第4話 アブヤド
町で1泊し、シャルル君っていう男の子を乗せて、馬車は出発した。
結局、仕事は3時間かからずに終わったけど、3000ダハブ払ってもらえた。リリが抗議してくれたおかげだ。貴族の言葉は無視しがたいらしい。
「シャルル……。早くも、ルル発見……」
「は……? ルル? それ、僕のこと?」
「うん……。私はララ。そっちのお嬢様がリリ。だから……、あなたはルル」
「君、変わってるね。あ、悪い意味じゃないよ。なんだか和む。よろしく」
シャルル君も孤児で、テオと比べると大人しい印象の子だ。馬車に乗ってから、ずっと暗い顔をして僕を睨みつけていたけど、名前を聞いて喜んでいるララに困惑している様子だ。
「シャルル君、僕はマルドゥク=サラーム。僕もルルって呼んでいい?」
ララへの態度は、困惑しつつも優し気な感じだったから、僕も声をかけてみた。けど、急に険しい表情になってプイっと横を向かれてしまった。
「僕達から希望を奪っておいて、よく平気な顔でいられるな」
小さくつぶやく声が聞こえた。彼と仲良くなるのは難しいのかな。
「ララは……、マル君実は女の子説を提唱する……」
「ふぇっ!? いきなり何言い出すの?」
ララの唐突な言葉に驚く。
「伏し目がちの目を見て、思った……。まつげが長い……。髪もつやつや、お肌も滑らか……。お姫様みたい……」
「いやいや、僕は男の子だから!」
「プロポーズの返事の手紙……。託しに来たのは、男の子2人と女の子1人……。3分の2の確率で……、相手は男の子」
「そういえば……!」
「違うって!! モルガン君も驚愕の声を上げないで!」
「一人称が”僕”の女の子……。お話の登場人物にいいかも……」
「ララ! なんで、僕を女の子にしたがるの!?」
ララは小さくうなずいて微笑み、そして答えた。
「リリみたいなドレスを着せて……、絵本のお姫様のモデルにしたい……から?」
なんで疑問形? 本当は見てみたいだけ?
「ふふふ。面白そうですわね。構いませんことよ。私の服を貸して差し上げますわ!」
リリまで面白がり始める。テオもニヤニヤと成り行きを見守ってるし。モルガン君は……、ちょっと本気にしてそうな表情だ。
「……は。あはは。はははははは。何それ。君、まだせいぜい7歳なのに、プロポーズしたの? で、返事は? 相手はどんな男の子だい?」
「ちょっと! 違うって!!」
キョトンとしてたルルも、ララの突飛な発想に毒気を抜かれたのか、途中から一緒になってからかってくる。
不本意な疑惑を抱かれたけど、ルルとも仲良くなれそうで良かった。
◇
馬車はその後も爆走を続け、残りの4か所を回り、リナ、ミラの女の子2人と、ポール、アドルフの男の子2人が加わった。
この4人とはあんまり話せていない。僕が既に精霊術師になっていることで、恨みがましい目で見られている。僕と仲良くなることに抵抗があるみたいだ。
それに、既に仲良くなった僕達の中に入っていくよりも、彼らは彼らでグループを作ることを望んだんだろう。
途中、水がなくなったときに提供したり、具合が悪くなったリナに薬草とハイポーションをあげたり、回復魔法で治療したりと、協力できることはした。だけど、お礼も言わない彼らにリリ達が良い印象を持たず、旅の後半は分裂状態になってしまったのが残念だ。
ともあれ、ようやくアブヤドが見えてきた。ラティーフ領都ほどじゃないけど、結構大きな町だ。
白の町であるせいなのか、建物が全て白い。屋根も壁も。道も薄汚れているけど、白い石が敷かれている。
そして、アブヤドの周辺は東側を中心に緑が溢れているようだ。北側は荒れ地だけど、東に大きな森が見える。
僕達が暮らす精霊術訓練場とその寮は町の北の端にある。それで、町の北門は実質白専用になっているらしい。
北門での審査は少し時間がかかった。1人ずつ、保存されてる似顔絵と顔を見比べて確認し、身分証を発行するからだ。
身分証は、僕が持っているものと同じ金属のプレートだ。表は名前と生年月日、性別といった情報が記録される。裏には、使える属性のマークが彫られる。何も使えなければ、何のマークも彫ってもらえない。
皆に各属性を使えるかどうか確かめさせてる。特に使い方とかは教えてもらえないみたいだけど。
