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第4話 プレゼン合戦

「このように水の精霊術師は雨乞いや貯水、ポーション作成などで活躍してるんですぅ。戦闘は不得手な人が多いですけどぉ、仕事は定期的にあるので、お金には余裕ができますぅ。安全な方法で堅実に生きていきたい人は、水の精霊術師になれると良いですねぇ。――今日の授業は以上でぇす。来週は風、光、闇の精霊術師がどんな活躍をするかお話しますね~」


 ピピ先生の授業が終わった。今日は5月20日。プリシラの誕生日だ。


「……水は戦闘が不得手な人が多い?」

「身近に例外がいると、素直に納得できないですわよね。ねぇ、マルドゥク。当番はないですし、授業も終わりましたから、良ければ精霊の話を――」

「ごめんっ! 急いでるから、またね。行ってきま~す」

「えっ!? 今日、これから出発するんですの!?」


 今日が月曜日で当日に会えなかったのは残念だけど、水汲みの当番は他の班と代わってもらって2週間前に済ませておいたから、今週は当番なしだ。数日遅れでプレゼントを渡すことはできそうだ。

 それでも早く会ってお祝いしたい。急いでウターリド工房で頼んでおいたプレゼントを受け取り、ジャン君と合流しなくては。


 慌ただしく手を振って、皆と別れ、精霊術師訓練場を飛び出す。昨日のうちに荷物はまとめておいたから、このまま出発できる。


『マルドゥク。楽しみなのは分かるが、先生が悲しむから授業はちゃんと聞け』

『聞いてたよ。火属性は金属の加工とかお料理に便利で、土属性は植物を生長させられるから、使えるとヘーゼルさんが喜んで、水属性は色々できて強くて儲かるんだよね』


 今日の授業は火と土と水の精霊術師の特徴についてだった。

 正直、全然頭に入ってこなかったけど、考えれば分かる。火は兄ちゃんみたいな感じで、土は前にヘーゼルさんが得意な人がいたら良いのにって言ってた。水はヘーゼルさんそのままだ。


「ひゃあっ!!」


 自信をもって答えたのに、なぜか背中に氷を放り込まれた。


『ヘーゼルさん、飛び降りてる時に危ないよ! 間違ってないよね?』

 タラリアで階段を無視して高台から飛び降りてるときだったから、コントロールを失えば、足くらいくじいたかもしれない。


『全っ然、聞いてないじゃないか。火は戦闘が得意で加工は不得手な人が多く、土属性は戦闘系の人と森林再生等の平和的な力の使い方が得意な人が半々、水は戦闘が不得手で平和利用が得意な人が多い。そういう授業だったんだぞ?』


 土属性はともかく、他は納得いかない。

 火属性の得意な兄ちゃんは戦闘も得意だけど、加工だってバッチリだ。水属性が得意なヘーゼルさんは色々できるけど、1番得意なのは戦闘な気がする。


『一般論と実体験に基づいて導いた結論が違うことはある。ちゃんと両方知った上で、自分なりの結論を出せ。一般論が間違っていることも、自分が特異な経験ばかりしているせいで誤解していることもありうるんだからな』


 ……確かに、水の賢者のヘーゼルさんを基準に考えちゃうのはまずかったかな。


 それからヘーゼルさんの授業が始まってしまった。並列思考の1つを割り当てて、ちゃんと聞いておく。ピピ先生みたいに大勢を教えているのと違い、マンツーマンだから誤魔化しは聞かない。聞いてなかったら容赦なく、雹やら氷塊やらが降ってくるだろう。


 火属性は一般的にコントロールが難しく、細かな調整が必要な加工に対応できる人は珍しいそうだ。それに、どれだけ火力が出せるかが優秀さのバロメーターと思われているところもあって、威力を上げることに注力する人が多く、決まった温度で一定に保つ練習なんかはしないこともその傾向に拍車をかけている。

 土属性は地の賢者というお手本がいたこともあって、様々な活用法が知られているけれど、全てをマスターできる人は少ない。当人の好みや適性などによって伸ばす能力を選んでいくから、得意とすることがバラけている。

 水属性は水の供給を期待されることが多く、戦闘能力を伸ばす人が少ない。わざわざ戦闘能力をアピールしなくても十分な仕事を得られることもあって、平和利用に特化していく人が多いんだろうってことだった。



