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第19話 憤怒には下克上を(?)

 十兵衛さんを倒してから10日余り。

 明日の決戦に備えて、今日は自由行動になっている。


 僕達は、より死者の少なくなる未来を模索し続けたけど、未だ死者ゼロ、3人、18人、367人の4種類が残ったまま。

 といっても、以前より未来の分岐は減っている。同じ死者数でも誰が犠牲者となるのか、どんな経緯で亡くなるのかが異なり詳細を読み取れなかったのが、だいぶ詳しく把握できるようになった。


 今日は、明日の作戦を練る。最初は、先見の明で見た情報の整理だ。


 まず、どの未来でも裏切り者が出ることが分かっている。少なくとも6人。

 忠誠の証に誰かを殺してくることを求められているのか、彼らは味方を襲撃する。

 事前に止めたいところだけど、彼らが裏切っているという証拠がつかめないし、彼らを糾弾した途端に死者ゼロの未来が消える。さらなる裏切り者を出さないための見せしめとして、処刑されてしまうから。

 狙われる人は、ブリアン様、クロード君とアンナさんのどちらか、兄ちゃん、ギーラ、冒険者ギルドマスター、町長さん。

 兄ちゃんとギーラ、冒険者ギルドマスターは自力で対処できるし、ブリアン様、クロード君、町長さんは護衛が守る。アンナさんが狙われても、近くにクロード君の護衛がいる。彼らの攻撃で命を落とす人が出る可能性は低い。

 指揮官の4人に、十兵衛さんを倒したギーラと、多数の魔物を倒している兄ちゃんというセレクトをしている辺り、殺す人物の指定があったのだろう。アンナさんはクロード君の言葉を伝える上で必須だから、候補に入れたと考えられる。


 そして、裏切り者によってクロード君かアンナさんが襲われた後に、クロード君がどうするかで未来は分岐する。


 クロード君が裏切り者への怒りから秘めたる力を暴発させれば、死者367人の未来に向かう。怒りを抑え、決戦の指揮を優先してくれれば、後は随所での戦闘の結果次第で死者ゼロ、3人、18人のどれか。


 アンナさんが狙われれば、100%クロード君は怒りに我を忘れる。しかし、クロード君が狙われたら決戦の方を優先するかというと、そうでもないみたいだ。

 分岐のポイントとなるのは何だろう?


「浮かんでくるイメージを見る限りでは、違いはない。となると、誰かの言葉が分岐のポイントになってるのかもしれないな」

 先見の明で浮かんでくる映像を意思伝達で兄ちゃんやプリシラにも共有して、意見を求めている。ギーラには並列思考がなく、分岐のある未来を見ると頭痛を起こすから見せられない。

『映像から読み取れる範囲では、唇の動きに変化はないよ。口元が見られない()()()()()()の言葉が問題なのかも。クロード君が”にゃんで?”って問いかけた後、少し間があるでしょ? その後のクロード君の口の動きは変化してる』

 人の唇の動きを読み取るのなら、プリシラが得意だ。でも、先見の明で見る映像は自由にアングルを変えられるわけじゃないから、口元が映らない人の言葉は読み取れない。


『ええっと、クロード君が怒り出す場合は”ちやうもん! ぱぱは、ちゅよかったの! まけても、えーゆーなの!”かな? 怒らない場合は”そこで、みてればいーの。かちゅもん!”だと思う』

「へー。父親のことで何か言われんのかな? 尊敬されてんじゃん、伯爵」

 なるほど。自分のことではあまり怒らないクロード君らしい。僕も父さんのことを貶されたら嫌だ。

 でも、どうやったら父親のことを言われなくできるんだろう?


「それよりも、裏切り者にアンナさんを狙われないようにしねぇと」


 ギーラがそう言ったところで、バタンと音を立てて勢いよく部屋の扉が開いた。


「今の話、何? アンナちゃんが狙われる? 裏切り者って……?」

 サンドイッチを載せたトレイを片手に、ヘタレさんが立っていた。さっきのギーラの言葉を聞かれてしまったみたいだ。


「あー、気にしないで。色んなパターンを想定してシミュレーションしてるだけ」

「アンナちゃん、クロード様とマルドゥク君の予想はやたら当たるって言ってた。アンナちゃんが狙われる予感がするの?」

『悪りぃ。聞かれると思わなかった。――でもさ、ヘタレってクロードの護衛に就くんだろ? 近くのアンナさんのことも見といてもらったら、狙われにくくなったりしないかな?』

