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第10話 精霊術師訓練場

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

「はーい、班ごとに固まって空いてる席に座ってくださぁ~い。全員着席してから、説明を始めますよぉ~」


 今日は初めて精霊術師訓練場に集まった。今いるのは「1-A」の札が掛けられている教室。学校っぽいけど学校ではないから入学ではないし、塾でもないから入塾でもない。訓練場だけど、”入場”も何か違う気がする。

 そんなどうでもいいことを考えながら、ざわめきが収まるのを待つ。


 悲しい運命を覚悟していると言っても、やはり子供。今まであまり外に出られなかった子も多くて、物珍しさにはしゃぐ気持ちが抑えられていない。あちらこちらで賑やかな話声がする。


「リリアーヌ様、私と同じ班に移りませんか? 貴族同士で固まるべきだと思うのです」

「シリル様、貴方は隣の教室でしょう? 迷惑が掛からないように、速やかに移動なさってください。私は、この班の長ですから、抜けるわけにはいきません」


 シリル君はリリをナンパしている。ここに来る途中でも声をかけていたけど、素気無く断られていた。睨まれるまで誘い続けてダメだったのに、また誘いに来るんだから、シリル君はメンタルが強い。


「シリル様はきっと……、リリに睨まれるのがクセになってしまっている……」

「ララ、見ちゃいけない。彼を物語に登場させると、途端にキワモノになっちゃいそうだ」

 ルルはさりげなく体を動かしてララの視界にシリル君が映らないようにしている。


「そう……? ところで……、ステラ・()ーラ・()クサーヌ=シファーさん……。ロロって呼んでも……大丈夫かな……」

「う~ん。どうだろう? 仲良くなれたら、聞いてみてもいいかもね」

「うん、聞いてみる……。残りはレレのみ……」


 だいぶ無理矢理つけた感のある愛称だけど、大丈夫だろうか。

 ステラさんには、まだ会ったことがない。隣の教室に振り分けられてしまったし、朝は先に寮を出ていたようで見当たらなかった。嫌な子ではないらしいけど、どんな反応をされるか全く予想がつかない。


「みなさーん。お願いですぅ、そろそろ静かにしてくださ~い。誰も話を聞いてくれないと、私、泣いちゃいますぅ~。うぅっ」


 教壇の前に立っていた精霊術師さんが泣き出しそうになっている。ようやく、皆が静かになった。名残惜しそうにしてたけど、シリル君も隣の教室へと帰っていった。


「私は、ピピって言いますぅ。月曜日の授業する担任ですぅ。数少ない必ず受けないといけない授業なので、皆さん、忘れずに来てくださ~い」


 度の強そうな眼鏡をかけ、髪を1本の三つ編みにしてまとめたピピ先生は、ちょっとユルい話し方で色々と説明してくれた。


 ここの子達は自分で生活費を稼がないといけない子も多いから、月曜日に必修の授業をし、他の曜日は来なくてもいいようにしてあるそうだ。

 他の曜日も授業は行われているけれど、希望者のみが受ければいい。どんな授業が行われるかは、寮の掲示板に貼り出されるカレンダーに書かれている。今朝見たときは、4月と5月のカレンダーが貼られていた。


「皆の中で、字の読み書きができない子もいると思いまーす。そんな子達は、木曜日の国語の授業は受けるのをお勧めしますぅ。それから、お店でアルバイトするときに暗算ができないと怒られちゃうので、計算が苦手な子は水曜日の算数の授業もお勧めですね~」


 うんうん。読み書きそろばんは基本だよね。


「それからぁ、今までは親御さんが皆さんの分の税金も払ってくれていたと思いますが、これからは自分で払わなくてはいけませんー。班ごとに税金を払うので、9月までにこれから言うものを集めるようにしてくださぁい。集めたら、寮の倉庫に保管しておくか、役場まで持って行って納税してくださいね~。あ、納税品を集めるのに、ものづくりの授業も受けておくと良いですぅ。火曜日が多いですぅ」


 納税するのは、なめし革、織物の2品目。

 数え方はちょっと複雑で、ウルフや突進ウサギ、ホワイトシープのなめし革なら1枚で1点。ブラックボアとかのちょっとだけ強い魔物のなめし革なら5点。キラーベアやフォレストラプトル、暴走ダチョウのような特に強い魔物のなめし革は9点。

