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第5話 試合に勝って勝負に負ける

「じゃあ、飛ぶよ。ジャン君、兄ちゃん、準備オーケー?」


 背中にジャン君を背負い、兄ちゃんの両脇に腕を入れて前で抱えた体勢で飛び上がる。2人も抱えて飛ぶのは初めてだ。

 途中で鳥型の魔物とかに襲われたら兄ちゃんに対処してもらうしかないから、兄ちゃんを背負った方が良いんだけど、腕の力が入らなくなったら、前で抱えられてた人は落下しかねない。落ちても魔法で何とかできる兄ちゃんを抱えることになった。

 でも、バランスを取るのが難しい。無理せず途中で休憩を挟みつつ進むつもりだ。


 兄ちゃんが魔法で飛行の補助をしてくれてるけど、精霊術も併用して少しでも距離を稼ぐ。苦労して飛んだのに、1人ずつ運んだ方が早かったなんてことにはしたくない。



 昨日の審査は、父さんと兄ちゃんは僕のデザインに票を入れてくれたけど、母さんはジャン君に票を入れた。「だって、ただの絵のマルドゥクよりも、お人形になってるマルドゥクの方がかわいいじゃない!」というデザインとは関係のない理由だったけど。


「お前、水の賢者ファンが審査員なら、先に教えとけよ。そしたら、青と銀の色合わせにしといたのに」


 ジャン君が背中で文句を言っている。僕は歌ってるから、言い返せない。

 ジャン君だって、僕の人形作るなら一言言ってよね! モデル料もらってないよ!


「せっかくだから、ウターリド工房の親方に実際作ったときの性能を教えてもらえば良かったのに。その方が選びやすいし」


 兄ちゃんまで文句を言ってる。

 兄ちゃん、礼服だよ! 戦闘服じゃないよ! これは見た目の勝負だよ!

 ……僕のデザインは性能を上げやすいところがメリットの1つだけど。


「フェンさん、オレのデザインに合う帯剣ベルトの案があるんだけど。親方の見立てでは、魔法剣術威力向上の付加能力がつくはずだ」


 ずるい! 1人だけ追加でアピールするとか不公平。


 休憩の予定時間よりも早いけど、下に降りる。

 抗議しなければ!


 ◇


「フェンサー=サラームと申します。クロード、様、にお目通りしたく存じます。同行者はマルドゥク=サラームとジャン=ウターリドにございます」


 なんだかんだで町には昼過ぎに到着した。

 クロードの屋敷で兄ちゃんに面会の手続きを取ってもらう。事前に手紙は出しておいたから、話は通ってるはずだ。


「まるるくにぃにー!(マルドゥク兄上ー!)」


 タタタタッと駆け寄ってきて、ぎゅっと抱き着いてくるクロード。

 まだ手続き中だったんだけど、第六感で来るのが分かったのかな。


「にぃに、くろーろ、まってたの。ぷりちらねぇねも、ぎらも、まってたの。こっち、くるのー!(兄上、クロードはずっとお待ちしておりました。プリシラ姉上もギーラも。さぁさ、こちらへ!)」

「あのー。クロード様? まだお客様の手続きが終わってませんから。訪問者の台帳に記入してもらわないといけませんし、危険物を持ってないかの確認とか、お部屋の希望を聞いておくとかありますから。館に数日滞在されるのですよね?」

「きけんぶつ、かくにん、むいみなの。へやは、もうきめたの。きにゅーは、けるたん、よろしく(危険物の確認は魔導士や精霊術師相手には無意味だよ。部屋は決めちゃった。台帳はケルちゃんに任せればオッケー。クロードは早く兄上とお話ししたい!)」


