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第11話 水汲み当番

「――っていうことで、審査は故郷のラティーフ地方にいる僕の仲間にお願いしたいと思うんだ。いいよね?」


 火曜日の授業が終わってすぐ、僕はジャン君に会いに職人ギルドに足を運んだ。暇そうにギルドの売店で店番をしていたから、遠慮なく話をしている。


 精霊術師訓練場のカリキュラムのうち、水曜日の算数、木曜日の国語、金曜日の貴族っぽい授業、土曜日の戦闘系授業は僕には必要ない。ヘーゼルさんに教えてもらえばいい。ダンスはさすがに体を共有しているヘーゼルさんに教わるのは難しいけど、今のところ踊る予定はないし。


 さらに期待していた今日のものづくりの授業も、僕が既に知っている内容だった。

 4月は織物の織り方を教え、5月は皮を処理してなめし革にする方法を教えてくれるそうだ。

 納税の準備を考えれば実用的だけど、僕にとってはこの2か月間は火曜日の授業も受ける必要がない。


 火曜日から土曜日まで自由に過ごしていいなら、兄ちゃんやギーラ、プリシラ、クロードに会いに行くことも可能なのでは?

 そう思って、タラリアで一直線に飛んで行った場合の所要時間を計算した。


 アダーラ地方の町で1泊して、翌朝、村に到着。兄ちゃんを連れてラティーフ領都まで約3時間強。ここでも1泊してから、村に兄ちゃんを送って1泊。翌朝出発。途中でまたアダーラ地方で1泊してアブヤドに帰る。4泊5日だ。


 せっかく審査を頼むなら、兄ちゃん達が良いと思ってたんだ。勝負の5月中旬ならプリシラの誕生日の頃だし、プレゼントを持っていくのも悪くない。


「メンドクセーこと言いやがって。お前は馬鹿なのか? 計算上、4泊5日で帰ってこれるって、どんな計算だ!?」


 むむむ。良いこと思いついたから急いで会いに来たのに、ジャン君の反応が冷たい。会った瞬間は嬉しそうな顔してた癖に。

 それに、計算機(カリキュレーター)で計算したから間違いはない。


『……ジャンはタラリアや計算機(カリキュレーター)のことを知らない。算数のできない子だと思われても仕方ないさ』


 む~。そうかもしれないけど、もっと興味を持って聞いてくれてもいいじゃん。


「お前、故郷の村からアブヤドに来るまで、何日かかったよ?」

「18日。でも、あちこちの村や町に寄ってたし、ゴツイ馬車を引いてたからスピードが出なかった。比べられないよ」

 特に村や町に寄ったときは役人さん達の休憩や食料等の補給もあって、最低でも丸1日は滞在していた。


「あちこち寄り道しなくても、ラティーフ地方まで普通の馬車で9日はかかる。それを1日半で進めるって、お前は言ってるわけだろ? 馬車の6倍くらいのスピードを出せる移動手段がお前にあるのか?」

「その計算は正確じゃないよ。障害物を無視して一直線に進める方法があるんだ。距離を短縮できる」


 アブヤドまで来たときは、途中、岩がごつごつと出っ張っていたり、砂にナイトメアが足を取られて速度が落ちた悪路もあった。

 しかし、空路ではそんな心配とは無用。天候や鳥型の魔物っていう障害はあるけれど、それも先見の明で予測した上で旅程を計算した。何の問題もない。


 自信に満ちた笑顔をジャン君に向ける。

 数秒、無表情で見つめ返してきた後、何かを思いついたのかジャン君の片方の眉がピクンと吊り上がる。


「……お前。まさか、空飛べるの?」

「えへへ。正解」


 僕が答えるとジャン君は売店のカウンターから身を乗り出してきた。

 乗り気になってくれたかな? 僕1人で行って審査結果を持ち帰るんじゃ、ジャン君は納得いかないだろう。一緒に来てもらわないといけないから、行く気になってくれないと――。


「お前、騙したな! 緑の石も5個必要なんじゃねぇか! オレのペリドットの原石返せ! タダでやる気はこれっぽっちもないんだからな!!」

「ぐぇっ。ジャン君、落ち着いて。落ち着いてー!!」


 ジャン君は僕のシャツの襟を引っ掴み、ガックンガックン前後に揺さぶってきた!

