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第16話 前進

 今日はリリとステラさんを連れて魔物狩りだ。


 昨日、兄ちゃんがステラさんを連れて帰ってきたときは驚いた。あんなに情熱的なセリフを言うなんて……、兄ちゃんの意外な一面を見てしまった。思い出すと、当事者でもないのに赤面しそうになる。

 僕が髪を切り、彼女は前下がりのボブカットになっている。クールな顔立ちのステラさんにはよく似合っているけど、珍しいからとにかく目立つ。女の子といえばロングで巻き髪が普通みたいで、ストレートヘアやショートヘアは冒険者とかの女性ならともかく、貴族だとまず見ないらしい。豊かで長い髪は、女の子の美しさのバロメーターの1つだからだ。


 鏡を見て悲しそうな顔をしてたけど、兄ちゃんに「似合ってるよ」と言われて、ステラさんは笑顔になった。


 ステラさん、僕のお姉さんになるのかなぁ。

 ”ロロ”って呼んでもいいと言われたんだけど、どう接していいのか分からない。僕、勝手にステラさんの桜の盆栽を移動させちゃったことがあるらしいんだよね。何かまた失礼なことをしたらいけないし……。


『考え過ぎだ。当人が言ってるんだし、マルドゥクもロロと呼んだらいい』


 そうかな? よし、呼んでみよう。


「ロロ。その服、どう? 兄ちゃんと一緒に選んだんだけど」

「あ、やっぱりマル君と2人で選んだんだ……。うん、着心地もいいし、動きやすいよ。――本当は、フェンサー様が選んだ服が良かったけど……」


 早速、失敗してしまった。好きな人が自分のことを考えて選んでくれた服の方が、そりゃあ嬉しいよね。


「ええっと。兄ちゃんが選んだ3着の中から、1つに絞ったんだ。だから、兄ちゃんが選んだ服だよ!」


 そう言うと、ロロは嬉しそうにはにかんだ。

 兄ちゃん、自分の服はあんなに適当なのに、彼女の服はものすごく真剣に選んでいた。「スッキリしたデザインの服」とつぶやきながら選んでたから、前にヘーゼルさんにアドバイスされたことを活かそうとしてたんだろう。

 おかげで、見た目は問題ない服ばっかりだった。僕は性能で選んだだけだ。


 トップスは、シャツに艶のある素材のリボンを結び、ベストを重ねている。ボトムスはパッと見はプリーツスカートに見えるデザインのキュロット。

 白一色なのがもったいない、かわいいデザインだ。兄ちゃん、自分の服もちゃんと選んだら良いのに。



「それで、今日はどんな魔物を狙いますの? 私、戦ったことがあるのは、ゴブリンと突進ウサギだけなのですけれど」

「うん、そんなに強い魔物は狙わないよ。リリとロロは、突進ウサギくらいの強さの敵だけで、それ以上強い敵が出たら僕達に任せて。――ところで、少し試したいことがあるんだけど、いいかな?」


 東門から町を出て、森の入り口に来たところで、リリから質問された。ちょうどいいから、今日やろうとしてることを説明してしまおう。

 2人がうなずくのを確認して、柳の枝とクルミの枝を取り出す。


「この枝に1人ずつ”精霊”が宿ってる。今日は、一時的に精霊に憑依してもらって、魔法を使ってみて欲しいんだ。話は通してある。あとはリリとロロが同意してくれれば、一時的にだけど魔法を使えるようになるよ」


 死んだ人の魂を憑依させるとか言い出すと説明が面倒だから、「精霊」として説明する。


「本当に精霊と話をつけたんですの? 疑いたくはないですけれど、ちょっと信じられませんの。何かデメリットがあったりしませんこと?」

「デメリットは、ほとんどないはず……。力の強すぎる精霊だと、体の制御を奪って勝手に動いたりするけど、この2人はそういうことはしないから。あとは、精霊と白の相性が悪いと、精霊の方が苦しいらしいよ」

「マルドゥクが騙されていて、勝手に体を乗っ取って暴れる可能性はありませんの?」

「運任せで精霊と契約するよりは、安全だと思うよ。ピピ先生が授業で言ってたように、白が精霊を選べるわけじゃないなら、暴れる精霊に憑依されちゃう可能性もあるってことだし」