 悪くない気がする。でも、すぐには判断がつかない。


「ねぇ、教えてよ。アンナちゃんが危ないの?」

 いつものヘラっとした態度ではなく、本当に心配してるみたいで表情に余裕がない。ヘタレさんのこんな顔は初めて見た。

『ヘタレさん、きっとアンナさんのことが好きなのね』

 プリシラの言葉に、そうなのかもしれないと思った。

 アンナさんが狙われた場合は、ヘタレさんが庇う。珍しいと思っていたけど、それなら納得だ。だったら、好きな人が狙われないように守ってもらいたい。


「可能性の問題でしかないけど、もし、敵が指揮官を狙おうと考えた場合、クロード様だけじゃなく、アンナさんを狙っても目的を遂げられちゃうでしょ?」

「あ。そうか。アンナさんがいないと、クロード様の言いたいことって100%伝わるわけじゃないから……! 俺、明日はアンナさんの方も気にしてみておくよ。変な奴が近付いてきたら、すぐに知らせるから! 倒すの、頼んだよ!」

 そう言って、ヘタレさんは出て行った。最後の言葉が残念な感じだけど、ヘタレさんらしい。


 さて、これで未来が変わったとは思えないけど――。


 え?


「マル、どうした?」

『――狙われるのはアンナで確定したようだ』

 願っていたのと逆の方に未来が分岐してしまったことにショックを受け、言葉が出ない僕に代わってヘーゼルさんが伝える。

 なんで……。


『マル、先見の明で今まで見た未来は、私達が普通に行動した場合の未来よね? 普通じゃなく行動した場合は別の未来になることもあるでしょ? 何度かそうやって想定されていなかった未来を見つけてきたじゃない。まだ諦めるのは早いよ』

「あぁ、うん。ありがとう、プリシラ。皆、ごめん。僕の不用意な言葉で死者の少ない未来が消えちゃった。何か良いアイディアがあったら教えて」

 プリシラに言われて気が付いた。普通に進んだ場合の未来以外を見つけ出す。今までだってそうしてきたじゃないか。


『私、さっき見た死者ゼロの未来はそんなに好きじゃないな。クロード君、眠ったまま動かなくて心配になっちゃった』

「え? そんなだった? 僕が見た死者ゼロの未来では元気にしてたけど」

『死者ゼロの未来だけでも、敵のボスに誰が止めを刺すかで3パターン見えた。クロードが光属性らしき魔法で止めを刺した場合は、プリシラの言っていたように眠ったまま領都へと移送されていく。フェンか私が止めを刺した場合は、術者は倒した直後にぶっ倒れるが、数日で回復するようだ』

 死者の数を町長さんが発表する場面で見分けてたから、分岐に気付いていなかったみたいだ。僕が見た死者ゼロの未来では、ヘーゼルさんが水魔法で止めを刺してた。


「まぁ、クロードのことは気にしなくてもいいんじゃないか? 俺が止め刺すようにするよ。無事だって分かってるんだし」

『いいや、私がやる。――と言いたいところだが、依り代になってるマルドゥクの体に負担がかかるからな。基本はフェン。直前に先見の明で確認して、問題がありそうなら私。そんなところだろう』

 ヘーゼルさん、内心は不満そうだ。

 でも、そもそも今見えてる未来だと、僕達がボスまでたどり着く前にクロード君が魔法を暴発させる。367人の死者のうち、半数以上がその巻き添えだ。


「オレはフェンの大技よりも、師匠のカッコいいところが見てみたいな! マルがひたすら頑張って、最後にいとも簡単に一撃で決めちまうのとかも悪くないけど。ほら、十兵衛と戦う前に予測したみたいに」

「お前、俺が活躍するのがそんなに妬ましいのかよ。派手で結構見応えあるぞ」

「フェン、ずるいぞ! お前だけ目立とうとしてるだろ!?」


 兄ちゃんとギーラの口喧嘩は放っておいて、懸命に考えを巡らす。


 何か、ヒントになるようなことはないだろうか。今までのことを思い起こし、鍵になりそうなことを並べてみる。


 派手、カッコいい、ヘーゼルさん、ぱぱ、英雄……。


 若干、口喧嘩に引っ張られてる気がする。もっとこの事件の最初の頃から思い返してみよう。


 クロード君、守護騎士、遊び相手……。


 一瞬、バカバカしい考えが浮かんだ。ちょっと、戦いから遠すぎるキーワードを並べ過ぎたみたいだ。


『いや、今ので1回予測してみろ。そういう子供らしいアイディア、私は好きだぞ。――フェンが止めを刺した場合も、吐血してぶっ倒れていたからな。避けられるに越したことはない。そのアイディアなら、もっと楽に倒せる可能性もある』

 えっ!? 兄ちゃんが倒す場合ってそんななの!?

