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第6話 仕入れ勝負

「じゃあ、戦闘と大規模精霊術、そして術の威力だね。町中じゃ危険だから、外に移動するよ。疲れているなら別に日を設けるけど、大丈夫かい?」

「大丈夫です」

 席を立とうとするとジャン君に呼び止められた。


「待てよ。石。選んどけ。じゃなきゃ、お前が外に行ってる間に作業できねーじゃん」


 言いながら、石の入ったケースを突き出してくる。火属性用の赤っぽい石、水属性用の青っぽい石、闇属性用の黒や紫っぽい石、と色ごとに仕切りで分けられている。服だと光属性は金と銀だけど、石だと白か透明のようだ。


「はぁーー。ごめんね、マルドゥク君。ジャン君は言い出したら聞かなくて。そのケースに入ってる石は1個500ダハブ。おすすめはしないけど、職人ギルドの売店で売ってるのを買う手もあるよ。1袋5000ダハブの仕分けされてないのを買って、自分で選り分ければ、運が良ければ安く上がる。もっと綺麗なのも売ってるけど、1個で10000ダハブ以上する」


 1個500ダハブなら、申告した分全部で15個7500ダハブだ。お金を払うなら、良い石を選びたい。

 ケースの中の石を見ると、宝石の原石もあるけど、ほとんどはただの石。

 チラッとジャン君を見る。石を見つめる僕を凝視していたらしいジャン君とバッチリ目が合った。試されてるような気がする。


 う~ん。ケースの中の石は、大きさや色味がきれいに揃っている。原石でもそれほどのお値打ち感はない。適正価格を揃えてるみたいだ。唯一、他よりちょっと小さめに見えるダイヤの原石は、カット次第では悪くなさそう。ジャン君が目利き持ちだとしたら、わざと入れたのかもしれない。

 なんだか勝負を挑まれている気分だ。


 よしっ! この勝負、本気でいこう。先見の明も発動して、最善手を考える――。



「んー。お金、無駄遣いしたくないし、じっくり考えたいな。少し待ってもらえませんか?」

 懇願するように上目遣いで頼み込む。

 ジャン君は腕組みをして、睨みつけてくる。


 さっきまでは、ずっと顔を背けていたけど、今は真っ直ぐこっちを見ていて正面から顔が見れる。さっきまでの無気力で覇気のない様子とは、だいぶ印象が違う。

 キリっとした真っ直ぐな眉に、鋭い輝きを放つ瞳、通った鼻筋。ジャン君はかなり整った顔立ちをしている。足もスラリと長い。


 兄ちゃんなら上目遣いで目をウルウルさせて頼むと大抵のことは聞いてくれるんだけど、ジャン君には通用しないみたいだ。それでも、気弱な感じを装ってたまに視線を外しつつも、引かない。


「――オレの負担にならないようにしろよ。石を持ち込んだときにいた奴に頼め! ふんっ」


 しばらく続けていたら、怒って部屋を出て行った。声にわずかな失望の色。僕がダイヤの原石を選ばなかったことで落胆したんだろう。きっと、ジャン君は僕が目利き持ちであることを期待していたのだろうから。


 ふっふっふ。甘いよ、ジャン君。

 笑みを浮かべてしまいそうになるのを、鉄仮面(ポーカーフェイス)で抑え込み、ジョルジュさん達と連れ立って、精霊術師ギルドを出る。


「すみません。さっき言ってた仕分けされていない石がまとめて袋詰めされてるのって、隣の職人ギルドで売ってるんですよね? ちょっと寄ってきていいですか!?」

 外に出たら、即座に申し出る。

「ええっ!? 急にどうしたんだい? 通り道にあるから、時間がかからないなら別に構わないけど」


 よぅし! 許可が出た。レッツゴー!

 勢い込んで言う僕に驚いている様子だけど、気にしない。ダイヤの原石がいっぱい入ってる袋を買うんだ!!


『くくく。お前は本当に、こういうことになると張り切るな。――ついでに、サファイアの原石の入った袋も買ってくれ』

『えー、ヤダ。ダイヤのカットと研磨で時間とられるから、サファイアまで手が回らないよ』

 それに、ジャン君を驚かすのに、1袋買って大当たりがたくさんなのと、2袋買って当たりがたくさんなのではインパクトが違う。


『かさ張るものでもないし、保管しておけばいい。加工すれば、5000ダハブ以上にはなるだろう? 宝石に魔法陣を仕込む方法もあって、私も昔の装備品に使っていた。私の魔力ならサファイアが相性もいい』

『分かった。採用!』


 商人たるもの、目先の勝負よりも将来の利益!

