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第26話 父子共闘

 兄ちゃんの放った火魔法は、魔王仔(プリンス)の鎧に張ってある革に引火したように()()()


 魔王仔(プリンス)は忌々しそうに手で火を払っているけどなかなか消えない。それどころか火を払う手に装備した籠手にも火が燃え移る。


『マル! 待たせたな! ()()()()を頼むぜ、ヘーゼル』


 兄ちゃんのこの火魔法は、実は一般の魔法法則とは違う。特別なスキルによるもので、狙った対象だけを燃やせるらしい。今は、鎧の胸部と籠手部分。

 難燃性の革だから、火はなかなかつかないはずなんだけど、対象として指定されてしまっているからずっと火で炙られ続けている。


 鎧の革部分にしつこく張り付いて金属部分を十分に熱してから、ようやく胸部の火は消える。

 兄ちゃんをギロリと睨む魔王仔(プリンス)に向かって、氷の矢を放つ。

 正確にいうならば、彼の鎧を狙って。


 熱されて膨張した鉄を急激に冷やす氷の矢。全体を一気に冷やすのではなく、わざと一部を集中して冷やすことで割れやすくしてやる。


 目利きで鎧が脆くなったことを確認。


『ギーラ! よろしく!』

『おう! 任せとけ!』


 魔王仔(プリンス)の膝を足場にして、ギーラが飛び上がり、振り回される腕に移る。


 ギーラだけに意識を集中できないよう、僕は左脚を狙って斬撃を飛ばす。

 腕から跳び、胸元まで近づいたギーラは、剣を一閃。僕も続けてダメ押しの斬撃飛ばしを放つ。


 最初に氷柱が当たってできた小さな傷の所から、脆くなった鎧が割れる。

 鎧の下の胸は、火傷で赤く爛れていた。


 鎧は500℃付近まで加熱されていたはずだから、この程度の火傷で済んだのはさすがというべきだろう。


 左右に割れた鎧が邪魔で動きが悪くなっている魔王仔(プリンス)に向かって、火傷で皮膚が弱くなっていそうな胸部を狙い、さらに斬撃飛ばし。


 これは、斧で防がれた。

 体勢を整えるためだろう。自身の全周囲に黒い球と槍を展開して防御する。

 こちらも距離を取って話し合う。


「父さん、ジルさん、ギーラのお父さん。どうして来たの?」

「そら、こいつが飛び出してったから。ケガしたその日に無茶すんなって止めようとして」

「そうだぞ。ギーラはもう少し休んでいた方がいい。それから、マルドゥク。いきなり一騎討を挑むのは止めなさい。そういうのは大人に相談してからだ」

「お前、マチルドを誘惑したら許さないって言っただろ! 目立ちすぎだ。“キャー! ヘーゼル様2世!”とか言われてたから、止めに来た」

 ギーラのお父さん、父さん、ジルさんの順に答えてくれた。


『マル~。このまま話すのヤバくないか? 父親に心配されたり、叱られたりしてる英雄(ヒーロー)っていないよな?』

 確かに、英雄(ヒーロー)っぽくない。


『父さん、ジルさん、ギーラのお父さん。聞こえますかー? 士気を下げたくないので、これが聞こえたら“伝われー”って念じながら、心の中だけでしゃべってください』

『うぉ!? なんだこりゃ!? 声が聞こえる……?』

『ほぉー。プリシラとこれで話してやがったんだな。便利そうだが、俺にはできんのかな? ――あ、オレのことは、ギルって呼べ。お前らのお父さんじゃねーからな』

『フェン。さっきの魔法は危ない。マルドゥクに当たったらどうするんだ?』

 驚くジルさんに対して、マイペースな2人。


『おい。面倒だから、私が話すぞ。まず、この子達はお前達より強い。そして、あの敵はここにいる全員で立ち向かっても、倒せるか怪しいくらいの強さだ。ごちゃごちゃ言ってる暇はない。邪魔するなら帰れ』

『ヘーゼル様。私にも父親としての立場があります。息子を前線に立たせて、自分は安全な場所で待っているわけにはいきません』

『なら、足手まといになるな。死ぬ気で生き残れ。フェン、敵の情報を』


 展開についていけてないジルさんは『ヘーゼル? 本物? どこに……? いや、出てこないで欲しいけど……』とか、ぶつぶつ言ってる。

 構っていられないので、兄ちゃんは鑑定結果を話し出す。


『あいつは牛頭鬼魔王仔(ミノタウロスプリンス)。ただの(キング)女王(クイーン)との子ってだけじゃない。イブルって奴が憑依してる。称号、元異世界魔王。スキルは、鉄壁、威圧、不屈の闘志、自己再生《上》、斧術の天才、攻撃魔法の才能、斧術《中》、闇魔法《上》』


