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第9話 ヘーゼル

 兄ちゃんは、僕と狩りの訓練をするといって、ギーラとプリシラを秘密基地で留守番させ、森の奥へと僕を連れて行った。


「この森、植物の種類がバラバラで変わってるだろ? 精霊術師の力で作られた森だかららしいぞ」

「普通は森の植物の種類ってそろってるものなの?」

 精霊術師が森を作れるんだってことに驚きながらも、村から出たことのない兄ちゃんが、この森以外のことを知っていることが不思議だった。本で読んだんだろうか。

 そういえば、兄ちゃんのスキルについてはそんなに詳しく聞いていない。スキルのおかげで物知りなんだろうか。

「植物によってどんな土や気候が好きかが違うんだ。だから、普通はその土地に合った植物が育つ。こんなにも性質のバラバラな植物が1か所に集まるのは、特別な力が働いてるからなんだよ」


 確かに、いろんな木がある。だけど、材料として考えると質が良くない気がする。


 楓の木

 魔力を持つ何者かを宿す楓の木。甘い樹液が採れるが、その樹液は魔物を育む餌となっている。


 こんなのばっかりだ。


「そろそろ魔物がいそうな場所に入るから、気を引き締めていくぞ」

「え? そんな場所に行くの?」

「大丈夫だよ。魔物を見つけたら、遠くから斬撃飛ばしで攻撃してみてくれ。外しても兄ちゃんが仕留めるから安心していいぞ」


 兄ちゃんは、ギーラと2人で前からちょくちょく魔物を倒していたらしい。確かに経験者が付いているなら安心だ。

 兄ちゃんが声を出さずに手話で話しかけてくる。魔物を見つけたみたいだ。


『あの蜘蛛の魔物とかどうだ? ジャイアントスパイダーって魔物だよ』


 木の陰からのぞくと、巨大な蜘蛛がいた。


『巣を張ってる。糸を回収すれば、何かに使えるかも』


 なるほど。巣を見ると確かに糸が採れそうだった。

 よし、集中して当てるぞ。巣を傷つけない角度を計算して、蜘蛛を倒すイメージを浮かべる。


 シュッ


 倒せた。


「明鏡止水、計算機(カリキュレーター)、先見の明を組み合わせて、あっさり一撃で倒したか。魔法、準備してたんだけど、必要なかったな」

「弱い魔物なんだね。その割に糸もとれるし、お得だね!」


 木の枝を拾って、蜘蛛の巣から採った糸を巻き付けていく。兄ちゃんはやたら感心した様子で見てた。


「器用だな、マル。さすが採取術のスキル」

「僕、採取術ってスキルも持ってるの?」

「前はなかったけど、今はあるな。木材を採ったりしている間に材料を採るのが上手くなったんだ。努力の賜物だよ」


 兄ちゃんは、本当に僕に甘いな。努力ってほどのことはしてないんだけど、新しいスキルを得られたなら嬉しいや。

 スキルには、生まれつき持っていたり運が良いと得られる才能系スキルと、努力や経験で手に入る技能系スキルがあるそうだ。採取術は技能系スキルってことだな。


 それから、兄ちゃんに木刀を貸した。兄ちゃんも斬撃飛ばしを使ってみたいって。要精神集中って出てるから、多分それが潜在能力を発動させる条件なんだと思うって伝えておいた。


 ゴブリン、ジャイアントシルクワーム、ワイルドビー、ウルフと4体の魔物に斬撃飛ばしを使おうとしてみたけど、最初の3体では不発で、最後のウルフのときにやっと発動した。不発のときは、魔法で倒してた。

 魔法いいな。斬撃飛ばしよりも射程が長そうだし、色々なことができそうだ。僕も精霊術師になったら魔法と似た精霊術っていうのが使えるはずだけど、使ったらどんな感じなんだろう。


「結構、難しいな。でも、練習してたらコツをつかめそうだ。マル、使わないときにたまに借りてもいいか?」

「うん、もちろん!」

「ありがとな」


 頭をなでられて、笑顔を返す。練習用の剣もがんばって作ろう。


「今日は、もうしばらく魔物狩りをしようか。素材は俺が保管できるから」


 兄ちゃんは空間魔法で物を保管できるらしい。お肉とかも鮮度を落とさずに保管可能。すごい便利だ。


 今まで倒した魔物のうち、ゴブリンは弱いけど素材になるような魔物ではなく、たまに人を襲って奪ったお金や武器を持っている程度。ジャイアントシルクワームは虫の魔物で、繭を見つけたら、糸を採れるらしい。ワイルドビーは蜜蜂の魔物で、巣からハチミツを採れるけど、ハチミツ目当てなら巣にいる魔物を全部倒さなきゃいけない。ウルフは皮と牙が採れるけど、ありふれた魔物だから、素材も珍しくない。

 一番良い素材が採れそうなジャイアントシルクワームの繭を探すのを今日の目標にした。


 ◇


 夕方までがんばったけど、ジャイアントシルクワームの巣は見つからなかった。代わりに鳥型の魔物を倒して羽をたくさん手に入れた。リトルコカトリスっていう魔物らしい。これで矢に付ける矢羽根を作れそうだ。


 秘密基地に帰るために進んでいると、声が聞こえて立ち止まる。


『白がこんなところを歩いているとは珍しい。まだ子供のようだが』


 周りを見回して、見つけた。ハシバミの木だ。


 ハシバミの木

 魔力を持つ何者かを宿すハシバミの木。秋には木の実(ヘーゼルナッツ)が採れる。


 ヘルメス様の杖カドゥケウスは、ハシバミの木でできているらしい。黄金でできているって説もあるって、兄ちゃん言ってたけど。自作のお話のはずなのに、時々変なこと言うんだよな、兄ちゃん。

 今の声は、このハシバミの木かな?


『こんにちは。ハシバミの木さん。あなたの枝が欲しいんですが、切ってもいいですか?』

『ほう、意思疎通ができるのか。こんにちは。今、枝を切っても、いい材料は採れないよ。それより、お願いがあるんだけど、聞いてくれるかい?』

『はい、何ですか?』

『この場所は水はけが悪くて、あまり私にとって良い場所ではないんだ。秋になったら実がなるから、それをどこか適した場所に植えてもらえないかな』

『分かりました。良い場所を見つけられるか分からないけど、探してみます』

『ありがとう』

『では、秋になったら、またここに来ますね』

『あぁ、また会おう。私のことは次からはヘーゼルと呼んでくれ』

『分かりました。それじゃあ、今日はこれで失礼します、ヘーゼルさん』


「マル、どうしたんだ?」

「兄ちゃん、秋になったらまたここに来たいんだ。あのハシバミの木の実を採りに来たい」

「あぁ、なるほど。ヘルメス様の杖の材料になった木を見つけたから観察してたんだな」

「お話もしたよ。ヘーゼルさんっていうんだって」

「?」


 兄ちゃんに不思議な顔をされちゃった。秘密基地に帰ってからギーラにも話したら、大爆笑されて「マルは子供だな」だって。僕が変なのかな?

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