「こんにちはー! 頼んでたブローチと剣、できてますか?」


 ヘーゼルさんの授業を受けながら、ウターリド工房についた。

 前に来たときに、プリシラのプレゼント用にブローチと、ギーラへのプレゼント用に剣を頼んである。2月のギーラの誕生日にはお祝いに行けなかったから、遅ればせながらギーラにもプレゼントを渡すつもりだ。

 本当は自分で作りたかったんだけど、時間も経験も設備もない。

 でも、ウターリド工房の親方の作なら、性能は間違いない。なんてったって鍛冶の得意なドワーフだ。ご当人は否定してたけど、見たら一目瞭然だ。兄ちゃんの鑑定結果でも鍛冶が得意なことは分かっている。種族は表示されないらしいけど、疑いようがないだろう。


「おう。いらっしゃい。ジャン、説明してやれ」

「――ほい。これとこれな。メンドクセーから、性能と見た目は自分で確かめろ」


 親方の希望により、ジャン君は今月から月に1週間はこの工房で働くことになった。事前に引き取り先で修業をさせておく制度があるらしい。職人ギルドでの勤務日が減る分、お給料は減らされちゃうらしい。だから、養子と養親のお互いの同意が必要で、今まではやってこなかったけど、親方の気が変わったらしい。

 今回の旅行も工房での勤務期間を利用してのものだ。「仕事を取ってくるための練習だと思って行ってこい。何事も経験だしな」と快くジャン君を送り出してくれた親方に感謝だ。


 お客さんにはもっと丁寧に接するようにと注意を受けているジャン君を尻目に、渡されたブローチと剣を確認する。


 純白花のブローチ

 魔導銀(ミスリル)でオレンジフラワーの花を形作り、ムーンストーンとサファイアをあしらったブローチ。

 材料:魔導銀(ミスリル)、ムーンストーン、サファイア

 付加能力:魔力向上、魔力成長量微向上

 潜在能力:魔力自動回復(要水魔法≪上≫以上)


 鋼鉄の剣

 鋼鉄製の剣。切れ味と強度のバランスが良い。柄にあしらわれたファイアオパールが火属性魔法剣術の発動を助ける。

 材料:鉄、灼炎熊(イグニスベア)のなめし革、ファイアオパール

 付加能力:攻撃力向上、魔法剣術習得率向上

 潜在能力:火焔斬り(要火魔法≪下≫以上)


 材料は鉄以外は持ち込み。

 魔導銀(ミスリル)もスプーンを作った残りを加工できるように戻す方法を教えてもらえた。

 込めた魔力を打ち消すように性質の違う魔力を込めればいいんだって。だから、兄ちゃんにヘーゼルさんの込めた魔力を打ち消せるまで魔力を込めてもらって、普通の銀に戻して提供。花の形ができたところで、改めてヘーゼルさんが魔力を込めて魔導銀(ミスリル)化させた。

 僕と兄ちゃんとヘーゼルさん、3人からのプレゼントだ。宝石は僕が加工したから、3人でそれぞれ手を加えたものになっている。


 プリシラは、魔力量が少なめで、マナポーションがぶ飲みすることご多かった。このブローチは、弱点をカバーできる性能だし、見た目も美しい。


 前衛でガンガン戦い、剣をよく折ってしまうギーラに用意した鋼鉄の剣は、切れ味だけじゃなく強度も十分確保してもらった。ギーラは、呪文を覚えたり、その場で構築したりが苦手で、魔法はあんまり使わないけど、魔力量は並みの魔導士以上にあるらしい。魔力を有効活用できるように、魔法剣術の能力を伸ばしやすい性能にしてもらった。


 親方のスキルである完成品のイメージで予測してもらった通りの性能になっている。加工賃はかかったけど、満足のいく仕上がりだ。


「お客様、ご満足いただけましたね。またのご利用を待ってるぜ」


 ジャン君、わざと叱られるようなセリフを選んでる……?

 でも、僕としては自信たっぷりの砕けた言葉が気心が知れてる証のようで、悪くない気がしてる。


「まったく。友達でもお客さんなんだからな。剣はジャンが持ってけ。白が持ってると要らない誤解を生むかもしれん」


 親方にお礼を言って代金を支払い、工房を出る。ジャン君と一緒に村に向けて出発だ。

 北門から町を出て、タラリアで飛ぶ。2人とも荷物が多いからリュックを背負ってる。ちょっとカッコ悪いけど、僕はリュックを前にしてジャン君におぶさってもらう。


「うおっ。浮いた」


 飛ぶのは初めてらしいジャン君は最初は驚いていたけど、バランスを取るのは上手い。安定して飛べている。

 だけど、重量で速度が出ない。


「しばらく精霊術を併用するから、歌うけど気にしないでね~」

「え? これも精霊術で飛んでるんじゃ?」


 そういえばジャン君はタラリアのことを知らないんだった。でも、遅れたくないから説明は後回しにして、小さく歌を口ずさみながら飛ぶ。追い風を吹かせて速度を上げつつ、兄ちゃんがやってたみたいに前方に流線形の盾を出しながら飛んで行く。


