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第12話 フェンの日記(17)

 少し長めです。

 魔法歴985年4月5日


 マルに付いて行くことを両親は承諾してくれた。


 すごく悩んでたけど、俺にマルを支えて欲しい気持ちが勝ったみたいだ。

 マルが罪人を移送するような物々しい馬車でアブヤドに連れて行かれたことで、2人は俺以上にショックを受けていた。


 一時帰宅したマルは、意外と楽しそうに話していたけど、「突然帰ってきたのは、何か辛いことがあったからでは?」という疑念も両親は抱いたみたいだ。

 ということで、俺はマルのアブヤドでの生活に問題がないか確認してくることになった。


 もちろん、俺としては、アブヤドに悪徳の使徒がいないかとか、マルの友達にどんな魂なら憑依できそうかとかを調べる目的の方が大きい。



 まずは、マルがいない間に練習した魔法を使って、飛行時間の短縮ができないかを実験しつつ、アブヤドへ向かって飛んでもらう。


 前方に風を受ける魔力で出来た壁を展開し、空気抵抗を減らす。もちろん、壁は先を尖らせた流線形だ。

 結果は成功。速度も上がったし、疲労も軽減できたみたいだ。

 おかげで、夕方遅くにはアブヤドに到着した。


 そのまま、寮に連れて行ってもらう。本当にザッコが寮父をしていた。家族なら、寮の部屋に泊まることは問題ないそうだ。

 定住は困るとも言われたから、1週間くらいしたら宿屋に移ろう。


 そして、マルの部屋で悪徳の使徒発見。ライアンさんの息子、モルガン君。とはいえ、やたら怖がりだと言ってたから、可能性あると思ってた。


 モルガン君は明らかに竜騎士向きだな。槍術の天才で騎竜術持ち。闇属性Sだから、憑依してもらう手も使える。

 自然と竜に憑依しているという闇の賢者が思い浮かぶ。

 いや、大物すぎるか。闇の賢者って協力してくれなさそうな上に、普通の奴でも怖がりそうな救済プランだしなぁ。


 それから、マルと同じ班の子達と一緒に夕飯。

 ここで、2人目の悪徳の使徒を発見。リリアーヌ・ジョゼ・シュゼット=カーラ。愛称リリちゃん。まさかの色欲の使徒。

 真っ白なドレスがゴスロリっぽく思えるのは、当人の雰囲気のせいなのか。それとも彼女が色欲の使徒であることやサキュバス2号って魂名から、俺が退廃的なイメージを持ってしまっているせいか。


 俺がリリちゃんを見て、ちょっと固まってたのに気付いて、マルとヘーゼルから理由を問いかけられた。

 「色欲の使徒だったから」とは言えない。でも、警戒はしておいて欲しい。こういうとき、いつも言葉選びに困る。『リリちゃんってひょっとしてエロい?』と聞きそうになって踏み止まった。まだ子供だ。恋愛とかまだ早い。きっと、しばらくは大丈夫だろう。


 誤魔化すために、「スキルに音痴ってのがあったから」と答えておいた。

 才能系スキルに音痴。これも、悪徳の神の呪いのようなものだろうか。


 マルも『音痴って、才能系スキルなの!? 常人には到達しえない域にある、もはや才能と言えるほどの音痴ってこと!?』と驚いていた。

 誤魔化すのは上手くいったけど、不憫だ。精霊術師になるなら、音楽は大事だろう。

 土属性相性Sを活かして魔法が得意な人に憑依してもらうのが良いな。


 子供達からもツッコミが入る。


「フェンさん。ひょっとして、面食い……? リリのこと、じっと見てた……」

「えっ!? あ、悪い。初対面の相手をじっくり観察しちまう癖があるんだ」


 女の子って鋭いよなぁ。とりあえず誤魔化す。


「別に構いませんわ。慣れてますの」


 リリちゃんは小悪魔っぽいいたずらな笑みを浮かべて、そんなことを言い出した。セリフといい、表情といい、余裕たっぷりだ。色欲の使徒って称号がはまっている。まだ子供なのに。


