表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/327

第2話 アルベールの秘密

 ヤークートでの2日目。

 宿屋の朝食を食べながら、兄ちゃんと今日の予定について話し合う。コソコソする必要はないんだけど、なんとなく視線を感じるから、意思伝達で話す。


 宿屋の食事はあんまり美味しくない。パサパサのパンと、濃い味付けで味を誤魔化した肉。付け合わせのジャガイモは普通。水分が欲しくなるメニューだけど、水は追加料金を取られるので、革袋に入れた自前の水を飲んでいる。


『今日は冒険者ギルドでゴーレムの生息地についての情報収集と、職人ギルドに荷物を運んでる子供達がどこから荷物を運んでるかを調べる。これでいいか?』

『私は、職人ギルドの受付の少年が別れ際に妙に複雑な表情をしていたのが気になる。今日か明日で休みの日があるようなら、ちょっと話を聞いてみたい。ついでに治療もしてやりたいしな』

『じゃあ、まずは職人ギルドに行って、昨日の子を探す。その後、荷運びの子を尾行してみよう。普通の職人ギルドだったら、冒険者ギルドと往復だろうし、行き先が冒険者ギルドだったら、そのままゴーレムについて聞き込み。違ったら、そのとき考えるってことで』

『うん、異議なし!』


 兄ちゃんの言う通り、職人ギルドで荷運びといったら、解体に回された魔物の運搬が真っ先に思い浮かぶ。そういう普通の仕事だったら、原石とはあんまり関係がないだろう。


『マルドゥク、方針も決まったことだし、この妙な視線の主が何をしようとしているのか知りたい。先見の明で予測してくれ』

『そうだな。――ギーラと初めて冒険者ギルドに行ったときにも、こんな視線感じたんだよな。”良いカモ発見!”みたいな、こっちを舐めてかかってる悪意のある視線』

 確かに、宿の客らしい冒険者風の男数名から視線は感じるし、視界の端に映るその顔はニヤニヤと感じの悪い笑みを浮かべている。


 先見の明で予測してみると――。


『ふむ。誘拐か? この町は活気があるが、治安はあまり良くないな』

 この後、宿を出ると後をつけられて、襲われるみたいだ。仲間の1人がロープやら子供がすっぽり入りそうな大きな袋やらを持ってるから、誘拐の線が濃厚だ。

『マルを誘拐しようだなんて、ふざけたこと考えやがって。返り討ちにしてやる!!』

 ……狙いに気付かないまま尾行されても返り討ちにできる予測だし、兄ちゃんも狙われてると思うんだけど。


 用事もあることだし、面倒事は早めに片付けておきたい。

 身支度を済ませて宿を出たら、わざと人通りの少ない脇道に入り、タラリアで上空に浮かび上がって民家の屋根の上で待機。

 一応、狙いは聞いておきたいので、地面にマイクを置いておいた。牛頭鬼(ミノタウロス)達の襲撃事件の時に使った魔法陣を仕込んだ木の棒だ。

 案の定、追ってきた男達は僕達を見失い、キョロキョロしている。脇道に入ってきたのは4人だけど、大通りに1人見張り役を残している。


「おい、どこ行ったんだ? 丸腰のガキと精霊術師のガキなんて、良いカモだったのによ」

 兄ちゃんは空間魔法からすぐに取り出せるからと、剣も杖もしまったままだった。それで、カモだと思われたみたいだ。

「この町で見かけるなんて運が良いと思ったんだがな。丸腰の方は、すぐに特殊孤児として売却できるってのに」

「あいつら捕まえるために、わざわざ同じ宿を取ったんだぞ? 俺達の普段の宿より良い所に泊まりやがって。見つからなきゃ、余計な出費をしただけになっちまう。探すぞ」

「まぁまぁ。精霊術師のガキの方は目立つ容姿だし、すぐ見つかる。白は素材として高く売れるから、捕まえれば大儲けだ」


 白の子供は普通こんな場所にいないから、確かに僕は目立つかもしれない。とりあえず、荷運びの子を尾行するときになったら、ローブのフードを被っておこう。

 男達は、兄ちゃんを特殊孤児として売り払い、僕を杖用の素材として売り払うつもりみたい。


 普通に返り討ちにしてもいいけれど、あんまり派手にやると、目立ち過ぎて後の調査で動きにくい。地味な倒し方だと、再度付け狙ってくる恐れがある。再起不能にするわけにはいかないし、しかるべき人に捕まえてもらうとしよう。



