第12話 レレ
アルベールのことについて、ちゃんと調べようと思ってることをクロードにも説明して、今後の計画をかいつまんで話しておいた。
当然、アダーラ領都に一緒に行きたいと言い出して、ラティーフ伯爵やその長男に交渉しに行った。
結果、4歳の誕生日パーティーでちゃんとご挨拶ができたら、クロードも僕達と一緒にアダーラ領都に来られることになった。クロードは来れなくても、ギーラとプリシラは問題なく来ることができるようにしてくれたのは、ありがたい。
それから、誕生日パーティーでの情報収集も頑張ると言っていた。ヘタレさんが正式にクロードのお付きとして参加することになったらしいから、そんなに気にしなくてもいいんだけどな。ブリアン様にも頼んでおいたし。
でも、ヘーゼルさんにかけてもらった言葉のおかげもあって張り切ってるみたいだから、水を差すようなことは言わなかった。
梟も進化させて、全部別々の種類になった。
ギーラお気に入りの梟と、1体余ってた梟は、進化前はよく似た全体的に茶色い梟だったんだけど、進化したら全然見た目の違う鳥になった。
ギーラのお気に入りは、鳴き声から「ホホ」って名前になったんだけど、色とか形はあんまり変わらず、体が2回りほど大きくなった。
剛毅梟。足の爪が鋭く、力が強い。鋼鉄の剣を試しに持たせてみたら、軽々と持ち上げて飛び上がってみせてくれた。手紙以外の運搬も期待できそうだ。
余ってた梟は、僕の梟ってことになるのかな?
耳みたいに見える羽角が生え、羽角と翼の先の方が紫、お腹の色がグレー、それ以外の場所は濃紺と、姿も色も大きく変わった。首元に逆立つようにフワフワとした毛が生えていることもあって、ファー付きのローブを羽織っているようにも見える。
魔術師梟。能力も魔法系に偏ってるらしい。重いものは持てないけど、魔法で回復させながら飛ぶからスタミナは問題ないようだ。スピードも風魔法で補助して、それなりに出せる。名前は「メイジ」にした。
プリシラの梟は、最初から見た目が違ってた。首元にフワフワした淡いピンク色の毛、額にハート形の白い毛、そして全身は薄いベージュと、柔らかい色合いの梟だった。
進化させたら、首元の毛がもっとはっきりしたピンクになって、お腹にもハート形に白い毛が生えた。全身の毛にも少しピンク味が入って、ピンクベージュに。かわいらしい見た目だ。
恋人梟で、名前は「ポポ」。ちなみに兄ちゃん曰く、ポポとホホは雌らしい。他の3匹は雄。
最後にクロードの梟。白とグレーの配色の梟だったんだけど、なぜか止まり木に逆さまに止まっていた。普段は普通に止まってることもあるらしいんだけど、僕がいる間はずっと逆さまだった。
逆さまのまま暴食樹人の樹液を食べさせて進化させたら、顔の近くは黒く、翼の先など末端に向かって色が白くなっていく梟になった。モノトーンな色合いから、名前は「モノ」になった。
モノにも羽角が生えた。メイジよりも大きく、ピンと尖っている。悪魔梟って種類で、見た目はカッコいいけど、昼間はあんまり活動できないようだ。スピードも力も魔力もあるみたいだから、夜のうちに手紙を運んでもらおう。
休みを取りながらなら、ラティーフ領都からアブヤドまで飛ぶのは問題ないはずだ。しっかりご主人様の魔力を覚えさせておけば、道に迷う心配もあまりないけど、メイジと愚者梟は僕と一緒にアブヤドまで飛ぶことになるから、目でもしっかり道を覚えてもらい、最初の数回はメイジと他の梟で一緒に飛んでもらうことにしよう。
「ホッホー」
「ポーポポー。ポッポ、ポッポレポ?」
「何でだろう。こいつ、俺に”何、お前飛べないの?”って言ってる気がする……」
うん、僕もそう言ってる気がする。
でも、愚者梟は僕よりも飛行速度が遅い。遅れそうになると僕の足につかまり、脚を伝って僕が背負ってる兄ちゃんの頭の上まで移動。そのまま休憩してたりする。今は飛んでるけど、つい5秒前まで兄ちゃんの頭の上にいた。
メイジは、僕が本気で飛んだときよりは遅いけど、スタミナを温存しながら長距離を飛ぶときのスピードにならついて来られる。