 守衛さんが引き留めるも、待ちきれない様子のクロードが手を引っ張ってくる。


「ダメですよ、クロード様。お客様のご案内は、騎士や使用人の仕事なんですから」

 あ、アンナさんだ。

「フェンにマル、久しぶりだな! オレが案内してやるぜ! 前来た時と同じ部屋だけど!」

『マル、フェン、ヘーゼルせんせ、久しぶり』

 ギーラにプリシラも来た。

『あぁ、久しぶりだな。私がいないからといって、修業をサボったりしていなかっただろうな?』


 その場で話しているうちに、兄ちゃんが手続きを終わらせる。クロードに手を引っ張られながら、屋敷の中を進んでいく。


「……おい。貴族の子弟とは聞いてたけど、お前の弟とは聞いてないぞ。お前、貴族の隠し子なのか?」

 呆気に取られて様子を見ていたジャン君が、声を潜めて聞いてくる。

「違うよ。前に事件を解決したら気に入られて、義兄弟みたいな関係になってるんだ」

「……どんなことがあったら、こんなに懐かれるんだよ?」

 いやいや、クロードが人懐っこいだけだし。

 そう説明したけど、ジャン君は納得しなかったようだ。眉間にしわを寄せて睨んでくる。


 その様子を見て、クロードがジャン君に近づく。


「われは、くろーろ、びくとりゅ、えっと(我はクロード・ヴィクトル、えーと、何だっけ?)」


 いつも通り、父親の名前のところで詰まるクロード。

 ほとんど会わないから、覚えられないらしい。アンナさんが意思伝達で教えてくれて、やっと名乗れる。


「るしあん、らてぃーふ。なをなのるのー(……ルシアン=ラティーフ。お名前はー?)」


 少し言葉が上手になってる、かな?

 ジャン君は目をパチパチさせ、少し考えてから答えた。


「お初にお目にかかります。クロード様。私はジャン=ウターリド。以後、お見知りおきを」

「じゃむ。まるるくにぃにに、かとーなんて、ひゃくねんはやいのー(考えの甘い奴だから、ジャムでいいや。マルドゥク兄上に勝とうなんて、百年早い)」

「……バカにされてるっぽいことは分かった。丁寧に接して損した。メンドクセーから普通に話そ」

 そう言ってジャン君はクロードに絡み始めた。

「おい。オレにはこいつのすごさが、全っ然分からねーんだけど? 余裕で勝ってやるから、見てなって」

 クロードはムキになって、僕のことを語り出した。


『マル、手紙に書いてあったけど、アルベールの治めるアダーラ地方に潜入捜査に行ったんでしょ? どうだった?』

『それ、オレも気になってた! そういう面白そうなことにはオレも混ぜろよ! ズルいぞ。――で、どうだったんだよ?』


 僕達には、話したいことが山ほどある。新しく知り合った子達のこと、アブヤドのこと、ローリエさんのことや、ヤークートでのこと。それに、ギーラやプリシラの領都で経験したことも聞きたい。

 クロードとジャン君の会話を邪魔しないように、意思伝達で今までのことを話し始めた。


 ◇


 話していたら、あっという間に時間は過ぎた。

 誕生日パーティーのために、キッチンを借りてパウンドケーキとプリンを用意。


 誕生日当日に新しくできた友達や両親に祝ってもらったらしいから、2回目になっちゃうけど気にしない。去年僕もクロードの誕生パーティーで一緒にお祝いをしてもらったし。だいぶ遅くなっちゃったけど、ギーラの分のお祝いも一緒にやる。


「ギーラ、プリシラ。お誕生日おめでとう! これ、僕と兄ちゃんとヘーゼルさんからのプレゼントだよ!」

「オレが継ぐ予定のウターリド工房で加工したものだからな。気に入ったら、うちの工房も贔屓にしてくれよな」


 プレゼントも渡す。ジャン君はちゃっかり工房を宣伝している。

 ギーラは、一目見て気に入ってくれたみたいだ。性能も教えると、嬉しそうにしていた。


 プリシラは――、あれ、固まってる?


『あの、マル。これって、オレンジフラワーの花だよね。えっと、つまり――?』


 あ。また、やっちゃった。


『気楽に受け取っておけ。魔力不足を解消させてやりたくて、そういう性能の物を用意したんだ』

『そうそう。性能が大事だ。ウターリド工房の親方って、作ろうとしてる物の情報から完成品の性能を予測できるんだ。たまたま、その形がそういう性能にするのに向いてただけだと思うぜ』

『……そうだよね。3人からのプレゼントだしね。ありがとう! 大事にするね』


 ヘーゼルさんと兄ちゃんがフォローしてくれたけど、ありがたいような、残念なような、複雑な気分だ。



「まるるくにぃに、ろくがつも、しちがつも、くる?(マルドゥク兄上、6月も7月も来てくれますよね?)」


 去年の誕生日にプレゼントした銀のフォークでパウンドケーキを食べながら、クロードが期待を込めた目で問いかけてくる。

 来月の火曜日、ものづくりの授業は料理。基本的なことだから習う必要はないと思う。再来月は分からないけど、クロードの誕生日を祝うために、また来たいな。


 来月の中頃に来ることと、そのときに以前ギーラが手紙に書いていた、梟型の魔物を使い魔にしに行くことを約束した。再来月も可能な限り来るつもりだとも伝えたら、クロードはすごい嬉しそうな顔をしてた。