「不安なら、柳の枝に宿ってる方は比較的魔力が弱めだ。そっちで試してみたらいい」


 僕と兄ちゃんで説得したんだけど、兄ちゃんの言葉でリリは考え込み、ロロは不安そうな顔になった。


「クルミの枝に宿っている精霊の方が強いわけですわね。具体的には、どれくらいの強さですの?」

「1流魔導士レベルって思ってたらいい。単体で火、水、土、光の4属性を扱える。火と土は下級レベルだし、リリちゃんご希望の無詠唱はないけど」

「柳の枝に宿っている方は、どうですの?」

「土魔法は使えるけど、どちらかというと魔力で身体能力を強化する方が得意だな。武器の扱いとか練習するには向いてるよ」

「――それなら、私はクルミの枝に宿っている精霊に憑依してもらいたいですの。複数属性を使いこなす練習がしたいですから。もちろん、ロロ次第ですけれど」


 属性相性は牛島さんの方がリリと相性が良いけれど、ジゼルさんが全く戦闘訓練をしたことのないロロに憑依するとロロの魂がはじき出される危険もある。

 あらかじめ話し合って、当人達の希望に合わせることに決めていた。


「あの、試しに憑依された後、そのまま契約して精霊術師になれたりは……?」

「可能だけど、2人にはもっと強い精霊と契約してもらいたいと思ってる。2人ともすごい才能があるんだ。訓練すれば、強い精霊に憑依されても体を乗っ取られずに済むようになる。できるだけ多くの白の子に、憑依する精霊を見つけてやりたいからさ。自分の資質よりも弱い精霊は、他の子に譲ってやって欲しいんだ」

「……わ……わた……し、才能、なんて……。強い精霊だと……、体を乗っ取られるって……」


 リリには地の賢者さんを憑依させる計画がある。それに、ロロも光属性の相性がAだから、光の賢者のローリエさんに憑依してもらうことを考えている。だから、ロロを連れてくることにしたんだけど……。

 ロロは話を聞いて怖くなったのか、声も体も震えていた。


「無理はしなくていい。でも、早めに前に進む勇気を出して欲しい。救える子を1人でも増やすために」


 兄ちゃんがロロにかけた言葉には失望が混じっていた。

 元々、兄ちゃんは自分にも他人にも厳しいところがある。普段の兄ちゃんと比べれば優しい言い方なんだけど、昨日出会ったばかりのロロにはショックだったようだ。見開いた目に涙が浮かび始めている。しかも、兄ちゃんは言いながらリリの方に向き直って、ロロには背を向けてしまっている。


「じゃあ、リリちゃん。始めようか。今日は最初だから、柳の枝の――」

『あ~あ。フェン君、女の子泣かせちゃって。ダメじゃない』

『ちょっと~。昨日の優しさはどこに行ったのよ? ロロちゃん、泣き出しちゃったじゃん!』

『えぇっ!?』


 ジゼルさんと牛島さんの言葉と、リリが兄ちゃんをキッと睨みつけたことで、兄ちゃんはロロを泣かせちゃったことに気が付いた。


「ぐすっ……」

「ごめん! 泣かせるつもりじゃなかったんだ」

「いえ……、私こそ、ごめんなさい。ガッカリさせてしまって……。いつも、新しいことをしようとすると、恐怖で体が竦んで……うぅっ」

「大丈夫。君にガッカリしたわけじゃないよ。俺を信じてくれるだろうって、簡単に考えた見通しの甘い自分に失望しただけで。ロロちゃんは、必ず前に踏み出してくれるって信じてるよ」

『――サイテー。まだ追い込むの?』

『えっ? ダメか?』

『憑依する側が言うのもなんだけど、正体不明の何かに取り憑かれるって恐怖だと思うわよ。リリちゃんの様子を見て、安全を確認してもらってから、改めて頑張ってもらえばいいんじゃない?』


 僕の時は問答無用で憑依されたから、恐怖とか感じる暇もなかったけど、恐怖で震えてる今のロロに無理強いするのは気が引ける。

 でも、他にも何人も白の子供がいることを考えると、僕もロロには頑張って欲しいと思う。兄ちゃんも同じ気持ちなんだろう。牛島さん、ジゼルさんの言葉を聞いても、まだ悩んでる様子だ。


「あ、あの。フェンサー様。憑依される間、手を……握っていてもらえますか? 昨日、通りを歩いたときも、今日短い髪で町を歩くときも、手をつないでいたら怖くなかったんです」

「えっ? ああ、そんなことでいいなら」

「それと――、何かあってもまた守ってくださいますか?」

「何かって……」

「大丈夫だよ! 兄ちゃんは、僕が憑依されたときに相手に喧嘩売ってたくらいだから!」


 煮え切らない答えの兄ちゃんに代わり、僕の振りをしてヘーゼルさんが請け負う。

 せっかく頑張る気になってくれたみたいだから、安心させてあげるのは良いんだけど、何かってどんなことを心配してるんだろう?


