第5話 精霊術師ギルド
夕食の時間になってララとリリの部屋を訪ねた。
この寮には食堂もあるけど、特別な日以外は食事が出るわけじゃなく、あくまで自分達で食べるものを確保しなければならないそうだ。
キッチンは申請すれば使えると資料に書かれてたから、早速、凍らせておいた暴走ダチョウの肉を香草焼きにして持ってきた。
「ララ、リリ。ちょっと手ふさがってるから、ドア開けてくれよ」
テオの言葉に応えて、ララがドアを開けてくれる。
寮について髪を整えたらしい。ボサボサだった髪に櫛が通され、目元を隠すほど伸びていた前髪も切ってある。
隠れていた少したれ目気味のぱっちりとした大きな目がしっかり見える。馬車に乗っていた間は少し顔色が悪かったけど、今は少し頬が上気してほんのり桃色だ。無事に到着して少し休めたのかも。
リリも珍しく髪を下ろしている。普段の縦ロールが解けて、普通のウェーブヘアになっている。ちょっとだけ大人っぽく見える。
「……ララ! すごく……、すごくカワイイよ!」
さっさと部屋に入って料理をテーブルに並べ始めた僕達3人と違い、ルルはララを見て金縛りにあったように動かなくなったかと思うと、そんなことを言っていた。
ヘーゼルさんは、ルルはララのことが好きなんじゃないかって言ってたけど、言われてみればそんな気もする。
「ありがとう……? 鏡……、ないから、よく分からない」
「まったくですわ。レディの部屋に鏡が備え付けていないなんて。明日は買い物に行かなくては。――誰か、荷物持ちについてきません? ランチをおごりますわ」
「おごり? 行く!」
テオは真っ先に手を挙げた。
「ララも……。買えないけど、お店を見てみたい……」
「じゃあ、僕も行くよ」
ララとルルも行くみたい。
「さっきの執事さんとメイドさんは? 買い物ついて来てくれないの?」
「セバス……、執事の方はカーラ領の本宅での仕事がありますから、明日にはこの町を発ってしまいますの。明日はついて来てもらいますけれど、メイドのメアリもこの町にある別荘の管理の仕事がありますわ。毎日呼びつけるわけにもいきませんから、今後は10日ごとに来てもらうことにしました」
そんなものなのか。クロードにはアンナさんがつきっきりだったから、ずっとお世話をしてくれるんだと思ってた。
『普通の貴族の子供には、つきっきりで使用人が付く。リリに専属の使用人を付けないのは白だからか、あるいは当人がそう望んだからだろう』
『リリの希望ってこともあり得るの?』
『私は、彼女の希望だと予想している。なんとなく、平民との交流を楽しんでいるような節があるからな。結局、愛称で呼ぶのを許しているし』
そういえば、最初にダメって言われたけど、リリって呼んでも怒らないな。
ついでに、最初は”さん”付けだったのが、いつの間にか呼び捨てにするようになった。
「それで、マルドゥクとモルガンの明日の予定は?」
「僕は両親が来ることになってるよ。明日中にアブヤドでの拠点を決めるから、場所を教えとくって。あと、冒険者ギルドに登録に行かされるんだ……。やだなぁ、怖いよ……」
ライアンさんは馬車の護衛任務を終えたから、町に着いたら冒険者ギルドに報告に行った。以前住んでいた場所には戻らず、モルガン君と同じ場所で生活する。移住してまでついて来てくれるなんて、ちょっと羨ましい。
父さんと母さん、兄ちゃんのことを思い出して、ちょっと寂しい気持ちになってしまった。
「僕は、精霊術師ギルドに行ってくるよ」
やりたいことは色々あるけど、精霊術師ギルドでの能力測定は義務のようだから、早めに片付けてしまうに越したことはない。
「……そうですの。後で、プレートを見せていただけないかしら? 能力が簡単に記録されるはずですの。――私、あなたの能力に興味がありまして。複数属性で無詠唱。私の目指すアルベール様と同じですの」
真剣な表情だ。聞きたいことがあるって言ってたのは、このことなのかな?
「僕の能力っていうより、僕が契約している相手の能力だけどね」
「それですの!!」
何やらリリが勢い込んでテーブルを両手でバンっと叩く。
それって、どれだろう?