 先見の明で見たイメージから予想はしてたけど、やっぱり不屈の闘志があるのかぁ。

 となると、今は攻撃がある程度通じてるけど、追い詰めると効かなくなるかもしれない。


『元異世界魔王? 闇の賢者(あのバカ)め、またとんでもない奴を召喚して……』

『魔王ってなんだ?』

『その世界によって定義は違うけど、大抵は人類の敵対勢力を束ねる王、かな。さっき、魔物の王になるって言ってたから、それだけの意味かもしれないけど』

『何にしても、攻守ともに優れた厄介な敵ということだろう。子供は逃げなさい。父さん達が時間を稼ぐ』

『ダメだ。この子達が何のために頑張ったと思っている? 犠牲者を出さないためだ。無駄死にするな』


 父さんが心配してくれるのは嬉しいけど、それで死んでしまったら嫌だ。ヘーゼルさんの言う通り、ここは引けない。

 でも、引けないのは父さんもだった。


『ヘーゼル様のお言葉でも聞けません。あなたは子供を戦わせたくないと思っていたのではないのですか?』

『そうだな。まだ親に守られ、命の危険など感じなくていい年頃だ。私だって、こんな本格的な戦場に子供を立たせたくなどない。――しかし、お前達大人にあいつに勝てる策があるか? 逃げる以外でだ。今、逃げても、問題の先延ばしにしかならん。生後10日のあいつは、これからどんどん成長して強くなる。結局、生き残った者の負担になるだけだ』


 父さんは黙り込んでしまった。


『質問。お前が本物のヘーゼルなら、普通に倒せるんじゃ? 闇の賢者が召喚したなら、それよりは弱いはずだろ?』

『闇の賢者は、ランダム召喚で自分より強い魔物を召喚してたぞ。まぁ、私が本気を出せば倒すことは可能だが、宿主になってるマルドゥクの体には相応の負荷がかかる。後遺症が残らないとは言い切れないから、それは最後の手段だ』

『マジか……。宿主って……、ひょっとして精霊?』

 ジルさんは小さく心のなかで何かつぶやいている。


『詰んでんじゃねえか! ギーラ、逃げんぞ。こういうのは、偉い奴が頑張りゃいい』

『え、じゃあ、頑張ってるオレって偉い?』

『いや、頑張ってる奴が偉いって意味じゃねぇんだけど……。お前、オレに似て馬鹿なのか……』

 やっと大人3人が黙ったところで、作戦を伝える。『いや、納得して静かになったわけじゃ……』とか言ってたけど、気にしない。これ以上、時間を無駄にしたくない。



『あぁ~、もう。作戦っつっても、ほとんど運任せじゃねぇか!』

『ぼやくな、ジル。うちの子のために頑張ってくれ』

『はぁ。今回だけだからな? 帰ったら報酬ふんだくってやる』


 文句は言いつつも、3人とも協力してくれることになった。



 全員で見守るなか、イブルの周囲に展開していた黒い球と槍が四方八方に放たれる。


 黒い球は泡で包み、盾を構えるジルさんの後ろに全員で隠れて黒い槍をやり過ごす。

 今のジルさんはラティーフ伯爵家の正規の騎士さんと同じ装備。鎧の上からサーコートを着て、右手に剣、左腕に盾。どれも青と銀でカラーリングが統一されている。たぶん、借りてきたんだろう。

 ついでにギーラも、同じデザインの剣を持ってきてる。


 姿を現したイブルは、鎧が失くなり、マントも地面に落ちている。籠手は外したみたいだけど、拳には今も炎が燃えている。こんな手では斧を持てないようで、斧は地面に落ちて素手。

 つまり、装備を全て失った状態。


 胸の火傷は完治しているけど、痕が残ってしまったようだ。

 憤怒の表情を浮かべており、今にも突進してきそうに見える。


「きぃーさぁーまぁーらぁー!! よくも、よくも、よくも、よくもぉ! 私の体に傷痕を残しおって! それと、そこの魔導師! この火をいい加減に消せ!!」

 そう。籠手から拳に燃やす対象を変え、兄ちゃんはずっと火魔法の制御を続けている。おかげで、イブルを丸腰にできた。


「イ、魔王仔(プリンス)! 大丈夫だよ! 服を着れば傷は隠れるから!」

 危ない。名前を呼ぶところだった。彼は魔王仔(プリンス)とは言ったけど、名前を名乗ってない。兄ちゃんが鑑定持ちだとバレるところだった。


『皆、気を付けて! こいつを呼ぶときはイブルじゃなくて、魔王仔(プリンス)だから!』


 皆にも抜かりなく注意喚起。


魔王仔(プリンス)! 大丈夫だ! 拳が燃えてるのもカッコいいぞ。俺、センスないから分からないけど!」

魔王仔(プリンス)! 予備の服とかねぇの? そのまま成長すると裸の王様になっちまうぜ?」


 良かった。兄ちゃんもギーラもちゃんと魔王仔(プリンス)って呼んでる。

 でも、なぜかイブルはプルプルと震えている。


「そうだぞ。魔王仔(プリンス)! 自分を省みることは大事だ。いや、別に偉ぶってる割に魔物達が1匹も従ってくれなかったことを言ってる訳じゃない。見た目の問題だ。そのままだと、女性にモテないからな!」