 1本隣の脇道に移動し、大通りに戻る。見張り役の男に見つかるように、顔はちゃんと出しておく。


「兄ちゃん、こっちじゃなかったね。初めて来る町だから、道がよく分からないや」

「そうだな。昨日の親切な門番さんに道を聞いてみようか」


 わざと聞こえるように会話しながら、大通りをドンドン進む。

 門番は町の警備を担当する仕事だから、大抵は警備隊の人が行っている。町中での犯罪も取り締まってくれるはずだ。


 人目もあるから、大通りで襲い掛かってくるつもりはないようだ。かといって、諦める気もないらしく、ずっと尾行を続けている。

 昨日町に入るときに通った南門まで行って、門番さんに告げる。


「すみません。僕達、変な男達に宿からずっとつけられてて」

「会話がチラッと聞こえたんだけど、売り飛ばすとか言っててさ。俺、囮になるから襲ってきたら捕まえてくれよ」

 門番さんは急な訴えに目をパチパチさせている。

「――君達、落ち着きすぎなんだが、本当か? まぁ、この町ではよくあるからな。本当に襲ってくるようなら、対処しよう。このホイッスルを貸してやるから、襲われたら思いっきり吹け」

 この町ではよくあることらしい。驚いていたのは、僕達が平然とした様子で、誘拐されそうになってるなんてことを言い出したからみたいだ。


 協力はしてくれるそうだから、門からすぐ近くの脇道に入って男達を誘う。

 手を出せなくて焦れていたのか、すぐに姿を現した。


「坊ちゃん達、悪いがしばらくの間、大人しくしてな。抵抗しなきゃ、痛い目にあわなくて済むからよ!」


 すぐさま剣を抜いて襲い掛かってきたので、ホイッスルを吹きつつ、素早く懐に入り、鳩尾(みぞおち)に膝蹴り。剣を取り落とし、後ろにいた魔導士風の男に向かって倒れ込む。

 魔導士風の男は、倒れてきた剣士風の男のせいで動きを封じられながらも、呪文を唱えようと口を開けた。開いた口元に手を添え、口の大きさに合わせて氷の塊を生成。無詠唱ではないみたいだから、これでしばらく攻撃はできないだろう。最初に剣で襲ってきた男もアッサリ倒されたことがショックなのか呆然として、立ち上がれずにいる。

 兄ちゃんの方は、男2人を囲むように炎の輪を作り、僕達に近づくことも逃げることもできない状態にしていた。じりじりと輪の大きさが狭まっていく。炎から逃れようと2人が近付いていき、どんどん身動きが取りにくくなっていく。


 4人を無力化したところで、見張り役の男を捕まえた門番さんが近寄ってきた。

 諦めた男達は大人しく、門番さんに捕まった。



 誘拐犯の件は片付いたし、門番さんにお礼を言って、マイクを回収してから予定通り職人ギルドに向かった。


 受付には昨日の子はいなかった。今日は別のところで勤務しているみたいだ。予定を聞いてみたけど、休日は明後日らしい。

 兄ちゃんを村に送り届けるため、明日の昼にはこの町を出る。ゆっくり話すことは難しそうだったけど、宿の場所を教えて時間があったら話したいと伝言を頼んでおいた。


 ギルドの外に出て探すと、荷車を引いている子は何人かいるみたいだった。3人連れ立って移動する子を見つけたので尾行。2人の荷車は空だから、これから行った先で荷物を積むんだろう。


 3人の子は、普通に冒険者ギルドの裏口で荷車を止めた。ハズレだろうか。

 しかし、1人はそのまま荷を積んで来た道を帰っていったけれど、2人はそのまま待機していた。待機してるうちの1人は、荷車に既に荷を積んでたんだけど、荷下ろしをする様子もない。


『マル、ここからなら冒険者ギルドの中まで意思伝達は届くよな? 俺は聞き込みに行ってくるから、このまま見張っててくれ』

『了解。気を付けてね~』


 仲間がいるって良いよね。心強いし、こういうときに手分けして効率アップも図れる。兄ちゃんと一緒で良かった。


 しばらくすると、ギルドから魔導士の男女と剣士の女という3人組が出てきた。魔導士の女が空の荷車に乗り込み、荷運びの子に何か言うと、そのまま出発してしまった。他の2人は歩いて付いて行くようだ。


『兄ちゃん、荷車1台出発しちゃった! 魔導士2人と剣士1人の3人組と一緒に』

 人を乗せるとは思わなかったから、慌てて兄ちゃんに呼び掛ける。

『そのパーティ、ゴーレム退治の依頼を受けた奴らだ。もう1組募集してるから、受注していいか? 今朝、捕まえた奴らが受けてたみたいなんだけど、来ないからキャンセル扱いになってる』

