第5話 フェンの日記(2)
魔法歴977年8月3日
4歳になった。父さんに誕生日のお祝いに何が欲しいか聞かれたから、本を読みたいと答えた。
異界図書館を持つ俺には、本は重要だ。
父さんは村長だからなのか、結構な数の蔵書を有している。あれを読みたい。
父さんは子供向けの本を用意しようとしたみたいだけど、自分で選びたいと言ってみたら、書斎に通してくれた。これからは自由に入って本を読んでいいって。
子供向けの本は下の書棚に移動させて読みやすくしてくれたが、俺が読みたいのは、上の段の本だ。
困った。4歳児では背が足りない。
◇
魔法歴977年11月23日
今日、両親から重大発表があった。母さんのお腹の中に赤ん坊がいるらしい。
弟か妹ができるってことだ。
仲間にできそうな奴を探し始めて1年以上たったが、ピンとくる相手はまだ見つかっていない。しいて言えば、父さんが剣術≪中≫を持っていて、村では一番強そうだ。
でも、ギーラが本性を現すのは成人してからだろうから、年齢的に厳しいだろう。
パッとしない奴しかいないなら、妥協して普通の奴を育てるか?
兄弟なら、遊びと称して一から育てられる。俺が魔法系の方が得意だから、近接攻撃系がベストだ。
できれば、優秀な子が生まれてくれ。
悪徳の使徒が生まれるなんてことはないよな?
◇
魔法歴978年6月17日
弟が生まれた。
白い髪に赤い目。この世界では「白」と呼ばれて差別されている存在だ。両親は話し合いのために部屋に閉じこもってしまった。
せっかく期待していたのに、高確率で奴隷になるか殺されてしまう白に生まれるなんて。不運な奴だ。
そう思ったけど、一応、鑑定してみて驚いた。
名前:(未定)
性別:男
生年月日:魔法歴978年6月17日
守護神:商売の神
称号:商売の神の使徒
魂名:ロー
所有スキル:
(才能系スキル)
タラリア、先見の明、明鏡止水、目利き、計算機、鉄仮面、美貌《上》、剣術の天才、体術の心得、音楽の才能、意思伝達、騎竜術、精霊親和力強化、ものづくりの心得
(技能系スキル)
なし
属性相性:火(B)、土(B)、水(S)、風(S)、光(A)、闇(B)
使徒だった。商売の神様って味方でいいんだよな?
念のため、異界図書館で関係する神話を調べると、商売、旅人、伝令、詐欺、盗み、音楽と色々なことを司る神とされているらしい。
あれ? 詐欺とか盗みとかって、ひょっとして悪徳の使徒か?
こいつ、ギーラより厄介そうなスキル持ってるんだけど。どうしよう。
◇
魔法歴978年6月18日
日記をつけるために異界図書館を開いたら、「プロメテウスの伝言板」に更新があった。これは、たまに更新されて、プロメテウス様からのメッセージが送られてくるものだ。
何が書かれているか緊張しながら読むと、『プロメテウスのメモの「神々について」の項目を更新したよ! チェックしてね』だって。
言われたとおりにチェックしてみると、こう書いてあった。
≪神々について≫
人間には到達しえない超常の力を持つ存在を、古来から人は「神」として崇めてきた。神に関する神話・伝承は、自然の猛威に対して神の存在を感じ、畏怖の念を抱いて創り出されたものが多い。
守護神は、特に人間が多神教における神々として想像していた存在に近いものの、神話等で語られる姿は人間が想像したものであるため、守護神と完全に一致するわけではない。自身に似ている伝承が語り継がれている神の名を名乗ることが多いことから、伝承のイメージと比較的重なる神が多い。人間の作った神話等を気に入り、自ら人間の神話で語られる人物像に寄せているサービス精神旺盛な神もいる。
現在、人間が善か悪かで2陣営に分かれて対立中。便宜上、人間を善と信じる陣営を「味方陣営」、悪と信じる陣営を「悪徳陣営」と表記する。
味方陣営の神々は、鑑定時に表示される守護神の欄にルビを振って表示される。悪徳陣営の神にはルビは振られない。
伝承のイメージと重なることが多いって、プロメテウス様は俺のギリシャ神話でのイメージとかけ離れているんですが……。まぁ、人間に分かりやすいような名前を名乗ってるけど、信じられてるそのままの神様じゃないよ、ってことだな。
ともあれ、最後の段落が追加された文章だ。ルビが振ってあったヘルメス様は味方ってことだな。弟が味方で良かった。
さっそく、スキルチェックだ。
タラリア
神々の伝令を努める商売の神の固有スキル。神話に登場する翼付きサンダルと同様、空を飛べる。空中での姿勢制御も自由自在なうえ、速度上昇の効果もある。
先見の明
知恵の神の固有スキル。自身の認識可能な情報から近い未来に起こりうる事象の予測ができる。先読みの上位スキルで、先読みよりも先の未来まで予測できる。
明鏡止水
集中時に発動。発動中のスキル効果を上昇させる。その他にも効果ありそうだけど、詳細不明。がんばって調べてね~。
目利き
主に物の商品価値や性能を知ることができる。
計算機
計算が得意になる。数値化できないことも計算可能。
鉄仮面
感情を表情に出さないことができる。
美貌《上》
美しい容貌に生まれやすくなる。また、成長に従って美しい容姿に磨きがかかる。その他、ケガの治りが早くなり、見た目の老化が遅くなる等、容姿の劣化を防ぐ効果もある。
剣術の天才
剣術系のスキル・技の獲得を補助する。剣術の才能よりも効果が高い。
意思伝達
言葉を発さなくても、考えていることを伝えることができる。伝わる内容の正確さは相手との信頼関係や相性に依存する。意志疎通よりも効果は上。
騎竜術
竜に乗るのが上手くなり、乗っている竜が十分に能力を発揮できる。
精霊親和力向上
精霊との相性が良くなる。
明鏡止水も効果を調べないといけないらしい。
でも、もっと重要なことがある。
じっくり弟のスキルリストを見て、一つの可能性に思い当たった。
こいつは不運にも白に生まれたんじゃなく、狙って白に生まれたのではないか? 使徒の生まれ、性別、種族等、スキル以外のことは、守護神様がルーレットで決めると言っていた。プロメテウス様はそれほど運の良い方じゃないらしいが、運の良い守護神なら、ある程度狙って調整してくれる。
白は差別されているけど、精霊から強力な支援を受けられる白は、この世界で最強になれる可能性がある。竜騎士になっても強そうだ。
スキルにある精霊親和力強化と騎竜術は、白であってこそ活かせる。意思伝達も言葉による意思疎通のできない存在相手で特に重要だろう。精霊の機嫌をとるために音楽を使うこともあるらしいから、音楽の才能も役に立つ。
美貌≪上≫による美しい容姿は人心をつかむのに有効だし、表情から狙いを読ませない鉄仮面も、のし上がっていくのに必要そうだ。
もしかしたら、こいつは頓挫している神々による世界の改革を進めることを目指しているのかもしれない。行いの正しい白が強力であることを示して、人々が正しい行いをするよう導いていくというものだったはずだ。
自らが最強の白として君臨するつもりだろうか。
わざと差別されている者になるなんて、とんでもなくハイリスクハイリターンな選択だ。
自ら茨の道を進み、悪徳の使徒の安住の地を潰そうとするその覚悟に、俺は戦慄した。