僕の前ではポールが頑張ってるけど、当てずっぽうじゃあ難しいだろう。
結局、表面だけが彫りこまれたプレートを受け取っていた。
次は僕の番だ。ポールを始め、既に身分証を受け取った子達もこちらに注目している。
「はーい。もう使えることになってるみたいだけど、改めて調べるからね。全属性順番にいくよ。最初は火。やってみて」
言われて、人差し指の先に火を灯す。
「は?」
言われた通りにやったのに、眉をひそめられた。プレートに彫りこまれた分と合わせて3属性目だからだろう。
「記録が間違ってるのかな。次は水、やってみようか」
掌の上に氷で兎を作る。
普通にやると、水が得意なのが伝わらなさそうだから、ちょっとだけ凝ってみた。
その後も、風、土、光、闇と目の前で使ってみせる。
係の人は目をパチパチさせていたけど、ふうっと息を吐いてからプレートに火、風、土、闇のマークを彫りこんだ。ちょっと雑な感じでマークが薄い。
「君、3月中に精霊術師ギルドに行って。そこで、各属性をどれくらい使えるか計測するから。――はーい、じゃあ次の子ね」
無事終わったみたいだ。
「……1人で6属性もだなんて。精霊6人と契約したってこと? 酷いよ。1人くらい譲ってくれたらいいのに」
つぶやく声が聞こえた。
何気なくやってしまったけど、確かにさっきのを見たらそう思うよね。でも、契約してる相手は1人なんだ。譲ってあげられない。
リリ達以外は、もとから僕と距離を置いている様子だったけど、さらに距離が離れてしまった。
「マル、気にすんな。お前は俺の命の恩人だから、俺はお前について行く。他の奴にひかれるのも厭わず、俺達のために魔物を狩って、解体までしてくれたんだもんな」
え?
馬車に並走してた暴走ダチョウって魔物を仕留めて解体したけど、僕ってあれのせいでひかれてたの? でも、馬車襲われそうだったし、5体も集まっててライアンさんも手一杯みたいだったし、食料にもなるし……。仕方ないよね?
「マル君、結構ワイルド……。意外性のある美少年……、悪くない」
とりあえず、テオとララには嫌われてなさそうで良かった。
「マルドゥク、あとでお話を伺いたいことがありますの。いつものメンバーで私の部屋で集まって、夕飯を食べましょう。話しはそのときに」
「……そうだね。僕も君に聞きたいことがあるよ」
リリとルルがちょっと怖い。なんか、怒ってる?
「マル君、また別のところで能力を測るんだね。怖くない? 何するんだろう」
モルガン君はいつも通り怖がっている。嫌われてはいなさそう。
「さぁさぁ、終わった人は移動して。寮の部屋は早い者勝ちだよ」
早い者勝ちなら、急いだ方が良いな。
門を抜けると、大通りが南に向かって伸びていた。僕達の住むことになる精霊術訓練場と寮は、門を通ってすぐ右にある階段を登った所にあるみたいだ。
階段のすぐ下で、緑の服を着た精霊術師のお兄さんが立っている。近づくと資料を渡してくれた。
「君は……。おめでとう。精霊と契約できたんだね。今、渡した資料にこの町の地図も入ってるから、精霊術師ギルドにも顔を出しなよ。色々教えてくれるし、仕事の斡旋もしてるから」
「ありがとう」
階段を登った上には赤い服の精霊術師さん。僕達が向かうべき寮の場所を教えてくれる。
寮は1つだけじゃなく、5つもあるようだ。同い年の子は皆同じ寮に集められるらしい。
僕達の寮は、この高台の中では北西に位置する場所のようだ。町から出る北門からは少し遠いかな。
「お嬢様、お荷物をお持ちしました」
寮の入り口で出迎えるリリの家の使用人らしき執事さんとメイドさん。ビシッと制服が決まっている。いかにも貴族に仕える使用人って感じだ。
しかし、僕達の目は彼らではなく、別の物に釘付けになった。
執事さんが運んでいる木槌。リリの頭3個分位の大きさがある。思っていたより巨大だ。あれを振り回してるんだろうか。
「ありがとう。皆さん、さぁいきましょう」
僕達だけじゃなく周囲の子の視線も木槌にあつまってるけど、リリは堂々と進んでいく。
寮の中に入ると、列ができていて、順に部屋を決めているようだ。最後に並ぶと冒険者風の女の人が説明をしてくれる。
なんだか見覚えがあるような……?