 色欲の使徒に惚れてると誤解されるのは困る。恋バナ好きのお節介がくっつけようと画策するかもしれないからな。とりあえず、きっぱり否定した。


「そういうときは、”貴女があまりにも美しいので、みとれてしまいました“くらい、言った方がよろしくってよ」

 わずかに横を向いて機嫌を害した風を演出しつつ、口元には余裕の笑み。将来が怖い。


「なんだ……。同類だと思ったのに……。私は、マル君とかリリを見て……目の保養にしてる……」

 ララちゃんはララちゃんで怪しげだな!? 絵本を描きたがってるって話だったけど、それは子供向けの内容なのか……?

 でも、この言葉で、場の緊張感が薄れた気がする。捉えどころがない印象だったけど、ひょっとして空気読める子?


 しかし、そんなララちゃんの救済は他の子と違うアプローチが必要そうだ。


 名前:ララ

 性別:女

 生年月日:魔法歴978年1月27日

 所有スキル:(才能系スキル)音楽の才能、絶対音感

 属性相性:火(E)、土(E)、水(E)、風(E)、光(E)、闇(E)


 属性相性が全部E。これじゃ、誰かに憑依してもらうのは厳しい。直接戦闘が得意そうにも思えないから、竜騎士も向いていないだろう。

 リリちゃんとは逆に、音楽は得意そうなのが救いだ。彼女は本物の精霊術を使えるようになってもらうしかない。


「あの、フェンさん。僕、図書館でバイトすることになったんですけど! 文字の勉強中なんですけど、読んでみるならどんな本がお勧めですか!?」


 ララちゃんを見ながらそんなことを考えてたら、シャルル君、通称ルル君が割って入ってきた。ヘーゼル曰く、ララちゃんに初恋中の男の子。

 でも、まだ初恋には早いと思う。だって、マルと同い年の子だし。


 図書館と花屋でのバイトを掛け持ちしてるそうだ。図書館のバイトはララちゃんも一緒だ。

 字を覚えてる最中ならと、読めない文字があっても書いてあることを想像しやすい絵本や図鑑を勧めておいた。


 名前:シャルル

 性別:男

 生年月日:魔法歴978年2月16日

 所有スキル:(才能系スキル)攻撃魔法の才能、強化魔法の心得

 属性相性:火(A)、土(A)、水(A)、風(A)、光(B)、闇(B)


 ルル君の方は、魔法系の才能に恵まれている。魔法が得意な人に憑依してもらおう。属性相性もAが多い。光の賢者の協力を取り付けてるって話だから、光がBなのがちょっと惜しい。


 彼は図書館への案内も快諾してくれたし、一生懸命に文字を覚えようとしている努力家な子だ。魔力を無事に得られたら、色々教えてやりたい。


 最後にテオ君。

 手土産として、マルと一緒に作ったブラックボアの丸ごと香草焼きをバクバク食べていた。良い食べっぷりに誰かさん(ギーラ)を思い出す。

 食べるのに夢中になりすぎて、しばらく会話に入ってこなかった。


 名前:テオ

 性別:男

 生年月日:魔法歴978年11月5日

 所有スキル:(才能系スキル)剛力、短剣術の心得、ものづくりの心得

 属性相性:火(A)、土(B)、水(E)、風(E)、光(C)、闇(E)


 前衛寄りの能力だな。火か土の属性相性が高い人に憑依してもらおう。魔法は不得意でも問題なし。


「マルのお兄さん! ご馳走様でした! ――あの、夢中で食べちゃったけど、俺、お礼とかできなくて……。選択でも掃除でも何かあったら言ってください! 手伝います!」


 この子も良い子だ。


 ◇


 魔法歴985年4月6日


 今日はローリエさんとジャン君に会いに行く。


 まずは、森に入ってローリエさんから。せっかくだから、ついでにこの森の魔物を把握しておきたい。いずれこっちに移ったときの稼ぐ手段になるからな。

 先見の明で予測してもらい、少し遠回りしてキラーベアとクリューエルタイガーとオークを狩ってから行った。結構強めの魔物が多いな。



 さて、月桂樹の場所まで来た。


『こんにちは、ローリエさん。僕の兄ちゃんを紹介に来ました!』

『――その用事は、ついでですよね? さっきクリューエルタイガー5体を仕留めているのが見えましたよ? ある意味ヘーゼルの弟子らしいですけれど、見た目に反して随分と腕白なのですね』

