第9話 フェンの日記(18)
魔法歴985年5月25日
ラティーフ地方の領都から、ラプに馬車(竜車?)をひかせて北東へ向かう。
村に帰らなかったのは、梟型の魔物がいる森に行くためだ。
マルの誕生日プレゼントにするために、ギーラ、プリシラ、クロード、ギルさん、イネスさんというメンバーで、梟型の魔物を使い魔にしに行く。
そして、昨日プロメテウス様に教えていただいた魂を見つけてきます!
マルには内緒。
クロードが「にぃにと、まだいっしょにいるー!」とワガママを言い、マルが領都から直接アブヤドに飛ぶように仕向けた。
マルは、俺を村まで送る時間がなくなったことを謝ってたから、狙いには気づいていないはず。クロードも迫真の演技だったし。というか、本気だったし。
「そんなワガママ言うなら、もう来ないよ!」
って言われたときは、マジで泣いてた。そして、俺だけマルと出掛けたことをズルいと言い出したから、俺が我慢して馬車で村に帰る方向に持っていけた。
父さんと母さんは帰りが遅いと心配するだろうから、手紙を出しておいた。使い魔便ってやつで、マチルドさん経由で村に届けてもらう。昨日出して、今日中に届くらしい。
2時間くらいで北東の村に着いた。領都近くの村だけあって、俺達の村より大きくて人が多い。村の北側に大きな森があり、そこでよく梟型の魔物を見かけるそうだ。夜行性で昼間は寝てるから怖くないけれど、夜に遭遇すると魔法で攻撃してきたりもするらしい。
寝ていたら使い魔にできないから、宿をとって夜まで待ち、森に入る。
ギーラとプリシラには、森に入ったついでに木に魂が宿ってないか調べたいと伝えてある。
プリシラには梟を見つけてもらわないといけないから、探すのは俺。森の木々を鑑定で調べながら進む。
「くろーろ、こっちだとおもう」
クロードも第六感でプリシラを助けている。
このスキルも便利だな。より良い選択肢を感覚的に感じるものらしいから、考えて動く人より直感的に動く人に向いてそうだけど。
クロードは、決して頭は悪くない。けど、決断をするときには、感情を優先するところがあるように思う。深く考えるより感覚に従った方が上手くいくなら、そうなるのも無理はないのかもしれない。
だから、未来予知に関するスキルなら、俺はやっぱり先見の明が欲しいな。
マルに、先見の明で映し出される映像を見せてもらって、意外と使いこなすのが難しいスキルだってことは分かった。なんでその未来になるのか、どうすれば未来が変わるのか。それをちゃんと考えられなきゃ、見せられた未来を運命として受け入れるしかない。
頭を使う者じゃないと使えないってところが、プロメテウス様の固有スキルらしいですよね。知恵の神の使徒の俺にもピッタリのはず!
ともあれ、第六感と感知術を組み合わせたことで、簡単に目的の魔物は見つかった。
タロットアウルが5匹。魔物が攻撃体制に入るよりも早く、サクッと魔力を当てて、使い魔にする。うん、順調。
ラプのときみたいに俺を見て抵抗されるなんてこともなかった。騎士見習の制服を借りたからだけど。制服って、何着るか考えなくて良くて楽でいいよな。
明日は、こいつらの選抜をしよう。アブヤドまでは、そこそこ距離があるから優秀な奴じゃないと、迷ったり力尽きたりしかねない。見込みのありそうな2匹を残して、残りはブリアンに売却するつもりだ。
ブリアンは、ローズマリリンを発見してから植物の栽培に興味を持つようになったらしい。ラティーフ地方各地を回っては、珍しい植物を探したりしていて留守がちだから、連絡手段を求めていた。
植物栽培は、ただの道楽というわけじゃなく、ローズマリリンについては安定した栽培ができそうになってきたらしいし、他の町でも野菜や果物、ハーブの栽培を試みたりしているそうだ。
当人は家督相続争いからは脱落したつもりらしいけど、以前よりも評価されているみたいだ。
クロードもいるし、後継者になれるかは分からないけどな。当人は、次期伯爵の補佐官当たりを狙ってると言ってた。
さて、タロットアウルが止まっていたクルミの木に、その人は宿っていた。
名前:ジゼル=イフテラーム
性別:女
生年月日:魔法歴937年5月19日
所有スキル:
(才能系スキル)
攻撃魔法の才能、強化魔法の心得
(技能系スキル)
水魔法《上》、火魔法《下》、土魔法《下》、光魔法《中》
属性相性:火(A)、土(B)、水(A)、風(C)、光(B)、闇(D)
この名字。父さん達の先生で、ジルさんの母親?
