表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/327

第31話 フェンの日記(16)

 魔法歴984年5月1日


 「ぴぎゃーーーー!!」という泣き声に驚いて駆けつけたら、クロードが泣き喚いていた。

 そういえば、こいつ子供の割に泣かないよな。魔物襲撃に対処しなきゃっていう緊張で、今まで素直に感情を出せなかったのかもしれない。


「うっ、うっ、うわぁーー。くろーろ、くろーろなの。にぃに、くろーろ、って、ひっく、よんで、くれてた、のに」

 こんな感じで泣いてた。様付けが嫌な訳だ。――どんな貴族だよ。慣れろ。

 マルは、「クロード君! クロード君でどう?」とか、「皆が聞いてるときだけでも、様付けを許してくれないかな?」とか優しく呼び掛けたけど、押し切られて呼び捨てにすることにしていた。


 しかし、マルが「にぃに」なら、他の奴らはどうなんだ?

 そう思って聞いてみたら、ギーラのことは「ぎらにーたん」と呼んだけど、当人の希望で「ぎら」に戻った。プリシラは「ぷりちらねぇね」。


 そして、俺については「けるたんは、けるたん」だと。おいッ!


 ◇


 魔法歴984年5月2日


 祝勝会が明後日に決まった。昨日決まった諸々を資料にまとめてもらいつつ、追加で届いた要望に目を通す。

 ふざけた要望が多くて疲れた。


「料理対決第2弾はいつやるんだ? 毎年恒例にしてくれ」

 やらねーよ。マルはそんなに暇じゃない。

「お金が欲しいです」

 働け。

「まるるくにぃにと、なかよくなって、にぃにの、おとーとになりたい。あと、けるたんの、にーたんになりゅ」

 クロードめ、お願い事を書く紙と勘違いしてやがる。俺の兄で、マルの弟って何だよ?

 アンナさんが代筆したっぽい字なんだけど、わざと言葉通りに書いてる。あの人も結構いい性格してるよな。元気になったようで何よりだけど。


 要望が書かれた紙を捌いていたら、ギーラがやってきた。今回の戦功に対する褒賞と、前にブリアンを助けたときの褒美で悩んでるらしい。


 金でもらうよりも、継続的に金が入るように、両親に仕事を斡旋してもらおうと考えてるそうだ。堅実だな。


 しかし、こいつは両親と幸せに暮らしているだけで、嫉妬から解放されるんだろうか。

 幸い、冒険者になることを止めるつもりはないみたいで、一緒に活動するのが約束よりも遅くなるかもしれないことを気にしてるみたいだった。それなら、俺も一緒に活動する中でサポートしていこう。


 ◇


 魔法歴984年5月4日


 今日は祝勝会の日だったんだけど、途中で珍客が乱入した。


 名前:アルベール・レオン・クレール=アダーラ

 性別:男

 生年月日:魔法歴965年2月28日

 守護神:欺瞞の神

 称号:欺瞞の神の使徒

 魂名:―

 所有スキル:

(才能系スキル)

 詐術、猜疑、鉄仮面(ポーカーフェイス)、カリスマ、回復魔法の天才、強化魔法の才能、ものづくりの才能、消費魔力半減、美貌≪下≫

(技能系スキル)

 細工術≪中≫、彫金術≪中≫


 属性相性:火(D)、土(C)、水(E)、風(C)、光(S)、闇(E)


 去年の秋に来た精霊術師から噂に聞いてたアルベールは、悪徳の使徒だった。

 魂名は付けてもらってないみたいだ。あんまり守護神から気にかけてもらえていないのかもしれない。

 「4989」とか「鶏肉」とかの悪意を感じる魂名とはまた違った悲しさを感じる。


 こいつは、マルが嘘をついていると決めつけてきた。性格の悪い奴。ブリアンによると貴族ってのは大体がこういう傲岸不遜を絵に描いたような奴らしいけど。

 方針としては安全第一だから、こいつは救おうとしなくて良さそうだな。


 貴族っていう地位を盾に無茶な要求を押し通されそうになったけど、呑んでも構わない条件を出してきてくれた。

 複数属性扱えて、なおかつ無詠唱のマルが気に食わないんだろうか。

 ストレスたまるやり取りだったけど、勝手に提案してきた妥協案で自滅してくれて助かった。


 精霊術師大会でマルとアルベールが戦って勝負することに話がまとまってから、800万ダハブをかき集める方が大変だったかもしれない。

 まず、ギーラ探し。あいつ、肉料理の屋台をはしごしまくって、見つけたときは、右手にビフカツサンド、左手に肉の刺さった串を持って、幸せそうな顔してた。まったく。結構な騒ぎになってたんだから、気付けよ。