「コホンッ。私、お父様に頼んで、精霊術師がカーラ領内を訪れたときはできるだけお話をさせてもらっていましたの。そのときのお話とマルドゥクの話から、いくつか推論を立てました。聞いてみていただけます? そして、可能なら合っているかどうか教えてくださいな」
「いいよ~」
推論って何だろう。ちょっとワクワクしてきた。
「軽いですわね……。強さの秘訣というわけではないんですの? ちょっと合ってるか不安になってきましたわ。――まず、マルドゥクは”精霊”という言葉をあまり使わないことが気になってましたの。それに、”契約相手はいたずらっ子”とも言っていましたわ。まるで、契約相手と話をしたことがあるみたい」
「うん、あるよ」
「話した中で1人、精霊という言葉を避ける術師が……。って話したことありますの!?」
答えちゃったけど、まだ話の途中だったみたいだ。
「うん。僕は生まれつき持ってたスキルのおかげで、言葉を使わずにコミュニケーションが取れるんだ。そのスキルで話すことができるよ」
「……私は、ゾンビアタックでも十分動けるほどの自我を持った精霊となら話せるのではないかと思っていたのですけれど、あなた自身の資質によるものですのね」
あ、ちょっとガッカリしてるみたいだ。
「まぁ、いいですわ。それでは、あなたはそのスキルのおかげで複数の精霊と契約できた、というわけですのね?」
「ううん。僕が契約してるのは1人だけなんだ。複数属性使えちゃうのは、その人が元々そういう人だからで」
「1人? ということは、複数精霊との契約で力を底上げできるという推論も自動的に誤りですの……?」
「えーと、できないわけじゃないみたいだよ。白が魔力を持つには契約相手が必要で、その相手が複数になると魔力が合算されるから。自分の体の容量とかもあるから、限界はあるけど」
ヘーゼルさんからの情報をもとに答えてみる。
「うう~ん。道が遠ざかったような、近付いたような。簡単にはいかないようですわね。また聞きたいことができたら、聞いてもよろしくて? 私も複数属性、無詠唱を目指したいんですの」
「もちろん。できることは協力するよ」
リリは、自分なりに強い精霊術師になるための試行錯誤をするつもりのようだ。
「目標高けぇなぁ。……そろそろ食べていいか?」
積極的に精霊術師になろうとしているリリと違って、テオは興味を示さない。目の前の食事の方が気になるみたい。僕の用意したダチョウ肉の香草焼きの他にも、リリが用意したスープやパンなんかも並んでて、結構なご馳走だからかな。
ララは料理をスケッチしてたし、モルガン君は平民の部屋の5倍くらいは広い部屋が落ち着かない様子。ルルだけは真剣に話に聞き入ってたから、興味はありそうだ。
リリの話は一段落したみたいだったから、そのまま食事になった。
食事中にこの6人で班を作ることを決めた。班長はリリで、副班長は僕。班の人数は5人以上10人未満だから、あと3人増やすこともできるけど、当面はこのメンバーでやっていく。
◇
翌朝、もらった地図で場所を確認し、精霊術師ギルドに向かった。町の中心から東に延びる大通りに面しているらしく、精霊術師訓練場からみると東南東の方角だ。隣は職人ギルドで、大通りを挟んで向かいが冒険者ギルドと、ギルド関係の場所は固まってる。
この町のほとんどの建物と同じように白い石造りの建物だけど、建物の前に並べられていた鉢植えの緑と色とりどりのカーテンが彩を添えている。
中に入ると、カウンターの奥に座っていたお兄さんから用件を聞かれた。能力の測定に来たことを答えると、割と広めの部屋に案内され、待たされた。
「やぁ。君が噂の4人目の複数属性使いの子だね? 僕はジョルジュ。君はちょっと珍しいから、いつもより大人数で見学させてもらうよ」
5分くらいで係の人っぽい精霊術師さんがやってきた。緑色のシャツだけど、カフスと襟は黒。パンツも黒。ジョルジュさんは風と闇属性を使えるってことだ。
言葉の通りに、後ろに10人近い精霊術師さん達がついて来ていた。
1人だけ、白じゃない男の子がいる。つまらなさそうな顔をした榛色の髪の少年で、たぶん僕より年上。兄ちゃんよりは年下かな?
