?


「わざわざ執事服着てやるのかよ?」

『フェン。似合ってるけど、リリちゃんの家に就職でもするの?』

「あぁ、この服か。俺もよく分からないけど、実験のためにこれを着てくれって言われたから」


 口々に言うギーラとプリシラに、兄ちゃんは何でもないことのように答える。実験って、何だろう?


『プリちゃん、その話は後で女子だけでしよっ。マルドゥクも参加ね。意思伝達使ってくれないとジゼルさんとか私が入れないから』

『マルドゥク、分かってますわね? 女子の秘密の会話をバラしたら……』


 僕は男の子なのに女子会に参加しないといけないらしい。秘密をバラしたらどうなるのか全然分からないけど、困ったことになるのだけは分かった。


 兄ちゃんが全員分の料理を空間魔法から出し終わり、僕の隣に座ったところで、話を元に戻す。


「ひとまずは、明日の朝、領主の館にお邪魔しましょう。ゴースト出現情報の詳細を聞かなければなりませんし、ちゃんと仕事をしたことを証明する監視役について来てもらう必要があるかもしれませんわ」


 厄介事と言っていた割に、リリはノリノリだ。憧れの人であるアルベールが困ってるなら助けたいって気持ちもあるのかなぁ。


 今この場では話せないけど、ヘタレさんの聞き込み結果によると、アルベールは平民には人気がある反面、貴族の間では疎ましがられてもいるようだ。

 選民意識の強い貴族の間では、白のアルベールは異端。甘いマスクのおかげで、貴族女性の間では一定の人気があるみたいだけど、それに嫉妬した貴族男性からの妬みもあり、失脚させようとあれこれ画策している人も多いらしい。

 また、近年、アダーラで宝石の加工が盛んになり、財力を蓄えつつあることに危機感を覚える領主もいるようだ。カーラ侯爵なんかもその1人。宝石の加工業の秘密を探ろうとしている人がいてもおかしくない。


 精霊術師大会でタネが明かされてしまうかどうかに関わらず、先見の明で処刑の未来が見えたのはこれが原因かもしれない。彼を妬む者による調査の結果、アルベールが精霊術師になれていないことがバレてしまうんだろう。


 この指令では、上手く立ち回らなくては。

 ゴースト退治の成果報告で、アルベールの事業の秘密がバレ、そこから更に宝石に細工して術を使えるように見せていることが発覚したら、きっとあの未来につながってしまう。


 ◇


「さて、それではガールズトークを始めましょう。プリシラちゃんはロロとフェンさんのことについて、どれくらい知ってますの?」

『マルから、大体は聞いたけど、やっぱり当事者のロロちゃんから聞きたいな~。ねぇ、どんなふうに助け出されたの? どんなところが好きだって?』

「え~。恥ずかしいです~。あのね――」


 ロロが兄ちゃんとの出会いを語っている。ロロの話を聞いていると、兄ちゃん視点の話がいかにあっさりしたものだったのかがよく分かる。聞いているこちらが恥ずかしくなってくる。

 しかし、僕が何かを言ったり、何かしらの反応をしたりしてはいけない。


 これは、女子会、ガールズトーク。

 僕やヘーゼルさんは異分子だ。

 僕は鉄仮面(ポーカーフェイス)全開で、表情を変えないことに注力。たまにピクッと頬が動くくらいは許してほしい。

 ヘーゼルさんは、リリ達の教科書の続きを書くことに集中して、一言も口を挟まず、聞いてない振り。たまに手が止まるけど。


 話を聞いていると、僕がいない間に2回、ロロはオシャレして兄ちゃんと町に出かけたらしい。リリからドレスを借りて気合いを入れて臨んだのに、反応はいま一つ。かわいいと言ってもらいたいのに、兄ちゃんの好みが分からず悩み、参考になるかもと兄ちゃんの服装をじっと観察。そして、違和感を感じ、ある仮説を立てた。


 見た目の変化に気付いていないのではないか? 自分の着る物にも実は無頓着なのでは?


