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第2話 夢なき子

 お嬢様だから、重いものを持ったことがないのは分かる。

 でも、木槌ってお嬢様が使うような道具だっけ?


「リリアーヌさんも、薪割りの練習したの? 僕も木槌と(くさび)で薪を割る練習したよ。あれ、難しいよね」


 疑問に思った僕だけど、モルガン君はリリが木槌を持つ理由に心当たりがあるようだ。


「薪割りに木槌を使うの?」

「うん。斧は武器にもなるから、白は使えないだろ? だから、楔を食い込ませて、槌で叩いて割るんだ。金槌は手に当てちゃうと危険だから、慣れるまでは木槌を使うんだって。僕も練習させられたんだ」

 なるほど。僕は薪を割らずに氷刀で斬って作ってたけど、普通はそうなんだね。


「私が薪割りをするとお思いになって? 白でも使える武器の1つとして、槌の扱いを練習していただけですわ!」

 モルガン君の予想は外れたようだ。でも、武器ってお嬢様に似合わない気がする。

「私には夢があるのです。いつか、精霊術師となって大会でアルベール様のように活躍する夢が!」

「アルベールって、火と光の精霊術師の?」

 意外な名前が出てきた。憧れるような相手じゃないと思うんだけどな。

「様をつけなさいな。私達、白の希望ですのよ? 初めて精霊術師大会を観戦したときに拝見した凛々しいお姿が、目に焼き付いてますの。マルドゥクさんも、今年の大会を観戦すると良いですわ。きっと、あなたもファンになりますの」

 夢見心地の表情で話すリリだけど、あいつのどこが良いのか全然分からない。


「あの、僕、今年の精霊術師大会に出ることになってるんだけど……」

「えっ!? マル君、止めときなよ! 7歳で出ても予選も突破できないよ。予選は集団戦で、弱そうな奴から集中攻撃されるんだよ? 絶対、最初にターゲットにされるよ!」

「あなた、バカですの? 精霊術師になったからって、強くなった訳じゃないですの。無詠唱の天才、アルベール様は例外ですけれど、どんなに強力な術が使えても、発動できなかったり、当たらなかったりでは意味がありませんの。発動までのスピード、相手の術への対応力、相手の意表を突く戦術の組み立て、そういった駆け引きは経験がモノを言いますのよ」

 口々に止めるモルガン君とリリ。


「でも、約束しちゃったから。――心配してくれて、ありがとう」


 魔物との戦いが主だったから、対人戦の駆け引きにはそんなに慣れていないかもしれない。でも、逃げ出すわけにはいかない。きっぱり言い切った僕に、リリは少し感心した様子でうなずいた。


「誰と約束したのか知りませんけど、覚悟は固いようですわね。1つだけ、忠告して差し上げます。ゾンビアタックはなしで登録した方が良いですわ」

「あ、ゾンビアタックありっていうのも約束してるんだ。でも、大丈夫。僕の契約相手は――」


「はぁぁぁぁぁぁぁ!? あなた、何を約束したか分かってるんですの!? 精霊が体を動かしてるなんて言われてますけれど、見た目は活きの良いゾンビそのものですのよ!? 白目をむいて涎たらしながら這い回ったり、地面を舐めまわし始めたり、突然服を脱ぎだしたり! あなた、そんな無様を公衆に晒したいんですの?」

 言葉の途中でリリが大声を上げて遮る。


「マル君、ララも賛成できない……。美少年のイメージが崩れる。もったいない」

「そうだよ。ゾンビアタック中の姿が噂になって、好きな子の耳に入っちゃったらどうするの!? ――あぁ、想像しただけで怖い。震えてきちゃった」

 モルガン君にララまで詰め寄ってくる。僕は3人の勢いの方が怖い。


「本当に大丈夫だよ! 僕が意識を失ってる間に動いててもらったことあるけど、何の問題もなかったから!」

「本当に……? 当人にはとても言えないだけで、恐ろしい奇行に走ってたり……」

「しないよ! ちょっと、いたずらっ子なだけで! 兄ちゃんをからかって遊んでたり、騎士さん達を訓練でしごいてたりするくらいだから!」


 村に帰ってから聞いた話だけど、牛頭鬼魔王仔(ミノタウロスプリンス)との戦いの後、あまり役に立っていなかった騎士さん達に魔物の死体とかを運ぶように指示したり、ケガ人を背負って家まで送り届けさせたり、追加の訓練メニューを言い渡したり、と色々働かせたらしい。

