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第8話 棘

 熱も頭痛も1日で治まった。今日はピピ先生の授業がある。

 モルガン君には心配された、というか、倒れられたらどうしようと怖がられたけど、ピピ先生のことも気になるから、休みたくない。


 本当は、授業が終わったら兄ちゃんのところに飛んで行きたいけど、今日から掃除当番だ。抜けてしまったら班の皆に迷惑が掛かってしまう。仕方なく、冒険者ギルドを通じて手紙を出すことにした。

 掃除当番は2週続けてだけど、やることはちょっと違う。1週目は掃除する場所がキッチンとかの寮の共有スペースで、薪割りもしないといけない。2週目は精霊術師訓練場の玄関とか、廊下とか教室とか。薪割りとかはないけど、掃除する場所がちょっと広めだ。



「皆さん、おはようございまぁす。まずは出席確認をしますねぇ。班長さんは、班の皆がそろってるかを確認して下さーい」


 いつも通りに授業が始まる。

 今日の授業は前回の続きで、風と光と闇の精霊術師の特徴だ。


 風は、能力の高低がはっきり出る。弱めの力しか使えない場合は、干し肉なんかを作るときの乾燥、小麦粉を作るために風車を回すなどのものづくり系の仕事を行う。戦闘に使えるレベルの力があったとしても、威力なら火、搦め手なら闇の方が向いていて、あまり戦闘向けではないと認識されているようだ。比較的評価されていない属性だけれど、空を飛べると一気に評価が変わる。集団戦闘における伝令役や、緊急時の物品輸送ができるからだ。戦闘でも、敵の射程範囲外に逃げられて、容易に倒されないから強いと認識されるようになる。


 光は、水と近い評価だ。治療ができるから、仕事には困らない。物質の創造までできる場合は、国のお抱えで仕事をすることが多くなり、収入面では安定している。一方、戦闘には向いていない。攻撃手段がほぼないためだ。だから、ほとんどの人は戦闘は行わない。強化と回復を術で行い、肉弾戦や武器での戦闘を行う人がわずかにいる程度だそうだ。


 闇は、万能の属性として認識されている。国で召し抱えられることも多く、収入面は恵まれているし、戦闘では直接的な攻撃力こそあまりないものの、毒を与えたり、闇の中に閉じ込めたり、闇の賢者のように魔物を召喚したりと、とれる手段が幅広くある。戦闘の組み立て方さえ間違えなければ、十分に強い。


 光はヘーゼルさんに聞いたままだし、ローリエさんもそんな感じだと言っていたから不思議じゃない。

 闇属性の評価が高いのは、闇の賢者の影響もあるんだろうか。風も闇と同じく使い方次第な気はするけど、お手本となりえる闇の賢者が長生きしてくれたのに対して、風の賢者は早い段階で亡くなっている。評価の低さには、その辺りも絡んでいる気がした。


「こんな感じですぅ。以前も言いましたが、私達は属性を選ぶことはできません。でも、それぞれに得意なことはあるので、なりたかった属性じゃなくても、落ち込まないでくださいねぇ。使えない属性まで使えるって言い張っちゃうと、大変なことになりますからね~」


 最後の言葉を言った時、チラッと僕の方を見た気がした。なんだろう?

 投げかけられた視線から、ちょっとした棘を感じた。


「ハイっ。先生、質問。もし、属性を選べたら、先生はどの属性が良かった……?」


 ララが椅子から立ち上がって質問をした。

 ララは授業ってものが、結構好きなんだそうで、先生に質問することもよくある。たまに絵本のお話につながりそうなことを聞けるかららしい。ピピ先生のことも、同音2文字の名前で、仲間だと気に入っていた。


「先生ですかぁ? う~ん、精霊術師になる前はあんまり考えたことなかったですぅ。ぼんやりと生き方を選びやすい土か闇だといいなー、って思ってたくらいですねぇ。でもぉ、実際になってみると、バリバリ攻撃できる火が羨ましくなったりしましたぁ。カッコいいですしねぇ。ないものねだりってやつですけど~」