 さて、誕生日パーティーもひと段落したところで、僕とジャン君のデザインをお披露目する。

 今回はジャン君が先。昨日と同じように説明を始めた。


「じゃん、あなどれないの……! さすが、にぃにのらいばりゅ。にぃににんぎょー、ほちぃ(ジャン、侮れない……! さすが兄上のライバル。兄上の人形が素晴らしい。欲しい……)」


 クロードもジャン君が用意した人形が気に入ったみたいだ。呼び名が「ジャム」から「ジャン」に変わってしまうほどだ。


「ちょい窮屈そうだけど、カッコいいな。オレが着るんだったら、黒地に赤のパイピングとかにしたいかな~」


 む。ギーラにも好評だ。


 続いて僕の番。昨日と同じように布見本を取り出して説明しようとしたら、ジャン君が割り込んできた。


「色とか素材は変更してもいいぜ。例えば濃紺じゃなくて青とか」


 諦めの悪いジャン君は無視して、デザイン画を見せる。


「さすが、にぃに! くろーろ、こっちがいい!(さすが兄上! クロードはこっちがいいです!)」


 やっぱりクロードはヘーゼルさんっぽい僕のデザインの方を気に入ってくれた。


『マル、人形サイズの服、用意してないの? 着せ替えしてみたい。ジャン君の服に、マルのマントとかも悪くない気がする』


 むむ。


「これも良いんだけどさ。騎士見習の制服と似てるから、ちょっと新鮮味がないかなー。マントはこっちがカッコいいな」


 むむむ。


「よーしっ! じゃあ、次な。こいつの身分証のデザイン! これがオレの考えたデザインだっ! さっきクロードに聞いた話の1場面を表現してみた」

 ジャン君がいきなりこんなことを言い出した。誕生日パーティーの間に、デザイン画を描いてたの!?


「えっ!? ちょっと、ジャン君! それは、礼服のデザイン勝負で勝った方の意見を通すことになってたでしょ!?」

「いいじゃん。せっかくデザインしたから、お披露目したいんだけ。ただ、プレートについても、仲間の意見を聞いてみたらいいんじゃねーの?」


 ニヤニヤしながら、デザイン画をテーブルに置く。

 僕が牛島さんに一騎討ちを申し込んだ場面を描いてある。


 町の外壁の上に立ち、剣をかざす僕の後ろ姿。雲から顔を出した太陽をダイヤ、射し込む光を、イエローダイヤ、ルビーを線状に並べて表現。光を受けて煌めく剣先にダイヤを配置。サファイア5粒は剣の中心を通る青のラインを表現するように並ぶ。

 翼を生えさせた靴にはペリドットが飾られ、敵の両目にブラックダイヤ、手にした斧にもう1粒のルビーが光る。


「じゃん、ただものじゃないの。にぃに、くろーろ、これ、ほんものみたい……!(ジャン、ただ者ではないな。兄上、クロードはこのデザインで作った本物のプレートが見たいです……!)」


 むむむむむむむ。

 このデザイン画はクロードの心をがっちりつかんでしまったようだ。


『あ、あたしもいるじゃん。ちょっと嬉しー』

『レーヌちゃんも気に入った? 私もこの場面、見てたよ。カッコ良かったな』

 牛島さんとプリシラも気に入ったようだ。

 ……カッコ良かった、か。


「ん? プレートのデザイン勝負もあるのか? マルのデザインは?」


 じっくり話す機会があった兄ちゃんには勝負をすることになった経緯を話してあるけど、ギーラ達には説明をしていなかった。今日も、ララやリリ達の鑑定結果や、ヤークートで判明したアルベールの事業の秘密について話すのを優先したから、身分証となるプレートの話はしていない。


 ギーラの言葉に、クロードが瞳を輝かせた。期待のこもった眼差しが突き刺さる。


「……僕のデザインはないよ。僕は、普通に石を並べるだけでいいと思ってるから」

 言ってる途中から、クロードの目に涙の珠が浮かび始める。

「――待って! クロード、泣かないで! 分かった。分かったから! ジャン君のデザインで良いから!」

「フフン。勝った! 毎度あり!」


 ジャン君が勝ち誇る。



 礼服の方は、ギーラと母さん以外の4人は僕のデザインに票を入れてくれた。

 両方作ったら良いとか、2つのデザインを組み合わせてみたいっていう意見もあったけど、一応、僕の勝ちのはずだ。


 でも、勝負をするきっかけとなったプレートについては、ジャン君のデコプレートになってしまった。

 つまり、実質負けだ。


 まぁ、いいか。カッコ良かったって言ってもらえたし。

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