 プリシラを連れて行こうとしてる阿保な借金取りの話をしたら、ギーラは一気に真っ青になり、マルとヘーゼルに喧嘩を売ってきたことまで話終わったら、今度は安心してへたり込んた。

 「師匠が相手するって……、それを早く言えよ!」って睨まれたけど、呑気に食べ歩きしてるのが悪いんだってーの。


 今日受け取った褒賞500万ダハブに、ギーラが十兵衛を倒したときの100万ダハブ、マルがジルさんと料理対決したときの売上やら素材を売却して得た金なんかをかき集めて800万ダハブを支払った。


 クロードは、どうせ勝つから800万全額を保証してもいいと言い出したけど、マルが止めた。


「800万クロードが保証して、僕が勝っちゃったら、アルベール卿は借金は踏み倒されるわ、受け取ってもいないのに500万は返さなきゃいけないわで可哀想だからね。それに、安易に保証人になっちゃダメだよ」

 だって。

 聞いてたアルベールの頬が一瞬引きつったのが面白かった。鉄仮面(ポーカーフェイス)貫通の狼狽えっぷりってわけだ。そういえば、穴だらけだったな。あの条件。


 ケガの功名で、ギーラとプリシラが冒険者活動をする時期が決まった。最初は来年の年末、精霊術師大会の後から冬が終わるまで。どうせ、アブヤドに2人も来るからな。

 その後は、夏と冬の長期休みに合流して活動したらいいって。


 日常の生活が続けば、きっとまた子供を疎ましく思ってしまうから、それくらいの距離感がちょうどいいかもしれない。――そんな風にギルさんとイネスさんは考えたみたいだ。


 しっかし、話の流れがまるでマルとプリシラが婚約したみたいになってたけど、ブリアンがマルに渡したオレンジフラワーが花嫁のブーケに使われる花だったせいらしい。

 ブリアンめ、急にいたずらっ子を発症させやがって。


 大人達は子供の言葉だからと、そんなに本気にしてないが、クロードは信じちゃってるな。

 それから、ギーラが悪乗りして「マルとプリシラが結婚したら、オレ達も義兄弟ってことになるのかな? オレは2月生まれで、フェンは8月生まれだから、オレの方が兄ちゃんだな!」なんて、ふざけたことを言いやがった。ギーラの弟になるなんて、俺は認めないからな。


 ◇


 魔法歴984年5月5日


 今日から村に帰る馬車も出始めた。あらかじめ乗る順番とかは決めてあったから、特に混乱は起こっていない。


 しかし、クロードの様子がおかしい。なんだかソワソワしている。

 さては俺達が村に帰る日がいつなのか気にしてるな? そう思って声をかけたら、全然違った。


「まるるくにぃにたちの、ししょー、どんなひと? ししょーが、あっかんべーの、あいてしゅるって、きのー、ぎら、いってた」


 ”あっかんべー”はアルベールのことらしい。――絶対わざと言ってるだろ。

 俺のことも「けりゅべろしゅふれーみゅのふぇん」って言えてたらしいからな。フェンサーは言えなくてもフェンは言えるはずだ。


 それはともかく、なんと答えるか。問われて困った俺とマルに対して、ヘーゼルはいとも気楽に『正直に話してしまえ』と言い出した。

 マル、ギーラ、プリシラは特に異論はないみたいだ。俺はちょっと迷ったけど、結局反対する理由が見つからなかった。


 強力すぎる悪徳の使徒だから警戒する気持ちはあるが、悪い奴じゃない。安全を取るなら距離を置いた方が良い気はするけど、憤怒から解放してやれるかもしれないって思ったら、放っておく気にもなれないからな。


 他に人が来なさそうな町の外まで連れて行き、口止めをしたうえで、マルの意思伝達をつなげた。


『やぁ、クロード。マルドゥクの中からずっと見ていたよ』

『精霊!?』

 アンナさんとの意思伝達で慣れてたんだろうな。すんなり適応した。口でしゃべるより、ずっと流暢じゃないか。

『精霊ではないんだが、まぁ、今はそう理解していてもいい。マルドゥクと契約している、ヘーゼル=ラティーフだ』


 クロードの奴、これでもかってくらいに目を見開いてた。あのときの驚きの顔はなかなか愉快だった。続く言葉はかわいくなかったけど。


『ヘーゼル様、私をあなたの5番弟子にしてください!』

 ん? 5番弟子? それ、俺だけど?