 それから、「ジルが、”勝ったら、この熱い思いのたけを伝えたい”と話していた。是非聞いてやってくれ」と言って、マチルドさんをジルさんに押し付けたりとかもしたらしい。

 そういえば、村に帰ってから、修業がきつすぎて意識を失ったら、広場に氷を張ってスケートリンクにしてたり、父さんから勝手に外泊許可を取ったりもしてたな。おかげでクロードの誕生日を祝いに行けたけど。


『くっくっく。まだあるぞ? 領都から帰る前の晩に書置きを残して、プリシラに()()が一般的にはプロポーズだと教えたりとか』

 何してくれちゃってるの!? 『いやぁ、いけると思ったんだが』とか呑気に言ってるけど、ちょっとヘーゼルさんに任せるのが不安になってきた。


「はぁ。言っても無駄なようですわね。――その約束をさせた相手、絶対に性格と趣味が悪いですの」

 僕の内心で膨らむ不安をよそに、呆れた顔をしつつもリリは説得を諦めた。約束をさせたのが憧れのアルベールだなんて、言えないな。



「そういえば、リリは精霊術師になって活躍するのが夢なんだね。僕は立派な商人になりたいんだ! ララは何か夢はある?」

 約束をした相手の話になって欲しくなかったから、少々強引に話を変える。


「私……? そうね……。ララ、リリときたから……、ルル、レレ、ロロを見つけたい……」

 思ってた答えと違う。ルルはいそうだけど、レレとロロは難しそうだ。

「えぇっと、他にはない?」

「他に……。字を……覚えて……、絵本を描く……?」

「絵本作家さんになりたいんだ。素敵だね。――テオは?」

 最後が疑問形なのが気になったけど、ちゃんと夢あるじゃん。

 ホッとして、続いてテオに問いかける。活発そうな子なのに、話に入ってこなかったのが気になってた。


「あ、俺?」

 結構長く考えてから、ポツリと言った。

「……パン」

「パン? パン屋さん?」

「いや、どうせ死ぬからさ。死ぬまでに1度くらい、柔らかいパンを満腹になるまで食べたいなって」


 悲しい答えだった。小さくお腹の鳴る音が聞こえる。話に入ってこなかったのは、お腹が空いていたからかもしれない。


 それっきり黙り込んでしまったテオを心配していたら、ほどなくして馬車が止まった。

 窓の外を覗くと、テントを張っているのが見えた。今日はここで夜を明かすみたいだ。ここはどの辺だろう。


『ラティーフ地方の南端だな。馬車の斜め前方に関所が見えるだろう? あの先がアダーラ地方だ』


 確かに簡素な木製の柵が設けられている途中に門と小屋が見える。あそこが関所なんだろうな。


 ガチャッと鍵の外される音がして、ライアンさんが顔を出す。


「今日の移動はここまでだ。近くに森と湖がある。水の補充をする場合は、マリーに言ってくれ。俺は、狩りに行ってくる」

 マリーっていうのは、ライアンさんの奥さんでモルガン君のお母さん。2人はモルガン君と一緒にアブヤドまで行き、そのままアブヤドで冒険者活動をするそうだ。

 僕以外の4人は水を補充するらしい。順番に馬車を降りて、マリーさんに伴われていく。


 僕も外に出たいから、狩りの手伝いとか申し出たんだけど、身を隠す場所が多い所では、見張りがいても外に出せないらしい。薬草とか木の実を目の届く範囲で採取するのは許してもらえた。

