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第1話 ヤークート

「兄ちゃん、あの町であってる?」

「あぁ。たぶん。第7町、通称紅玉町(ヤークート)。念のため、門番に聞いてみる。少し離れた所に着地してくれ」


 図書館や職人ギルド、ウターリド工房の親方さんから情報収集した結果、アダーラ地方第7町がルビーの原産地として挙がった。

 初めて行く町だから、兄ちゃんに地図と方位磁石で確認してもらいながら、タラリアで飛んで向かっているところだ。


 ヤークートっていうのは、最近、赤い宝石を数多く出荷し始めたことから、付けられた通称。


 昔は1つ1つの町や村に名前が付いていたらしいんだけど、名前を付けることを禁止していた時代があって、今でも町に通称が付くのは珍しい。

 数字の方が管理しやすい、どこでも同じ生活ができることを目指すから名前で差を付けるべきではない。禁止したときの表向きの理由はそんな感じだったらしいけど、本当は闇の賢者以外に縁のある名前の町で革命勢力が醸成されていくのを避けたかったらしい。

 例えば、マチルドさん達が住んでる町は、かつて左手町と呼ばれていた。

 近くにヘーゼルさんの左手が埋められたからという怖い理由で付いた名前だけど、ヘーゼルさんは右手に剣を持って左手で魔法を操っていたから、水の賢者の魔力を象徴する町でもあった。

 町に名前が付いていれば由来は語り継がれる。左手町なら、水の賢者の話。そんな場所が昔は各地にあって、それが気に入らなかったというわけだ。


 町の名前として残らなくても、時の為政者が嫌がったことは町の特徴や歴史として語り継がれた。

 無駄だと分かったからか、今は名前を付けても良いんだけど、パッと意味が伝わる呼び方は避け、遺跡から辞書が見つかった古代語らしき言語に翻訳して呼ぶっていうのが暗黙のルールになってる。

 それでも、大昔の名前を復活させるのは要らない誤解を生むし、名前にするほどの特徴のない場所も多い。

 結局、アブヤドみたいに国の政策と絡んで特徴のある町と、ダンジョンが近くにある町くらいしか名前はつけられていない。


 ヤークートも今のところは正式名ではないけど、名付け方には問題がないから、このまま定着する可能性は十分ある。



「門番さん。ここが第7町であってますか? 冒険者ギルドの配達依頼で来たんだけど」

 町の入り口で兄ちゃんが門番さんに問いかける。


 僕達はここに来るに当たり、配達依頼を受けておいた。

 アルベールは最近になってルビーやエメラルドの加工販売事業を始めたらしいけど、どうやって宝石を入手しているのか明らかにしていない。もし、ヤークートにその秘密があるとしたら、ただの旅の子供達では警戒されると思ったんだ。

 というか、ヘーゼルさんからは「旅の子供達」の時点で普通じゃないって言われた。確かに、家出とかを疑われても仕方ない。


「おう。合ってるけどよ。子供の足でここまで来るのは大変じゃなかったか? 無理な依頼は受けるもんじゃないぜ。――依頼書と、そっちの子は身分証を見せてくれ」


 依頼書と身分証を見せると、徐々に門番さんの顔が曇っていった。


「届け物はどうした? どこかで落としたのか?」

「工具と手紙類はリュックに入ってるよ。水は弟が魔法で出すから大丈夫」

 言いながら、背からリュックを降ろし、中からハンマーやらノミやらヤスリやらを取り出して見せる。

「ふぅむ。坊や、この身分証は仮のものだね? ちゃんとしたものを早く作ってもらいなさい。悪いが、貯水槽まで同行させてもらう。ちゃんと水を出せるのが確認できなかったら、アブヤドに帰ってもらうよ」


 僕が精霊術師って信じてもらえなかったみたいだ。

 身分証の偽造ってこともありうるだろうから仕方ない。


 工具の配達依頼は後で職人ギルドに届けて、それから冒険者ギルドに報告で完了。手紙は冒険者ギルドに届ければ完了。水の方は、直接貯水槽のある場所に行って、そこの役人さんから報酬を受け取ればいいことになっている。


 門番さんは悪い人ではないみたいで、ヤークートの貯水槽に案内しながら、町の大まかな地理だとか、宿屋はちょっとお金を出して良い所に泊まった方が強盗に狙われにくいとか、色々教えてくれた。


 貯水槽は以前アダーラ地方で見たものと同じものだった。水は半分以上入っていたから、残り半分を満たす。

 今回の仕事は従量制。ざっと20万リットル入れたってことで、10万ダハブくれた。ちゃんと精霊術師の報酬表通りだ。

 もっとも、普通の冒険者が水を同じだけ運んできた場合は倍以上の報酬が支払われるから、思いっきりピンハネされてるんだけどね。冒険者ギルドで仕事を受けたのに!