 ジルさんの優しい言葉に、なぜかイブルはキレた。


「おぉのぉーれぇーー!! プリンス、プリンスと愚弄しよって!! 許さん!!」


 えっ!? 魔王仔(プリンス)呼びが嫌だったの!?


『おい待て。さっきのは煽れって指示じゃなかったのか!?』

『結果オーライだ。盾役なんだから、敵の注目を集めろ。お前には、まだ英雄主義(ヒロイズム)が効いてる。丁度いい』

 と言いつつ、ジルさんの盾の表面に水のコーティングをするヘーゼルさん。攻撃から受ける衝撃が減るはずだ。


 兄ちゃんはジルさんの後ろに陣取る。拳を燃やし続けつつ、ジルさんの防御の補助、僕とギーラ以外にかけた精神防壁(マインドウォール)の維持。

 残り4名でそれぞれ別方向から攻撃だ。


 父さんは敵の右手に回り、狙いを変えながら斬撃飛ばし。弱点がないか探ってもらう。

 ギルさんは、背後から。彼の持ってるスキルは短剣術《中》、体術《下》、気配遮断、不意の一撃。珍しく、4つものスキル持ちだ。

 不意の一撃は、敵に気づかれずに攻撃したとき、ダメージが上がるというもの。

 他に注意が向いている時を狙って、一撃ずつ攻撃してもらう。狙いを少しずつ変えて弱点を探るのは父さんと同じ。


 ギーラは敵の左。さっき煽っちゃったから、ギルさんが攻撃しやすいように敵の注意を引く役割も担う。


 僕は上。動きが止まった時を狙って角を落とす。どうやら手と角が魔力の放出口になっているようだから、そこを潰す。手はどうせ兄ちゃんの炎で魔力を相殺される状態だ。

 角を狙えないときはサポートに回る。ヘーゼルさんによる魔法の無力化と、先見の明での攻撃予測を味方に意思伝達で伝える。


 もう英雄(ヒーロー)っぽさは気にしない。大人3人は不確実な作戦だと言って乗ってきてくれなかったし、そろそろ別のアプローチをしてみるべき頃合いだ。


 敵の体力、魔力を削ってから、兄ちゃんかヘーゼルさんの奥の手で仕留める。幸い2人とも威力の調整が細かくできる。低い威力でも倒せる程度に弱らせ、体にかかる負担を最小限に抑える。

 父さんは渋ったけど、後遺症が残る可能性がなくなってからにすると約束して、納得してもらった。


 イブルが火のついたままの拳をジルさんに振るう。しかし、ジルさんはビクともしない。さすが英雄主義(ヒロイズム)

 身体能力だけじゃなく、スキルも一時的に一段上のものになっているらしい。つまり、現在のスキルは盾術《上》、剣術《中》、料理術《中》。今なら僕より美味しく冷しゃぶサラダを作れる。


『こぇー。ホントにこの火、こっちに延焼しないのな。水の蒸発する音とかすると思ったけど』

 僕達の話、ジルさんは半信半疑だったみたいだ。実際に見たり、体験しないと信じられないものだろうから、仕方ないけど。


 拳を振るった体勢のイブルに父さんが5連の斬撃飛ばし。右腕の筋、脇の下、脇腹、腿の付け根、膝の裏。狙いはバラけさせている。

 同時にギーラが左から斬りかかる。太腿の辺りだ。


 ギーラを左手で払おうとした瞬間、ギルさんが背後からナイフを突き立てる。肋の下から斜め上に向けて突き上げるように刺そうとしたみたいだ。

 これは分厚く堅い体に阻まれ、浅い傷をつけただけ。

 他の攻撃もさほど大きなダメージにはなっていない。関節はやや攻撃が通りやすい気はする。


『かったいなー。強い奴の肉ほど旨かったけど、こんなに固くても旨いのかな?』

『食べられないと思うよ。イブルの血を目利きで見たら、呪毒を含んだ魔力で汚染されてるって出た。肉にも毒が含まれてると思う』

 僕が答えたら、ギーラの表情が消えていき、ついで眉がキリリとつり上がった。


『フェン、オレは魔王ってのを理解したぜ。こいつは、確かに人類の敵だ!』

『お前はどこで脅威を実感してんだよ!?』

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