 外に出たら、村で見ていたのとは違った風景が広がっていた。ヒノキ、柘植、ブナなどが多く生えた森だ。あまり人が立ち入らないのか、蔦が絡んでいたり、根が張り出して地面が浮き上がった場所があったりで、歩きにくそうだ。

 でも、どこか神秘的にも見える。湖は森の中に少し入ったところにあるらしく、僕は見に行くことはできなかった。

 森から目を離し周囲を見渡すと、村の近くより緑が少ないことに気付く。特に柵の近くからは地面がむき出しになってひび割れている場所が目についた。


『関所はラティーフ地方の重要な資源である水を他の領地に流出させない目的もある。一定量以上の水を持ち出す場合は税金を取っているはずだ。もちろん、通行税を取るという目的もあるが』

 ちなみに僕達は通行税は今回に限り取られない。税を払えなくって逃げ出されるわけにいかないから、免除されてるそうだ。


 薬草を少し採取して馬車に戻った。

 ライアンさんは、狩ってきた突進ウサギの肉で子供達の分の夕食も用意してくれた。「手持ちの保存食は温存しておくように」だって。テオは、無我夢中で食事を貪っている。


「さっきの話の続きですけれど、モルガンの夢は何ですの?」

「えっ? 僕? 僕は……、精霊ってどんな存在か分からないから怖いし、竜ももちろん怖いし、死ぬのも怖いし……。ある日起きたら、髪が白くなくなってたらいいなって空想することはあるけど」


 テオは生き残ることを諦めていたけど、それとは別の意味で後ろ向きだ。


「聞かなければ良かったですわ。そんなことで、どうしますの? チャンスが来てもつかめませんわよ?」

「……私は、少し分かる。マル君とリリは、生き残れる自信がある……。だから、未来のことを考えられる。生き残れない私達は……、未来を考えるのが怖い。それでも、空想の世界では自由でいられる。それが、何かの形に残れば……それで満足……」

 リリがハッとした顔をして、口をつぐんだ。


 そうか。ララもテオと同じように諦めていたんだ。

 リリは貴族の令嬢。服装を見る限り、大事にされてるんだと思う。精霊術師になれなかったとしても、実家が奴隷として買い取ってくれる可能性は高い。それは彼女の望む未来ではないけれど、未来がそもそも訪れないのとは大きく違う。



 すっかり暗くなってしまった夕食の時間。僕はそっとヘーゼルさんに話しかける。


『ねぇ、誰か牛島さんと適合するかな。僕は皆の分、憑依してくれる人を見つけられるのかな?』

『救える範囲で救うしかない。できなかったとしても自分を責めるなよ。ただ、ベストを尽くそう』


 かつて村を訪れた精霊術師さんから聞こえた後悔の気持ち。

 1人は同年代の白と友達にならなかったことを、もう1人はせっかくできた友達を自分が精霊術師になったことで絶望のうちに死なせてしまったことを悔いていた。


 僕は、仲良くなった子が死んでいくのは嫌だし、アブヤドで誰とも仲良くなれないのも寂しい。

 だから、仲良くなった子も一緒に生き残れる方法を探すことにした。

 確実なのは、牛島さんみたいに死んだ後も魂だけ残っている人を見つけて憑依してもらう方法だろう。


 牛島さんも、性格の良い女の子なら憑依しても構わないと言ってくれていた。

 後は相性の問題だ。憑依できても体と相性が悪いと、憑依している人が息苦しさを感じたり、上手く魔力を使えなかったりするらしい。ヘーゼルさんは、実際に乗り移ってみて相性の良し悪しを確認してたらしいけど、経験上、魂と体の属性相性が近いと相性が良い気がするそうだ。


 牛島さんの場合、一番高いのが土属性でB。魔法はそんなに得意じゃないから、精霊術師としての活躍を夢見るリリには向いていないかもしれない。

 兄ちゃんに鑑定してもらって、ララの土属性がB以上だったらいいな。

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