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第6話 フェンの日記(3)

 魔法歴978年6月19日


 白が生まれたショックから両親が立ち直ってくれない。母乳をあげたり、おしめを変えたりするといった最低限の世話はするものの、基本的に近寄ろうとしない。赤ん坊の扱いってこんなものじゃないはずなんだが。


 両親への愚痴は置いておいて、弟のことを考えよう。弟を仲間にするのは確定だ。スキルは強力だし、味方陣営の使徒。仲間にしない理由がない。

 俺の能力との相性を考えて、弟の成長の方向性を考えよう。


 名前:フェンサー=サラーム

 性別:男

 生年月日:魔法歴973年8月3日

 守護神:知恵の神(プロメテウス)

 称号:知恵の神(プロメテウス)の使徒

 魂名:マーリン

 所有スキル:

(才能系スキル)

 プロメテウスの火、異界図書館、鑑定、情報収集、剣術の心得、杖術の心得、攻撃魔法の才能、回復魔法の心得、強化魔法の心得、消費魔力半減、無詠唱、二重詠唱

(技能系スキル)

 なし


 属性相性:火(S)、土(A)、水(A)、風(A)、光(A)、闇(A)、雷(A)、空間(B)


 プロメテウスの火

 知恵の神(プロメテウス)の固有スキル。魔力を用いて炎を繰り出す。完全な制御が可能な範囲であれば、魔力をつぎ込んで威力を高められる。通常の火属性魔法と比べて魔力効率が良いうえ、狙った対象だけを燃やすことができ、延焼の心配がない。


 異界図書館

 知恵の神(プロメテウス)の固有スキル。読んだ情報が記録され、いつでも参照できる。前世で読んだ情報も保存されるうえ、基本情報は最初から掲載されている。スキルに関する情報も載っているため、鑑定と組み合わせて対象人物の持つスキルの性能を確認することも可能。


 鑑定

 所有するスキルや年齢など、生物の情報を調べることができる。


 情報収集

 感知可能な周囲の情報を収集する。収集された情報は守護神に送信される。自動発動。収集した情報をスキル保有者が認識できる感知術とは別物。


 消費魔力半減

 魔法の発動時に消費する魔力が通常の半分で済む。自動発動。


 無詠唱

 詠唱なしで魔法を発動できる。


 二重詠唱

 魔法を発動直前で留めておいたまま、もう一つ魔法を詠唱して同時発動できる。魔法同士の相乗効果で効果が上がることもあるが、逆に反発し合って効果が下がることもある。


 これが今の俺のスキル構成。完全に後衛向けだ。

 弟は前衛向きのスキルも後衛向きのスキルもあったが、敵の攻撃を受け止めるより、隙をついて攻撃したりする方が得意そうだな。敵の攻撃を受け止める、いわゆる盾役が欲しいところだ。……あるいは、ギーラのように敵の攻撃を見切って(かわ)せる仲間か。


 魔法は俺一人でも十分だから、弟には竜騎士になってもらうのがいいだろうか。


 ◇


 魔法歴978年6月24日


 両親はまだ立ち直れていない。昨日の夜に二人が話し合っているのをこっそり聞いていたら、いずれ別れが来る我が子と、どう接するべきか悩んでいるみたいだった。

 気にしなくていいのにな。水と風の相性がSなんだから、道を誤らなければ、その2つの精霊とは契約できるだろう。奴隷になったり、処分される心配は無用だ。


 両親を安心させる上手い説明ができないものかと思って、書斎で調べ物をすることにした。

 弟を書斎の隅に寝かせて、椅子の上に立って上の段の本を物色しようとしたら、弟が泣き出した。

 あわてて椅子から降りてなだめる。「ん? 先見の明が発動してるぞ?」って思った瞬間、窓の外から弓矢が飛んできた。ちょうど椅子の上に立った俺の頭くらいの位置を通り過ぎ、壁に突き刺さる。

 びっくりして声も出せないでいると、弟がキャッキャッと笑い声を出す。俺を助けるために泣いたのか? 俺が無事で喜んでいるのか?

 くぅぅぅ、かわいい奴め。

 しかし、いいスキルだな、先見の明。必要ポイントは相当高かったけど、俺もいつか取れたら良いな。

 ん? 先見の明って知恵の神(プロメテウス)様の固有スキルだけど、なんで商売の神(ヘルメス)様の使徒の弟が持ってるんだ?


 ◇


 魔法歴978年6月25日


 昨日の弓矢は、広場で弓の練習をしていた若者が手を滑らせたらしい。父さんは広場での戦闘訓練を禁止し、別の訓練場所を探しに出かけた。

 未だに弟と関わろうとしない両親は、名前さえ付けようとしない。

 代わりに俺が名前を考えよう。命の恩人だ。良い名前を付けなければ。


 魂名は「ロー」だったな。ハイ&ローのローな訳ないし、どんな由来なのだろうか。鑑定で表示される情報は、この世界の言葉に変換されてはいるけど、魂名は意味よりも音を重視して表示されているらしく、表記からは由来のヒントになるような情報が読み取れない。音を重視した表記だって、言語によって発音が微妙に異なっているだろうし、正確ではないかもしれない。

 それでも、異界図書館で手あたり次第調べると、2つほど由来につながりそうなのが見つかった。

 一つは地球のフランス語で「水」、もう一つは地球の英語で「規則、法律」だ。水のように誰からも必要とされる者になってもらいたい、または、規則を守る正しい人間でいて欲しいっていう願いが込められているんじゃないかな。

 ちなみに俺は今回で転生は3回目だから、俺の異界図書館に収録されている情報は、2つの世界での俺の前世分と基本情報だけだから、正解なのかは分からないけど。


 話を戻して、弟の名前だ。水との相性もいいみたいだから、水に関連した名前がいいかな。

 ユトピアでの白は本来、自分の周囲にある魔力を精霊の力を借りて自在に操り、神に近しい能力を発揮することを期待された存在だ。前世の世界では、古代の王が現人神として崇められていた歴史がある。それに相当する存在になることを、弟は期待されているんだろう。


 ギリシャ神話だと神様の名乗る名前とかぶりそうだから、ギリシャ神話以外で神として伝えられている名前から名付けよう。そう決めて、異界図書館で検索する。

 洪水や暴風を操り、邪竜ムシュフシュを従えたメソポタミア神話の神、マルドゥク。この名前はどうかな。水、風、竜と弟の得意そうなものが揃ってる。

 理解できないと思いつつも、弟に話しかけてみる。


「なぁ、お前の名前、兄ちゃんが付けていいか? マルドゥクっていうのはどうだ?」


 弟はキャッキャッと笑い声を上げた。指を差し出すと小さな手で握ってくる。

 かわいい。めちゃくちゃかわいい。赤ん坊はただでさえかわいいのに、この子は美貌≪上≫を持っている。まさに天使としかいいようのない笑顔だ。


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