「おい、どさくさに紛れてマルに心配させるようなこと言うな! ――で、マル、何か思いついたのか?」

「うん。ダメだったとしても、笑わないでよ。今から予測してみるから」


 ◇


 翌日、決戦の日だ。

 朝方から魔物が押し寄せてきているけれど、今のところは順調だ。向かってきているのも比較的弱めの魔物だし、兄ちゃんをはじめとする魔導士部隊が遠距離攻撃魔法を放ち、撃ち漏らした敵は外壁周辺部に配置された近接攻撃部隊が叩く。


 そんなルーティーンで今は十分に対処できている。楽勝ムードに包まれ、気が抜けてきたときに、戦況に変化が訪れる。


『ねぇ、本当にやるの? 思いついたのは僕だけど、あんまり気が進まないよ……』

『まだ気にしてたのか? もう覚悟を決めるしかない。クロードには、俺も後で一緒に謝ってやるから』

『オレは、この作戦好きだぜ! 大丈夫だって。クロードだって途中からは楽しんでくれるさ!』

『マル、迷っちゃダメ! この作戦のために協力してくれてる人だっているんだから』

 昨日、方針を決めてから、できる限りの準備をしておいた。成功率を上げるため、僕達以外の数人に協力も頼んだ。

 それでも、未来は枝分かれしたままだ。だけど、僕達の働き次第で死者をゼロに抑えられる可能性も残ってる。


 今いる場所は、外壁上から戦況を見つめるクロード君の隣。一緒に部隊の様子を観察していると、視界に突撃を始める近接攻撃部隊が映った。偽の伝令による突撃命令があったようだ。事態は動き出した。


 少し離れた場所から鏑矢の音が聞こえた。作戦開始だ。

 僕の迷いで失敗させたくない。皆の言う通り、覚悟を決めよう。頭の芯がキンっと冷えていく。


 クロード君が不審に思って身を乗り出した瞬間、背後で騒ぎが起こった。


「俺以外の男と随分と親しげだな? クロードの情報が得られるから我慢して付き合ってやってたってのに、調子に乗りやがって!」

 裏切り者、アンナさんの婚約者の騎士さんだ。

 そうか、ヘタレさんとアンナさんが仲良さげなのが気に入らなくてアンナさんを狙うのか。

「なぁ、アンナ。俺のことが好きなら、お詫びも兼ねて俺のために死んでくれ」

 剣を構えて突進していく裏切り者。ヘタレさんがアンナさんの前に出る。

「わっ。ちょっ。いきなり!? うぉあっ、……セーフっ」

 訓練の成果か、ヘタレさんは上手く裏切り者の剣を受けた。


 そのまま鍔迫り合いになっていたけれど、裏切り者は駆け付けた兄ちゃんによって捕縛された。

 ここは兄ちゃんの本来の持ち場じゃないけど、乱戦になって魔法攻撃が難しくなった今、指揮官の指示を仰ぎに来ても不自然ではない。


「にゃんで?(なんで?)」

「あいつらはマジで強い。正しい方じゃなくて、勝つ方に乗るのが利口ってもんだ。ご先祖様達だって、負けそうな水の賢者を裏切って、勝ちそうな闇の賢者に付いただろうが! 俺は悪くない!」

「あんにゃのこと、しゅき、ちやうの?(アンナのことが好きだったんじゃないの?)」

「好きな訳ないだろ。あんな妙に察しが良すぎる女。気持ち悪いんだよ!」


 呆然としていたクロード君の顔が怒りで赤くなっていく。体内を巡る魔力も荒れ狂っているようだ。


 クロード君の肩に手を置く。前はこれで少し落ち着いてくれた。今回は無理だと分かってるけど、少しだけ期待してしまう。


 一瞬、僕に向けた視線を裏切り者に戻す。やはりダメか。それなら――。


「ここまでか。仕方ない。指揮を代わってもらうよ、()()()()


 クロード君の意識が裏切り者に向いているとそのまま魔力を暴発させてしまうし、この後の展開上、指揮権が欲しい。だから、最初に突き放したような冷たい言葉をかける。

 僕にも裏切られたと思ったのか、クロード君の顔が絶望に変わる。


 こんな顔をさせたくなかった。ごめん。最後には笑えるようにするから。

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