なるほど。それなら、プロメテウス様がいう通り、協力してくれる可能性はある。
とりあえず、プリシラに頼んで意志疎通を図ってもらったが、あんまりスムーズにはいかないみたいだ。クルミの木の枝に宿ってもらい、連れていきたいということを伝えるだけでも四苦八苦してた。
「なにしてゆの? それも、にぃにへのぷれじぇんと?」
そうクロードがつぶやくと、サワサワと葉っぱが擦れる音がした。同意してくれたらしい。
……クロードがヘーゼルに似てるからか? マチルドさんの先生でもあるんだもんな。
しかし、森にいる間、魔力の消費が多かった。プロメテウス様、情報収集で何か調べてました?
◇
魔法歴985年5月26日
今日は領都に帰り、明日、村に向けて出発する。
領都に着いたら、昨日使い魔にしたタロットアウルを上位種に進化させる。
普通はそんなことできないけど、俺の空間魔法の中には、ブリュノが宿っていた暴食樹人の樹液を氷に閉じ込めたものが入っている。
これを舐めさせると、上位種に進化させられる。これは、マルやヘーゼルと一緒に村で実験済みだ。
再度入手するあてはないから、ガンガン使うわけにはいかないけど、タロットアウルのままだとアブヤドにつくまで数日はかかる。連絡手段は今後も必要になるだろうし、使い時だろう。
問題は5匹のうち、どいつに使うかだった。
タロットアウルの名前は、上位種に進化するときのパターンが複数あり、進化した姿や能力がタロットカードの大アルカナを思い起こさせることから付けられた。
どの種類に進化するかなんて分からないから、クロードの第六感に託そうと思ってたけど――。
『特別にヒントをあげよう。ホッホーって鳴くのが魔術師、ポポーが恋人、ホホーが剛毅、ホッホーホゥホゥが悪魔。そして、鳴き声が安定しないのが愚者だよ~』
まさか、プロメテウス様がアドバイスしてくださるとは思っていませんでした。ありがとうございます!
移動中、しっかりと鳴き声を聞いておく。アブヤドとこの領都、2匹は必要だ。俺のいる村には割りと気楽に飛んできてくれそうだし、必要ないだろう。
魔術師と剛毅が良いかな。
「フェン、何やってんだ?」
「残す梟を見定めてる。進化したら、全然能力が違うからな。有望な奴を残さないとな」
「へー。強そうなのが良いな。コイツとか良くね?」
鳴き声は、「ホホー」。剛毅だ。ギーラに抱えておいてもらう。
「けるたん、このこ、つよそう!」
鳴き声は、「ホッホーホゥホゥ」。悪魔じゃないか。却下だ。
強いんだろうけど、縁起が悪いし、基本的に夜しか飛んでくれない。第六感は働かなかったのか?
クロードが膨れてるけど、譲れない。せっかくプロメテウス様が教えてくれたんだから。
『フェン、この子は? 額にハート形っぽく白い毛が生えてるの。首回りのふわふわの毛もほんのりピンクでかわいいし。マル、喜ばないかな?』
それは、男の子が喜ぶポイントじゃない気がするぞ。
プリシラが気に入った梟の鳴き声は、「ポポー」。恋人だ。
悪くはないけど、強くはなさそう。
ダメだと言ったけど、プリシラは恋人の梟を抱き抱えたままだ。気に入ったみたい。クロードも悪魔の梟を膝に乗せている。
いやいや、1人1匹はおかしい。郵政事業でも始める気か。
「フェン、お前の肩に止まってるやつは? ホルホルホーとか、ホッホーホッホホとか、ポポポッとか色んな鳴き声を出せるみたいだ。なんかフェンに懐いてるみたいだし、良いんじゃね?」
……愚者ね。
なぜか、俺の肩にずっと止まってる。夜行性のはずなのに、昼間でもやたら元気だ。そして、俺の髪をなぜか弄りたがる。左肩と右肩を行き来して、髪を嘴で摘まんでは上に向けている。左右に角みたいに髪を立たせたいみたいだ。
「ぷぷぷ。けるたん、かみがた、ぴえろみたい」
こら、笑うな。左右に作られた角は、そのままピンっと立っていてはくれずに、後ろに垂れる。そのせいで、ピエロの帽子みたいな髪型になる。
しかし、梟は翼を腰に当てて、胸を張っている。
……コイツにとっては、この髪型が正解なのか?