 それで、仮説が正しいか調べるために、色んな服を渡して着てみて欲しいと言って反応を見たらしい。

 最初は猫耳付きの白ローブを渡し、次はモコモコの羊の着ぐるみ。何も気にせず着た兄ちゃんの感想は、「このローブ、俺にはちょっと丈が短いかな」、「このモコモコのは、夏には暑いな」だけだったらしい。この段階で仮説が正しかったと確信。

 しかし、あまりにも何でも着てくれるので、リリとロロは兄ちゃんを着せ替え人形にして遊び始め、今日は執事服を着せてみたらしい。


 ……なんか色々言いたくなってくるし、兄ちゃんも色々言いに行きたくなる。

 なお、猫耳付き白ローブは元々ロロが持っていたものらしい。アブヤドに向かうときに母親から渡されたそうだ。


 羊の着ぐるみは、なんであったんだろう? ロロのお母さんは、なんで猫耳付きの白ローブを娘に渡したんだろう?

 疑問が湧く。けど、女の子達はそんなことよりも別のことが気になるらしく、誰もそんなことは話題にしない。


「私、フェンサー様の好みが全く分かりません。デートの時、何を着ていったらいいんでしょう? 毎回、プレゼントしていただいた服というわけにもいかないですし……」


 気にしなくて、大丈夫だよ! 兄ちゃんは、きっとロロと一緒なだけで嬉しいと思う!


『フェンは本当に無頓着だから。あ、桜は好きなんじゃない? ロロちゃんのこと、桜みたいだって褒めてたんでしょ?』

『プリちゃん、冴えてるぅ~。じゃあ、清楚系が好みなのかも。清潔感があって、ゴテゴテしくない感じとか』

「えっ。でも、地味じゃないかな? リリみたいに華やかな方が、心惹かれるんじゃない?」

「いいえ! さすが幼馴染。良い線いってると思いますわ! その髪型だって、気に入っていたんでしょう? 潔さが必要なのかもしれませんわ」


 こんな感じで延々と話し続けた。

 とりあえず、兄ちゃんには、女の子がデートにオシャレしてきたときは褒めるように言っとこう。


 ◇


 眠い目をこすりながら、領館に向かう。アルベールの住まいだ。

 立派な建物。庭も広い。花や木が植わってないから、少し寂しく感じるけど、門から玄関まで敷き詰められた石畳が綺麗に整えられている。何となく噴水とか欲しくなる感じだ。


 守衛の騎士さんに兄ちゃんが用向きを告げると、館の1階玄関近くの応接室に通された。

 ほどなく、1人の女性魔導士が応接室に入ってきた。


「ラティーフ伯爵家の方々ですね。この度の陛下の指令に関して、案内役を務めさせていただきますミリエット=ビーラでございます。――あの、失礼ですが、代表者の……大人の方は?」

「代表者のクロード・ヴィクトル・ヘーゼル=ラティーフです! 真のリーダーは別だけど!」


 ピピ先生のお姉さんと思しき人物が案内役をやってくれるようだ。キリっとしたややツリ目気味の目元は似てないけど、口元とかは言われてみれば似ている気がする。燃えるような赤い髪をポニーテールにしていて、活発な印象。

 僕達が子供だけなのと、クロードの挨拶に少し困惑した様子だ。それに、僕や兄ちゃんのことも覚えてたみたいで、チラチラとこっちに視線を寄越している。

 しかし、貴族の子弟相手には逆らえないようだ。クロードに説明を促されると、あいまいに笑ってソファに腰を下ろし、ゴーストの情報を教えてくれた。


 ゴーストの出現情報があったのは、領都から北に進んだ村の西にある廃鉱。

 アダーラ地方で最初に発見された鉱山で、先代のアルベールの父親が領主だった頃は現役だったらしい。しかし、長年無計画に掘り進めてきたことで安全を確保しつつ採掘を続けるのは難しく、小さな落盤事故が頻発していたことや採掘量の減少を理由に廃鉱になった。

 だから誰も立ち入らないはずなんだけど、村の人達は夜中に廃鉱の方から何度も不気味な声を聞いているらしい。


「声は高齢男性の声のようだったという証言が多数。廃鉱に魔物が住み着いた可能性も考え、冒険者に調査依頼を出しましたが、昼間は特に何もなかったそうです。魔物もウルフが数匹程度で、住み着いて繁殖している様子でもなかったと報告がありました。それで、ゴースト騒ぎになってしまって。皆様にはゴーストを退治するか、不気味な声の正体を突き止めていただきたいのです」


 村は領都から馬車で2時間ほど。

 今日の昼過ぎにミリエットさんを連れて出発することになった。

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