 しかし、面倒くさくなったのか3回揺さぶっただけで手を放し、ぐてぇーっとカウンターに突っ伏す。


「空飛べるんなら、風属性の戦闘も術の威力も問題なく認定される。大規模術も、空飛ぶよりは簡単だって聞いたぞ? あのペリドットで何作ろうか色々考えてたのに、余らなかったらオレの取り分がねぇじゃん」


 ぷくっと頬を膨らませて、顔だけ上げて睨んでくる。

 怒ってる割にかわいらしい仕草だ。ララが見たら喜びそう。


「そうなの? でも、認定は制御と生産しか受けてないよ?」

「……お前、戦闘よりも生産系が好きなタイプ? 風とか火とか得意だと、戦闘要員だと思われるから認定避けたのか?」

「生産系は好きだけど、素材を綺麗に採りたいから戦闘系もそれなりに頑張ってるよ。水はちゃんと戦闘の認定も受けたし」

「ふ~ん。じゃ、ペリドット3個はオレのだからな」

「もちろん。もうカットと研磨はしてあるから、寮に取りに来てくれたら渡す。ところで、火属性の赤い石ってファイアオパールじゃダメなのかな? 1個手に入ったんだけど」


 認定を受けた日に倒した魔物がもっていた原石を磨いたら、オレンジ色の石に遊色効果で虹色の色彩が浮かぶファイアオパールだった。ちょっと大きめの石だから、もったいないけど砕いて使えばルビーを買わなくて済むかもしれない。


「はっきりと火属性って伝わらない色の石は好ましくはねぇな。ダメって話は聞かないけど、他の石との調和も考えるとナシだろ」

「そっかぁ。残念。――アダーラ地方産のルビーって置いてある? 赤い石だけ足りないんだ」

「あるけど、却下。オレ、あそこの加工は嫌いなんだ。芸術性とか知性とか美学とか、そういうのが感じられない。それに、他の石とカットの仕方を合わせた方が統一感が出るだろ?」


 ジャン君はこだわりがあるようだ。僕は、兄ちゃんに見せてもらった資料を参考にしたうえで、先見の明と計算機(カリキュレーター)で石が一番キラキラと輝きそうな形にカットしてるだけなんだけど、ジャン君のお眼鏡には敵ってるのかな?


「そんなに酷評する理由が知りたいな。僕の加工は及第点なの?」

「あぁ。お前の加工は理にかなってる。石の透明感と輝きを引き出すように計算されたカットだからな」


 言いながら、ジャン君は”アダーラ産ルビー“と書かれたケースを指差す。

 近くに持ってきて見てみると、全部、半球状に磨かれている。石によってはこの形も綺麗だけど、中には曇って見えたりしているものもある。結晶の中に閉じ込められた内包物のせいだ。目立たないように工夫すれば、もっと綺麗になるとは思うけど、石が小さくなるからそういうことはしないのかもしれない。

 それから、目立たないけど小さな傷がついているものが多いし、歪んでいてちゃんとしたドーム型になっていないものもある。


 さらに、目利きで見るとルビーじゃないのが混ざってるのも分かった。赤いトルマリンやスピネルなどだ。

 見た目の美しさと色が目当てだろうから、綺麗なら気にしない人も多いだろうけど、目利きで分かる以上、ルビーとして売るのは気が引けるだろう。


「最近になって始めた事業らしいから、まだ職人が育ってないのかもしれないけどさ。値段の割に質はもう1歩って感じだろ? これで、別のカット方法にも挑戦した石とか混じってたら、いずれは良い石が出てくるかもって期待するけど、そういうのはないし。つまんねぇんだよな」


 確かに適正価格よりもやや高い値段がつけられているから、目利き持ちだと買うのに躊躇する。

 う~ん。どうしよう。赤い石の詰め合わせ袋はロクなのがないから、買いたくないし……。


「あ、そうだ。お前、時間見つけてアダーラ地方行って、原石仕入れて来いよ。それで、仕入れの時間も入れて3泊4日以内で帰って来たら、ラティーフ地方にいる奴らに審査任せても構わないぜ」

「ホント!? 分かった! 早速、明日から行ってくるよ!」

「おい待て。明日は性急すぎる。せめて来週にしろ」

「なんで? 来週は当番があるから、難しいんだけど。再来週の水汲み当番ならすぐ終わるかな」

「それは……、明日ペリドット受け取って、ついでに他の石も見せてもらおうと思ってたから……。あ、それと、あそこの水汲み当番はなかなかにきっついぞ。町の外から水汲んでくるから、途中で魔物に襲われる奴が毎年――ってお前は関係ないのか? でも、水泥棒も出るし、出かけるなら貯水槽満タンで予備の水も用意しといてやれよ?」

「――ジャン君、僕、水汲み手伝ってくる!」


 水汲み当番がそんなに危険だなんて知らなかった。水魔法のできる人にお願いするだけじゃないの? 戦闘経験のない子供だけじゃ無理じゃない?