しばらく飛んで、村に到着。ここで1泊して、明日はアブヤドだ。家に入ると父さんと母さんが出迎えてくれた。
「マルドゥク、誕生日おめでとう。大したものは用意できなかったが、父さんと母さんからのプレゼントだ」
「ちゃんと寄ってくれて良かったわ。1日早く来たから、町から届けてもらうのが間に合わなかったのよ。渡せて良かった」
父さんと母さんが用意してくれたのは、銀糸と青い服だった。銀糸は礼服を仕立てるのに使うためで、礼服を仕立てるために普段着まではなかなか手が回らないことを見越しての服のプレゼントだった。
そういえば、時間が取れなくてずっと白い服の上に青いローブを羽織ってるだけだった。僕のことを考えて選んでくれたプレゼントが、とても嬉しい。
◇
「ホーホーホッホホー、ホレホッホホ。ポポーレ! ホーホーホッホホー、ホレホッホホ……」
翌日の夕方、アブヤドに到着した。メイジと愚者梟は、ラティーフ領都で使い魔としての登録を済ませてある。足首につけた銀色のアンクレットが目印。あんまり目立たないけど、他につけられそうなところがなかったから仕方ない。
そして、同じ班の皆にメイジと愚者梟を紹介したら、愚者梟が変な歌らしき声を上げながら踊り出した。
使い魔といっても魔物は魔物だから、最初は皆怖がって恐る恐る近付いてたんだけど、陽気な様子に安心したようだ。
「なぁ、こっちのピエロ梟はなんて名前なんだ?」
「まだ決まってないんだよ。兄ちゃん、何か良い名前浮かんだ?」
「いや、どうしても名前つける気になれなくてさ。考えてもフールとか、そのまんまの名前しか浮かばないし……」
兄ちゃんの様子から、本当はメイジがお気に入りだったんだろうことは分かる。愚者梟には、なかなか名前をつける気になれないみたいだ。
「名前がない……? フェンさん、ララが命名してもいい?」
ララが命名か。つける名前の予想がつく。
「いいよ」
「ありがとう。命名……、この子は”レレ”。よろしくね、レレ。私はララ。あなたと私は仲間……」
「レッレー? ポポポポー、クルルルルー」
ほら、やっぱり「レレ」だった。
愚者梟も名前を気に入ったのか、それともララが仲間だと言ったことが嬉しかったのか、クルクルと回って喜びを表現している。
「レレは……、フェンさんと一緒にラティーフ地方に帰っちゃうの……? たまには会える?」
ララはレレのことがとても気に入ったみたいだ。しばらくはアブヤドに兄ちゃんも滞在するのに、もう別れの時を気にしている。
「んー、それは悩んでるとこなんだよ。こいつ、見た目が派手だろ? 空飛んでて他の魔物に見つかったりしそうだから、手紙の運搬役としては微妙なんだよな。……なんか道を忘れて、迷いそうだし」
「ポー、ホッホホ!」
「レレはできるって……、言ってる」
「いや、無理すんなって。お前、愚者なんだから」
兄ちゃんの言葉にレレは後ろを向いていじけてしまった。翼の先でのの字を書いてる。
「フェンさんが、読むなら最初は絵の多い本って言ったから……、ララはタロットカードの本も読んだ。愚者は……、愚か者じゃない。意味するものは無邪気、純粋、柔軟性、楽観、変化、発想力……。無限の可能性を示す。無鉄砲な面もあるけど、悪いと決めつけるものでもない」
「え、あの、ララちゃん?」
「フェンさん、レレに冷たい……。レレはフェンさんのことが、こんなに好きなのに!」
ララが目に涙をためて、兄ちゃんに詰め寄っている。
「あ、いや。えーと。危なっかしいから、無理をして欲しくないんだ。嫌いなわけじゃないから」
「ポッポロポ!」
レレは、いつの間にか兄ちゃんの近くに移動していて、「なんでやねん!」の動きと共に一声。
「いやいや、今はツッコミ入れるとこじゃないだろ!?」
「レレは、メイジ君達と同じように活躍したいんだよ。フェンさん、レレのこと……、信じてあげて」
「ホゥホホー」
兄ちゃんは、言葉に詰まってる。ララが泣きそうになってるせいで、ルルにも睨まれてるし。
