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③寿司
美しい木目と輝く黄色。
白い布に包まれた職人。
ふたつはお互いを映えさせている。
職人さんは、まさに神々しい光を纏った紳士。
初めて来たことによる胸の高鳴りが、抑えきれない。
カウンターに座る客達の、自然な笑顔が溢れる。
無口を貫いていた職人さんが、突然口を開いた。
「あなたは寿司ネタでいうとサーモンだね。テカっているから」
隣の男性は、慣れているようにうなずき、それを素直に受け入れていた。
「あなたはマグロだね。みんなから好かれるタイプだから」
職人さんは次々と、客をお寿司のネタで例えてゆく。
「あなたは卵焼きだね。周りの人間の良し悪しは、あなたで決まるって感じだから」
そして、職人さんがこちらを向いて喋り始めた。
「あなたはカリフォルニアロールだね。雰囲気が逸脱している」
プラスの例えが続いているなか、喜びづらい言葉を放たれた。
その時、脳裏に『反撃』の二文字が出現した。
「そんな貴方はワサビですね。好きな人は好きだけど、嫌いな人には嫌いな刺激を与えてしまうから」