 毛を残したなめし毛皮なら1点追加されて、例えば突進ウサギのなめし毛皮なら2点、キラーベアのなめし毛皮なら10点。

 上位種とかのキラーベアよりも強い魔物のなめし革でも点数は変わらないので、誰も納税用にはしないそうだ。


 織物は、幅1メートル以上の長さ50メートル以上の麻織物で20点。同じサイズの綿や毛織物なら30点。絹織物なら100点。幅や長さが倍以上になれば点数も倍になるけれど、倍に届かない中途半端な広幅や長尺は、点数はそのまま。


 この点数が各100点以上になるように各班でそろえる必要がある。


 ……多くない? それだけのなめし革と織物。金銭に換算したら、かなり高額になるはずだ。

 僕は別に平気だけど、魔力を持たない白の子供がこんな量のなめし革と織物に使う素材を集めるのは至難の業だろう。

 よく分からずにポカンとしてる子もいるけど、大変さが想像できる子は騒ぎ始めている。


「あ、あのっ! 実家にいたときより高くなってる気がするんですが?」

「あ~、えーと。職人ギルドから素材は回ってくるから、それを加工したら良いのよ。職人ギルドにお礼として一部献上しないといけないけど、魔物を倒しに行くよりずっと安全だから。作業場は隣の建物で、毎週月曜日に倉庫に皮と繊維を置いておいてくれるから安心して」


 なぜか急にちょっと早口になった。早く話を切り上げたいっぽい?


『まぁ、親元にいたときより高くなっているかどうかは、答えていないからな。白だからと税を上げられているんだろう』

 僕もヘーゼルさんと同意見だ。


「6人でも10人でも必要な点数は変わらないんだったら、もっと班に人を入れとけばよかったな」

 テオがぼやく。

 この教室には6人組の班3つが集められている。隣の教室は8人組の班2つ。再編すれば1班減らすこともできそうだけど……。


 この班を分解されちゃうと僕は少し困っちゃうな。レアとコゼットは昨日料理をご馳走したことで、僕に悪い印象は持ってないみたいだけど、この班のメンバーとその2人以外は相変わらず僕から距離を置いている。


「みなさーん。落ち着いてくださ~い。なめし革や織物は職人ギルドやお店で買うこともできるからっ。ねっ。あと、班が減ると各班の割り当てを増やさなきゃいけないの。精霊術師訓練場第1学年でなめし革と織物各500点分って決まってるから」


 班を減らして節税するのは無理らしい。ララ、テオ、ルルは心配そうな顔をしてる。3人はアルバイトを始めて、食べていく分のお金を稼ぐだけでも大変だと実感している。それに加えて重い税負担を課せられることに不安を覚えても無理はない。


「みなさん。しっかりと準備をしていけば、大丈夫ですから安心して。職人ギルドから運んできてもらう素材を全部加工できたら、ちゃんと必要分は揃うように出来てるの。――あ、まだお勧めし忘れてた授業がありましたぁ。日曜日の午前に歌、午後に楽器の授業がありますぅ。精霊術師になったら、音楽は大事ですから、できるだけ受けるようにしてくださぁい」


 ピピ先生は、露骨に話題を変えた。

 音楽の授業は受けるつもりだったけど、まさかの日曜日。兄ちゃんは、土日は休日みたいに話してたから、てっきり授業はないものだと思ってた。今朝、寮でカレンダーを見たときは見間違いだと思って何度も確認してしまった。

 ちなみに、金曜日はダンスだったり、礼儀作法だったり、貴族社会で重要視されている内容の授業が行われ、土曜日は体術や武器を扱う戦闘系の授業がある。


「ピピ先生。先生は何を教えてくれるんですか?」

「忘れてましたぁ。私は、精霊術師やこの国について教えますぅ。国の歴史や制度、精霊術にはどんな特徴があるのか、精霊術師を取り巻く環境、そんなことを色々お話しますぅ。きっと役に立つので、よーく聞いてくださいね~」


 兄ちゃんが「社会科」って呼んでた授業に似てるかな?