 ゴーレム退治っていうのは確かに引っかかる。

 入手素材を全て回収されるってことになってて、報酬額も低め。でも、リピーターの受注が多いっていう怪しい依頼だそうだ。

 受注条件は魔力量に自信のある方。魔法が有効なゴーレム相手だから、この条件は変じゃない。兄ちゃんやヘーゼルさんなら何の問題もないはずだ。


 僕も冒険者ギルドの中に入り、兄ちゃんと合流。説明を受けながら、裏口に案内された。

 素材を運ぶための運搬役の子に案内してもらって現場に行くこと。現場にも係の人がいるから、指示に従うこと。報酬はその場で受け取り、冒険者ギルドには報告の義務はないこと。そのくらいの簡単な説明だった。

 裏口では、荷を積んだ荷車を引いてた子が待っていた。僕達を見て、なぜかガッカリした表情になる。


「今日はこの子達が受注したから。よろしくね」

「……はい。こっち。ついて来て下さい」


 言葉は丁寧だけど、口調はぶっきらぼうだった。

 返事も待たずに、ずんずん北門に向かって歩いていく。荷車を引いてるから、速くはない。普通に歩いて付いて行くことは簡単だけど、ピリピリした雰囲気で、居心地は良くない。


「お前ら、へばってきたら、早めにリタイアしろよ。そしたら、別の人に受注してもらうから。15体倒してもらわなきゃ、ノルマが達成できねーんだからな」

 北門を出て、周りに人の気配がなくなると、荷車の子はそんなことを言い出した。

「ゴーレム15体か。遭遇するのが大変そうだけど、倒すのは問題ないと思うぜ」


 ゴーレムは珍しいし、魔法が使えないと苦戦するけど、兄ちゃんやヘーゼルさんにとっては雑魚だ。核に込められた魔力を上回る魔力を浴びると、それだけで活動停止してしまうから。

 体を構成する物質によっては、浴びた魔力を軽減させられたりして余分な魔力が必要だけど、普通のゴーレムならただの石のはず。

 でも、荷車の子は兄ちゃんの余裕の発言にも愚痴を止めない。


「大体、なんでオレが荷運びの日にツルハシのストックがあるんだよ。行きの荷物が重くなるじゃねぇか。昨日注文の品持ってきた奴は、オレに恨みでもあんのかってんだ」


 積んでる荷物はツルハシらしい。たぶん、昨日僕達が納品したやつだ。

 愚痴りながら、岩肌むき出しの崖の下に来た。洞窟の入り口もあって、子供達がツルハシを傍らに置いて休んでいる。眼鏡をかけた大人の職員もいる。この人が係の人だろう。


 少し離れた所に、もう1つ別の入り口があるみたいで、先に出発したパーティが妙に頭が大きい不格好なゴーレムを倒しているところだった。苦戦している様子はないから、手伝う必要はなさそうだ。


「仕事の説明をします。ここの洞窟の調査をしているのですが、ゴーレムが出てくることがありまして。ゴーレムが出たら、中にいた子達は入り口まで逃げてきます。外までゴーレムが出てきたら、倒してください。それから、調査用の灯りに魔力を込めてもらえるとありがたいです。待っている間の暇つぶしで結構ですので」


 そう言って、側に置いてある箱を指さした。中には水晶玉が入っている。ルチルクォーツみたいで、中に針状の鉱物が閉じ込められている。


 人工ゴーレム核

 岩や鉱物、金属などに押し付けると取り込んでゴーレム化する魔法陣が仕込まれた水晶玉。針状の鉱物が閉じ込められているため、魔法陣を視認しにくい。

 材料:ルチルクォーツ

 付加能力:なし

 潜在能力:物質ゴーレム化(要魔力、要ゴーレム体構成用物質)


『マルドゥク、お前は先見の明での予測は忘れても、目利きは忘れないな。これがアルベールの事業の秘密というわけか』

『なるほどなぁ。土魔法が必要なゴーレムの体を構成する材料は現地調達して、コントロールはしない。光魔法だけで十分ってわけだ』


 鉱脈のあるところで、この水晶玉を押し付けてゴーレム化させる。子供達を追って出てきたところを倒せば、原石入りのゴーレムの破片が手に入る。そこにあった岩盤ごとゴーレムとして移動してくれるから、ゴーレム化した場所は掘る必要がない。

 土魔法でのコントロールがないから、多少不格好なゴーレムになる恐れはあるけど、ゴーレムに強さは不要だから問題ない。


 なるほど。採掘方法として見れば、効率が良い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