 急いで、今日の水汲み当番の子達を探し、町の外で突進ウサギと交戦中のザッコさんを発見。子供達の護衛についていたみたいだ。

 突進ウサギを片付け、僕も一緒に護衛をすることにした。


 ……水汲み当番、めちゃくちゃ大変。まず町の北門から外に出て、東へ20分ほど歩くと川がある。そこで水を汲み、肩掛け紐の付いた樽に入れ、それを背負って運ぶ。水を満タンに入れると、この樽が5キログラムくらい。結構な重さだけど、樽の重さも考えると4リットル強くらいしか運べない。

 6人で僕達の寮に住む子供達34人分の水を運ぶのに、一体何往復すればいいのか。


 貯水槽は結構な大きさがあった。水を入れても入れても増えた気がしない。ザッコさんが皆で6往復したら、満杯にならなくても大丈夫と励ましているけど、この子達は1往復でもかなり疲れた様子だ。


『助けてやりたいが、生き残るにはある程度は鍛えた方が良いからな……。どうしたものか』


 ヘーゼルさんもちょっと悩んでる。ラティーフ地方では、そんなに水に困ったことがなかった。水魔法のできる人にお願いして貯水槽を満たしてもらうだけだ。お礼はするけど、うちは兄ちゃんかヘーゼルさんに頼めばいいだけだった。


 悩みながらも護衛を継続。3往復で女の子達3人がバテた。残った男の子達で頑張って6往復したけど、バテた子達の分が足りない状態だ。貯水槽は4分の1も満たされていない。


「もういいよ。休みなさい。体力がつけば、できるようになるから」


 そう言って、ザッコさんは子供達を自分の部屋に戻らせた。その後、ザッコさんに頼まれ、貯水槽に水を足しておく。

 うん。できるだけ頑張ってもらって、ギブアップしたらできる人が助ける。とりあえずは、これでいこう。村で魔物狩りをサボる人が出たときみたいに、サボり魔が出たら手伝いを止めて様子を見ればいい。


 ◇


「――っていうことがあったんだよ。だから、5月にまた来るね」


 水汲みを手伝った翌日、ジャン君に加工の終わった石を渡してから出発。途中、テントで野宿して、木曜日の朝に村に着いた。町での宿泊にこだわらなければ、こんなふうに旅程を短縮できることが分かって良かった。

 ジャン君を連れてくるときは、さすがに町で泊まるつもりだけど。


 父さん、母さん、兄ちゃんと食卓を囲みながら、新しくできた友達のこと、ライバルのジャン君のこと、水汲みのこととか色々話した。もちろん、ジャン君との勝負のこととか、アダーラ地方で赤い宝石の原石を探すことも。

 あれ? 父さん、会った瞬間はすごく嬉しそうだったのに、頭抱えてる?


「マルドゥク、会いに来てくれたのは嬉しいが、お前はなんて無茶を。ヘーゼル様も止めてくださればいいのに」

『自分の息子の実力と私の性格が、まだ分かっていないようだな。私は無茶だとは思わん。せっかくの力があるんだ。活用したらいい。焚きつけこそすれ、止めるわけがないだろう』

「はぁ、そうでした。マルドゥク、どうしても寂しくなったら、一時的に帰ってくるのも良い。私も嬉しい。でも、月曜日の授業までに帰れなかったら大騒ぎになる。できるだけ我慢しなさい。それと、原石は危険な場所じゃないか、よーく調べてからにしなさい」

「ごめんなさい。でも遅れないように帰るし危ないことは避けるから、ちょくちょく会いに来たいな」


 父さんは言葉に詰まった。帰ってきて構わないってことでいいんだよね?

 寮の部屋は狭いから、魔物を狩りに行っても素材の保管場所がない。兄ちゃんにちょくちょく会いに来ないと、稼ぐのが大変なんだ。テオとかルルに話を聞く限り、バイト代はそんなにもらえないみたいだし、素材の収集と加工で稼ぎたい僕としては、自由にここに帰ってこれることは重要だ。

 もちろん、家族に会いたい気持ちもあるし。


「父さん、俺、3週間くらい留守にしていいか? マルと一緒にアダーラ地方で原石探すの手伝うよ」


 ちょっと考え込んでいた兄ちゃんが、突然そんなことを言い出した。

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