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⑧ワカメの酢の物
ワカメが好きと彼女に言ってしまった
ワカメが好きなのであって、全てのワカメ料理が好きなわけではない
彼女は料理好きだから、きっと分かってくれるはずだ
あのワカメ料理だけ、避けてくれればいい
こちらから言った方がいいかもしれないが、大丈夫だろう
苦手なものとして、アレは伝えたことがあるのだから、きっと大丈夫だろう
ドンと食卓に置かれたのは、酢の物だった
「甘くしておいたからね」
甘ければ、なんとか食べられる
その優しさで、彼女への意識は高まっていった
レストランに二人で行った
彼女はお腹がいっぱいだと言って、酢の物を残してしまった
彼女は酢の物が大大大好物なのだ
彼女が残した酢の物だから、食べないわけにはいかない
でもノドが弱くて、酢は必ずと言っていいくらい吐いてしまう
「食べてよ」
そう彼女に言われた
彼女が、たまに酸っぱくなるようなことを言う【ドS】だという事実を忘れていた
恋人のことを知らないのは僕の方だった