 僕の変わり身の早さに、ヘーゼルさんがケラケラ笑う。『扱いやすい』? どういたしまして! 商人には適応力とハートの強さも大事だもんね!


 職人ギルドに入って、すぐ左の売店に向かう。先見の明で予測しておいたお目当ての商品まで一直線だ。

 「石詰め合わせ袋コーナー」で透明系と青系の袋の中から1つずつ取ってお会計。外に出る。所要時間3分48秒。


「――めちゃくちゃ早いね。しっかり吟味しなくて良かったの? まぁ、見比べても袋に入ってるから分からないか。綺麗な石が入ってるといいね」

「はい!」

 ホクホク顔で楽し気に歩く僕を見て、ジョルジュさんが苦笑する。


「るーんるん。るんるるーん。るぅるるぅるるーん」

 石をカットし、磨いて、綺麗なダイヤモンドになったら、いくらで売れるだろう? さらに加工して装飾品にする方が良いかな? 考えると心が踊る。足取りが軽い。

 良い仕入れができて、気分が良い。この仕入れ勝負は僕の勝ちだ。小さな鼻歌がこぼれる。足音もリズミカルに聞こえる。


「スキップまでして、よっぽど楽しみなんだね。――あれ、でも透明と青しかないよ? 他の色はどうするんだい? いろんな色の石を取り混ぜた袋もあったはずだけど」

「……あ」


 忘れてた。


「……いいんです。足りなかったら、また買いに来ます……」


 ……いいもん。ダイヤの原石詰め合わせ袋には、イエローダイヤとピンクダイヤとブルーダイヤとブラックダイヤも入ってるもん。色とりどりの石がミックスされた袋にはダイヤもサファイアも入ってなくて、ただの石ばっかりだって分かってたし。


 でも、風属性の緑の石がない……。それにピンクダイヤを火属性の赤の代わりに使うのは、ちょっと嫌だなあ。


 浮かれてた顔を引き締め、すまし顔を作って静かに歩く。急にテンションの下がった僕を見て、ヘーゼルさんが噴き出した。さては気付いてたな!


 袋を見ると、どちらもカーラ地方産と書いてある。リリとテオの故郷だ。赤い宝石と緑の宝石に心当たりがないか後で聞いてみよっと。


「あの、ジャン君って、次はいつ精霊術師ギルドにいますか?」

「1週間後だけど。ジャン君、子供の割に腕はいいけど、仕事は遅いし気難しいよ?」

「気にしません。なんだか友達になれそうな気がするんです」

 せっかくだから、ジャン君の腕前を見てみたい。目利き持ちなら、出来栄えにはこだわるだろう。



 戦闘と大規模精霊術、術の威力の測定は、西門から出た場所で行ったけど、簡単に終わった。


 戦闘は近くにいた砂モグラっていう魔物を倒しただけ。地中で飲み込んでいたのか、オパールの原石がお腹に入っていた。ラッキーだけど、緑か赤の石として認めてもらうのは難しそうだ。


 大規模精霊術は雨を降らせてみるように言われた。ヘーゼルさんなら余裕なんだけど、『お前の能力を測定する試験だろう?』と言われてしまったので、歌って精霊術で降らせた。


「君、大規模な術のときは歌うんだね。綺麗な歌声だ。――いやぁ、良かったよ。実は君の能力について、アルベールさんから異議が唱えられていてね。無詠唱で全属性使っちゃうものだから、何か仕掛けがあるんじゃないかって心の片隅で思ってたんだ。でも、この雨乞いの術は僕達がよく知る精霊術そのものだ。君が精霊術師であることは、疑いようがない」


 アルベールは精霊術師ギルドに僕のことを報告していたみたいだ。ジョルジュさん以外の人が僕に話しかけてこようとしなかったのは、そのせいもあるんだろう。距離を置かれている。皆、アルベールのことを信じているんだ。

 リリもアルベールのことを”白の希望”と言っていたし、精霊術師の間では彼は人気者なんだろう。貴族であるにも関わらず、”アルベールさん”と、さん付けで呼ぶことを許していることも親しみを感じる人を増やしてるっぽい。


「さて、術の威力に関しては、さっきの戦闘と大規模精霊術を見れば十分なレベルに達していることが分かる。だから、これで能力測定は完了だ。他にも受けたくなったら、いつでも精霊術師ギルドに来てね。これ、パンフレット。精霊術師の義務とか、仕事の受け方とか、色々書いてあるから目を通しておいて。――それから、余計なお世話かもしれないけど、アルベールさんと何かあったなら、よく話し合って仲直りすると良い。話の分かる人だから、きっと大丈夫」