 怪しまれたくないから何も言わないけど、ものすっごく損した気分だ。鉄仮面(ポーカーフェイス)で表情にも出さないけど!


「ありがとうございました。とても助かります」

「疑って悪かったな、坊主。せっかくだから、ゆっくりしてけよ」

 依頼主の町役場の役人さんと門番さんがにこやかに言う。

 精霊術師だからと報酬を他より低くすることに何の疑問も感じていないみたいだ。


 ともあれ、無事に町に着いた。ちょっと良い宿屋の集まっている町の中心近くで宿をとる。

 1泊2食付きで5000ダハブ。マチルドさんとジルさんのやっている蒼銀亭と同じランクの宿だ。内装は蒼銀亭の方が好みだけど、石造りの重厚な感じが好きな人ならこっちを好むかもしれない。


 まだ、昼を少し回ったくらいの時間だ。昼食のために町に出て、そのまま原石探しに出かけることにした。

 ものづくり関係の情報なら職人ギルドが集まりやすそうだし、工具の配達依頼もある。その近くで店を探して食事を済ますことにした。この町は賑わっていて、色んな所に屋台が出ている。食べる物を探すのには苦労しなさそうだ。

 職人ギルドの近くには子供が多くいた。その子達向けの屋台なのか、単価が安くて量が少なめだ。僕達には助かる。濃い目の味付けのピタパンサンドを食べながら、適当なベンチに腰掛けて町の様子を観察する。

 子供達はかなり慌ただしく食事をしている。服も汚れているし、荷車で袋に入った何かを運んでいる子もいる。


「名字が表示されない子が多いな。ほとんどが孤児なんだろう」

 子供達を鑑定した結果を兄ちゃんが教えてくれる。仕事をしてるみたいだから、ジャン君みたいな特殊孤児ってことだろう。

『無気力な目をした子が多いな』

 確かにイキイキと仕事に向かう子は少ない。殴られたような痣が体にある子もいる。


 ゆっくり食べて、子供達が仕事に帰っていく様子を見ていると、4割ほどが職人ギルド、3割ほどが職人ギルドの裏の建物に入っていった。2割ほどは荷車を引いてギルド裏の建物とどこかとを往復しているみたい。

 残り1割はバラバラの場所に向かって行く。この子達は名字がある子が多いそうだから、引き取り先の見つかった子か、普通の家庭の子がお手伝いをしているかだろう。


「気になるのは職人ギルドとその裏にある建物だな。まずは、依頼を片付けちゃうか。ギルドに行こう」


 兄ちゃんに促されて職人ギルドに入る。パッと見た限りは、あんまりアブヤドと変わらない気がする。


「配達を頼まれていた工具を納品に来ました」


 受付で工具を渡す。この工具類もちょっと気になる。ハンマー、ノミ、ヤスリの他に、ツルハシなんかも頼まれていた。この町の近くに採掘現場があるのかな?


「はい。依頼書を出してください。品物はカウンター横のテーブルにお願いします……」


 受付も僕と同い年くらいに見える子供がやってる。話しかけても視線がほとんど動かないし、声に抑揚がない。決められたことを話すだけの人形であるかのように感じてしまう。


 品物をテーブルに並べると検品作業を始めた。


「ハンマー、ノミ5本ずつ。金属ヤスリ10本。紙ヤスリ20枚。ツルハシ15本。確かに受け取りました」


 ツルハシは結構かさ張るから、兄ちゃんに背負ってもらってるリュックには明らかに入らない。リュックから取り出すふりをして、空間魔法から出している。

 目の前で手品みたいなことをしたんだから、驚いてくれるかと思ったんだけど、淡々と注文と品物の数が合っているかだけを確認して、依頼書に完了の判を押して返してくれた。感情を失ってしまったかのようだ。


 受付の子は、そのままテーブルに置かれた工具類をどこかに持っていこうとするけど、当然抱えきれない。というか、右腕の動きがちょっとぎこちない?