 おぉ。ヘーゼルと違って、まともそうな賢者様!


『お初にお目にかかります。マルの兄のフェンサー=サラームと申します』

『おい。私のときと態度が違うぞ。――いや、私の教育の成果だな!』

『寝言は寝て言え。俺は、まともな相手にはちゃんとした接し方をするんだってーの』

『ふふふ。仲が良いのですね。私はローリエ=アザリー。あなたが鑑定を持っている子ですね。宿主探しをよろしくお願いします』

 ヘーゼルもローリエさんの威厳と余裕のある態度を少しは見習って欲しい。いたずらっ子な賢者とか、俺の中の賢者のイメージが壊れる。


 ローリエさんは、今までも白に憑依して命を助けることを繰り返してきたらしい。相手の魂が追い出されて、しばらく辛い思いをさせることも多く、必ずしも感謝はされなかったみたいだけど、死なないで済む子が1人でも増えるならと、どのみち憑依する相手を探す気だったそうだ。


 ちゃんと断った上で、ローリエさんの鑑定もした。結果を以下に記しておく。


 名前:ローリエ=アザリー

 性別:女

 生年月日:?

 称号:光の賢者

 所有スキル:

(才能系スキル)

 回復魔法の天才、攻撃魔法の才能、強化魔法の才能、杖術の心得、無詠唱、二重詠唱

(技能系スキル)

 杖術≪上≫、体術≪下≫、水魔法≪下≫、土魔法≪下≫、光魔法≪極≫、二人羽織


 属性相性:火(B)、土(B)、水(B)、風(B)、光(S)、闇(B)



 その後、冒険者ギルドに寄り、狩ってきた魔物で達成できる依頼を受けてから職人ギルドへ。


 今日のジャン君は解体場で勤務だそうだ。

 場所と道具を借りて自分達で解体したり、自分で魔物を解体するのが苦手な人が依頼した解体が行われる場所だな。冒険者ギルドで解体を受け付けた分も、職人ギルドに運び込んで解体してるみたいだ。

 自分で解体する場合は1時間500ダハブとそんなに高くない。俺達は場所を借りることにした。


 並んでいて、冒険者ギルド職員の態度が気になった。指さしている突進ウサギは、焼け焦げて毛がほぼない上に、何度も斬りつけられて多数の傷がついている。あれじゃ、まともなサイズの毛皮はとれない。しかし、毛皮1枚、肉1体分の買い取り代金から解体費用を引いた額を払うように要求している。そうするのが当然という態度だ。

 職人ギルドの受付の職員は10歳の子供だった。文句も言わずに受け取り、解体用と書かれた籠にウサギを入れた。お金も払っている。

 この子も特殊孤児だろう。見るからに無気力だ。感情を映さない濁ったガラスのような目。子供がする目じゃない。


 何とも言えない気持ちになったけど、とりあえず受付してもらって、解体場に移動。


「ジャン君、こんにちは! 僕の兄ちゃんを紹介するよ! ――って、またケガしてる!?」

「お前、ここは手ぶらで来るところじゃねーよ。今日は忙しいんだ。帰れ」


 ジャン君を見つけた瞬間に駆け寄り、嬉しそうに話しかけるマル。

 彼を鑑定して、マルが彼をライバルだと思った理由が分かった。

 使用不可になっているタラリア。かつては商売の神(ヘルメス)様の使徒だったと容易に予想できる。無意識にマルはそのことを感じ取ったんだろう。

 同じ守護神に仕える使徒が互いをライバル視するのはよくあることだ。同僚みたいなものだからな。つい、守護神の一番のお気に入りになりたいと思ってしまうものだ。


 ジャン君はマルをチラッと見ただけで、また視線を解体中の魔物に移してしまった。あれは、森鹿っぽいな。会ったことのない魔物だけど、ここに運ばれてるなら近くに生息しているんだろう。