「……あー、もう。ちゃんとできるってところを見せてくれたらな」
「フェンさんのケチ」
「フェンさんの意地悪」
「ポゥ」
2人と1匹に責められてたけど、兄ちゃんは意見を変えない。確かに、レレは他の梟と比較すると能力が低いみたいだし、見た目が派手で他の鳥型の魔物に見つかりやすそうだけど、試しにやらせてみてもいい気はする。
『兄ちゃん、どうしてレレには手紙を運ばせないの? 1回やらせてみても、いいんじゃない?』
『梟達は、皆、進化して何かしらのスキルを得たんだけどさ。レレの得たスキルは、ワイルドカードっていう一生で3回しか使えないスキルなんだ。他は何のスキルもないから、敵に襲われたら、ワイルドカードを使うしかない』
『じゃあ、2回使うまでは好きにさせてあげるとかは?』
『3回目に使った後で効果が切れたら、死んじまうんだ。2回使った状態で、不慮の事故とかあったら……。ララちゃん達は、コイツが気に入ったみたいだし、死んだら悲しむだろ?』
ワイルドカードは、ランダムで他のタロットアウルの上位種の力を一時的に得られるスキルらしい。運次第では強力な能力らしいけど、3回目で死んでしまうなら、使うのは可能な限り避けた方がいい。
ララとルルは、レレに「頑張ってフェンさんを見返そう!」と励ましてるし、レレはやる気を出している。放っておくと、何かやらかしそうだ。
◇
部屋に戻って、ノートを広げる。右手を二人羽織でヘーゼルさんが動かし、ギーラとプリシラ宛に修業として行うべきことを記していく。
レレは、書き終わるのを待ち構えるように、すぐ近くでじっと手元を見つめてくる。
たぶん、書き終わったら即座に届けに行くつもりだ。
『マル、ピピ先生と俺が会うのに、ちょうど良い口実ってないかな? 授業参観とか』
『授業参観? 授業を見学するってこと? そういうのは、聞かないなぁ。アラン先生みたいに柱の陰から見張っておいて、鑑定するとかならできるんじゃない?』
部屋にはモルガン君もいるし、2段ベッドの上に僕、下に兄ちゃんがいるから意思伝達で話す。
兄ちゃんは、ピピ先生を鑑定して何かヒントを得ようと考えている。でも、自然に会うための口実が見つからない。
理由なしに会うなら、偶然を装うしかない気がする。
『それ、見つかったら不審者扱いだよな。あんまりやりたくないなぁ。言い訳もできないだろうし』
ストーカーだと思われたら大変だもんね。それに、ピピ先生がアルベールとつながっているなら、情報が流れて、今後の調査に支障が出たりするかもしれない。
『うーん。僕がわざとお昼ごはんを忘れていって、兄ちゃんが届けに来るとか?』
『悪くないな。それでいくか』
コンコンッ
「テオだけど。フェンさんにちょっと頼みたいことがあって」
話がまとまったところで、ドアをノックしてテオが入ってきた。
「俺? 何かな?」
「マルが留守の間に、俺のバイト先に気になることを言う客が来たんだ。5年前の白反逆事件から、立ち直って良かった、とかなんとか。で、ルルに頼んで5年前の事件について書かれてる本を借りてもらったんだけど、俺にはまだ難しくって。フェンさんなら、読めるかなーって」
白反逆事件?
「良いバイト先だし、今まではたくさん覚えることがあって、考える余裕なかったんだけどさ。ちょっと変わってるんだ。俺が名乗る前から俺のこと、テオって呼んでたし。店長を“お父さん”、女将さんを“お母さん”って呼ぶように言われたり、バイトのない日でも売れ残りのパンを届けに来てくれたり……。すごく良くしてくれてるけど、ただのバイト相手に親切すぎるからさ」
確かに、売れ残りのパンも毎回結構な量をもらってて、美味しいパンなのに、あんなに売れ残るのが不思議だった。
「確かに、ちょっと変わってるな。時間あるときに読んで内容を教えるよ。少しだけ待ってくれ」
兄ちゃんは快諾し、本を預けたテオは自分の部屋に帰っていった。
「白反逆事件……。名前だけでも怖いよ」
モルガン君がいつも通り怖がっている。でも、この事件の名前は僕もちょっと怖いな。何があったんだろう。