説明によると中央階段を登って右が女子用の部屋で、左が男子用。3階の部屋は貴族用。2階が平民用。1部屋4人まで寝れるけど、入ってくる人数が少ないから2人以上4人以下なら好きなメンバーで部屋を使って良いそうだ。
1階は寮母さんと寮父さんの部屋、食堂、倉庫、風呂、トイレなどがあるみたい。お風呂は湯船もあるけど、浸かるなら自分達で湯を溜めなければいけないそうだ。共有の水桶の水はお風呂を沸かすのに使ってはいけない。
リリは貴族用の部屋だけど、ララも一緒にと誘っていた。
せっかくなら広々と部屋を使いたいから、男子はルルとテオで1部屋、僕とモルガン君で1部屋使うことにした。
僕達の馬車よりも先に到着した馬車が2つほどあるらしいけど、良い部屋は残ってるかな。前の子達が部屋を決めて、移動する。
「はい、次の子。って、うげっ」
“うげっ”? おかしな言葉を発した寮父さんらしき人を見る。
この人も見覚えがある。じぃ~~、と見つめて思い出そうとする。
「あ! えーっと、ザッコさん? こんなところで何を?」
「ザッコさんって、なんで親しげに……。いや、何でもない。この地図を見て、塗り潰されていない部屋を選んで。鍵を渡すから」
かつて、僕の住む村にやってきた冒険者パーティーの魔導師で、僕を殺して杖の材料にしようとしたザッコさんだった。
何か言いたそうだったけど、列に並ぶ子達を見て部屋決めを優先したみたい。
「ここの子達に妙な真似をすれば、容赦しない」
横を通りすぎる一瞬、ヘーゼルさんが体の制御を奪って一言。
「……もうあんなことをする気はないよ」
なんだか遠い目をしてザッコさんは、返事を返した。何か心境の変化があったんだろう。
残っているなかで1番出入口に近かった2階に上がって3番目の部屋を選んだ。203号室だ。ルルとテオは隣の204号室。
部屋に入ると、2段ベットが2つ並んでいて窓が1つ。それ以外は何もない部屋だった。広さもあまりない。実家の部屋の方が広かったな。
コンコンッ
「マル~。さっきもらった資料、絵が少なくて、よく分かんねぇ。読んでくれよ~。ルルも半分も読めないって」
テオだった。ルルも一緒。
「えっと、この寮の規則だね。“正面玄関は、7時に施錠します。遅くなるときは事前に申告しましょう”、“寮からのお知らせを階段の東側脇にある掲示板に貼り出します。こまめにチェックしてね”……」
こんな感じで、この寮で生活するうえでの規則が記されていた。
モルガン君が言ってた水汲みや薪割り、掃除の当番のことなんかも書かれてる。班は3月中に決めて届け出ないといけないみたいだ。
もう3月20日だから、10日程度のうちに決めることになる。精霊術師ギルドにも行かないといけないし、町を見て回ったり色々したいことはあるから、早めに決めときたいな。
さっきの様子から、ルルには距離を置かれたかもって思ったけど、今は普通だ。
「ありがとう。まずはアルバイトを探さないとな。マル君、時間のあるときに掲示板の貼り紙も読んでくれる?」
「もちろん。――ルル、さっき言ってた聞きたいことって何?」
思いきって聞いてみると、ルルはちょっと目をそらしモジモジしながら言った。
「君の今後のプランが知りたくて。その、好きな子には振られちゃったんだろ? 諦めずに再度告白するのか、それとも別の――」
「僕は振られてないよ!」
そういえば、女子疑惑を否定するだけで、ルルには振られてないってことを言ってなかった。
はっきり言い切った僕を見つめて目をパチパチさせてるルル。
「はは。なるほど。振られてない、か。よく分かったよ。ありがとう!」
『ほほーぅ』
すっきりした顔のルル。分かってくれたようだ。
ヘーゼルさんのつぶやきが気になるけど、ルルと引き続き仲良くやっていけそうで良かった。
『ララか、リリか。今までの様子だとララだろうな』
ヘーゼルさんが何か言ってる。何の話だろう?




