第3話 小さな詐欺師
「お前ら、やるじゃん! 午前中だけで11体か。オレ、また町に戻ってゴーレムの破片を持ってくよ。金渡してくれれば、昼飯、何か買ってきてやるぜ?」
荷車は、5体分のゴーレムの破片を載せたらいっぱいだ。ちょうど町に行くタイミングに昼時になったから、食事を買ってきてくれるらしい。
とりあえず、荷車の子のオススメを買ってきて欲しいと頼み、兄ちゃんと2人分で2000ダハブ渡しておいた。荷車の子は眼鏡の職員さんや鉱夫の子供達にも注文を聞いていたから、まとめて買ってくることになっているんだろう。
採掘を全てゴーレム化で行っているわけではなく、ツルハシで掘れるところまで掘ってから、固い岩盤や鉱石がありそうな場所で人工ゴーレム核の水晶玉を使うようだ。1回子供達が坑道に入っていくと、1時間近く待たされる。
最初に1体倒して、待ち時間が長さを知ったヘーゼルさんが、「水晶玉を1個ずつ持っていくんじゃなくて、何人かで1組になって、1組1つ持って行って手分けしたらいいんじゃないかな?」と提案し、試してみて問題ないと分かった。それからは子供達は5組に分かれて坑道に入っていくようになった。
もちろんこれは、子供達の安全に支障がないと判断してのこと。
暇つぶしを装って水晶玉を観察し、中に閉じ込められた鉱物に邪魔されずに仕込まれた魔法陣を見られる角度を探した。ヘーゼルさんが魔法陣を読み取ったところ、ゴーレムは生まれて最初に見た動く者を追いかけるようにプログラムされているらしい。だから、全員で固まって行動しなくても逃げ遅れた子が追いかけられる心配はない。
何も考えずに掘り進めると崩落の恐れもあるけど、しばらくその危険がないことも先見の明で分かっている。
さらに、子供達には空気を確保するための風の魔力障壁を張る魔法陣が仕込まれた靴が支給されていた。万が一、崩落が起きても、すぐに生き埋めにはならないはずだ。
靴底に彫られた溝が魔法陣になっていたことに気付いたときは、ヘーゼルさんも感心していた。
あと、4体。
昼食前に終わらせてしまおうと、注文を済ませた子供達が改めて坑道に入っていった。
そんな風に安心してたんだけど、しばらくして少し離れた場所から悲鳴が上がった。
「ぎゃぁああぁあぁぁああ。あ、足が……助け……」
隣の洞窟で鉱夫をしていた子が逃げる途中でつまずき、足をくじいたみたいだ。一緒にいた子が肩を貸し、やっと外に出たところで肩を貸していた子が転んでしまった。こっちの子も足を痛めてしまったみたいだ。
ゴーレムは攻撃をするようには組まれていない。転んだ子のすぐ後ろで立ち止まっている。でも、転んだ子達は、いつ動き出すかと恐怖に顔を歪めている。攻撃してこないことは、知らされていないみたいだ。
「あ~らら。早くゴーレム来ないかしらぁ。暇で暇で、アタシ、眠っちゃいそー」
隣のパーティの剣士の女は、薄ら笑いを浮かべながら、転んだ子を眺めている。魔導士2人も助けに行く気はないみたいだ。係の人もため息をつくだけで、動く気配がない。
『ヘーゼル、ここは任せた。俺、ちょっと治療に行ってくるよ』
『――頼んだ』
こっちもゴーレムがやってきてる。こっちの子達は逃げる回数が少なかったから、まだ元気があるけれど、僕も兄ちゃんもいなかったら、子供達は混乱するだろう。
僕がアブヤドに出発してから母さんに回復魔法を色々教えてもらったらしいから、治療は兄ちゃんの方が適任だ。
ゴーレムは4体まとめてやってきてたけど、ヘーゼルさんが魔力を浴びせ、簡単に動きを止めた。まとめて倒す方が楽なくらいだ。
兄ちゃんは、折り重なるように倒れている2人の子に素早く駆け寄る。
上になってる子の方にゴーレムはついてくるようだったから、上の子を先に治療して、移動されるとゴーレムが動き出して下の子を踏みつけてしまうかもしれない。さっさとゴーレムに魔力を浴びせ、活動を停止させる。
それから、子供2人の足をゆっくり治療していた。
「ちょっとぉ。こっちの獲物を横取りしないでよぉ! そのゴーレムはアタシ達のだから! そんなところで勝手に倒さないで! 運ぶの大変じゃなぁーい!」