『――それは、フェンより上の弟子として認めて欲しい、という意味か?』

『はいっ。可能な限り、マルドゥク兄上の近くにいたいのです! せめて数字だけでも、血のつながりのあるケルちゃんよりも近くに!!』

 あー、そういうことね。気持ちは分かったけど、お前より下ってのは嫌だ。


 弟子に順位は付けてない、数字はただの弟子になった順番だ、ってヘーゼルが断ってくれた。

 ついでに、弟子入りも断ってた。まだ幼いからって理由だ。5歳になっても同じ気持ちだったら、改めて弟子入りを志願すれば認めるらしい。

 こういう時は、ヘーゼルも真面目だな。


 ◇


 魔法歴984年5月8日


 今日で町を去って村に戻る。クロードも今日で領都に戻るそうだ。


 ヘタレの奴が「マルドゥク君、商人になるとか言ってたけど、やっぱり本当はすごい目標があったんだね。協力とかできないけど、頑張って。応援してる」って声かけてきて、「え? 僕の目標は立派な商人になることだよ?」って、マルは返してた。

 いやー、あの英雄(ヒーロー)ごっこの後じゃ、誰も信じないんじゃないかな。

 俺の目的を果たす上では、こういう支持者が増えるのは良いことだ。今後もこの調子でいきたい。


 ギーラ達一家は、一度村に戻り、荷物をまとめてから領都に出発するそうだ。

 俺達はラプもいるし、マルのタラリアで飛んでってもらうこともできる。その日のうちに移動は済んだ。


 久しぶりに村に帰ったら、何だか空気が変わってた。

 “自分でも役に立てることがあるって思えた”とか、“プリシラが頑張ってる姿を見て触発された”とか、“強い魔物を放置していたら大惨事になることが分かって気が引き締まった”とか、理由はそれぞれみたいだけど、自分でできることはちゃんとやろうって気になってくれたみたいだ。


 ◇


 魔法歴984年5月20日


 今日はプリシラの誕生日だ。もともと荷物はそんなに多くなかったから、荷造りは済んでるみたい。だけど、出発しなかったのは仲の良い皆で誕生日を祝うためだ。


 俺はプレゼントとして、魔法矢を用意した。矢のシャフト部分に魔法陣を書き込んであり、鏃は魔物の骨で作ってあるから、魔力を込めれば魔力で攻撃力の底上げされた矢になる仕掛けだ。

 矢羽根の色で属性が分かるようになっていて、火属性、水属性、風属性を各5本ずつ用意した。他の属性は止めといた。当たったら腐り出す闇属性の矢とか、絶対ギーラが文句を言う。


 ついでに牛島(レーヌ)が宿った柳の枝も渡しといた。「初めてできた女の子のお友達」ってことで、こっちの方が喜んでた。ダンジョンへの道案内の時に仲良くなったらしい。


 マルからはハンノキで作った弓。潜在能力の風の加護もちゃんと付いてて、風で命中率を上げてくれるそうだ。弓術習得率向上が付いてる今までの弓は練習用にして、狩りに行くときはこっちを使うようアドバイスしてた。


 それから、マルはブーツを出してきた。なんと、牛島からのプレゼントらしい。

 ……いやいや。絶対用意したの、マルだろ。牛島動けないじゃん。デザインを手伝ったって言われても、俺には違いが分からん。「履き口を折り返して、裏のスエード地を見せてアレンジできる」とか「レースアップの紐をやや太めにしてあって、結ぶとリボンっぽく見える」とか言って、プリシラははしゃいでたけど。


 さらに、マルは緑色のリボンと水色のリボンを取り出した。こっちはヘーゼルから。

 うん、これは俺にも分かったぞ。緑色のは風魔法の効果を上げる魔法陣が織り込まれてて、水色の方は水魔法の効果を上げる魔法陣だろう。――と、思ったら違うらしい。両方とも精神を落ち着かせ、感知術の効果を上げるもので、色違いを用意したのは、コーディネートに合わせて変えるためだそうだ。

 緑色は牛島からのブーツの茶色と合わせて、森のイメージらしい。――あぁ、保護色か。水色は騎士見習いの制服を着ることがあったら、合わせたら良いと言ってた。別に緑だけでも良くない? プリシラは喜んでるから、水を差すつもりはないけど。


 他にもプリシラに助けられた村の連中が、チーズやら花やら持ってきて、にぎやかなパーティーになった。

 明日は朝早くから出発のはず。村での最後の思い出は楽しいものになったんじゃないかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