 火を使ってみたかったっていうのは、意外だな。ほんわかしたピピ先生は土以外だったら、光とかが向いていそうな気が気がする。


「強くてカッコいい術師に憧れて、苦手な戦闘を頑張る女の子の話……、悪くないかも?」

 ララは小さくつぶやいて着席したけど、ピピ先生の答えに他の子達は騒ぎ出した。


「先生、質問! 火属性のカッコいい精霊術師ってアラン先生のこと?」

「アラン先生、爽やかイケメンだもんね~。あたし、ピピ先生を応援しちゃうよ! 頑張って!!」

「え、えーッ!? 先生、そんなつもりじゃなかったですぅ」


 女の子を中心に騒いで、ピピ先生を困らせている。さっき一瞬感じた棘は、今のアワアワしているピピ先生からは感じられない。

 僕は火の精霊術師としてアルベールを思い浮かべたけど、皆にとって1番身近なのはアラン先生。オシャレだし、イケメンだと女子の間では人気もある。


「なるほど。アラン先生みたいな感じがモテるのか。ララもあんな感じの人が好きかな?」

「ララは……、カッコいい人は好きだけど、カッコつけてる人は好きじゃない……。話しやすくて、気取らない、素直な人がいい……」

 ルルのひとり言はララに聞こえていたみたいだ。


「ララは知ってる……。アラン先生は、実はピピ先生を狙ってる。朝早くから訓練場入り口の柱の陰に隠れてて、ピピ先生が来た瞬間に、たまたま同じタイミングで来たような振りをして話しかけている……」

「そういえば、今朝もピピ先生が入り口に入った瞬間に、アラン先生が柱の陰から出てきましたわね。あれって待ち伏せしてましたの?」

「うん……。今日が9回目のピピ先生の授業だけど、ララはもう5回も同じ光景を見てる……。偶然にしては、多すぎる」


 ララの証言に、女の子達はますます色めきだった。「両想いだー! 先生、おめでとー!」の声があちこちで上がる。


「ち、違うんですぅ。皆さん、落ち着いてくださいぃ。先生がカッコいいって言ったのは、先生のお姉さんのことですぅ。火魔法が得意で、貴族お抱えの魔導士をしてるんですよぅ」


 先生の言葉に、皆はつまらないって言ってたけど、僕はちょっと先生に親近感が湧いた。僕にも火魔法が得意な兄弟がいるから。


 ◇


 授業と掃除当番が終わって、手紙を手に冒険者ギルドへ。


 いつも通りの騒がしいギルドだ。受付に並んで待つ。依頼を出す人も、依頼を受ける冒険者も全て同じ受付に並ぶことになる。今は依頼を達成して完了の報告をする冒険者が多い時間だから、結構待たされるかもしれない。



「おい。ここの売店で売ってるポーション、1個500ダハブだろ? どうして、ポーション草をこんなに納品してるのに、報酬が2000ダハブなんだ? おかしいだろ。こんだけポーション草があったら、一体いくつのポーションができる?」


 僕の前の冒険者さんの番になったけど、受付のお姉さんに文句を言っている。これは長そうだ。

 背中に大斧を背負った大男なんだけど、話してる内容によると受けた依頼はポーション草の採取みたいだ。ちょっとかわいいなと思った。どれだけの量のポーション草を持ってきたんだろう。

 顔を横からのぞかせて、カウンターの上を見てみる。


 ……少なっ。

 見た目の量は多いけど、ただの雑草が混じってて、実際にポーションを作ったらギリギリ5個できるくらいの量しかない。

 仲介をするギルドの取り分もあるだろうし、これで2000ダハブもこの人に払ったんじゃ、ポーションを作る人の取り分がなくなってしまう。


「申し訳ございません。決まりですので。あらかじめご了承いただいて依頼を受けていただいたはずですが?」

「でも、もう少し色を付けてくれたって構わねーんじゃねぇか?」

「――申し訳ございませーん。私には報酬を変える権限がないでーす。……はーーぁ。この会話、何回目かしら。毎回毎回、よく飽きないわ。こっちはとっくに聞き飽きてんのよ。いい加減諦めて、もっと難易度の高い依頼に挑めばいいのに。大体、魔物と戦う度胸もないんだったら、冒険者なんてやってんじゃないわよ。肝っ玉が小さいくせに、図体ばっかりでっかくて。強圧的な態度を取れば、こっちが折れると思ってんのがムカつくわ」