魔導士の女に文句を言われたので、仕方なく荷車までゴーレムの破片を運んでやる。
どうせ、こっちはノルマをクリアした。あとはゴーレムの破片を町に運べばいいだけだ。余分に働いても子供達にも係の人にも追加報酬はないらしく、頑張る必要はない。
僕達は、ゴーレムを倒せば倒すほど報酬をもらえるけど、元々そんなにお得な仕事じゃないし、ゆっくり昼食を食べて休んだら、町に帰ろうと決めていた。
「兄ちゃん、ケガはどう? 治せそう?」
「あぁ、問題ない。でも、だいぶ疲れてるみたいだな。少し休んでた方がいい。他の子達も汗だくだし」
こっちの子達は、全員でずっと走って逃げまわっていたみたいだ。往復1時間近くを15往復必要。焦っているようだ。
水分補給が必要そうだから、コップを出してもらって水を入れて渡す。こっちの子達は昼食はまだなんだろうか。運搬係の子は、まだここに留まっているみたいだけど。
「あのぅ。申し上げにくいんですが、治療も水も仕事内容に入ってないので、追加報酬はお支払いできないんです。それと、こっちはまだ4体しか倒していないので、もう治療が終わったなら、中に入ってもらわないと……」
こっちの係の人が慇懃無礼に、こんなことを言ってきた。つまり、「金にもならないのに、余計なことをするな。無理させてでも、早く仕事を進めたいんだ」と言いたいようだ。
「そろそろ昼時だけど、こっちは昼食を買いに行ってもらわなくていいのか?」
「荷車はゴーレム5体分ずつの破片を積んで移動しないと、効率が悪いですから」
「でも、あいつらは昼食を食べてるぜ?」
「冒険者の方は、待ち時間は自由にしていて構いません。彼らには、ノルマがあるわけではないですし」
冒険者3人組は、子供達に見せつけるようにサンドイッチを食べている。
「僕は……、大丈夫……。このままだと昼抜きになっちゃうから、行ってきます。治療と水、ありがとう……」
ケガをした2人は、ケガが治ると再び坑道に入っていった。
隣が気になるけど、僕達の方の鉱夫君達も疲れているだろう。コップに水を満たしてやり、昼食が届くのを待つ。水の代金を払うと言ってきた子もいたけど、断った。そんな気になれない。隣みたいなことが日常だとしたら、彼らの労働環境は酷いものだ。
「同僚が不快な思いをさせてしまったようで、ごめんね。彼は出世欲が強く、どうにも周りに無理を強いる傾向があって……」
こっちの眼鏡の職員さんは同じ係の人でも、だいぶ違うみたいだ。謝ってくれたけど、ノルマが未達だと職員さんにも色々あるらしく、子供達の環境改善はなかなか難しいらしい。全員で逃げなくていいように、今日みたいなやり方をするとは言っていたけど。
「おーい。昼飯買ってきたぞ~」
しばらくして、運搬役の子が戻ってきた。買ってきてくれたのは、濃い目の味付けがされた肉を薄い皮で包んだラップサンドと煮たリンゴを包んだアップルパイ。お釣りが200ダハブ。どれも1個600ダハブだそうで、アップルパイは2人で1個。
濃い味付けのものばっかり売っているのは、肉体労働者に喜ばれるからなんだろう。さっきの転んだ子とかは汗をかいていたから、こういうのを食べた方が良さそうだ。
アップルパイは控え目な甘さで、なかなか美味しい。他の子も4、5人で1個を分け合って食べてる。
「ノルマ未達だと、給料削られるからさ。そのパイは、ちゃんとノルマが達成できた日だけ食べられるご馳走だ。旨いだろ?」
じっとこっちを見ている。自分の分は買ってこなかったみたいだ。残ってるアップルパイを半分に割って渡すと、ニカッと笑ってくれた。明るい笑顔だ。あんまり儲からないけど、この依頼を受けて良かった。
彼は誘拐されて売り飛ばされたらしく、お金を貯めて自由になれたら、故郷に帰りたいんだそうだ。だから、アップルパイは我慢してるんだって。
そして、話の最後に実は1個500ダハブなんだと白状してきた。謝りながら300ダハブ渡そうとしてくる。
話を聞いた後だと受け取りにくい。
「取っとけよ。美味しい物を買ってきてくれたから、そのお礼ってことで」