 ◇


 アダーラ地方の町で1泊して翌日、村に到着した。ジャン君はタラリアでの移動を結構気に入ったみたいだ。


「おかえり、マル。早かったな」


 兄ちゃんに迎えられて家へ。ジャン君には以前プリシラが使っていた客間を使ってもらう。


 夕飯までの間は、兄ちゃんに荷物を預けて空間魔法に収納してもらったり、コル君の家で始めた牧場を見に行ったり、水田の様子を見たり、夕飯の支度を手伝ったりして過ごした。


 そして、運命の審査。兄ちゃん、ギーラ、プリシラ、クロード、それから父さんと母さんが審査員。僕とジャン君で順番にデザインを見せ、アピールポイントを説明する。そして、気に入ったものに票を入れてもらう。


 僕から先にプレゼンを開始。デザイン画をテーブルに広げる。小さく作った布を束ねた見本も見せて、どの部分にどんな質感のどんな色の布を使うのかを説明していく。


 僕のデザインは、昔ヘーゼルさんが着ていた服をベースにしたものだ。

 シャツの上に高めの襟が付いた銀の縁取りがされた青いジャケットを重ねる。ジャケットと同色の布で作ったパンツは動きやすさを重視。伸縮性のある蜘蛛の糸を編み上げた生地を使う。足元はロングブーツ。


 ヘーゼルさんが着ていた服は、ジャケット丈が長く、腰くらいまでの深いスリットを3ヶ所に入れて動きやすくしていた。背が高くないと似合わないだろうから、ジャケットの丈は腰までにして、マントを羽織るように変更。礼服の決まりとしてマントは着用しないといけないしね。

 そして、前面についていた飾りのチェーンもなくして、比翼仕立てにしてボタンも見えないようにした。これで、ボタンにこっそり魔法陣を仕込める。

 マントは、表は光を受けて虹色に変化するオーロラシャンタンだけど、裏は濃紺にして、ところどころ銀糸で刺繍。パッと見は星空を表現しているように見せて、魔法陣を仕込むつもりだ。チェーンの両端にクリップを付けた留め具を使い、首元で留めて羽織るようにしてある。


「良いじゃないか! これにしよう」

「そうね。きっと似合うわ」


 好感触だ。前に似たデザインの守護騎士見習の制服を着ていたから、イメージもしやすかったんだろう。

 兄ちゃんも随所に魔法陣が仕込めることに気付いてうなずいている。


 続いてジャン君の番だ。僕も着席して楽しみに待つ。


 テーブルにジャン君のデザイン画が広げられた。絵が上手い。僕はララに手伝ってもらって描いたんだけど、ジャン君は自分で描いたのかな。


 詰襟の服だ。ホックで留めるようになっているのか、ボタンは見えず、中央をパイピングのラインが走っている。縦のラインを強調して背が高く見えるデザインだ。色は濃紺。パイピングも艶のある質感の布にするだけで、色は同じ。銀の肩章がついていて、そこからマントが垂れ下がるようになっている。

 ちゃっかり僕の用意した布見本を使いつつ説明している。ずるい。


 けど、デザインは悪くない。シンプルだけど、洗練されている。


「絵だけじゃイメージしにくいと思って、こんなものを用意してみた」


 そう言いながらジャン君が得意げに取り出したのは、12センチくらいの高さの人形。

 僕の顔が彫り込まれた精巧なものだ。関節部分を球体にしてあって着せ替えもできるらしく、デザイン画と同じ服を着ている。


「まぁ! ジャン君、このお人形欲しいわ」


 ジャン君はプレゼンの道具として作ったんだろうけど、人形の方が母さんは気に入ったみたいだ。


『マルドゥクだけならどちらも良いが、フェンやギーラには、こっちの方が似合うかもしれんな』


 むむむ。ヘーゼルさんもジャン君のデザインが気に入ったらしい。

 どうせなら、お揃いで兄ちゃん達の分も作りたいんだよね。

 でも、ギーラはあんまりカッチリし過ぎていると違和感があるし、兄ちゃんもシンプルな方が良い気がする。

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