「なんでオレがバイトしてる時に来るんだよ。メンドクセー」
少年は嫌々連れてこられたみたいだ。一番、年上に見える長く髭を生やしたおじいさんに首根っこをつかまれている。
「彼は職人ギルドから来てもらってる子でね。測定した結果を身分証に記録してもらうために連れてきたんだ」
「オレ、デコプレート以外はめんどくさいからやらねーよ。追加料金1万ダハブ。石代は別」
デコプレート?
「これ、ジャン。また、そんなことを言いおって。仕事じゃろうが。――気にせんでいい。特に希望がなければ普通のプレートで問題ない」
どうやら測定した能力を文字でプレートに記入するんじゃなく、色のついた石をはめ込んで表示してもいいらしい。
デコプレートって言われているのは、石を普通に並べるんじゃなく、プレートに絵や模様を彫り込み、飾りのように石をはめたプレートのようだ。
ジョルジュさんが自分のデコプレートを見せてくれた。洗濯物が干してあって、風で乾かしている絵が彫られていた。黒い石が2つ、干されたシャツのボタンとしてはめられ、吹かせた風を表現した線に3つの緑の石がはめられている。黒い石はただの石だけど、緑の石は翡翠の原石だな。
ジョルジュさんは戦闘は苦手としているから、平和そうな絵にしてもらったそうだ。
デコプレートの方が格段に面倒くさそうなんだけど。ジャン君は変わった子みたいだ。
横9センチ、縦5.5センチのプレートに文字で書き込むのは限りがある。僕の場合は、石をはめ込む形式になる可能性は高そうだ。デコらずに、普通に石を並べてもらうだけでいいけれど。
「能力の測定と言っても、それほど細かくは測らないんだ。基準になるものも決まっていないし。戦闘、生産活動、森林再生とかの大規模な術のそれぞれが、実用レベルでできるかどうか。それから、制御能力、術の威力が優秀かどうかを判断する。まずは、自己申告をお願いするよ。属性ごとに今の5項目が十分なレベルに達していると思うか教えてくれ」
そう言われて、ちょっと考える。斡旋してもらう仕事にも関わるだろうから、生産活動と制御能力は全属性認めてもらいたいな。他は水属性だけでいいだろう。
「了解。じゃあ、外に出なくても審査できる生産活動と制御能力から。水属性が得意なら、まずはポーションを作ってみてくれ。作り方は分かるかい?」
うなずいて、用意された材料の中から、質の良いポーション草を選んで作る。
うん、いつも通りのハイポーションができた。
と思ったら、ジャン君の手がスッと伸びてきて、ハイポーションを奪い取る。じっと見つめて、何やらうなずいている。
「食べ物とかのその場で審査ができる物以外は、職人ギルドで品物を確認してから結果が出る。彼が全部持って行ってくれるから、完成した物は彼に渡して」
光属性で聖水を、闇属性でチーズを作り、地属性で花を生長させて、風属性でその花をドライフラワーにした。
火属性は、作ったチーズをパンにのせ、炙って溶かした。
「焼き色」
トロリとしてきたタイミングでジャン君が一言。
火加減を調整して表面をこんがり焼いた。受け取ったジャン君は、その場でパクリと口に運ぶ。
「あちち。火属性も合格でいいぜ。どうせなら鉄を熔かして欲しかったけど」
あれ? 要求レベルが意外と高い?
でも、合格って言われてるし、ジャン君も味には文句がなさそうだ。チーズトーストを完食している。
「コラコラ、またそんなことを言って。鉄が熔かせたら術の威力も認定されるレベルだろう? 戦闘にだって使える可能性が高い。無茶を言ったらダメだよ。それに君は審査官じゃないだろう?」
ジャン君は口を尖らせて「便利な奴、募集中なんだよ」とつぶやいている。以前、兄ちゃんが鍛冶職人さんのところでやっていたようなアルバイトを募集しているんだろうか。
『マルドゥク、この子は”火属性も”と言った。ポーションと聖水は、使ってみないと効果のほどは分からないのが普通だ。断言はまだできないが、この子は目利き持ちかもしれないぞ』
おぉ。目利き仲間か。急に親近感が湧いてきた。