 話の分かる人? アルベールが? 聞く耳もたないって態度だったけどなぁ。


 首をかしげつつも、寮に帰った。

 部屋に入って、早速、袋を開ける。大小さまざまな石が100個以上入っている。さすがに全部が原石っていうわけではない。まずは、石の種類ごとに仕分けだ。


 透明な石を集めた袋はダイヤの原石が30個。ムーンストーンやセレナイトの原石、水晶のかけらなんかも合計で50個ほど入っていて、他はガラスのかけらだ。

 青い石を集めた袋はサファイアの原石が50個ほど。小さいのが多いけど、大きいのも5個ほどある。他には、アクアマリンとブルートパーズが5個ずつ。他は……、青い絵の具を塗られただけの石が50個ほど。


 ダイヤの原石のうち、無色透明のものは10個。ピンクダイヤとブルーダイヤとブラックダイヤは2個ずつ。イエローダイヤは7個。

 残りの7個は茶色がかっていたり、濁っていて透明感がなかったりで、あまり綺麗じゃない。これは粉末にして研磨に使おう。


 まずは、無色透明のダイヤの原石で小さいものからカットしていく。

 兄ちゃんに見せてもらった資料に書いてあったラウンドブリリアントカットにするために、目利き、先見の明、計算機(カリキュレーター)を駆使して、カットの方向を決める。

 決まったら指先からレーザー光線を出してカットだ。射程は指先から1センチ未満で戦闘にはとても使えないけど、小粒のダイヤをカットするなら十分だ。


 移動中はあんまり素材の加工とかできなかったから、久しぶりのものづくり。それに、木とか、魔物の皮の加工ばっかりだったから、石の加工は初めてだ。

 心地よい緊張感。頭が冷えていく。明鏡止水も発動して、僕は作業に没入していく――。



「マル君、マル君ってば。ねぇ、もう晩御飯の時間だよ。リリ達、先に部屋で待ってるって。僕、お腹空いたよぅ」

 カットは上手くいった。湿らせたダイヤモンド粉末を使っての研磨も済んだ。あとは、水で洗ったら綺麗なダイヤモンドが姿を現すはずだ。

「ねぇ、マル君。どうしちゃったのさ。僕のこと嫌い? 無視してるの? そんな……。同室の子に無視されるなんて、怖いよぅ」


「できた! ――あれ? モルガン君、頭抱えてどうしたの?」

「”どうしたの?”は僕のセリフだよ……。マル君、僕のこと嫌い? リリ達が待ってるよ、晩御飯食べに行こうよって、ずっと呼び掛けてたのに」

 どうやら、集中しすぎてて呼び掛けられてたのに気付かなかったみたいだ。モルガン君に何度も謝ってリリの部屋に向かう。

 皆、もう集まっていた。僕のせいで待たせてしまったみたいだ。皆にも謝って、遅れた理由を説明する。


「はぁ。あの詰め合わせ袋を買ったんですの? あれは、川の上流から運ばれた石を集めているだけですのよ? 大したものは入ってないと思いますけれど。宝石なら魔物から採れるものが上質ですわ。強い魔物からしか採れないらしくて、少々値は張りますけれど」

「ちゃんと良い石が入ってたよ。ほら、これ。さっきまで、部屋で加工してたんだ」


 出来上がったダイヤモンドを見せる。光が当たると虹色にキラキラと輝いて、すっごく綺麗だ。

 リリも驚いた表情で見ている。


「これは……、大当たりですわね。透明な石って、あまり綺麗だと思ったことはなかったのですけれど、別格の美しさですの」

「ありがとう。それでさ、カーラ地方って宝石の産地なんでしょ? 緑の石と赤い石が足りなさそうなんだけど、どうしたら手に入るか知らない?」

「緑と赤ですの? カーラ地方では緑の石はたまに見かけますけれど、そんなに綺麗な石ではありませんわ。この石と一緒に並べるのでしたら、ここから南西のブルカーン地方のダンジョンにいる緑竜から採れる緑竜輝石がお勧めですけれど、ほとんど出回らないので現実的ではないでしょうね。アダーラ地方産のエメラルドとルビーでしたら、アルベール様の始めた事業で安定的に出回ってますわ」


 アダーラ地方か。アルベールの利益になりそうで気が進まないけど、仕方ないかなぁ。

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