 深いため息の後の言葉は、小声ではあるんだけどしっかり聞こえた。

 口元には笑みを浮かべたままだけど、言葉は棘だらけ。目は座ってるし、いつの間にやら右手に鞭を持ってる。

 大男はビクリと震え、2000ダハブを財布にそそくさとしまい、背中を丸めてギルドを出て行った。


 見回すと、5つある受付に座ってる5人のうち3人が、鞭、槌、鎌、とそれぞれ武器を持ってる。言いたい放題言われながら平謝りし続けている人もいる。ああいう態度の悪い冒険者の相手は日常茶飯事みたいだ。


 なんだかなぁとは思うけど、受付のお姉さんのおかげで、思ったより早く順番が回ってきた。


「こんにちは。家族にお手紙を出したいので、依頼をお願いします。使い魔便で」


 まだ手に鞭を持ったままのお姉さんに話しかける。

 使い魔便は、鳥系の魔物を使い魔に持ってる人がギルドの依頼を受けて、使い魔を使って手紙を届けてくれる。冒険者が持ってくのに比べたら割高だし、町にしか運んでくれないけど、空を飛んでくれるから早く届く。

 マチルドさん宛にしておいて、クロちゃんに村まで届けてもらうつもりだ。


「はーい。坊や、お手紙ね。距離に応じて配達代かかるわよ~。この料金表に書いてある金額から、びた一文まけてあげないからね~」


 ……ストレスで、お客さん向けの態度を取る余裕がなくなってしまったんだろうか。冷たい目で、鞭をしまわずに対応してくる。笑顔は全くなし。さっきの大男のときは、口元だけでも笑ってたのに。


「はい。じゃあ、ラティーフ地方に行く冒険者がいたら運んでもらうわ。3年以内に届くようにしたいなら、速達料金追加ね」

「えっ!? 3年? あの、使い魔便なんですけど」

 3日の言い間違いかな? それとも3週間?

「そう。3年。使い魔便なんて、白が使うのは贅沢よ。冒険者はね~、荷物が増えるの嫌がるのよ~。手紙を届けるとか、全然冒険してないし、楽しくない仕事だから、受ける人いないの。だから、いつ届くか分かんないところを、お金払えば早めに届くようにしてあげようって言ってんの」

 今度はニヤニヤと嘲笑を浮かべて言われた。困惑する僕の反応を面白がってるみたいだ。


「……キャンセルします」

「はぁッ!? こっちが忙しい中、時間割いてやってるのに、キャンセル? 嫌がらせ? 信じらんない!」

「いえ、嫌がらせではありません。届くのにそんなに時間がかかるのなら、手紙を出す意味がないので、キャンセルしたんです」

「……白のくせに、生意気なガキ。いっちょまえに言い返してんじゃないわよ! こちとら、嫌な奴らの相手を朝からしてストレスたまってんのよ。依頼を受けることになってるだけ、感謝して欲しいもんだわ!」


 見下しきった言葉に、僕は理解した。これはただの八つ当たりだ。相手をしても意味はない。

 白だからストレス発散のために当たり散らしても構わないと思われているんだろう。さっきの大男みたいな横柄な冒険者の相手をしなきゃいけないことには同情するけど、こんな風に他の人にそのストレスをぶつけるのはいただけない。それに、勝手に依頼内容を変えてしまうなんて、職業人としても失格だろう。


『マルドゥク、帰ろう。ここにいても良いことはない。揉め事になると、事実を捻じ曲げられて、こちらが悪者にされかねん』


 確かに、結構な大声でお姉さんは話しているのに、誰も仲裁に入ったりしない。何人かはニヤニヤと笑って面白がっている。

 ヘーゼルさんの言葉に従って、僕は冒険者ギルドを後にした。


 これは、兄ちゃん達との連絡手段は早めに確保しなくちゃ。梟型魔物を使い魔にする約束をしてあるから、上手く遭遇できるように先見の明で予習をしておこうかな。

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