無事に領都に戻り、剛毅と魔術師になる奴に樹液をあげようとした。
プリシラやクロードに見つかると、お気に入りの子にも上げたいと言うに決まってる。
魔術師を抱き抱えて、プリシラとクロードのいる隣の部屋にギーラだけを呼ぶ。
まずは、魔術師から。
椅子の背もたれ部分を止まり木代わりにして向かい合い、一口大に砕いておいた樹液入りの氷を口元に――。
ホロッホロー、パクっ。
運んでやろうとしたら、愚者がいつの間にか腕を伝って移動して、氷を食べやがった!
ホッホッ。ポポポポポー!!
鈍い光を放って、愚者梟へと進化した。
『えっ。進化した? フェン、何かしたの?』
「けるたんのふくろー、はでになったー!」
しかも、鳴き声が大きくて、隣の部屋から駆け付けてきたプリシラとクロードにバレた。
2人のお気に入りの梟は進化させないとか言えない。愚者梟は実験だったことにして、進化させるのはマルに選んでもらうと言い訳する。プレゼントなんだしと言ったら、納得してもらえた。
「フェン、オレってなんで呼ばれたの?」
……ギーラの疑問は無視!
マルならちゃんと先見の明で進化後の姿を見極めてくれるはず。
頼んだぜ!
「――あれ? なんでフェンの梟だけ、実験で先に進化させてんの? ズルくね?」
余計なことに気付きやがった。嫉妬の神の使徒め。何かというと「ズルい」とか言って。それに、コイツは断じて俺の梟ではない。
上手く躱したと思ったのに、ギーラの一言のせいで、プリシラとクロードに責められたじゃないか。
◇
魔法歴985年5月28日
『地の賢者の居場所が分かったよ。ラティーフ地方北部、山間のダンジョン化した洞窟の中。魔物に憑依してるから、あんまり長いこと放置してると、自我を失って暴れ出すよ。目安は魔法歴990年頃。それまでに器に移してね』
村に着いて一休みしたら、こんな伝言が届いてた。
マジですか。器って、リリちゃんことサキュバス2号? ルル君でもいけるのか?
『ヘーゼルと違って大人しくしててくれないから、ちゃんと鍛えておいて。憑依させたときに、元の魂が弾き出されないことは最低条件。できれば、了承を得ずに体の制御を乗っ取ることはできないってレベルまで強くなってると良いね。ま、リリちゃんじゃないと、難しいと思うよ』
お、すぐに返事が返ってきた。
ヘーゼルが大人しいって言えちゃうレベルなんですか。
――分かりました。宿ってもらうっていうより、誰かの中に封印するって感じだな。幸い、リリちゃんは精霊術師大会で活躍したいらしいし、強くなるための修業とかは受け入れてくれそうだ。
『うん、魔法の使い方にも慣れててもらいたいから、一時的にレーヌかジゼルに憑依してもらって鍛えるのが良いと思うよ。上手く説明してね~。時期は任せるけど、早い方が地の賢者の意識はしっかり残ってるよ』
なるほど。魔法の扱いはジゼルさんの方が上手そうだけど、ちょっと強すぎるかもしれない。牛島、ジゼルさんと順番に慣らしていくか。
あとは、どうやって話を持っていくかだな。
あ、そういえば、竜に宿ってるっていう闇の賢者はどうなんですか? そのうち暴れ出したり?
『竜は魔物と違って、意味なく暴れたりはしないよ~。闇の賢者が自分の意志で暴れ出す可能性はあるけど』
自分の意志で暴れ出す可能性があるって……。曲がりなりにも、この国の建国の父で、賢者だろうに、自分で作り上げた国を自ら壊す愚を犯すのか?
こっちはこっちで、対策しといた方が良いな。