兄ちゃんはそんな風に説明して、この小さな詐欺師君を納得させてた。
僕達が食事を終え、帰り支度を始めた頃、隣ではようやく5体目のゴーレムを倒し終わった。
「よっこらしょ。んじゃ、飽きたから俺達帰るわ。乗せてってくれよ」
5体目のゴーレムの破片を乗せさせずに、魔導士の男が荷車に乗る。嫌がらせだ。
「仕方ないですね。君、冒険者ギルドに寄って、再度依頼を受けてくれる人を探してもらってください。見つかるまで戻ってきては――」
「俺達がやるよ。こっちはもうノルマ達成したし」
「そうですか? 助かりますが、魔力切れが心配なので、依頼は出させてもらいますね」
理屈は分かるけど、それではこっちの子供達はずっと昼食を食べられない。
「冒険者ギルドへの依頼は私が出してきます。案内もしますから、大丈夫です」
見かねた眼鏡の職員さんが申し出てくれた。
「そんなことをしても出世にはつながらないぞ? 無駄なことをするより、ギルドに帰って他の仕事をした方がいい。チーム全体の成績も上がるし――」
でも、こっちの係の人はこんなことをグチグチ言って、なかなか受け入れてくれなかった。
「黙れ」
しばらくは静観していたヘーゼルさんだけど、生気のない子供達をこれ以上待たせる気にはなれなかったらしい。怒りで魔力が漏れ出し、周囲の気温が下がり、言い合ってた2人がぶるりと震える。
「すぐに食べるものを用意する。1食500ダハブ以内にするから、それで我慢してくれ。――魔力は十分だ。ギルドへの依頼は不要。運搬役の子も食べてから行け。仕事が終わったなら、貴様らはとっとと歩いて帰れ」
ただならぬ様子と気迫に押されて、皆、コクコクうなずいている。
兄ちゃんは肩をすくめつつも、異論はないみたい。空間魔法からオークの肉を出してくれた。
塩とローズマリリンで簡単に味付けして焼くだけの簡単な食事を用意した。凝った料理じゃないけど、お腹が空いていたのだろう。美味しそうに食べてくれた。
◇
仕事を終わらせて、宿に戻った。ちゃんと隣の子達のノルマを達成させてやれたけど、原石は手に入っていないから、どうするか考えなくちゃ。
しかし、どうにも良いアイディアが浮かばない。こっそり坑道に忍び込むとか、そういうバレたら困る解決方法くらいしか出てこない。
そのまま夕方近くまで話し合っていたら、宿の人から来客を告げられた。どうやら、昨日の受付の子のようだ。
部屋に迎え入れて、来てくれたことにお礼を言ったんだけど、どうにも表情が硬い。何か思い詰めているみたいだ。
「……あのさ。原石、探してるんだよね。これを、買い取ってくれないかな。1個3000ダハブくらいで」
少しの沈黙の後、彼は小さな袋から石をテーブルに出した。合計で23個。
磨いてる途中で傷をつけてしまったらしい石や割れてしまった石など。加工を失敗した石みたいだ。
「これ、どうしたの? 持ってきちゃって怒られない?」
「……大丈夫。失敗して買い取りさせられた石だから。全部、僕の物だから売っても構わないはずだ」
「欲しいのだけ選んでも良い?」
「――良いよ。でも、できるだけたくさん買い取ってよ」
割れた面が平滑で綺麗な石はインペリアルトパーズ。綺麗な赤だ。こっちのルビーも傷がついた面は削ってしまうから問題ない。3000ダハブならお得といえる石が結構ある。
「なんで疑わないの?」
「え?」
ウキウキしながら石を選んでいた僕に、泣きそうな顔で受付の子が言い出した。
「傷がついちゃってるから、買い取らされたけど価値はほとんどないんだ! それを金額上乗せして売ろうとしてるのに!」
「価値はあるよ。提示された金額も物によっては妥当な額だし」
罪悪感に耐えられず、騙していたと告白してきたけれど、そんな遠慮は要らない。目利き持ちの僕には価値が分かるから騙せない。むしろ得をしているくらいだ。
「僕は、原石が手に入らなくて困ってたから、売ってくれるとありがたいんだよ。本当に欲しい人は多少高くても買う。ごくごく普通のことだ。それに、3000ダハブじゃ高いと思う石はちゃんと値切るから安心して」