『――憑依してる奴が勝手に暴れ始めたときの対処法を教えておこう。憑依してる側は、魔力を通じて体を動かしている。魔力を使い果たせば、動けなくなって体の本来の持ち主に制御が戻るから、魔法攻撃を誘発させて封殺し、魔力を枯渇させろ』


 兄ちゃんが九音と戦ったときみたいに、敵の攻撃を防ぎ続ければいいみたいだ。ヘーゼルさんみたいに魔力を吸い取れると厄介だけど。


『制御が戻っても、休んでれば回復して元通りになるんじゃないか?』

『そのときは私を呼べ。一時的に憑依して、暴れた魂をはじき出す。それから、元の魂に戻ってもらえば問題ないだろう』


 なるほど。地の賢者さんみたいに協力してくれない可能性のある魂が憑依する場合は、そういう備えも必要ってわけだ。

 牛島さんやジゼルさんなら問題ないだろうけど、ロロにとっては知らない相手だから、そういう心配もしちゃうのかもしれない。


 ロロの不安も分かった。じっと兄ちゃんを見つめてるロロに、兄ちゃんが安心させるように微笑んでうなずく。


「それじゃ、始めるよ! リリは、クルミの枝を、ロロは柳の枝を持って」


 2人にそれぞれ枝を持ってもらい、牛島さんとジゼルさんに意思伝達で合図を送る。接触していなくても魔力を消費して、離れた相手に憑依することも可能らしいけど、牛島さんもジゼルさんも白に憑依するのは初めてだ。今回は、簡単で魔力も消費しないように枝を手に持ってもらった。

 枝の全体に満ちていた魔力が濃縮されて1つに小さくまとまり、枝を伝ってロロとリリにそれぞれ流れ込んでいく。



『――無事に憑依できたな。牛島、ジゼルさん、2人に話しかけてみてくれ。怖がらせないように優しくな』


 兄ちゃんが鑑定で憑依できたことを確認。あとは、憑依した魂とのコミュニケーションが取れるかを確認してから、魔法を使ってみてもらえばいい。


『はいはーい! 待ってましたー! ロロちゃん、ロロちゃん。初めまして~。私、牛島(レーヌ)っていうの。牛島が名字で、(レーヌ)が名前ね。よろしく~。私はロロちゃんの味方だから、安心して!』

「あの、何かが体の中を流れてるような気がします。それと、女の人の声が聞こえてきて……」

「うん。体を流れてるのが魔力。女の人の声は、今憑依した奴の声だ。牛島(レーヌ)って名乗っただろ? 心の中で伝われーって念じながら思うと、そいつには伝わるから。やってみて」


 ロロは目をパチパチさせてる。リリも体内を流れる魔力を感じているみたいだ。自分の体に変化がないかあちこち見ている。


『こんにちは。リリちゃん。私はジゼル=イフテラームよ。頑張りましょうね』

『あ、声が。念じればいいんでしたわね。――初めましてですの。リリアーヌ・ジョゼ・シュゼット=カーラですわ。よろしくお願いいたします』


『えーと。初めまして、レーヌ様。私、ステラ・ローラ・ロクサーヌ=シファーと申します。ロロと呼んでください。ふつつか者ですが、よろしくお願いします!』

『うんうん! めっちゃ良い子!』


 2人とも無事に話ができてるみたい。


「じゃあ、魔法を使ってみよう。精霊に呪文は覚えておいてもらった。復唱して、そこの木を的にして撃ってみて」


 牛島さんとジゼルさんの教える呪文を聞いて、2人が詠唱を始める。


 ――我、土の精霊に願い奉る。小さき礫となりて、我が敵を穿て――


「「土弾(ストーンショット)!」」


 土で出来た小さな弾が木の幹にめり込む。やっぱり、リリの方が威力が大きい。


 でも、そんなことは2人は関係ないみたいだ。


「撃てた……。私にも、できた……。できた!」

「術が、術が使えましたわ! マルドゥク、あなたも見てましたわよね!? 私……!」


 驚き、嬉し涙を流し始めたロロと、興奮してはしゃぐリリ。

 何とか上手くいって、僕達はそっと胸をなで下ろした。

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