 ケガをしてる理由も予想がついた。

 森鹿は3か所ほど大きな傷がついている。さっきの突進ウサギほどじゃないが、素材としての価値は落ちるはず。傷がある分の値引きを交渉して殴られたんだろう。


 行動力のある面倒くさがり。マルはジャン君をそう評していた。

 怠惰の神による”怠惰”と”無気力”の二重の呪縛。元々の商売の神(ヘルメス)の使徒としての商売への情熱や好奇心。相反する性質が彼の中で同居している。その時々で優位に立った性質が顔を出すせいで、二面性のある人物に見えているんだろう。


 今は、元々の性質が表面に出ているようだ。森鹿の皮についた傷を考慮した上で、できるだけ大きく綺麗に皮を剥げる解体の仕方を考えながらテキパキと手を動かしている。


『兄ちゃーん、どうしたの? ジャン君にも何か面白いスキルがあった?』


 考え事をしていた俺に、マルが問いかける。怠惰の神の使徒だとか、元商売の神(ヘルメス)の使徒だとかは言えない。

 でも、怠惰や無気力以外のスキルについては教えておく。


『ふむ。つまり、マルドゥクを生産系特化版にしたような感じか。技能系も物の加工関係に偏っている。工房の跡取りとしては理想的だな』

 説明をした後のヘーゼルの感想がこれ。


 商人志望のマルは、自分以上にジャン君が商人向きだったことが面白くないみたいだ。ちょっと膨れながら、狩ってきた魔物を解体していく。キラーベア3体とクリューエルタイガー5体とオーク8体。相変わらず、手際が良い。


 こっちは毛皮も牙も綺麗なものだ。血抜きも完璧だし、肉の味も良いはず。

 マルが魔物を倒し、解体までやって、後の加工やら販売やらはジャン君にお任せ。そうしたら、効率も良いし、相当自由に動ける。さらに、ジャン君も怠惰や無気力とは無縁になり、悪徳の神から解放されるかもしれない。

 うん、理想的なプランだな。これでいこう。



 つんつん。プニプニ。

 しばらくして、ジャン君がマルの頬をつつきだした。


「大漁だな。それ、お前達が狩ってきたのか? そんなに解体に慣れてるなら、職人ギルドでバイトしろよ」

 あー、ジャン君、解体術はないんだよな。ジャン君が1体解体し終えるまでに、マルは4体の解体を終えている。負けた気がしたんだろうな。


 ともあれ、仕事にひと段落着いたみたいだな。


「改めて、初めまして。俺はマルの兄のフェンサー=サラームだ。呼び方はフェンでいい。これからも弟と仲良くしてやってくれ」


 あれ? 俺の方を向いてくれない。

 ……俺に興味がない?


「――おい、お前の兄貴はラティーフ地方の実家にいるんじゃなかったのか?」

「うん、連れてきた」

 事も無げに言うマル。


 チラッとこっちに視線を寄こし、俺のなめした革を見つめてきた。小さくうなずく。及第点だったようだ。マルが解体を終えた皮を加工しておいて良かった。


「まぁ、いいか。信じてやるよ。――オレはジャン=ウターリド。フェンさん、よろしく。武器、鎧、装飾品など、金属・貴金属製品のご用命は、是非、オレが継ぐ予定のウターリド工房へ。その他の商品も少しは扱ってるから、見に来てくれよ」

「おっ。商売人だな。そのうち、マルと一緒にお邪魔するよ」


 やる気ありそうじゃん。これは、怠惰からの解放も近いかな?

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