 もっとも、ピピ先生のようなクラス担任を除けば、他の授業はボランティア同然の薄謝で講師に来てもらっている。だから、講師の都合が優先されて普段と違う曜日に行われたり、急に授業が中止になったりすることもあるらしい。


「は~い。それでは、午前中の授業はこれくらいにして、皆さんお昼を食べてくださーい。班長さんは当番の順番を決めるクジを引きに来てくださいね~。午後からは、精霊術師訓練場や寮の施設なんかを見て回りながら、共同生活のルールを教えますぅ」


 ◇


 お昼を食べ終わって、午後の授業。

 まずは、クジ引きの結果、どの班がどんな順番で何の当番をするか発表があった。


 リリが引いたクジは5番。今週は当番なしだ。来週は先生のお手伝い、再来週は水汲み当番で、その次は2週続けて掃除当番。


 それから教室の外に出て、いろんな場所を見て回る。講師控室、図書室、音楽室、道具置き場、それから講堂。講堂は壇上でダンスの練習をしたり、年1回行われる白による音楽会で使われる。

 音楽会はアブヤドでは名物になっているイベント。メインは本職の精霊術師さんの中でも歌や楽器の演奏の上手い人を集めての音楽だけど、前座として子供達の合唱と演奏も行われる。

 作業場と倉庫も見学したけど、なかなか広々としてるし設備も整っている。


 その後は訓練場の裏にある広い運動場に移動した。戦闘系の授業が行われる場所だ。


 ここでは、「1-B」の教室に集められていた子達と男の精霊術師さんが待っていた。

 男の精霊術師さんはアラン先生というそうだ。

 火の精霊術師なのだろう。赤いシャツに白いパンツのパキッとした配色のコーディネートが似合う、爽やかな印象の先生だ。

 ピピ先生は薄い黄色のブラウスに濃い黄色のパンツ、白地に黄色のパイピングがされたローブを羽織っているから、土の精霊術師みたい。


「では、皆。これから、精霊術師の力を実際に見てもらおうと思う。ピピ先生、対戦、よろしくお願いします」


 僕達に地面に引かれた線の先に出ないように注意をしてから、先生2人が運動場の中央に進み出る。

 アラン先生は笛、ピピ先生は木製の杖を取り出す。模擬戦を見せてくれるみたいだ。


 試合開始の合図はシリル君。

 3・2・1のカウントダウンが終わると同時にアラン先生の笛の演奏とピピ先生の詠唱が始まる。ピピ先生、詠唱も間延びした唱え方だな。


 先に術を発動させたのは、意外にもピピ先生。拳大くらいの石が10個ほどアラン先生に飛んで行く。土弾(ストーンショット)だ。

 アラン先生は石を最小の動きでかわしつつ、そのまま笛を吹き続け、直径30センチほどの火炎爆弾(フレイムグレネード)を完成させた。

 笛から口を話して魔法の名前を言っていたけど、そうしないと発動できないとしたら、笛の演奏で発動させるのは結構なタイムロスがある。


 ピピ先生は土弾(ストーンショット)が避けられたときの備えとして、既に詠唱をしていた。土盾(ソイルシールド)の言葉とともに、地面から土の壁がせり上がってくる。

 火炎爆弾(フレイムグレネード)は土の壁にぶつかって消滅。


 しかし、アラン先生は火炎爆弾(フレイムグレネード)の後を追うように走っていた。熱され、陶器のように変化した土の壁に回し蹴りを放つと、壁は粉々になって壁の向こうにいたピピ先生に降り注ぐ。


「きゃあぁ」


 驚いてしまって詠唱を放棄し、頭を抱えてうずくまるピピ先生。残念ながらピピ先生の負けだ。


「皆、僕は勝ったけど、別にカッコいいところを見せたかったわけじゃないんだ。――属性によって得意なことって違うんだよ。僕の火属性は戦闘系は得意。ピピ先生みたいな土属性は戦闘よりも、植物の生長を助けたりとかの平和な使い方が得意。例外もあるけどね」

「精霊術師になれたとしても、属性は選べるものじゃありません。でも、どの属性も得意なことがありますから、どの属性が劣ってるとかはないんですよ~。皆さんは、各属性の力の使い方を覚えておいて、何かいつもと違う力が自分の中に流れている気がしたら、順番に全部の属性を試してみてくださ~い。使い方がイメージ出来た方が、上手くいきやすいと思うんですぅ」


 唐突に始まったこの先生同士の対戦は、火属性と土属性の力の使い方を見せるためだったみたいだ。

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