『ケガしてるみたいだな。鑑定で状態が”負傷(中程度)”って出る。マル、運ぶの手伝ってやろう』


「ねぇ、運ぶの手伝うよ。どこまで持っていけばいい?」

「いえ、結構です……。依頼内容はこの職人ギルドまでの配達でしたから。あっ」

 僕が手伝いを申し出てる間に、兄ちゃんはさっさと工具を全部リュックにしまう振りをして空間魔法に入れてしまった。

「背負った方が楽だから、俺が運ぶよ。案内してくれ」

「あの、えっと、でも……。ありがとう、ございます。裏口から出て隣の作業棟の倉庫です……」


 結構な数の子供達が入っていったギルド裏の建物に運ぶみたいだ。作業棟って言ってるから、ギルド併設の作業場みたいだ。

 ちょっと迷ってたけど、僕達に施設の案内をするということにして、受付の奥に入る職員さんに声をかけていた。


 連れっていってもらうと、1階は魔物の解体をする解体場になっていた。ゴーレムの腕とかも転がってる。ゴーレムがこの辺に出るのかな。ザッと目利きしながら見回してみる。


 ゴーレムの破片(頭部)

 活動を停止したゴーレムの体の頭部。ゴーレム化する際に地層内の鉱物を取り込んでおり、内部にスピネルの原石がある。

 適正価格:2500ダハブ


『兄ちゃん、ここで解体してるゴーレムの中に原石が入ってるみたい。地層内の鉱物を取り込みながらゴーレム化したんだって』

『ほぉーー。それがアルベールの秘密なのかな? ゴーレム作成術ってのもあるみたいだし』

『――フェン、私はゴーレム作成術なんてものを使った奴を見たことがないんだが、それはお前の図書館スキルに入っていた知識か?』

『え? まぁ、確かにそうだけどさ。ゴーレム作成術ないの?』

『ああ。土魔法か?』

『あぁ、そっか。土と光の複合らしいから、普通の方法じゃ無理だな。となると、ゴーレムがたくさん湧き出てくるダンジョンが近くにあるとか?』


 複数属性を複合させた魔法は相当難易度が高い。それぞれの属性の力の強弱や作用のさせ方をコントロールするのが難しいからだ。人によって属性の得意不得意もあって、同じ呪文で誰でもできるって訳にいかないのも困りもの。それなりの規模で行うなら、術者が1人じゃ足りないだろう。

 精霊術でなら意外と簡単にできるけど、そのことは一般には知られていないし、ゴーレム作成術の線は薄いかな? でも、ダンジョンだとゴーレムの体内に原石があるかどうかは運次第になっちゃうし……。


 考えてみたけど、答えは出ない。

 商売になりそうな気配があるから、謎を解き明かしたい気持ちはあるけれど、今は原石を仕入れられればいい。


 ツルハシ、ハンマー、ノミは1階の倉庫で、ヤスリは2階の倉庫。

 普通の職人ギルドなら、2階と3階は工房を持たない職人さん達が借りる作業場ってことが多いんだけど、やたらと子供の出入りが多い。


「あの、ありがとうございました。助かりました。――素材に興味があるなら、売店は作業棟の1階解体場の脇にありますけど」

「えっ?」

「ゴーレムの解体をじっと見てたから……。興味あるのかなって」

 最初と違って少し感情が見える表情をしている。警戒と緊張が解けたみたいだ。

「うん。実は赤い宝石の原石を探しに来たんだ。配達依頼はこの町に来るついでで受けただけ。売店で売ってるかな?」

「――原石はそのままでは売ってなくて、2階の作業場で磨いてから売店には並ぶんだ。せっかく依頼達成でお金が入るんだし、綺麗に磨いてあるのを買ったら? 大きな石が必要?」

「小さな石で良いんだけど、加工済みの石じゃダメなんだ。一緒に使う石と加工の仕方を合わせてないと」


 残念ながら簡単には仕入れられないみたいだ。

 受付の子は僕の言葉を聞いて、何だか複雑な表情になってしまった。何かを迷っているような顔だ。

 気になるけど、彼の境遇を考えると無理に聞き出さない方が良いかもしれない。迷うってことは、この職場で推奨されていない入手方法かもしれないし。


 ジャン君との約束では3泊4日以内でアブヤドに戻ればいい。まだ時間はあるし、明日は荷車を引いてる子供達がどこから荷物を運んでいるのか調べてみようか。

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